LaTex 記号・公式 まとめ
2025年7月20日
はじめに
LaTex で資料を作りたかったため、重要な項目をリスト化しました。
論理記号
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\land\) | 論理積 | \land, \wedge | かつ,論理積(AND) |
\(\lor\) | 論理和 | \lor, \vee | 論理和、選言 (OR) |
\(\neg\) | 否定 | \neg, \lnot | 否定 (NOT) |
\(\Rightarrow\) | 論理包含、含意 | \Rightarrow | A が偽または B が真であるとき、A ⇒ B を真とする。 A を前提として B が証明できるとき、A ⇒ B を真とする。 |
\(\implies\) | 論理包含、含意 | \implies | 含意や論理的帰結を示す記号、「A ならば B である」、「A が真ならば B も真である」といった論理的な関係を表す |
\(\to\) | 論理包含、含意、関数 | \to | 「AならばBである」または「AであることはBであるための十分条件である」 |
\(\vDash\) | ダブル・ターンスタイル 論理的帰結、伴意 | \vDash | ~を含意する 「x ⊨ y」は x が y を含意することを意味する。 |
\(\vdash\) | ターンスタイル 推論 | \vdash | 「x ⊢ y」は x から y が形式的に証明されることを意味する。 |
\(\forall\) | 全称量化 | \forall | 「∀ x: P(x)」は、すべての x について P(x) が真であることを意味する。 |
\(\exists\) | 存在限量記号 | \exists | 「∃ x: P(x)」は、P(x) を満たす x が少なくとも1つは存在することを意味する。 |
\(\exists!\) | 一意的に存在 | \exists! | 「∃! x: P(x)」は、P(x) を満たす x がただ1つ存在することを意味する。 |
\(\therefore\) | 結論 | \therefore | 故に,従って |
\(\because\) | 理由・根拠 | \because | 文頭に記され、その文の内容が前述の内容の理由説明であることを示す。”なぜならば”。 |
\(\Leftrightarrow\) | 定義 | \Leftrightarrow | ~として定義される |
集合論の記号
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\mid\) | 縦棒 | \mid | 関係演算子 |
\(\in\) | 属する | \in | 集合に対する元の帰属関係 |
\(\ni\) | 元として含む | \ni | 集合に対する元の帰属関係 |
\(\notin\) | 要素の否定、元の否定 | \notin | 集合に対する元の帰属関係 |
∌ | 要素の否定、元の否定(逆方向) | \notni | 集合に対する元の帰属関係 |
\(\subseteq\) | 部分集合 | \subseteq | 集合の包含関係 A のすべての要素が B に含まれることを明示的に示し、A = B を許容。 |
\(\supseteq\) | 部分集合(逆方向) | \supseteq | 集合の包含関係 B ⊆ A と同じで、 A = B を許容。 |
\(\subset\) | 部分集合 / 真部分集合 | \subset | 集合の包含関係 A のすべての要素が B に含まれることを意味する( A = B の場合を含む場合と含まない場合がある、文脈依存)。 |
\(\supset\) | 上位集合 / 真上位集合 | \supset | 集合の包含関係 B のすべての要素が A に含まれる(文脈により A = B を含む場合と含まない)。 |
\(\not\subset\) | 非部分集合 | \not\subset | 集合の包含関係 A が B の部分集合でない( A に B に含まれない要素がある) |
\(\not\supset\) | 非上位集合 | \not\supset | 集合の包含関係 A が B の上位集合でない( B に A に含まれない要素がある) |
\(\subsetneq\) | 真の部分集合 | \subsetneq | 集合の包含関係 A ⊆ B かつ A ≠ B を意味する |
\(\supsetneq\) | 真の上位集合 | \supsetneq | 集合の包含関係 A ⊇ B かつ A ≠ B |
\(\subsetneqq\) | 真の部分集合(強調形) | \subsetneqq | 集合の包含関係 ⊊ と同じだが、⊆との対比を視覚的に強調 |
\(\supsetneqq\) | 真の上位集合(強調形) | \supsetneqq | 集合の包含関係 ⊋ とほぼ同じだが、⊇ との対比を強調 |
\(\nsubseteq\) | 非部分集合(否定形) | \nsubseteq | 集合の包含関係 ⊄ と同じ意味だが、⊆ の否定形として視覚的に対応 |
\(\nsupseteq\) | 非上位集合(否定形) | \nsupseteq | 集合の包含関係 ⊅ と同じ意味だが、⊇ の否定形として対応 |
集合演算
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\cap\) | 積集合 | \cap | 集合演算 A と B の両方に含まれる要素の集合。 |
\(\bigcap\) | 複数の集合の積集合 | \bigcap | 集合演算 A と B の両方に含まれる要素の集合 |
\(\cup\) | 和集合 | \cup | 集合演算 A または B の少なくとも一方に含まれる要素の集合。 |
\(\bigcup\) | 複数の集合の和集合 | \bigcup | 集合演算 \(\bigcup_{i \in I} A_i\) は、添字 \(i \in I\) で指定されたすべての集合 \(A_i\) の要素をすべて含む集合 |
\(+\) | 非交和(余積) | + | 非交和集合 圏論で A + B は集合の余積(disjoint union)を意味し、互いに素であることを暗黙に含む |
\(\sqcup\) | 非交和 | \sqcup | 非交和集合 \(A \sqcup B\) は、\(A \cap B = \emptyset\) を前提に、要素の区別を保持 |
\(\amalg\) | 非交和(disjoint union)または余積(coproduct) | \amalg | 非交和集合 集合論では互いに素な集合の非交和を表し、圏論では余積(一般化された和)を表す。 \(A \amalg B\) は \(A \cap B = \emptyset\) を前提に、A と B の要素を区別して結合。 |
\(\coprod\) | 余積(coproduct)または非交和 | \coprod | 非交和集合 圏論で複数の対象の余積を表す(例:集合の非交和、群の自由積など)。集合論でも非交和として使われることがあるが、\(\amalg\) より圏論的文脈で一般的 |
\(\setminus\) | 差集合(set difference) | \setminus | \(A \setminus B\) は、A に属し、B に属さない要素の集合。例: \(A = {1, 2, 3}, B = {2, 4}\) なら \(A \setminus B = {1, 3}\) |
\(\smallsetminus\) | 差集合(小さいバリアント) | \smallsetminus | 意味は \(\setminus\) と同じだが、記号のサイズが小さめで、インライン数式や特定の文脈で視覚的バランスを取るために使用 |
– | 差集合(文脈依存) | – | 一部の文脈で \(A – B\) として差集合を表す。例:\(A = {1, 2, 3}, B = {2, 4}\) なら \(A – B = {1, 3}\)。ただし、算術の減算と混同される可能性がある。 |
\(^c\) | 補集合 | ^c | \(A^c\) は、全体集合 \(U\) に対する A の補集合( \(U \setminus A\) )。例:\(U = {1, 2, 3, 4}, A = {1, 2}\) なら \(A^c = {3, 4}\)。 |
\(^\complement\) | 補集合 | ^\complement | \(A^\complement\) は \(A^c\) と同じ意味で、\(U \setminus A\) |
\(\sim\) | 補集合(まれ) | \sim | 非標準で、曖昧(例: 同型記号と混同)。一部の古い文献や特定分野で使用。 |
\(\overline{A}\) | 補集合(文脈依存) | \overline{A} | トポロジーや論理学で使われることが多いが、文脈で補集合か他の意味(例: 閉包)を確認する必要あり |
\(\mathcal{P}(A)\) | 冪集合 | \mathcal{P}(A) | 集合 \(A\) のすべての部分集合からなる集合。例:\(A = {1, 2}\) なら \(\mathcal{P}(A) = { \emptyset, {1}, {2}, {1, 2} }\)。 |
\(\wp(A)\) | 冪集合 | \wp(A) | \(\mathcal{P}(A)\) と同じ意味で、\(A\) のすべての部分集合。 |
\(2^A\) | 冪集合 | 2^A | \(\mathcal{P}(A)\) と同じ意味。\(2^A\) は、\(A\) の要素数が \(n\) なら冪集合の要素数が \(2^n\) であることに由来。 |
\(\langle a, b \rangle\) | 順序対(角括弧バリアント) | \langle a, b \rangle | (a, b) と同じ意味で、順序対を表す。 |
\((a, b)\) | 順序対 | (a, b) | 要素 (a) と (b) を順序付けしたペア。 \((a, b) \neq (b, a)\) ( \(a \neq b\) の場合)。例:((1, 2)) は 1 が第1成分、2 が第2成分。 |
\(\times\) | 直積(Cartesian product) | \times | 集合 (A) と (B) の直積 \(A \times B = { (a, b) \mid a \in A, b \in B }\)。順序対 ((a, b)) の集合。例:\(A = {1, 2}, B = {3, 4}\), なら \(A \times B = { (1, 3), (1, 4), (2, 3), (2, 4) }\)。 |
\(\prod\) | 複数集合の直積(一般化された直積) | \prod | 集合族 \({ A_i \mid i \in I }\) の直積 \(\prod_{i \in I} A_i = { (a_i)_{i \in I} \mid a_i \in A_i }\)。各 \(A_i\) から1要素を選んだ順序組の集合。 |
\(\times_{i \in I}\) | 複数集合の直積(代替表記) | \times_{i \in I} | \(\prod_{i \in I} A_i\) と同じ意味で、\({ A_i \mid i \in I }\) の直積。例:\(A_1 \times A_2 \times A_3\) 。 |
\(\otimes\) | 直積(特定の文脈) | \otimes | テンソル積(例: ベクトル空間、圏論)や直積の類似演算を表す。集合論ではまれに直積の代替として使用。 |
\(A / \sim\) | 商集合(集合論) | A / \sim | 集合 ( A ) に同値関係 \(\sim\) を定義し、その同値類の集合。例:\(A = \mathbb{Z}, a \sim b \iff a – b \text{ is divisible by } n\) , なら \(\mathbb{Z} / n\mathbb{Z}\) は剰余類の集合(例: \(n=2\) なら \({ [0], [1] }\) )。 |
\(A / R\) | 商集合(同値関係明示) | A / R | 同値関係 ( R ) による商集合。\(A / R = { [a]_R \mid a \in A }\), ここで \([a]_R\) は ( a ) の同値類。 |
\(G / H\) | 商群または商集合(群論) | G / H | 商群または商集合(群論)。群 ( G ) の部分群 ( H ) による商。( H ) が正規部分群なら \(G / H\) は商群、さもなくば左(右)剰余類の集合。例:\(G = \mathbb{Z}, H = n\mathbb{Z}\) , なら \(G / H \cong \mathbb{Z}_n\)。 |
\(G \backslash H\) | 右剰余類の集合(群論) | G \backslash H | 群論における右剰余類の集合 G\H は、群 G の部分群 H による右剰余類の集まりです。 群 G の任意の要素 g と部分群 H があるとき、H に g を右から作用させた集合 \(Hg={hg∣h∈H}\) を右剰余類と呼びます。 |
\(H \backslash G\) | 左剰余類の集合(群論) | H \backslash G | 群論における左剰余類の集合 H\G は、群 G の部分群 H による左剰余類の集まりです。 群 G の任意の要素 g と部分群 H があるとき、H に g を左から作用させた集合 \(gH={gh∣h∈H}\) を左剰余類と呼びます。 |
\(A // B\) | 商集合(非標準、まれ) | A // B | 特定の文脈(例: 代数幾何、圏論)で商を表す。ダブルスラッシュは商構造の強調や特定の演算を意味。 |
\(S_n\) | 対称群(順列集合) | S_n | 有限集合 \({1, 2, \dots, n}\) のすべての順列(置換)からなる集合。例: \(S_3 = { (1,2,3), (1,3,2), (2,1,3), (2,3,1), (3,1,2), (3,2,1) }\)。要素数は ( n! ) 。 |
\(\mathfrak{S}_n\) | 対称群(代替表記) | \mathfrak{S}_n | \(S_n\) と同じ意味で、すべての順列の集合。 |
\(P(n, k)\) | 配置(順列の部分集合) | P(n, k) | P(n,k) は、異なる n 個の要素から k 個を選び、それらを順序付けて並べる方法の数を示します。これは「順列の数」と呼ばれることもあります。 P(n,k) の計算 \(P(n,k)=(n−k)!n!\) ここで n! は n の階乗(\(n\times(n−1)\times\dots\times1\))を表します。 |
\(A(n, k)\) | 配置(代替表記) | A(n, k) | A(n,k) は、P(n,k) と同じ意味で、異なる n 個の要素から k 個を選び、それらを順序付けて並べる方法の数を示します。これも「順列の数」と呼ばれることがあります。 A(n,k) の計算 \(A(n,k)=(n−k)!n!\) ここで n! は n の階乗(\(n\times(n−1)\times\dots\times1\))を表します。 |
\(\binom{n}{k}_{\text{perm}}\) | 配置(非標準表記) | \binom{n}{k}_{\text{perm}} | ( n ) 個から ( k ) 個を選ぶ順列の集合。 |
\([n]^k\) | 配置(関数形式) | [n]^k | \([n]k\) は、k 個の要素からなる順序付けられた組で、それぞれの要素が n 種類の選択肢の中から重複を許して選ばれる場合の数を表します。これは「重複順列」の数とも呼ばれます。 例えば、\([3]2\) の場合、(1, 1) (1, 2) (1, 3) (2, 1) (2, 2) (2, 3) (3, 1) (3, 2) (3, 3) この場合、全部で 9通り の並べ方があるので、\([3]2=9\) となります。 \([n]k\) の計算方法 \([n]k=nk\) これは、各要素が n 通りの選択肢を持つため、k 回繰り返すと n を k 回掛け合わせる(n の k 乗)ことになるためです。 |
\(\triangle\) | 対称差 | \triangle | \(A \triangle B = { x \mid x \in A \text{ または } x \in B, \text{ ただし } x \notin A \cap B }\)。例:\(A = {1, 2, 3}, B = {2, 3, 4}\), なら \(A \triangle B = {1, 4}\)。 論理のXORに対応。 |
\(\ominus\) | 対称差(代替記号) | \ominus | \(A \ominus B\) は \(A \triangle B\) と同じ意味で、対称差を表す。 |
\(\oplus\) | 対称差(文脈依存) | \oplus | \(A \oplus B\) は通常、対称差を表すが、ブール代数や論理学でXOR、またはベクトル空間の直和としても使用。 |
\(\Delta\) | 対称差(まれ) | \Delta | \(A \Delta B\) は \(A \triangle B\) と同じ意味だが、ギリシャ文字の大文字デルタを使用。 |
写像
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(f: X \to Y\) | 写像(関数) | f: X \to Y | 集合 ( X ) から集合 ( Y ) への写像。\(f(x) \in Y\) を各 \(x \in X\) に割り当てる。例:\(f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}, f(x) = x^2\) |
\(\to or \rightarrow\) | 写像の矢印 | \to or \rightarrow | 写像の定義で始集合から終集合への対応を示す。例:\(X \to Y`\) 。 |
\(\mapsto\) | 要素の対応 | \mapsto | 写像 ( f ) での具体的な要素の割り当て。例:\(x \mapsto f(x)\)。例:\(f: x \mapsto x^2\)。 |
\(\hookrightarrow\) | 単射(Injective Map) | \hookrightarrow | 写像 \(f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}, f(x) = 2x\) は単射であり、異なる入力が必ず異なる出力を持ちます。 |
\(\twoheadrightarrow\) | 全射(surjective map) | \twoheadrightarrow | 写像 \(f: X \to Y\) が全射( ( Y ) の全要素が像)。例:\(f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}, f(x) = x^3\) 。 |
\(\leftrightarrow\) | 全単射(bijective map) | \leftrightarrow | 写像 \(f: X \to Y\) が単射かつ全射。例: \(f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}, f(x) = x\) 。 |
\(f^{-1}\) | 逆写像 | f^{-1} | 全単射 \(f: X \to Y\) の逆写像 \(f^{-1}: Y \to X\) 。例: \(f(x) = 2x, f^{-1}(y) = y/2\) 。 |
\(\circ\) | 写像の合成 | \circ | 写像 \(f: Y \to Z, g: X \to Y\) に対し、 \(f \circ g: X \to Z, (f \circ g)(x) = f(g(x))\) 。例: \(f(x) = x^2, g(x) = x+1, (f \circ g)(x) = (x+1)^2\) 。 |
\(\restriction\) | 関数の制限(restriction of a function) | \restriction | 関数 \(f:X\to Y\) が定義域 \(X\) を持つとします。このとき、定義域を \(X\) の部分集合 \(A\subseteq X\) に限定した新しい関数を定義したい場合があります。この新しい関数を \(f\) の \(A\) への制限と呼び、\(f|A\) や \(f \restriction A\) のように表記します。 |
\(\vert\) | 集合の内包的記法 (Set-Builder Notation) | \vert | {x∣P(x)} のように、「〜のような」「〜を満たす」といった条件を示す縦棒として使われます。 例:\({x \vert x > 0}\to{x| x>0}\) |
\(\mathrm{id}_X\) | 恒等写像 | \mathrm{id}_X | \(\mathrm{id}_X: X \to X, \mathrm{id}_X(x) = x\) |
\(\hookleftarrow\) | 包含写像 | \hookleftarrow | 部分集合 \(A \subseteq X\) から ( X ) への自然な単射。例:\(i: A \hookleftarrow X, i(a) = a\) 。 |
\(\mathrm{Im}\) | 終集合の部分集合 | \mathrm{Im} | 写像 \(f: X \to Y\) の像。\(\text{Im}(f) = { f(x) \mid x \in X }\)。 |
\(\ker\) | 始集合の部分集合 | \ker | 写像 \(f: X \to Y\) の核。\(\ker(f) = { x \in X \mid f(x) = e }\) ( ( e ) は ( Y ) の単位元、例: 群の場合)。 |
\(f[A]\) | 写像の像の一般化 | f[A] | 写像 \(f: X \to Y\) の部分集合 \(A \subseteq X\) に対する像。\(f[A] = { f(x) \mid x \in A }\)。 |
二項関係
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(=\) | 相等関係 | = | \(R = { (a, a) \mid a \in A }\)。恒等関係。例:\(A = {1, 2}, R = { (1, 1), (2, 2) }\)。 |
\(\neq\) | 不一致関係 | \neq | \(R = { (a, b) \mid a \neq b }\)。例:\(A = {1, 2}, R = { (1, 2), (2, 1) }\)。 |
\(\approx\) | ほぼ等しい関係 | \approx | 実数や量の近似を表す。例:\(\pi \approx 3.14\)。 |
\(\simeq\) | ほぼ等しいまたは同型 | \simeq | 実数の近似や、代数構造の同型(isomorphism)を表す。例:幾何学で \(\triangle ABC \simeq \triangle DEF\) 。 |
\(\cong\) | 合同またはほぼ等しい | \cong | 幾何学の合同(congruence)、数論の合同、または近似を表す。例:\(a \cong b \pmod{n}\)、または \(x \cong y\)(近似)。 |
\(\sim\) | 近似または類似 | \sim | 実数の近似、類似性、同型、または分布の近似を表す。例:\(f(x) \sim g(x)\)(漸近挙動)。 |
\(\doteq\) | ほぼ等しい(点付き等号) | \doteq | 実数の近似や等式の近似を表す。例:\(x \doteq y\)。 |
\(\approxeq\) | ほぼ等しい(強調) | \approxeq | 実数の近似や等式の近似を強調。例:\(x \approxeq y\) 。 |
\(\asymp\) | 漸近的に等しい | \asymp | 関数や数列の漸近挙動が同じ。例:\(f(x) \asymp g(x)\)( \(x \to \infty\) で)。 |
\(\leq\) | 小なり等しい | \leq | 小なり等しい。半順序や全順序を表す。 |
\(<\) | 小なり | < | 厳密順序を表す。 |
\(\geq\) | 大なり等しい | \geq | 逆順序(\(x \geq y \iff y \leq x\))。 |
\(>\) | 大なり | > | 厳密逆順序。 |
\(\prec\) | 厳密前順序 | \prec | 非反射的で推移的。 |
関連記号
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\preceq\) | 前順序(Preorder) | \preceq | 集合 ( S ) 上の二項関係 \(\preceq\) が 反射的( \(x \preceq x\) )かつ 推移的( \(x \preceq y, y \preceq z \implies x \preceq z\) )。反対称性は不要。 |
\(\leq\) | 半順序(Partial Order) | \leq | 反射的、反対称的( \(x \leq y, y \leq x \implies x = y\) )、推移的。 |
\(\leq\) | 全順序(Total Order, Linear Order) | \leq | 半順序で、かつ完全(任意の \(x, y \in S\) に対し、\(x \leq y\) または \(y \leq x\) )。 |
\(<\) | 厳密半順序(Strict Partial Order) | < | 厳密半順序: 非反射的、非対称的、推移的な二項関係。 厳密全順序: 厳密半順序で、かつ完全(任意の $x\neq y$ に対し、$x<y$ または $y<x$)。 |
\(\preceq\) | 擬順序(Quasi-Order) | \preceq | 反射的、推移的(前順序と同等)。ただし、擬順序は同値関係と結びつけて商集合を生成することが多い。 |
\(\preceq\) | 全前順序(Total Preorder) | \preceq | 反射的、推移的、完全(任意の \(x, y \in S\) に対し、\(x \preceq y\) または \(y \preceq x\))。 |
\(\leq\) | 格子(Lattice) | \leq | 半順序で、任意の2要素 \(x, y \in S\) に 上限( \(\sup(x, y)\) , join)と 下限( \(\inf(x, y)\), meet)が存在。 |
\(\leq\) | 完備格子(Complete Lattice) | \leq | 半順序で、任意の部分集合 \(A \subseteq S\) に上限と下限が存在。 |
\(\leq\) | 整列順序(Well-Order) | \leq | 全順序で、任意の非空部分集合に最小元が存在。 |
\(\sup\) | 上限(supremum) | \sup | 集合 ( S ) のすべての上界の最小。 ( S ) に含まれない場合あり。実解析で必須。 |
\(\inf\) | 下限(infimum) | \inf | 集合 ( S ) のすべての下界の最大。 ( S ) に含まれない場合あり。完備格子で保証。 |
\(\max\) | 最大元 | \max | 集合 ( S ) の要素で最大。\(\max S \in S, \forall x \in S, x \leq \max S\)。 存在する場合 \(\max S = \sup S\)。有限集合で標準。 |
\(\min\) | 最小元 | \min | 集合 ( S ) の要素で最小。\(\min S \in S, \forall x \in S, \min S \leq x\)。 存在する場合 \(\min S = \inf S\)。整列順序で重要。 |
\(\vee\) | Join(上限) | \vee | 格子での2要素の上限。 例:\(A \vee B = A \cup B\)(包含格子)。 |
\(\wedge\) | Meet(下限) | \wedge | 格子での2要素の下限。 例:\(A \wedge B = A \cap B\)(包含格子)。 |
特定の集合
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\varnothing\) | 空集合 | \emptyset , \varnothing | 要素を持たない集合。\(\emptyset = { x \mid x \neq x }\)。 すべての集合の部分集合。普遍集合 ( U ) に対し \(\emptyset \subseteq U\)。対称差で \(A \triangle \emptyset = A\)。 |
\(\mathbb{P}\) | 素数の全体 (Prime numbers) | \mathbb{P} | 1 より大きく、1 と自身以外の約数を持たない自然数の集合。\(\mathbb{P} = { 2, 3, 5, 7, 11, \dots }\)。 数論で重要。無限集合(基数 \(\aleph_0\) )。順序 \(\leq\) で整列順序。 |
\(\mathbb{N}\) | 自然数 (Natural numbers) | \mathbb{N} | 非負整数(0 を含む場合)。 \(\mathbb{N} = { 0, 1, 2, 3, \dots }\)。または正整数( \({1, 2, 3, \dots}\))。 文脈で 0 を含むか異なる(例: 0 含むが標準)。整列順序を持つ。 |
\(\mathbb{Z}\) | 整数 (独: Zahlen) | \mathbb{Z} | 負、正、0 の整数。\(\mathbb{Z} = { \dots, -2, -1, 0, 1, 2, \dots }\)。 全順序( \(\leq\) )。群構造を持つ。 |
\(\mathbb{Q}\) | 有理数 (Rational numbers) | \mathbb{Q} | 分数 \(\frac{p}{q}\)( \(p, q \in \mathbb{Z}, q \neq 0\))の集合。 全順序(稠密)。可算集合。 |
\(\mathbb{R}\) | 実数 (Rational numbers) | \mathbb{R} | すべての実数(有理数+無理数)。 全順序、完備。非可算集合。 |
\(\mathbb{C}\) | 複素数 (Complex numbers) | \mathbb{C} | \(a + bi\)( \(a, b \in \mathbb{R}, i^2 = -1\) )の集合。 非順序集合。代数的に閉じた体。 |
\(\mathcal{P}(S)\) or \(2^S\) | 冪集合 | \mathcal{P}(S) or 2^S | 順序構造( \(\subseteq\) で半順序)。 |
\(\mathbb{U}\) | 普遍集合 (Universal Set) | \mathbb{U} | 文脈で仮定される「すべての要素を含む」集合。 文脈依存。補集合 \(A^c = U \setminus A\)。 |
\(\mathbb{H}\) | 四元数 (Hamilton numbers) | \mathbb{H} | 実数体上の4次元ノルム多元体。\(\mathbb{H} = { a + bi + cj + dk \mid a, b, c, d \in \mathbb{R}, i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1 }\)。 非可換( \(ij \neq ji\) )。体ではなく division algebra。幾何学、物理学(例: 回転)で使用。 |
\(\mathbb{O}\) | 八元数 (Octonions) | \mathbb{O} | 実数体上の8次元ノルム多元体。\(\mathbb{O} = { a_0 + a_1 e_1 + \dots + a_7 e_7 \mid a_i \in \mathbb{R}, e_i \text{ は基底} }\)。 非可換、非結合。Cayley algebra。物理学(弦理論)で応用。 |
\(\mathbb{S}\) | 十六元数 (Sedenions) | \mathbb{S} | 実実数体上の16次元多元代数。\(\mathbb{S} = { a_0 + a_1 s_1 + \dots + a_{15} s_{15} \mid a_i \in \mathbb{R}, s_i \text{ は基底} }\)。 非可換、非結合、零因子あり。Cayley-Dickson 構成で生成。まれに使用。 |
\(\Delta\) | 対角線集合 (Diagonal intersection) | \Delta | 対角線集合 \(\Delta\) は、集合 S のすべての要素 x について、(x,x) という形の順序対を集めた集合です。 \(\Delta={(x,x)|x/inS}\) 対角線集合は、数学の様々な分野で基本的な役割を果たします。特に: 同値関係の定義: 同値関係の3つの条件のうち、「反射律(すべての要素が自分自身と関係を持つ)」を満たすために使われます。 グラフ理論: グラフの隣接行列において、対角成分(自身への辺)が1であるかどうかを示す際に使われることがあります。 位相空間論: 対角線集合が閉集合であるかどうかは、ハウスドルフ空間の定義に関わります。 |
\(\mathbb{F}_q\) | 有限体 | \mathbb{F}_q | 位数 \(q = p^n\) の有限体。\(\mathbb{F}_q = \mathbb{F}_p[x] / (f(x))\), ( \(f(x)\) ) は既約多項式。 可換、位数 \(p^n\)。暗号、符号理論で重要。 |
濃度
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\vert\) | 濃度 (cardinality) | \vert | 集合 ( A ) の濃度を表す。( |A| ) は ( A ) と全単射な集合の「大きさ」。 有限:要素数(例:\(|{1, 2}| = 2\))。 無限:\(\aleph_0, \mathfrak{c}, \aleph_1, \dots\)(例:\(|\mathbb{N}| = \aleph_0, |\mathbb{R}| = \mathfrak{c}\))。 |
\(\mathrm{card}\) | 濃度関数 | \mathrm{card} | \(\mathrm{card}(A) = |A|\)。集合 ( A ) の濃度を形式的に表す。 \(| \cdot |\) と同等だが、関数形式で記述(例:\(\mathrm{card}(\mathbb{N}) = \aleph_0\))。 形式的な表記。教科書や論文で使用(例:Jech の集合論)。 |
\(\aleph_0\) | 可算濃度(countable cardinality) | \aleph_0 | 自然数 \(\mathbb{N}\) の濃度( \(|\mathbb{N}| = \aleph_0\) )。 可算無限集合(例:(\(\mathbb{N}\), \(\mathbb{Z}\), \(\mathbb{Q}\)))の濃度。 無限濃度の最小。\(\aleph_0 + \aleph_0 = \aleph_0, \aleph_0 \cdot \aleph_0 = \aleph_0\). 非可算:\(\aleph_0 < 2^{\aleph_0} = \mathfrak{c}\). |
\(\mathfrak{a}\) | (非標準記号) | \mathfrak{a} | 非標準。濃度としては未定義。文脈依存(例:\(\aleph_0, \mathfrak{c}\) の代用、またはイデアル/集合のラベル)。 非標準:\(\mathfrak{a} = \aleph_0, \mathfrak{c}\) など特定の濃度(まれ)。 代数:イデアル(例:\(\mathfrak{a} \subseteq \mathbb{Z}\))。 集合論:集合のラベル、フィルター、特殊な濃度(例:ほとんど全ての集合)。 誤植:\(\mathfrak{c} = 2^{\aleph_0}\)との混同。 |
\(\beth_0\) | 可算濃度 | \beth_0 | \(\beth\)-系列の初項。\(\beth_0 = |\mathbb{N}| = \aleph_0\)。 冪集合の濃度:\(\beth_{n+1} = 2^{\beth_n}\). |
\(\aleph\) | 一般的な濃度記号(特に無限濃度) | \aleph | \(\aleph_\alpha\) は整列順序の濃度(例:\(\aleph_0, \aleph_1, \aleph_2, \dots\))。単独ではインデックス付き(例:\(\aleph_0\))。 \(\aleph_0 = |\mathbb{N}|\) , \(\aleph_1 = \text{次の濃度}\) |
\(\mathfrak{c}\) | 連続体濃度(continuum cardinality) | \mathfrak{c} | 実数 \(\mathbb{R}\) の濃度。\(|\mathbb{R}| = 2^{\aleph_0} = \mathfrak{c}\)。 冪集合:\(\mathcal{P}(\mathbb{N}), |\mathcal{P}(\mathbb{N})| = 2^{|\mathbb{N}|} = \mathfrak{c}\) 非可算:\(\aleph_0 < \mathfrak{c}\) \(\mathfrak{c} = \beth_1 = 2^{\aleph_0}\) 連続体仮説:\(\aleph_1 \stackrel{?}{=} \mathfrak{c}\) |
\(\beth_1\) | 連続体濃度 | \beth_1 | \(\beth\)-系列の2番目。\(\beth_1 = 2^{\beth_0} = 2^{\aleph_0} = |\mathbb{R}| = \mathfrak{c}\) 冪集合の濃度:\(\mathcal{P}(\mathbb{N}), |\mathcal{P}(\mathbb{N})| = \beth_1\) \(\beth_1 = \mathfrak{c} = 2^{\aleph_0}\) 非可算。連続体仮説:\(\aleph_1 \stackrel{?}{=} \beth_1\) |
位相空間論の記号
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\((X, \tau)\) | 位相空間 | (X, \tau) | 集合 ( X ) に位相 \(\tau\)(開集合の集合)を定義。\(\tau \subseteq \mathcal{P}(X)\)。 例:\(\mathbb{R}, |\mathbb{R}| = \mathfrak{c}\), 標準位相は開区間 ((a, b))。 濃度:\(|X| \leq \mathfrak{c}\) (例:\(\mathbb{R}, \mathbb{H}\) )。有限体 \(\mathbb{F}_q, |\mathbb{F}_q| = q\) は離散位相。 例:\(X = \mathbb{R}, \tau = { U \subseteq \mathbb{R} \mid U \text{ は開区間または } \emptyset, \mathbb{R} }\) |
\(\tau\) | 位相(topology) | \tau | 集合 ( X ) の部分集合族で、(1) \(\emptyset, X \in \tau\) , (2) 任意の和, (3) 有限個の交わりが閉じた集合。 例:\(\tau = { \emptyset, \mathbb{R}, (-\infty, a), (b, \infty) \mid a, b \in \mathbb{R} }\) |
\(U\) | 開集合(open set) | U | 開集合は位相の基本単位。 位相 \(\tau\) の要素。\(U \in \tau\)。 例:\(U = (0, 1) \in \tau\)(標準位相) |
\(F\) | 閉集合(closed set) | F | 開集合の補集合。\(F = X \setminus U, U \in \tau\)。 \(U \in \tau, F = X \setminus U\)。前の対称差:\(U_1 \triangle U_2 \subseteq X\)。 例:\(U = (0, 1), F = [0, 1]\), \(|U| = |F| = \mathfrak{c}\) 例:\(F = [0, 1]\)(\(\mathbb{R}\)の標準位相) |
\(\overline{A}\) | 閉包(closure) | \overline{A} | 集合 \(A \subseteq X\) の最小の閉集合。\(\overline{A} = \bigcap { F \mid A \subseteq F, F \text{ は閉} }\)。 位相空間 (X,T) における部分集合 A の閉包 A は、A の要素と、A の「極限点」(あるいは触点、集積点)をすべて含んだ集合。直感的には、A に「境界」の点を含めて「閉じさせた」集合。 より形式的には、\(\overline{A}\) は A を含む 最小の閉集合。 例:\(A = (0, 1), \overline{A} = [0, 1]\) |
\(A^\circ\) | 内部(interior) | A^\circ | 集合 \(A \subseteq X\) の最大の開集合。\(A^\circ = \bigcup { U \mid U \subseteq A, U \in \tau }\)。 例:\(A = [0, 1], A^\circ = (0, 1)\) |
\(\partial A\) | 境界(boundary) | \partial A | \(\partial A = \overline{A} \setminus A^\circ\)。 \(\partial A\)。例:\(\partial [0, 1] = {0, 1}, |\partial [0, 1]| = 2\) |
\(N_x\) | 点 | N_x | \(x \in X\) の近傍(neighborhood)。\(x \in U \subseteq N_x, U \in \tau\)。 例:\(x = 0, N_0 = (-1, 1)\) |
\(\mathcal{N}_x\) | 点 | \mathcal{N}_x | \(x \in X\) の近傍系。\(\mathcal{N}_x = { N \mid x \in U \subseteq N, U \in \tau }\)。 例:\(\mathcal{N}_0 = { (- \epsilon, \epsilon) \mid \epsilon > 0 }\) |
\(f: X \to Y\) | 連続写像(continuous map) | f: X \to Y | 位相空間 \((X, \tau_X), (Y, \tau_Y)\) 間で、\(f^{-1}(V) \in \tau_X\)( \(V \in \tau_Y\) )。 例:\(f:R→R,f(x)=x2\) |
\(\operatorname{cl}\) | 閉包演算子 | \operatorname{cl} | 閉包の別表記。 \(\operatorname{cl}(A) = \overline{A}\)。 例:\(\operatorname{cl}((0, 1)) = [0, 1]\) |
\(\operatorname{int}\) | 内部演算子 | \operatorname{int} | 内部の別表記。 \(\operatorname{int}(A) = A^\circ\)。 例:\(\operatorname{int}([0, 1]) = (0, 1)\) |
\(\sim\) | 同相(homeomorphism) | \sim | 同相は位相不変量を保つ。 位相空間 ( X, Y ) 間の全単射 \(f: X \to Y\) で、\(f, f^{-1}\) が連続。 例:\(f: (0, 1) \to \mathbb{R}, f(x) = \tan(\pi x – \pi/2)\) |
\(\simeq\) | ホモトピー同値(homotopy equivalence) | \simeq | 位相空間 ( X, Y ) がホモトピー的に同等。 例:\(X=R2∖{0},Y=S1,X≃Y\) |
\(\pi_1(X)\) | 基本群(fundamental group) | \pi_1(X) | 代数的位相。 点 \(x \in X\) を基点とするループのホモトピー類の群。 例:\(\pi_1(S^1) = \mathbb{Z}, \pi_1(\mathbb{R}^2) = 0\) |
\(H_n(X)\) | ホモロジー群(homology group) | H_n(X) | 代数的位相。 位相空間 ( X ) の ( n )-次ホモロジー。 例:\(H_1(S^1) = \mathbb{Z}, H_0(X) = \mathbb{Z}^k\)( ( k ) : 連結成分数)。 |
\(\chi(X)\) | オイラー標数(Euler characteristic) | \chi(X) | 位相不変量。 \(\chi(X) = \sum (-1)^n \text{rank}(H_n(X))\)。 例:\(\chi(S^2) = 2, \chi(T^2) = 0\) |
\(\mathbb{R}^n\) | (n)-次ユークリッド空間 | \mathbb{R}^n | 標準位相(開球で生成) 1次元: R1 は数直線 2次元: R2 は平面 3次元: R3 は私たちが日常的に経験する空間 |
\(S^n\) | (n)-次元球面 | S^n | \(S^n = { x \in \mathbb{R}^{n+1} \mid |x| = 1 }\) \(S^0\):2点(-1と1) \(S^1\):単位円(2次元平面上の1次元の「表面」) \(S^2\):単位球面(3次元空間中の2次元の「表面」) \(S^3\):3次元球面(4次元空間中の3次元の「表面」) |
\(T^2\) | 2次元トーラス | T^2 | トーラス(ドーナツ形状)。 \(T^2=S^1×S^1\) |
\(B^n\) | (n)-次元球体 | B^n | \(B^n = { x \in \mathbb{R}^n \mid |x| \leq 1 }\) (閉球)または \({ |x| < 1 }\)。 閉球:\(B^3 = { x \in \mathbb{R}^3 \mid x_1^2 + x_2^2 + x_3^2 \leq 1 }, |B^3| = \mathfrak{c}\) 開球:\(B^3 = { x \in \mathbb{R}^3 \mid x_1^2 + x_2^2 + x_3^2 < 1 }, |B^3| = \mathfrak{c}\) 境界:\(\partial B^3 = S^2, |S^2| = \mathfrak{c}\) 例:\(B^2\) (円盤),\(B^4 \subset \mathbb{R}^4 \cong \mathbb{H}\)。 |
\(\subset\) | 部分集合 | \subset | 位相空間 \(Y \subset X\) は部分位相を継承。 例:\(Y=[0,1]⊂R\) |
\(\times\) | 直積位相 | \times | \((X \times Y, \tau_X \times \tau_Y)\), 開集合は \(U \times V, U \in \tau_X, V \in \tau_Y\)。 例:\(R×R=R^2\) |
\(\coprod\) | 直和位相(非交和) | \coprod | 集合 \({X_i}\) の非交和に粗い位相。 非交和位相。対称差 \(\triangle\) (非交和の類似)。 例:\(X_1 \coprod X_2 = X_1 \cup X_2\) (非交) |
\(/\) | 商位相 | / | \(X/\sim\) に、\(\pi: X \to X/\sim\) で開集合を定義。 例:\(R/Z\cong S^1\) |
\(g_{\mu\nu}\) | メトリックテンソル。高次元重力場 | g_{\mu\nu} | 重力の起源(Kaluza-Klein, 弦理論)。 \(ds^2 = g_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu\) |
数学定数
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\pi\) | 円周率 | \pi | 円の周長/直径の比。約 3.14159(超越数)。 例:\(C = 2\pi r\), \(\text{Area} = \pi r^2\) |
\(e\) | 自然対数の底 | e | 解析、フーリエ変換 \(\lim_{n\to\infty} (1 + 1/n)^n \approx 2.71828\) (超越数) 例:\(e^x = \sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{n!}\) , \(\frac{d}{dx} e^x = e^x\) |
\(i\) | 虚数単位 | i | \(i^2=−1\) 例:\(C={a+bi∣a,b∈R}\) 複素数成分。例:\(S^3 \subset \mathbb{C}^2\) |
\(\phi\) | 黄金比 | \phi | 黄金比 $\phi$ は、数学、特に幾何学において、最も美しい比率の一つとされ、古くから多くの芸術家や建築家によって用いられてきました。自然界の様々な場所(植物の葉の配置、貝殻のらせん構造など)にも現れるとされる、非常にユニークな数学定数です。 値:\(\phi\approx 1.6180339887\dots\) |
\(\gamma\) | オイラー・マスケローニ定数 | \gamma | 数論、ゼータ関数。 \(\lim_{n\to\infty} \left( \sum_{k=1}^n \frac{1}{k} – \ln n \right) \approx 0.57721\) 例:\(\gamma = \int_1^\infty \left( \frac{1}{\lfloor x \rfloor} – \frac{1}{x} \right) dx\) |
\(\aleph_0\) | 可算無限の濃度 | \aleph_0 | 自然数 \(\mathbb{N}\) の濃度。 |
\(\mathfrak{c}\) | 連続体濃度(continuum cardinality) | \mathfrak{c} | 実数 \(\mathbb{R}\) の濃度。\(\mathfrak{c} = 2^{\aleph_0} = \beth_1\) 連続体濃度、\(\mathbb{R}, S^3, B^3, \mathbb{H}, |\cdot| = \mathfrak{c}\) 例:\(|S^3 \cap { x_4 = k }| = \mathfrak{c}\)(\(k^2 < 1\)) |
\(\infty\) | 無限大 | \infty | 有限でない量、極限の概念。 極限、拡張実数。\(\mathbb{R}^n, \mathbb{R} \cup { \pm \infty }\) 例:\(\lim_{x \to \infty} \frac{1}{x} = 0\) 例:立体射影(\(S^3 \setminus { \text{点} } \to \mathbb{R}^3\)) |
\(\sqrt{2}\) | 2の平方根 | \sqrt{2} | 約 1.41421(無理数)。 幾何学(例:ユークリッド距離) 例:\(x^2 = 2\), 対角線長(正方形辺長 1) |
\(\ln 2\) | 2の自然対数 | \ln 2 | 情報理論(例:エントロピー) 約 0.69315。 例:\(\int_1^2 \frac{1}{x} dx = \ln 2\) |
\(\zeta(2)\) | リーマンゼータ関数 | \zeta(2) | 数論、物理学(例:カシミール効果) \(\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = 1 + \frac{1}{2^2} + \frac{1}{3^2} + \frac{1}{4^2} + \dots = \frac{\pi^2}{6} \approx 1.64493\) |
\(\beta(2)\) | ディリクレベータ関数 | \beta(2) | カタラン定数、幾何学 \(\sum_{n=0}^{\infty} \frac{ (-1)^n}{2n+1}^2 \approx 0.91596\) \(β(2)=G\) |
\(\delta\) | クロネッカーデルタ(離散)またはディラックデルタ(連続)の記号 | \delta | クロネッカーデルタ(例:テンソル)、ディラックデルタ(例:分布)。\(\mathbb{R}^n\), 重力(例:メトリック \(g_{\mu\nu}\))。 例:\(\delta_{ij} = 1 \ (i=j), 0 \ (i \neq j)\) |
\(\rho , \psi\) | プラスチック数 (Plastic number) | \rho , \psi | 数学における特別な定数の一つで、黄金比 (\(\phi\)) や 白銀比 などと同様に、特定の数列の比率の極限として現れる無理数です。 \(ρ≈1.324717957244746025960908854 \dots\) 黄金比が「最も無理数らしい無理数」として、その連分数展開に1ばかりが並ぶのに対し、プラスチック数は最小の ピゾ=ヴィジャヤラガヴァン数 (Pisot–Vijayaraghavan number) であるという性質も持ちます。 パドヴァン数列 (Padovan sequence):\(P_0=1,P_1=1,P_2=1\) とし、\(P_n=P_{n−2}+P_{n−3}\) で定義される数列です(1, 1, 1, 2, 2, 3, 4, 5, 7, 9, 12, …)。この数列の隣接項の比 \(P_n/P_{n−1}\) は、\(n \to \infty\) のときプラスチック数 \(\rho\) に収束します。 ペラン数列 (Perrin sequence):\(P_0=3,P_1=0,P_2=2\) とし、\(P_n=P_{n−2}+P_{n−3}\) で定義される数列です(3, 0, 2, 3, 2, 5, 5, 7, 10, 12, …)。この数列の隣接項の比もプラスチック数 \(\rho\) に収束します。 |
幾何学
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\cdot\) | 点 | \cdot | 幾何学の基本要素、座標。 例:\(P=(x,y)\) |
\(\overline{AB}\) | 線分 | \overline{AB} | 点 ( A ) と ( B ) を結ぶ直線部分。 例:\(\overline{AB} \subset \mathbb{R}^2\), 長さ \(|\overline{AB}|\) |
\(\angle\) | 角度 | \angle | 2つの線分またはベクトルのなす角。 例:\(\angle ABC = 90^\circ\) |
\(\parallel\) | 平行 | \parallel | 2つの直線または平面が交わらない。 例:\(\overline{AB} \parallel \overline{CD}\) |
\(\perp\) | 垂直 | \perp | 2つの直線または平面が直交。 例:\(\overline{AB} \perp \overline{CD}\) |
\(\cong\) | 合同 | \cong | 図形の形状・大きさが一致。 例:\(\triangle ABC \cong \triangle DEF\) |
\(\circ\) | 度の単位(角度) | \circ | 例:\(90^\circ\) |
\(d\) | 距離 | d | 2点間の計量(例:ユークリッド距離)。 例:\(d(A, B) = \sqrt{(x_2 – x_1)^2 + (y_2 – y_1)^2}\) |
\(S^n\) | (n)-次元球面 | S^n | \(S^n= {x in \mathbb{R}^{n+1} \mid |x| = 1}\) 例:\(S^2 = \partial B^3\), \(S^3 \subset \mathbb{R}^4\) |
\(B^n\) | (n)-次元球体(閉球) | B^n | \(B^n= {{x\in \mathbb{R}^{n} \mid |x| \leq 1} }\) \(B^3 \subset \mathbb{R}^3\) |
\(\mathbb{R}^n\) | (n)-次元ユークリッド空間 | \mathbb{R}^n | \(\mathbb{R}^3\), \(\mathbb{R}^4 \cong \mathbb{H}\) \(\mathbb{R}^1\)(1次元ユークリッド空間)数直線。各点が一つの実数 x1 で表されます。 \(\mathbb{R}^2\)(2次元ユークリッド空間)平面。各点が一組の実数 \( (x_1,x_2) \)、つまり座標 \( (x,y) \) で表されます。 \(\mathbb{R}^3\)(3次元ユークリッド空間)3次元空間。各点が一組の実数 \( (x_1,x_2,x_3) \)、つまり座標 \( (x,y,z) \) で表されます。 |
\(T^n\) | (n)-次元トーラス | T^n | \(T^n = S^1 \times \cdots \times S^1\) \(T^2=S^1×S^1\) |
\(g_{\mu\nu}\) | メトリックテンソル | g_{\mu\nu} | 時空の距離構造 \(ds^2 = g_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu\) |
\(R^\lambda_{\mu\nu\sigma}\) | リーマン曲率テンソル | R^\lambda_{\mu\nu\sigma} | リーマン曲率テンソル(Riemann curvature tensor) の成分を表します。 リーマン曲率テンソルは、時空(または多様体)がどれくらい「曲がっているか」を定量的に記述する基本的な量です。 リーマン曲率テンソルの完全な定義式 \(R^\lambda_{\mu\nu\sigma} = \partial_\nu \Gamma^\lambda_{\mu\sigma} – \partial_\sigma \Gamma^\lambda_{\mu\nu} + \Gamma^\lambda_{\nu\alpha} \Gamma^\alpha_{\mu\sigma} – \Gamma^\lambda_{\sigma\alpha} \Gamma^\alpha_{\mu\nu}\) |
\(\kappa\) | κ (曲率) | \kappa | \(κ\) は、数学、特に幾何学において、曲線や曲面がどれくらい「曲がっているか」を示す量です。 直線の曲率は \(κ=0\) です。まったく曲がっていません。 円の曲率は、その半径 \(r\) が小さいほど大きく、半径 \(r\) が大きいほど小さくなります。具体的には \(κ=1/r\) で表されます。小さな円ほど急カーブ、大きな円ほどゆるやかなカーブ、と考えると分かりやすいでしょう。 曲線の曲率は、その曲線上の各点において、どれだけ円に近い形で曲がっているかを測ります。その点に最もよく接する「接触円」の半径の逆数として定義されます。 |
\(\pi_k(X)\) | (k)-次ホモトピー群 | \pi_k(X) | 代数トポロジー、 空間の「穴」の構造や「連結性」 \(\pi_1(S^3) = 0\), \(\pi_1(S^1) = \mathbb{Z}\) |
\(\mathbb{H}\) | 四元数 | \mathbb{H} | 単位四元数 \(\mathbb{H} \cong \mathbb{R}^4\) 四元数の集合 \(\mathbb{H}\) は、実数上の4次元ベクトル空間として \(\mathbb{R}^4\)と同型である \(S^3 \subset \mathbb{H}\) 3次元球面 \(S^3\) は、四元数 \(\mathbb{H}\) の部分集合である |
\(\mathbb{CP}^n\) | 複素射影空間 (Complex Projective Space) | \mathbb{CP}^n | 複素射影 n-空間 (Complex Projective n-space): 特に次元 \(n\) を明示する場合に用いられる。 \(\mathbb{CP}^1\cong S^2\) 複素射影直線(Complex Projective Line)\(\mathbb{CP}^1\) は、2次元球面 \(S^2\) と同相である \(P^n (\mathbb{C})\) これは同じ概念を表す別の記法で、「複素数体 \(C\) 上の n-次元射影空間」。 |
\(\simeq\) | ホモトピー同値 (Homotopy Equivalence) | \simeq | 位相的に同等 |
\(\times\) | 直積 | \times | 2つの幾何空間の積。 |
\(\cup\) | 合併 | \cup | 幾何形状の結合 |
\(\cap\) | 交差 | \cap | 幾何形状の共通部分 例:\(S^3 \cap {x_4 = k } \cong S^2\) |
\(\partial\) | 境界 | \partial | 幾何形状の端 例:\(\partial B^3=S^2\) |
\(\nabla\) | ナブラ演算子(Nabla operator)、デルタ演算子(Del operator) | \nabla | ベクトル微分演算子 勾配 (Gradient, \(\operatorname{grad}\)): \(\operatorname{grad}\, f = \nabla f = \frac{\partial f}{\partial x} \mathbf{i} + \frac{\partial f}{\partial y} \mathbf{j} + \frac{\partial f}{\partial z} \mathbf{k}\) 発散 (Divergence, \(\operatorname{div}\)): \(\operatorname{div}\, \mathbf{A} = \nabla \cdot \mathbf{A} = \frac{\partial A_x}{\partial x} + \frac{\partial A_y}{\partial y} + \frac{\partial A_z}{\partial z}\) 回転 (Curl / Rotation, rot): \(\operatorname{curl}\, \mathbf{A} = \nabla \times \mathbf{A} = \left( \frac{\partial A_z}{\partial y} – \frac{\partial A_y}{\partial z} \right)\mathbf{i} + \left( \frac{\partial A_x}{\partial z} – \frac{\partial A_z}{\partial x} \right)\mathbf{j} + \left( \frac{\partial A_y}{\partial x} – \frac{\partial A_x}{\partial y} \right)\mathbf{k}\) ラプラシアン (\(\Delta\)または \(\nabla^2\)): \(\Delta f = \nabla^2 f = \nabla \cdot (\nabla f) = \frac{\partial^2 f}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 f}{\partial y^2} + \frac{\partial^2 f}{\partial z^2}\) |
\(\Delta\) | ラプラシアン(Laplacian) | \Delta | スカラー関数に作用する2階の微分作用素 直交座標系 (Cartesian Coordinates): \(\Delta f = \frac{\partial^2 f}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 f}{\partial y^2} + \frac{\partial^2 f}{\partial z^2}\) 円筒座標系 (Cylindrical Coordinates): \(\Delta f = \frac{1}{r} \frac{\partial}{\partial r}\left(r \frac{\partial f}{\partial r}\right) + \frac{1}{r^2} \frac{\partial^2 f}{\partial \theta^2} + \frac{\partial^2 f}{\partial z^2}\) 球座標系 (Spherical Coordinates): \(\Delta f = \frac{1}{r^2} \frac{\partial}{\partial r}\left(r^2 \frac{\partial f}{\partial r}\right) + \frac{1}{r^2 \sin \phi} \frac{\partial}{\partial \phi}\left(\sin \phi \frac{\partial f}{\partial \phi}\right) + \frac{1}{r^2 \sin^2 \phi} \frac{\partial^2 f}{\partial \theta^2}\) |
\(K\) | ガウス曲率 (Gaussian Curvature) | K | 主に曲面における「ガウス曲率」を表すのに使われます。 ガウス曲率は、曲面上の点における2つの主曲率(その点を通る曲線の中で、最も曲がりが大きい方向と小さい方向の曲率)の積として定義されます (\(K=\kappa_1\cdot\kappa_2\))。 K>0(正の曲率):球面のように盛り上がった形状(楕円点)。 K<0(負の曲率):鞍のようにへこんだ形状(双曲点)。 K=0(ゼロ曲率):平面、円柱、円錐のように、少なくとも一方向に平らな形状(放物点)。 |
\(a^2 + b^2 = c^2\) | ピタゴラスの定理 (Pythagorean Theorem) | a^2 + b^2 = c^2 | ピタゴラスの定理は、以下のように述べられます。 「直角三角形において、直角を挟む2辺(これを「脚」または「直角をなす辺」と呼びます)の長さをそれぞれ2乗したものの和は、直角の対辺(最も長い辺であり、「斜辺」と呼びます)の長さを2乗したものと等しい。」 定義:\(a^2+b^2=c^2\) a と b は直角三角形の2つの脚(直角を挟む辺)の長さ。 c は直角三角形の斜辺(直角の対辺)の長さ。 逆もまた真: 「ある三角形の3つの辺の長さ a,b,c が \(a^2+b^2=c^2\) の関係を満たすならば、その三角形は直角三角形である。」 3次元空間における距離にも拡張されます(\(d^2=x^2+y^2+z^2\))。 |
\(A = \pi r^2\) | 円の面積 | A = \pi r^2 | 円の面積 \(A=\pi r^2\) は、円が占める二次元平面上の広さを計算するための基本的な公式です。ここで、\(\pi\) は円周率、\(r\) は円の半径を表します。この公式は、幾何学において最も広く認識され、応用されているものの一つです。 円 (Circle):平面上の1点(中心)から等しい距離にあるすべての点の集合によって作られる図形です。 半径 (Radius) \(r\):円の中心から円周上の任意の点までの距離です。 円周率 (Pi) \(\pi\):円周の長さと直径の比率で定義される数学定数で、約 3.14159 です。 公式は以下のようになります。 \(A=\pi r^2\) 積分を用いる方法(微積分):\(A=\int_0^r 2\pi x\, dx = 2\pi\begin{bmatrix} \frac{1}{2}x^2 \end{bmatrix}_0^r=2\pi\begin{pmatrix} \frac{1}{2}r^2−0\end{pmatrix}=\pi r^2\) |
\(V = \frac{4}{3} \pi r^3\) | 球の体積 (Volume of a Sphere) | V = \frac{4}{3} \pi r^3 | 球の体積 \(V=\frac{4}{3}\pi r^3\) は、三次元空間において球が占める空間の広さ(体積) を計算するための基本的な公式です。ここで、\(\pi\) は円周率、\(r\) は球の半径を表します。この公式は、三次元幾何学において円の面積の公式と同様に非常に重要であり、広く応用されています。 球 (Sphere):三次元空間において、ある1点(中心)から等しい距離にあるすべての点の集合によって作られる立体図形です。 半径 (Radius) \(r\):球の中心から球の表面上の任意の点までの距離です。 円周率 (Pi) \(\pi\):円周の長さと直径の比率で定義される数学定数で、約 3.14159 です。 公式は以下のようになります。 |
\(\int_M K \, dA = 2 \pi \chi(M)\) | ガウス-ボンネ定理 (Gauss–Bonnet Theorem) | \int_M K \, dA = 2 \pi \chi(M) | ガウス-ボンネ定理は、微分幾何学における最も深く、美しい定理の一つです。これは、曲面(2次元多様体)の局所的な曲がり具合(ガウス曲率)と、その曲面全体の位相的な性質(オイラー標数)を結びつけるものです。言い換えれば、曲面の「形(幾何学)」と「穴の数や連結性(トポロジー)」の関係を示す定理です。 定理の式:\(\int_M K \, dA = 2 \pi \chi(M)\) \(\int_{M} K \,dA\): これは、曲面 \(M\) 上でガウス曲率 \(K\) を積分することを意味します。 \(K\) はその点の曲がり具合(正なら盛り上がっている、負ならへこんでいる、ゼロなら平坦)を示します。 \(dA\) は曲面上の微小な面積要素です。 この積分の意味は、曲面全体の「平均的な」または「総和された」曲がり具合を表します。正の曲率の領域では積分値が正に、負の曲率の領域では積分値が負に寄与します。 \(2\pi\): これは単なる比例定数で、角度の単位(ラジアン)に関連しています。 \(\chi(M)\): これは曲面 \(M\) のオイラー標数(Euler Characteristic) です。 オイラー標数は、曲面のトポロジー(位相幾何学)的な不変量であり、曲面をどのように変形しても(引き伸ばしたり、縮めたりしても、穴を開けたり閉じたりしない限り)変化しません。 最も一般的な計算方法は、多面体を考えて「\(\text{頂点の数} \,V - \text{辺の数} \,E + \text{面の数} \,F\)」で求めることです。 \(\chi(M)=V−E+F\) |
代数的トポロジー
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\pi_n(X)\) | (n)-次ホモトピー群 | \pi_n(X) | 空間 (X) への \(S^n\) の写像のホモトピー類。 備考:基本群( \(n=1\) )。高次ホモトピーは非可換の場合あり。 例:\(\pi_1(S^1) = \mathbb{Z}\), \(\pi_1(S^n) = 0\) ( \(n \geq 2\) ) |
\([X, Y]\) | ホモトピー類の集合 | [X, Y] | 空間 (X) から (Y) への連続写像のホモトピー同値類。 備考:基点付き空間では \(\pi_1(Y)\) に関連。 \([S1,S1] \cong \mathbb{Z}\) |
\(H_n(X)\) | (n)-次ホモロジー群 | H_n(X) | 空間 (X) の「(n)-次元の穴」の代数構造。 備考:特異ホモロジー、単体ホモロジー 例:\(H_0(S^1) = \mathbb{Z}\), \(H_1(S^1) = \mathbb{Z}\), \(H_n(S^n) = \mathbb{Z}\) |
\(H^n(X; G)\) | (n)-次コホモロジー群 | H^n(X; G) | 群 (G)(例:\(\mathbb{Z}, \mathbb{R}\))係数のコチェインのホモトピー。 備考:係数群 (G) を指定。例:\(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\) で特性類 例:\(H^2(S^2; \mathbb{Z}) = \mathbb{Z}\) |
\(\partial\) | 境界作用素 | \partial | チェイン複体で \(\partial_n : C_n \to C_{n-1}\),\(\partial \circ \partial = 0\) 備考:ホモロジーの核心。例:\(H_n = \ker \partial_n / \text{im} \partial_{n+1}\) 例:\(\partial ([a, b]) = b – a\)(1-単体)。 |
\(\delta\) | コバウンダリ作用素 | \delta | コチェイン複体で \(\delta^n : C^n \to C^{n+1}\),\(\delta \circ \delta = 0\) 備考:コホモロジーの定義。例:\(H^n = \ker \delta^n / \text{im} \delta^{n-1}\) 例:\(\delta f(\sigma) = f(\partial \sigma)\) |
\(C_n(X)\) | (n)-チェイン群 | C_n(X) | 空間 (X) の (n)-単体の自由アーベル群。 単体ホモロジー、特異ホモロジーの基礎。 例:\(C_1(S^1)\) は弧の線形結合。 |
\(C^n(X; G)\) | (n)-コチェイン群 | C^n(X; G) | (n)-チェインへの (G)-値函数。 備考:コホモロジーのチェイン複体 例:\(C^1(X; \mathbb{Z})\):1-単体への整数値 |
\(\cup\) | 杯積 | \cup | コホモロジーでの積構造。 \(H^p(X) \times H^q(X) \to H^{p+q}(X)\) 備考:コホモロジー環の構造。例:\(H^*(T^2)\) 例:\(\alpha \cup \beta \in H^{p+q}(S^2)\) |
\(\cap\) | キャップ積 | \cap | ホモロジーとコホモロジーの交叉。 \(H^p(X) \times H_n(X) \to H_{n-p}(X)\) 備考:ポアンカレ双対性の基礎。 例:\(\alpha \cap \sigma \in H_{n-p}(X)\) |
\(\beta_i\) | ベッチ数 | \beta_i | \(\beta_i = \dim H_i(X; \mathbb{Q})\)。空間の「穴」の数。 備考:ホモロジーの次元。例:オイラー標数 \(\chi = \sum (-1)^i \beta_i\) 例:\(\beta_1(T^2) = 2\), \(\beta_2(S^2) = 1\) |
\(\chi\) | オイラー標数 | \chi | \(\chi(X) = \sum (-1)^n \dim H_n(X)\) 備考:位相不変量。例:\(\chi(S^n) = 1 + (-1)^n\) 例:\(\chi(S^2) = 2\), \(\chi(T^2) = 0\) |
\(w_i\) | スティーフェル・ホイットニー類 | w_i | ベクトル束の特性類。\(w_i \in H^i(X; \mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\) 備考:ベクトル束のねじれ。例:実束の分類。 例:\(w_1(TS^2) \neq 0\) |
\(c_i\) | チャーン類 | c_i | 複素ベクトル束の特性類。\(c_i \in H^{2i}(X; \mathbb{Z})\) 備考:複素束、例:\(\mathbb{CP}^n\) 例:\(c_1(L) \in H^2(X; \mathbb{Z})\) |
\(p_i\) | ポントリャーギン類 | p_i | 実ベクトル束の特性類。\(p_i \in H^{4i}(X; \mathbb{Z})\) 備考:微分幾何との関連。例:曲率との関係。 例:\(p_1(TS^4)\) |
\(K(X)\) | K理論群 | K(X) | ベクトル束の同型類の群。 備考:例:ボット周期性。複素K理論、実K理論。 例:\(K(S^2) \cong \mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}\) |
\(\simeq\) | 同相 | \simeq | 位相空間の同等性。 備考:ホモトピー不変量の保持 例:\(S^n \setminus { \text{点} } \simeq \mathbb{R}^n\) |
\(\approx\) | ホモトピー同値 | \approx | ホモトピー群を保つ。 備考:弱同値とも呼ばれる。 例:\(S^1 \times S^1 \approx T^2\) |
\(\to\) | 誘導写像 | \to | ホモロジー/コホモロジー/ホモトピーでの写像。 備考:函手性。例:\(\pi_n(f)\) 例:\(f_* : H_n(X) \to H_n(Y)\) |
\(\wedge\) | スマッシュ積 | \wedge | 2つの空間の商空間。\(X \wedge Y = X \times Y / X \vee Y\) 備考:ホモトピー理論、スペクトル。 \(S^m \wedge S^n \cong S^{m+n}\) |
\(E_\infty\) | \(E_\infty\)-ページ | E_\infty | スペクトル系列の極限ページ。 備考:スペクトル系列(例:アティヤ・ヒルツェブルフ)。 例:\(E_\infty^{p,q} \cong H_{p+q}(X)\) |
\(\mathbb{Z}\) | 整数環 | \mathbb{Z} | ホモロジー/コホモロジーの標準係数。 備考:基本的な係数群。 例:\(H_n(X; \mathbb{Z})\) |
\(\mathbb{Q}\) | 有理数体 | \mathbb{Q} | ホモロジーの係数として使用。 備考:ねじれのないホモロジー。 例:\(H_n(X; \mathbb{Q})\) |
\(\mathbb{R}\) | 実数体 | \mathbb{R} | コホモロジーやK理論の係数。 備考:連続係数、例:デラムコホモロジー。 例:\(H^n(X; \mathbb{R})\) |
\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\) | 剰余環 | \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} | モジュラー係数のホモロジー。 備考:特性類(例:スティーフェル・ホイットニー)。 例:\(H_n(X; \mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\) |
解析学
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\lim\) | 極限 | \lim | 変数が特定の値に近づくときの値。 例:\(\lim_{n \to \infty} (1 + \frac{1}{n})^n = e\) 例:\(\lim_{x \to a} f(x) = L\) |
\(\frac{d}{dx}\) | 微分 | \frac{d}{dx} | 関数の変化率。 d:「微小な変化」を表す記号 x:独立変数(微分する対象となる変数)。 \(\frac{df}{dx} = \lim_{\Delta x \to 0} \frac{f(x+\Delta x) – f(x)}{\Delta x}\) という極限操作の結果として導かれるものです。 \(\frac{d}{dx}\) 全体:「x に関する微分を行う」という操作を意味します。 ライプニッツ記法。例:偏微分 例:\(\frac{\partial}{\partial x}\) 例:\(\frac{d}{dx} x^2 = 2x\) |
\(\int\) | 積分 | \int | 不定積分または定積分。 例:ルベーグ積分 \(\int f \, d\mu\) 例:\(\int_a^b f(x) \, dx\), \(\int x^2 \, dx = \frac{x^3}{3} + C\) |
\(\partial\) | 偏微分 | \partial | 複数変数関数の微分。 例:微分方程式 \(\partial_t u = \Delta u\) 例:\(\partial_x f(x, y) = \frac{\partial f}{\partial x}\) |
\(\nabla\) | ナブラ演算子 | \nabla | 勾配、発散、回転。 ベクトル解析。例:\(\nabla^2 f = \Delta f\) 例:\(\nabla f\)、\(\nabla \cdot \vec{F}\)、\(\nabla \times \vec{F}\) |
\(\Delta\) | ラプラシアン | \Delta | 2階微分演算子。 例:熱方程式 \(\partial_t u = \Delta u\) 例:\(\Delta f = \frac{\partial^2 f}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 f}{\partial y^2}\) |
\(\infty\) | 無限大 | \infty | 有限でない量。 拡張実数 \(\mathbb{R} \cup { \pm \infty }\) 例:\(\int_0^\infty e^{-x} \, dx = 1\) |
\(\sum\) | 総和 | \sum | 数列の和 例:級数収束判定。 例:\(\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6}\) |
\(\prod\) | 総積 | \prod | 数列の積 例:ガンマ関数 \(\Gamma(z)\) \(\prod_{n=1}^k n = k!\) |
\(|\cdot|\) | ノルム | |\cdot| | ベクトルや関数の大きさ。 ユークリッド空間 Rn におけるベクトルの「長さ」の概念を、より一般のベクトル空間に拡張したもの。 例:\(|x| = \sqrt{x_1^2 + x_2^2}\) 非負性 (Non-negativity):\(|\mathbf{v}| \ge 0 \quad \text{and} \quad |\mathbf{v}| = 0 \iff \mathbf{v} = \mathbf{0}\) 斉次性 (Homogeneity):\(|c\mathbf{v}| = |c| |\mathbf{v}|\) 三角不等式 (Triangle Inequality):\(|\mathbf{u} + \mathbf{v}| \le |\mathbf{u}| + |\mathbf{v}|\) ユークリッドノルム (Euclidean Norm / L2-Norm):\(|\mathbf{v}|_2 = \sqrt{v_1^2 + v_2^2 + \dots + v_n^2} = \left( \sum_{i=1}^n |v_i|^2 \right)^{1/2}\) マンハッタンノルム (Manhattan Norm / L1-Norm):\(|\mathbf{v}|_1 = |v_1| + |v_2| + \dots + |v_n| = \sum_{i=1}^n |v_i|\) 最大値ノルム (Maximum Norm / L∞-Norm):\(|\mathbf{v}|_\infty = \max(|v_1|, |v_2|, \dots, |v_n|)\) Lp-ノルム (p-Norm):\(|\mathbf{v}|_p = \left( |v_1|^p + |v_2|^p + \dots + |v_n|^p \right)^{1/p} = \left( \sum_{i=1}^n |v_i|^p \right)^{1/p}\) 関数空間のノルム (Norms in Function Spaces):\(|f|_p = \left( \int_a^b |f(x)|^p dx \right)^{1/p}\) |
\(\langle \cdot, \cdot \rangle\) | 內積 | \langle \cdot, \cdot \rangle | ベクトルの角度と長さの関係 例:\(L^2\) 空間の內積。 例:\(\langle x, y \rangle = x_1 y_1 + x_2 y_2\) 例:\(|\mathbf{v}| = \sqrt{\langle \mathbf{v}, \mathbf{v} \rangle}\) |
\(i\) | 虚数単位 | i | \(i^2 = -1\) 複素解析。例:正則関数。 \(e^{i\theta} = \cos \theta + i \sin \theta\) |
\(\Re\) | 実部 | \Re | 複素数の実数成分。 例:\(\Re(e^{i\theta}) = \cos \theta\) 例:\(\Re(z) = \Re(a + bi) = a\) |
\(\Im\) | 虚部 | \Im | 複素数の虚数成分。 例:\(\Im(e^{i\theta}) = \sin \theta\) 例:\(\Im(z) = \Im(a + bi) = b\) |
\(\overline{z}\) | 複素共役(Complex Conjugate) | \overline{z} | 複素数における虚部の符号を反転させる操作。幾何学的には、複素平面上での実軸に関する対称な点に対応します。 二重共役 (Double Conjugation):\(\overline{\overline{z}} = z\) 和と差 (Sum and Difference):\(\overline{z_1 + z_2} = \overline{z_1} + \overline{z_2}\)、\(\overline{z_1 – z_2} = \overline{z_1} – \overline{z_2}\) 積と商 (Product and Quotient):\(\overline{z_1 z_2} = \overline{z_1} \, \overline{z_2}\)、\(\overline{\left(\frac{z_1}{z_2}\right)} = \frac{\overline{z_1}}{\overline{z_2}} \quad (z_2 \neq 0)\) 実部と虚部との関係 (Relation to Real and Imaginary Parts):\(\text{Re}(z) = \frac{z + \overline{z}}{2}\)、\(\text{Im}(z) = \frac{z – \overline{z}}{2i}\) 絶対値(ノルム)との関係 (Relation to Absolute Value / Norm):\(|z|^2 = z \overline{z} = a^2 + b^2\) 例:\(\overline{a + bi} = a – bi\) |
\(\mu\) | 測度 | \mu | 集合の「大きさ」 測度論。例:確率測度 \(\mu(\Omega) = 1\) 例:\(\iint \, d\mu\), ルベーグ測度。 |
\(\mathbb{E}\) | 期待値 | \mathbb{E} | 確率変数の平均。 確率論。例:\(\mathbb{E}[X^2]\) 例:\(\mathbb{E}[X] = \int x \, dP\) |
\(\mathbb{P}\) | 確率 | \mathbb{P} | 事象の生起確率。 例:\(\mathbb{P}(A \cap B) = \mathbb{P}(A) \mathbb{P}(B)\)(独立事象)。 |
\(\sigma\) | 標準偏差または測度 | \sigma | 確率論、測度論。 例:\(\sigma = \sqrt{\mathbb{E}[(X – \mathbb{E}[X])^2]}\) 期待値 \(\mathbb{E}\)、確率 \(\mathbb{P}\)、標準偏差 \(\sigma\) は確率論の核心。 |
\(\Gamma(z)\) | ガンマ関数 | \Gamma(z) | 階乗の一般化。 \(\Gamma(n) = (n-1)!\) 特殊関数。例:ベータ関数。 例:\(\Gamma\left(\frac{1}{2}\right) = \sqrt{\pi}\) |
\(\zeta(s)\) | リーマンゼータ関数 | \zeta(s) | 複素解析、数論。 ゼータ関数 \(\zeta(s)\) は複素解析と数論を結ぶ。 例:\(\zeta(2) = \frac{\pi^2}{6}\) |
\(\mathcal{F}\) | フーリエ変換 | \mathcal{F} | 時間領域(または空間領域)で表現された関数(信号)を、周波数領域で表現された関数に変換する数学的な操作です。これは、複雑な波形を、異なる振幅、周波数、位相を持つ単純な正弦波(または複素指数関数)の重ね合わせとして分解する強力なツールです。 定義 (連続時間フーリエ変換):\(\hat{f}(\omega) = F(\omega) = \int_{-\infty}^{\infty} f(t) e^{-i\omega t} dt\) 逆フーリエ変換 (Inverse Fourier Transform):\(f(t) = \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} \hat{f}(\omega) e^{i\omega t} d\omega\) 例:\(\mathcal{F}(f)(\xi) = \int f(x) e^{-2\pi i x \xi} \, dx\) 例:\(\mathcal{F}(e^{-x^2}) = e^{-\pi \xi^2}\) |
\(\mathcal{L}\) | ラプラス変換 | \mathcal{L} | 微分方程式、制御理論。 例:\(\mathcal{L}(f)(s) = \int_0^\infty f(t) e^{-st} \, dt\) 例:\(\mathcal{L}(t) = \frac{1}{s^2}\) |
\(\ast\) | 畳み込み | \ast | 関数解析、確率論。 例:\((f \ast g)(x) = \int f(y) g(x-y) \, dy\) 例:\(\mathcal{F}(f \ast g) = \mathcal{F}(f) \cdot \mathcal{F}(g)\) \(\mathcal{F}(\delta) = 1\)(ディラックデルタのフーリエ変換) フーリエ変換 \(\mathcal{F}\)、ラプラス変換 \(\mathcal{L}\)、畳み込み \(\ast\) は信号処理や微分方程式で使用。 |
\(D\) | 微分演算子(Differential Operator) | D | D は、数学、特に微分方程式の分野で頻繁に用いられる微分演算子を表す記号です。これは、微分操作をより簡潔に表現し、代数的な操作に似た形で微分方程式を扱うことを可能にします。 例:偏微分方程式 \(D_t u = D_x^2 u\) 例:\(Df = \frac{df}{dx}\) |
\(T\) | 線形作用素(Linear Operator) | T | ベクトル空間から別の(または同じ)ベクトル空間への写像(関数)の一種で、線形性という特別な性質を持つものです。これは、線形代数学、関数解析学、微分方程式論など、数学の様々な分野で中心的な役割を果たします。 関数解析。例:ヒルベルト空間の作用素。 加法性 (Additivity):\(T(\mathbf{x} + \mathbf{y}) = T(\mathbf{x}) + T(\mathbf{y})\) 斉次性 (Homogeneity):\(T(c\mathbf{x}) = cT(\mathbf{x})$、$T(c_1\mathbf{x} + c_2\mathbf{y}) = c_1T(\mathbf{x}) + c_2T(\mathbf{y})\) 行列による変換:\(T\left(\begin{pmatrix} x \ y \end{pmatrix}\right) = \begin{pmatrix} a & b \ c & d \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \ y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} ax+by \ cx+dy \end{pmatrix}\) 微分演算子:\(D(c_1 f_1(x) + c_2 f_2(x)) = c_1 \frac{df_1}{dx} + c_2 \frac{df_2}{dx}\) 例:\(T : L^2 \to L^2$, $(Tf)(x) = x f(x)\) |
\(\gamma\) | オイラーの定数 (Euler–Mascheroni Constant) | \gamma | オイラーの定数 \(\gamma\)(ガンマ)は、オイラー・マスケローニ定数とも呼ばれ、数学、特に解析学や数論に現れる重要な数学定数です。自然対数と調和級数(ハーモニックシリーズ)という、一見すると無関係に見える二つの概念を結びつける役割を持っています。 定義:\(\gamma=\lim_{n\to\infty}\begin{pmatrix} \sum_{k=1}^n\frac{1}{k} −\ln(n) \end{pmatrix}\) または \(\gamma=\lim_{n\to\infty}(H_n−\ln(n))\) 値:\(\gamma≈0.5772156649\dots\) |
極限操作
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\ll\) | はるかに小さい | \ll | 漸近解析で2つの量の相対的な大きさを比較する。例:\(f(x) \ll g(x)\) は \(f(x)/g(x) \to 0\) を意味。 測度論では、絶対連続性を表す。例:測度 \(\mu \ll \nu\) ( \(\nu(A) = 0 \implies \mu(A) = 0\) )。 漸近挙動(例:\(o(\cdot), \sim\))のカテゴリに直接関連。\(f(x) \ll g(x)\) は \(f(x) = o(g(x))\) と同等。 極限操作の一部として、\(x \to a\) や \(x \to \infty\) での函数の振幅を記述。 測度論の絶対連続性は、ルベーグ分解やラドン・ニコディム微分の極限操作に関連。 例:\(x \ll x^2 \text{ as } x \to \infty\) または \(1/x \ll 1 \text{ as } x \to \infty\) 例:測度:\(\mu \ll \lambda\) (ルベーグ測度に対する絶対連続)。 |
\(\gg\) | はるかに大きい | \gg | 解析学では、「はるかに大きい」を意味し、\(f(x) \gg g(x)\) は \(g(x)/f(x) \to 0\) (つまり \(g(x) \ll f(x)\) )。 測度論では、\(\ll\) の逆の関係(例:特異測度)に関連する場合があるが、まれ。 \(\ll\) と対称的に、漸近挙動のカテゴリに直接関連。\(f(x) \gg g(x)\) は \(g(x) = o(f(x))\) 極限操作で、函数の支配的な項を記述。例:\(x \to \infty\) でのスケーリング。 例:\(e^x \gg x^n \text{ as } x \to \infty\), つまり \(x^n/e^x \to 0\) 例:\(\ln x \gg 1 \text{ as } x \to \infty\) |
\(\lim_{x \to a^+}\) | 右極限 | \lim_{x \to a^+} | (x) が (a) に右から近づくときの極限。 片側極限。例:不連続点の解析。 例:\(\lim_{x \to 0^+} \frac{1}{x} = +\infty\) |
\(\lim_{x \to a^-}\) | 左極限 | \lim_{x \to a^-} | (x) が (a) に左から近づくときの極限。 例:階段関数の極限。 例:\(\lim_{x \to 0^-} \frac{1}{x} = -\infty\) |
\(\limsup\) | 上極限 | \limsup | 数列や関数の極限点の最大値。 例:振動数列 \({ (-1)^n }\) 例:\(\limsup_{n \to \infty} (-1)^n = 1\) 例:\(\limsup_{n \to \infty} { 1, -1, 1, -1, \dots } = 1\) |
\(\liminf\) | 下極限 | \liminf | 数列や関数の極限点の最小値。 例:収束しない数列の挙動。 例:\(\liminf_{n \to \infty} (-1)^n = -1\) 例:\(\liminf_{n \to \infty} { \frac{1}{n} } = 0\) |
\(\infty\) | 無限大 | \infty | 有限でない量への発散。 例:拡張実数 \(\mathbb{R} \cup { \pm \infty }\) 例:\(\lim_{x \to 0} \frac{1}{x^2} = +\infty\) |
\(\to\) | 近づく | \to | 極限や収束の方向を示す。 例:\(f(x) \to L \text{ as } x \to a\) 例:\(x \to a\), \(n \to \infty\) |
\(\sup\) | 上限 | \sup | 集合の最大境界。 例:連続関数の最大値。 例:\(\sup { x_n }\), \(\sup_{x \in [a, b]} f(x)\) 例:\(\sup { x \in [0, 1] \mid x^2 < \frac{1}{2} } = \frac{1}{\sqrt{2}}\) |
\(\inf\) | 下限 | \inf | 集合の最小境界。 例:関数の最小値。 例:\(\inf { x_n }\), \(\inf_{x \in [a, b]} f(x)\) |
\(\max\) | 最大値 | \max | 集合や関数の最大要素。 例:閉区間での連続関数の最大。 例:\(\max_{x \in [a, b]} f(x)\) |
\(\min\) | 最小値 | \min | 集合や関数の最小要素。 例:最適化問題。 例:\(\min_{x \in [a, b]} f(x)\) 例:\(\min_{x \in \mathbb{R}} x^2 = 0\) |
\(\xrightarrow{\text{a.s.}}\) | 概収束(almost sure convergence) | \xrightarrow{\text{a.s.}} | ほとんど確実収束。 確率1で収束。 確率論。例:大数の強法則。 例:\(X_n \xrightarrow{\text{a.s.}} X\) |
\(\xrightarrow{\mathbb{P}}\) | 確率収束(Convergence in Probability) | \xrightarrow{\mathbb{P}} | 確率的に近づく。 例:大数の弱法則。 例:\(X_n \xrightarrow{\mathbb{P}} X\) 例:\(X_n \xrightarrow{\mathbb{P}} 0\) (確率収束)。 |
\(\xrightarrow{d}\) | 分布収束(Convergence in Distribution) | \xrightarrow{d} | 確率収束 や 概収束 が、確率変数の「値そのもの」が近づいていくことを意味するのに対し、分布収束は、確率変数の「値のばらつき方や傾向」(つまり分布)が近づいていくことを意味します。 個々の確率変数の値が収束しなくても、その「確率的な振る舞い」が収束する、と考えることができます。 分布関数が収束。 例:中心極限定理。 例:\(X_n \xrightarrow{d} \mathcal{N}(0, 1)\) 例:\(\frac{S_n – n\mu}{\sqrt{n}} \xrightarrow{d} \mathcal{N}(0, \sigma^2)\) |
\(\sim\) | 同等な振幅(文脈依存) | \sim | 極限での漸近的挙動。 例:\(\sin x \sim x \text{ as } x \to 0\) 例:\(f(x) \sim g(x) \text{ as } x \to \infty\) 例:\(\ln(1 + x) \sim x \text{ as } x \to 0\) 例:\(\sin x \sim x \text{ as } x \to 0\) |
\(O(\cdot)\) | ビッグオー記号 (Big O Notation) | O(\cdot) | 上限の成長率。 例:テイラー展開の誤差項。 例:\(f(x) = O(x^2) \text{ as } x \to 0\) |
\(o(\cdot)\) | リトルオー記号(Little O Notation) | o(\cdot) | 厳密な上限。 例:\(x^2 = o(x) \text{ as } x \to \infty\) 例:\(f(x) = o(x) \text{ as } x \to 0\) |
\(\approx\) | 近似 | \approx | 極限近くでの近似値。 例:線形近似。 例:\(e^x \approx 1 + x \text{ as } x \to 0\) |
微分積分学
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(f'(x)\) | 導関数 (Derivative) | f'(x) | 関数の微分。 ラグランジュの記法(Lagrange’s notation) \(f'(x)\) は、関数 \(f(x)\) の「変化率」や「傾き」を表します。より厳密には、独立変数 x の値が微小に変化したときに、関数 \(f(x)\) の値がどれだけ変化するかを示すものです。 例:\(f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h) – f(x)}{h}\) |
\(\frac{df}{dx}\) | 導関数 (Derivative) | \frac{df}{dx} | 関数の微分。 ライプニッツ記法 導関数 ( \(f'(x), \frac{df}{dx}\) ): 単変数関数の変化率。例:速度 \(v = \frac{dx}{dt}\)。 偏微分 (\(\frac{\partial f}{\partial x}\)): 多変数関数の特定変数による変化率。例:勾配の成分。 |
\(\dot{f}\) | 導関数 (Derivative) | \dot{f} | 関数の微分。 ニュートン記法。 関数 \(f\) の 時間に関する微分(導関数) を表す記号です。これは、主に物理学や工学の分野で、時間変化を扱う際に非常に頻繁に用いられます。この記法は、アイザック・ニュートンによって導入されたため、「ニュートンの記法」または「ドット記法」と呼ばれます。 \(\dot{f}\): 関数 \(f(t)\) を時間 \(t\) で1回微分したもの。つまり、\(\dot{f}=\frac{df}{dt}\) と同じ意味です。 \(\ddot{f}\): 関数 \(f(t)\) を時間 t で2回微分したもの。つまり、\(\ddot{f}=\frac{d^2f}{{dt}^2}\) と同じ意味です。 |
\(df\) | 微分(Differential) | df | 関数の微小変化。 従属変数の微小な変化量を表すものです。これは、独立変数の微小変化 \(dx\) に導関数を掛けたものです。 \(df\) は「関数 \(f\) の微小変化量」という具体的な「量」を指す。 微分演算子 (d)。例:全微分 \(df = \sum \frac{\partial f}{\partial x_i} dx_i\) 例:微分は \(df=2xdx\) です。 |
\(d\) | 微分(Differential) | d | 微分記号 / 演算子の一部 \(d\) は「何かの微小変化」や「微分操作」を示す記号の一部。 例:\(d(x^2) = 2x \, dx\) |
\(\frac{\partial f}{\partial x}\) | 偏導関数(Partial Derivative) | \frac{\partial f}{\partial x} | ライプニッツの記法 特定の変数(ここでは x)に関してのみ微分し、他のすべての変数を定数とみなす操作、およびその結果として得られる関数を示します。 関数 \(f(x,y)=x2y+3x\) を考えると、 \(x\) に関する偏導関数: \(y\) を定数とみなして \(x\) で微分:\(\frac{\partial f}{\partial x} = \frac{\partial}{\partial x}(x^2y + 3x) = 2xy + 3\) \(y\) に関する偏導関数: \(x\) を定数とみなして \(y\) で微分:\(\frac{\partial f}{\partial y} = \frac{\partial}{\partial y}(x^2y + 3x) = x^2\) |
\(\partial_x f\) | 偏導関数 | \partial_x f | オイラーの記法 / 添字記法 特に複雑な式や多数の偏微分を扱う場合に、ライプニッツの記法よりも簡潔に記述するために用いられます。 \(\partial_x\)::この添字 \(x\) が、どの変数に関して偏微分を行うかを示します。 \(f\): 微分される関数。 関数 \(f(x,y)=x^2y+3x\) の例で考えると、 \(x\) に関する偏導関数:\(\partial_x f = 2xy + 3\) \(y\) に関する偏導関数:\(\partial_y f = x^2\) 例:\(\partial_{xx} f = \frac{\partial^2 f}{\partial x^2}\) 、 \(\partial_{xy}f = \frac{\partial^2f}{\partial_x \partial_y}\) |
\(\int\) | 不定積分(Indefinite Integral) | \int | 原始関数を求める、逆微分。関数 (+積分定数)。 与えられた関数の 逆微分、つまり「微分すると元の関数になる関数」を見つける操作。 原始関数 (Antiderivative):不定積分は、元の関数の 原始関数 を求めます。 積分定数:原始関数は一意ではなく、任意の定数(積分定数 \(C\))を加えることで、その導関数は変わらないため、不定積分の結果には必ずこの積分定数が含まれます。 例:\(\int f(x)dx=F(x)+C\) 例:\(\int x \, dx = \frac{1}{2}x^2+C\) 例:\(\int cos \, x \, dx = sin \, x + C\) |
\(\int_a^b\) | 定積分(Definite Integral) | \int_a^b | 関数のグラフと特定の区間(\(x=a\) から \(x=b\) まで)の間の 面積 を求める操作と考えることができます。 スカラー値 (数値)。面積や累積量を求める。下端 a と上端 b がある。 面積、累積量:定積分は、関数によって囲まれる領域の 面積、またはある期間における累積量(例:速度の積分で移動距離)を表します。 積分区間:a と b はそれぞれ 下端(lower limit)と 上端(upper limit)と呼ばれ、積分を行う区間を定めます。 関数 \(f(x)\) の区間 [a,b] における定積分:\(\int_a^b f(x) \, dz = [F(x)]_a^b = F(b) – F(a)\) 例:\(\int_0^1 x^2 \, dx = \left[\frac{1}{3}x^3\right]_0^1 = \frac{1}{3}(1)^3 – \frac{1}{3}(0)^3 = \frac{1}{3}\) 例:\(\int_0^{\pi/2} \sin x \, dx = [-\cos x]_0^{\pi/2} = (-\cos(\pi/2)) – (-\cos(0)) = 0 – (-1) = 1\) |
\(\int_C\) | 線積分(Line Integral) | \int_C | 特定の曲線 \(C\) に沿って関数を積分する操作です。線積分は、主に物理学や工学で、力が行う仕事の計算、電場の電位、流体の流量などを求める際に使われます。 任意の曲線 \(C\)。曲線に沿って関数を合計する。仕事、電位差など。 例:\(\int_C \vec{F} \cdot d\vec{r}\) |
\(\oint_C\) | 閉曲線上の線積分 | \oint_C | 閉曲線(Closed Curve) に沿った線積分を表す記号です。積分の記号の真ん中の小さな円は、積分路が 閉路である(つまり、開始点と終了点が一致する)ことを明示しています。 閉曲線 C(開始点と終了点が同じ)。閉路に沿って関数を合計する。循環、磁場の巻きつきなど。 電磁気学:アンペールの法則の積分形は、電流 \(I\) が閉路 \(C\) を囲む場合、磁場 \(B\) の線積分が \(\mu_0 I\) に等しいことを示します。\(\oint_C \mathbf{B} \cdot d\mathbf{l} = \mu_0 I\) ストークスの定理:ベクトル場の回転(curl)の発散を面積分に、ベクトル場の線積分を境界の閉路上の線積分に関連付けます。\(\oint_C \mathbf{F} \cdot d\mathbf{r} = \iint_S (\nabla \times \mathbf{F}) \cdot d\mathbf{S}\) |
\(\iiint_V\) | 体積積分(Volume Integral) | \iiint_V | 3次元空間内の特定の領域 V(または Q などと表記されることもあります)にわたって、関数を積分する操作です。これは、1次元の線積分(区間に沿った積分)や2次元の面積積分(曲面や平面領域にわたる積分)を、3次元の領域に拡張したものです。 質量:密度関数を積分して物体の質量を求める。 電荷:電荷密度関数を積分して領域内の総電荷を求める。 慣性モーメント:物体の回転に関する特性を計算する。 重心:物体の重心の位置を計算する。 ガウスの法則:電場や磁場のフラックス(流量)を計算する。 流体力学、熱伝導、材料科学などで、3次元的な量の分布と総量を解析する。 多変数解析の基礎であり、発散定理(ガウスの定理)などの重要な定理の定式化に用いられます。 例:\(\iiint_V f \, dV\) |
\(\Box\) | ダランベルシアン(d’Alembertian) | \Box | 4次元時空における2階の線形微分演算子です。 波の方程式や特殊相対性理論、電磁気学といった分野で非常に重要となる微分演算子です。 3次元の空間微分を表す ラプラシアン (\(\nabla^2\)) と、時間微分を表す項を組み合わせたもので、時空における2階微分演算子と考えることができます。 例:\(\Box = \nabla^2 – \frac{1 \, \partial}{c^2 \, \partial t^2}\) 例:\(\Box u = \left( \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2} – \frac{1}{c^2} \frac{\partial^2}{\partial t^2} \right) u\) 例:\(\Box \phi = 0\) |
\(\nabla^2\) | ラプラシアン(Laplacian) | \nabla^2 | 空間的な2階微分を表します。3次元直交座標系 \((x,y,z)\) におけるラプラシアンは次のように定義されます。\(\nabla^2 = \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}\) スカラー場に作用すると、その場における「拡散」や「発散」の度合い、あるいは「曲がり具合」を示します。 例えば、熱方程式では温度の空間的な広がり、シュレーディンガー方程式では粒子の位置の確率分布に関連します。 |
\(\frac{\partial^2}{\partial t^2}\) | 時間に関する2階偏微 | \frac{\partial^2}{\partial t^2} | 関数を時間 t で2回偏微分する操作を表します。 \(\frac{\partial^2 f}{\partial t^2}\) は、関数 \(f\) の時間に関する2階導関数です。 一般に、時間に関する2階導関数は 加速度 を表します。 波の伝播において、ある場所における波の振幅が時間的にどのように加速しているかを示します。 |
\(\frac{1}{c^2}\) | 光速の2乗の逆数 | \frac{1}{c^2} | \(c\) は 真空中の光速(約 \(3×10^8 m/s\))です。したがって、\(c^2\) は光速の2乗を表します。 この因子は、空間の単位と時間の単位を整合させるためのものです。特殊相対性理論において、時間と空間が等価に扱われるとき、時間の次元を空間の次元に合わせるために光速が用いられます。 波の速度が \(c\) であることを示しており、波の方程式 において重要な役割を果たします。 |
\(\nabla \cdot\) | 発散(Divergence) | \nabla \cdot | ベクトル場に作用する微分演算子であり、その結果は スカラー場(各点にスカラー値を持つ場)になります。ある点における発散の値は、その点においてベクトル場が どれだけ「湧き出している」か、あるいは「吸い込まれている」かを示します。 ベクトル場 \(\mathbf{F}(x,y,z) = P(x,y,z)\mathbf{i} + Q(x,y,z)\mathbf{j} + R(x,y,z)\mathbf{k}\) に対する発散は次のように定義されます。\(\text{div} \, \mathbf{F} = \nabla \cdot \mathbf{F} = \frac{\partial P}{\partial x} + \frac{\partial Q}{\partial y} + \frac{\partial R}{\partial z}\) 正の発散 (\(\nabla \cdot \mathbf{F} > 0\)):ある点において発散が正である場合、その点から流体が 外向きに湧き出している(源、Source)ことを意味します。例えば、水源や、ガスが膨張している場所などです。その点の周りの微小な体積から、入ってくる量よりも出ていく量の方が大きい状態です。 負の発散 (\(\nabla \cdot \mathbf{F} < 0\)):ある点において発散が負である場合、その点に向かって流体が吸い込まれている(吸収源、Sink) ことを意味します。例えば、排水口や、ガスが収縮している場所などです。その点の周りの微小な体積に、出ていく量よりも入ってくる量の方が大きい状態です。 ゼロの発散(\(\nabla \cdot \mathbf{F} = 0\)):ある点において発散がゼロである場合、その点では流体の湧き出しも吸い込みもないことを意味します。流体は流れているかもしれませんが、その点の周りの微小な体積に出入りする量が等しいため、正味の流出入がありません。このような場は非圧縮性(incompressible) であると言われます(例:非圧縮性流体)。 |
\(\nabla \times\) | 回転(Curl) | \nabla \times | ベクトル場に作用する微分演算子であり、その結果は別のベクトル場になります。ある点における回転の値は、その点においてベクトル場がどれだけ「回転している」か、あるいは「渦を巻いている」かを示します。 ナブラ演算子(∇)とベクトル場とのクロス積(外積) を象徴的に表しています。 ベクトル場 \(\mathbf{F}(x,y,z)=P(x,y,z)\mathbf{i}+Q(x,y,z)\mathbf{j}+R(x,y,z)\mathbf{k}\) に対する回転は、次のように定義されます。 $$ \text{curl} \, \mathbf{F} = \nabla \times \mathbf{F} = \begin{vmatrix} \mathbf{i} & \mathbf{j} & \mathbf{k} \ \frac{\partial}{\partial x} & \frac{\partial}{\partial y} & \frac{\partial}{\partial z} \ P & Q & R \end{vmatrix} $$ この行列式を展開すると、以下のようになります。 \(\nabla \times \mathbf{F} = \left( \frac{\partial R}{\partial y} – \frac{\partial Q}{\partial z} \right)\mathbf{i} + \left( \frac{\partial P}{\partial z} – \frac{\partial R}{\partial x} \right)\mathbf{j} + \left( \frac{\partial Q}{\partial x} – \frac{\partial P}{\partial y} \right)\mathbf{k}\) 非ゼロの回転(\(\nabla \times \mathbf{F} \neq 0\)):ある点において回転が非ゼロである場合、その点に小さな羽根車(またはプロペラ)を置くと、その羽根車が回転する傾向があることを意味します。流体が渦を巻いている場所や、流れにひねりがある場所などで発生します。回転ベクトルの方向は、羽根車の回転軸の方向を示し、大きさは回転の速さを示します(右ねじの法則に従います)。 ゼロの回転(\(\nabla \times \mathbf{F} = 0\)):ある点において回転がゼロである場合、その点では流体の渦がなく、回転する傾向がないことを意味します。流体は流れているかもしれませんが、その流れにはひねりがない、あるいは「渦なし」の状態です。このような場は非回転(irrotational) である、または保存的(conservative) であると言われます。重力場や静電場は保存的(つまり回転がゼロ)なベクトル場の典型例です。 ファラデーの電磁誘導の法則:\(\nabla \times \mathbf{E} = – \frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}\) アンペール・マクスウェルの法則:\(\nabla \times \mathbf{B} = \mu_0 \mathbf{J} + \mu_0 \epsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\) ストークスの定理(Stokes’ Theorem):\(\oint_C \mathbf{F} \cdot d\mathbf{r} = \iint_S (\nabla \times \mathbf{F}) \cdot d\mathbf{S}\) |
\(\nabla f\) | 勾配(Gradient) | \nabla f | スカラー場に作用する微分演算子であり、その結果はベクトル場(各点にベクトルを持つ場)になります。ある点における勾配ベクトルは、その点から関数値が最も急峻に増加する方向を示し、その大きさは、その方向における増加の割合(変化率)を表します。 スカラー場 \(f(x,y,z)\) の勾配:\(\text{grad} \, f = \nabla f = \left( \frac{\partial f}{\partial x}, \frac{\partial f}{\partial y}, \frac{\partial f}{\partial z} \right) = \frac{\partial f}{\partial x}\mathbf{i} + \frac{\partial f}{\partial y}\mathbf{j} + \frac{\partial f}{\partial z}\mathbf{k}\) ・方向:勾配ベクトル ∇f の方向は、関数 f の値がその点から最も速く増加する方向を指します。もしあなたが標高を表すスカラー場の上に立っているとして、勾配ベクトルの指す方向は、最も急な上り坂の方向です。 ・大きさ:勾配ベクトル \(|\nabla f|\) の大きさ(ノルム)は、その最も急な方向における関数値の増加率(傾き) を表します。坂道の例で言えば、その坂の「急さ」そのものです。 ・等位面との関係:勾配ベクトルは、常にその点の等位面(等高線、等電位面など)に垂直です。これは、等位面上では関数値が変化しないため、関数値が最も変化する方向は、等位面に垂直な方向になるためです。 |
\(\iint_S(\nabla \times \vec{F}) \cdot d\vec{S}=\oint_C \vec{F}\cdot d\vec{l}\) | ストークスの定理(Stokes’ theorem) | \iint_S(\nabla \times \vec{F}) \cdot d\vec{S}=\oint_C \vec{F}\cdot d\vec{l} | ストークスの定理は、ベクトル解析における非常に重要な定理の一つで、あるベクトル場の「渦の総量」を、その渦が存在する「曲面」上で計算したものが、その曲面の「境界線」に沿ってそのベクトル場を線積分したものと等しい、という関係を示します。 $$ \iint_S(\nabla \times \vec{F}) \cdot d\vec{S}=\oint_C \vec{F}\cdot d\vec{l} $$ \(\vec{F}\):ベクトル場(各点にベクトルが定義された空間) \(\nabla\times\vec{F}\) (または \(\operatorname{rot} \vec{F}\), \(\operatorname{curl} \vec{F}\)):ベクトル場の回転(ローテーション、カール) を表します。これは、その点における「渦の強さ」や「回転の傾向」を示します。 \(d\vec{S}\):曲面 \(S\) の微小な面積要素で、法線ベクトル(曲面に垂直な向きのベクトル)も含みます。 \(\iint_S\):曲面 \(S\) 上での面積分を表します。 \(d\vec{l}\):閉曲線 \(C\) の微小な線要素で、方向も持ちます。 \(\oint_C\):閉曲線 \(C\) に沿っての線積分を表します。 \(\cdot\):ベクトルの内積を示します。 |
誤差関数
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\operatorname{erf}(x)\) | エラー関数(Error Function) | \operatorname{erf}(x) | 誤差関数。 標準正規分布における確率を計算する際などに関係する関数です。 \(\operatorname{erf}(x) = \frac{2}{\sqrt{\pi}} \int_0^x e^{-t^2} \, dt\) |
\(\operatorname{erfc}(x)\) | 相補エラー関数(Complementary Error Function) | \operatorname{erfc}(x) | 補誤差関。 エラー関数を補完する形で定義されます。 \(\operatorname{erfc}(x) = 1 – \operatorname{erf}(x) = \frac{2}{\sqrt{\pi}} \int_x^{\infty} e^{-t^2} dt\) |
\(\propto\) | 比例関係 | \propto | \(y \propto x\) は \(y = kx\)( (k) は定数)。 例:誤差評価で \(\text{error} \propto h^2\) (数値積分の誤差)。 |
\(\sim\) | 漸近的に比例 | \sim | \(f(x) \sim g(x)\) は \(\lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} = 1\) 例:テイラー展開の主要項。 例:\(\sin x \sim x \text{ as } x \to 0\) |
代数学の算術
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(+\) | 加算 | ‘+ | 代数学の基本演算。例:ベクトルの加法、行列の加法。 例:\(2 + 3 = 5\) , \(x + y\) |
\(−\) | 減算 | − | 例:逆元(群論)、負のスカラー。 \(5 – 3 = 2\) , \(-x\) , \(x – y\) |
\(\cdot\) | 乗算 | \cdot | この記号は主に2つの意味で使われます。 スカラーの乗算:数と数の乗算を表します。 例:\(2\cdot3=6, a\cdot b\) ベクトルのドット積(内積):2つのベクトルのドット積(Dot Product)を表します。結果はスカラー値となり、ベクトルの「同じ方向を向いている度合い」を示します。物理では、仕事の計算などに使われます。 定義:\(a=(a_1,a_2,a_3), b=(b_1,b_2,b_3)\) のとき、\(a\cdot b=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3$\) 例:\((1,2,3)\cdot(4,5,6)=32\) |
\(\times\) | 乗算 | \times | ベクトルのクロス積(外積) 1,スカラーの乗算(バツ印) 数と数の乗算の記号です。 例:\(2 \times 3=6\) 例:\(4 \times 10^3\) (科学的記数法) 2,ベクトルのクロス積(外積) 2つのベクトルの「クロス積(Cross Product)」 を表す際に使われます。クロス積の結果は 元の2つのベクトルに垂直な新しいベクトルになります。 ・定義:2つの3次元ベクトル a と b のクロス積 \(a \times b\) は、以下の成分を持つベクトルになります。 \(a \times b=(a_2 b_3 − a_3b2_)\mathbf{i}+(a_3b_1−a_1b_3)\mathbf{j}+(a_1b_2−a_2b_1)\mathbf{k}\) ・物理的意味 トルク(力のモーメント):位置ベクトル \(\mathbf{r}\) と力 \(\mathbf{F}\) のクロス積は、トルク \(\tau=\mathbf{r} \times \mathbf{F}\) を表します。 ・2つのベクトルがどれだけ互いに垂直であるか の尺度として使われ、その結果は2つのベクトルが張る平面に垂直な方向を指します(右手の法則)。 例:\((1,0,0) \times (0,1,0) = (0,0,1)\) |
\(/\) | 除算 | / | スラッシュ 代数、高等数学、科学、プログラミング、コンピュータ関連の分野で広く使われる割り算の記号です。 分数表記の代わりとして、1行で記述する際に便利です(例:\(a/b\))。 「〜あたり」「〜毎」といった 割合 や 単位 を表す際にも使われます(例: km/h (キロメートル毎時)、MB/sec (メガバイト毎秒))。この場合、「パー」と読むことが多いです。 例:\(6/2=3\) |
\(\div\) | 除算 | \div | オベラス / 除算記号 主に 算数 や初等教育で使われる、一般的な割り算の記号です。 日本では「わる」と読みます。 この記号は、イギリス、アメリカ、日本、韓国、タイなど一部の国 で主に使われています。 世界的に見ると、実はあまり一般的ではありません。 分数表記(横線)を抽象化したものに由来すると言われています。横線の上下の点が、分子と分母を表していると解釈されます。 例:\(x \div y\) |
^ | べき乗 | ^ | 基数を指数回乗じた値。 例:多項式、行列のべき乗。LaTeX では x^2。 例:\(2^3 = 8\)、\(x^2\) |
\(\sqrt{}\) | 平方根(Square Root) | \sqrt{} | ある数 x が与えられたときに、「2乗すると x になる数」を求める演算です。 √:この記号は根号(radical sign)と呼ばれます。 中に書かれる数(被開方数 / radicand):根号の中に書かれる数で、その数の平方根を求めます。 根号 \(\sqrt{}\) の意味: 記号 \(\sqrt{a}\) は、通常、非負の平方根(主平方根 / principal square root)を意味します。 ゼロの平方根:\(\sqrt{a}=0\) です。 例:二次方程式の解 \(x = \pm \sqrt{b}\)。一般化:\(\sqrt[n]{a}\) |
mod | 合同算術(Modular Arithmetic) | \mod | モジュロ(modulo) 1,割り算の剰余(あまり)に着目した数学の分野で、数論やコンピュータサイエンス、暗号理論などで非常に重要です。 コンピュータサイエンスやプログラミング言語でよく見られる使い方です。この場合、mod は2つの数の除算における 剰余を計算する二項演算子 として機能します。 例:\(10 \bmod 3 = 1\) \(−10 \mod 3=2\) (負の数の剰余は、定義に注意が必要です。多くのプログラミング言語では負の余りを出しますが、数学では \(0 \leq r<|n |\) の範囲で定義されることが多いです。この場合、\(-10 = 3 \times (-4) + 2\) となります。) 2,関係記号としての \(\pmod n\)(合同関係)) 数論で一般的に使われる記法で、「a は b と n を法として合同である」という 関係 を表します。 定義:\(a\equiv b \pmod n\) と書かれ、a と b をそれぞれ n で割ったときの余りが等しいことを意味します。言い換えれば、a−b が n で割り切れる(つまり n の倍数である)ことを意味します。 読み方:「a は b モジュロ n と合同である」 例:\(10\equiv1\pmod 3\) (10を3で割ると余り1、1を3で割ると余り1) 例:\(17\equiv2\pmod 5\) (17を5で割ると余り2、2を5で割ると余り2) 例:\(25\equiv1\pmod{12}\) (25を12で割ると余り1、1を12で割ると余り1。時計の時刻計算などで使われます) 例:\((−5)\equiv7\pmod{12}\) (−5−7=−12 で、12の倍数) 3、数論的な意味での bmod n (除数を示す) 一部の文脈では、式全体の後ろにカッコなしで \bmod n と書かれることがあります。これは、その式が「n を法とする」合同関係の文脈で考えられていることを示唆します。 例:\(x^2+3x−1\equiv 0 \pmod{7\)(\(x^2+3x−1\) を7で割った余りが0と合同であることを意味します。) |
\(!\) | 階乗(Factorial) | ! | 特定の正の整数から1までのすべての正の整数を掛け合わせることを意味します。 定義:非負の整数 n に対して、n の階乗 n! は次のように定義されます。 \(n!=n\times(n−1)\times(n−2)\times⋯\times3\times2\times1\) 特別なケースとして、0! は 1 と定義されます。 例:0!=1 (定義) 例:\(1!=1\) 例:\(2!=2\times1=2\) 例:\(3!=3\times2\times1=6\) 例:\(4!=4\times3\times2\times1=24\) 例:\(5!=5\times4\times3\times2\times1=120\) 漸化式による定義:階乗は、漸化式(再帰的な定義)によっても表現できます。 \(n!=n\times(n−1)! \text{ for } n\geq1\) |
\(\binom{n}{k}\) | 二項係数 | \binom{n}{k} | \(\binom{n}{k} = \frac{n!}{k!(n-k)!}\) 例:二項定理\((a + b)^n = \sum \binom{n}{k} a^k b^{n-k}\)。 例:\(\binom{5}{2} = 10\) 例:\(\binom{4}{2} = \frac{4!}{2!2!} = 6\) |
\(=\) | 等号 | = | 2つの量が等しい。 代数学の基本。例:方程式、合同関係。 \(x + 2 = 5\)、\(x = 3\) |
\(\equiv\) | 同等 | \equiv | または合同。文脈依存(合同式など)。 例:数論(合同)、多項式の同等性。 例:\(x^2 \equiv 1 \pmod{5}\) |
\(\prod\) | 総乗(Product Notation) | \prod | 特定の範囲の項をすべて 掛け合わせる ことを意味します。これは、総和記号 \(\sum\)(シグマ)が項をすべて足し合わせるのと同じように、項をすべて掛け合わせるための記号です。 書式:\(\prod_{i=m}^n a_i\) \(\prod\):総乗記号(プロダクト記号) \(i\):インデックス変数(または積の変数) \(m\):下限(lower limit)- インデックス変数の開始値 \(n\):上限(upper limit)- インデックス変数の終了値 \(a_i\):一般項- インデックス変数の各値に対応する項 この記号は、インデックス変数を下限から上限まで1ずつ増やしながら、一般項 \(a_i\) の値を計算し、それらすべてを掛け合わせることを意味します。 \(\prod_{i=m}^n a_i = a_m \times a_{m+1} \times a_{m+2} \times \dots \times a_n\) 例:5!(5の階乗)\(\prod_{i=1}^5 i = 1 \times 2 \times 3 \times 4 \times 5 = 120\) 例:\(\prod_{k=1}^3 (k+1)^2 = (1+1)^2 \times (2+1)^2 \times (3+1)^2 = (2)^2 \times (3)^2 \times (4)^2 = 4 \times 9 \times 16 = 576\) 例:総乗記号は、無限個の項の積を表す 無限積 にも使用されます。 \(\prod_{n=1}^\infty (1+\frac{1}{n^2})\) |
\(\lceil x \rceil\) | 天井関数 | \lceil x \rceil | (x)以上の最小整数。 例:離散数学、アルゴリズム。 例:\(\lceil 3.2 \rceil = 4\) 例:\(\lceil -3.2 \rceil = -3\) |
\(\lfloor x \rfloor\) | 床関数 | \lfloor x \rfloor | (x) 以下の最大整数。 例:数論(ガウス記号)、プログラミング。 例:\(\lfloor 3.2 \rfloor = 3\) 例:\(\lfloor -3.2 \rfloor = -4\) |
\(\sum\) | 総和(Summation Notation) | \sum | 特定の範囲にある項をすべて 足し合わせる ことを意味します。 書式:\(\sum_{i=m}^n a_i\) ・\(\sum\):総和記号(シグマ記号) ・i:インデックス変数(または和の変数) ・m:下限(lower limit)- インデックス変数の開始値 ・n:上限(upper limit)- インデックス変数の終了値 ・\(a_i\): 一般項- インデックス変数の各値に対応する項 この記号は、インデックス変数を下限から上限まで1ずつ増やしながら、一般項 \(a_i\) の値を計算し、それらすべてを足し合わせることを意味します。 \(\sum_{i=m}^n a_i = a_m + a_{m+1} + a_{m+2} + \dots + a_n\) 例:\(\sum_{i=1}^5 1 = 1 + 2 + 3 + 4 + 5 = 15\) 例:\(\sum_{k=1}^3 (k^2+1) = (1^2 + 1) + (2^2 + 1) + (3^2 + 1) = (1+1) +(4+1)+(9+1)=2+5+10=17\) 例:無限級数:\(\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2} = 1 + \frac{1}{4} + \frac{1}{9} + \frac{1}{16} + \dots\) 数列と級数:数列の和を簡潔に表現するのに使われます。 統計学:平均値、分散、標準偏差など、データの合計値を計算する際に不可欠です。 コンピュータサイエンス:ループ処理による合計計算のアルゴリズムを数学的に表現する際に使われます。 |
\(ord(a)\) | 位数 | ord(a) | 群 \(G\) の元 \(a\) の位数 \(ord(a)\)(または \(|a|\))は、\(a\) を繰り返し演算したときに、単位元(Identity Element)になる最小の正の整数を指します。 1,整数の加法群 (\(\mathbb{Z}\),\(+\)) における位数 単位元は 0 です(どんな整数 \(x\) も \(x+0=x\))。 ・元 \(a=1\) の位数: 1 を何回足すと 0 になりますか? \(1\neq0 \, 1+1=2\neq0 \dots 1\) を何回足しても 0 になることはありません。したがって、\(ord(1)=\infty\)。 ・ほとんどすべての元 \(a\in\mathbb{Z},a\neq0\) の位数は無限大です。唯一、\(ord(0)=1\) です(\(0^1=0\))。 2,有限群における位数 合同類群 (\(\mathbb{Z}_{n},+_n\)) n を法とする加法に関する群です。単位元は \(\overline{0}\) です。 例: \((\mathbb{Z}_4,+_4)\) (4を法とする加法群)要素は \(\overline{0}\),\(\overline{1}\),\(\overline{2}\),\(\overline{3}\) です。 ・\(ord(\overline{0})=1 \, (\overline{0}^1=\overline{0})\) ・\(ord(\overline{1})$:$\overline{1}^1=\overline{1} \, \overline{1}^2=\overline{1}+_4 \overline{1}=\overline{2} \, \overline{1}^3 = \overline{1} +_4 \overline{1} +_4 \overline{1} = 3 \, \overline{1} +_4 \overline{1} +_4 \overline{1} +_4 \overline{1} = \overline{4} \equiv \overline{0} \, (\mod4)\) したがって、\(ord(\overline{1}) = 4\)。 ・\(ord(\overline{2})\):\(\overline{2}^1 = \overline{2} \, \overline{2}^2 = \overline{2} +_4 \overline{2} = \overline{4} \equiv \overline{0} (\mod4)\) したがって、\(ord(\overline{2})=2\)。 ・\(ord(\overline{3})\):\(\overline{3}^1 = \overline{3} \, \overline{3}^2 = \overline{3} +_4 \overline{3} = \overline{6} \equiv \overline{2} \, (\mod4)\) \(\overline{3}^3 = \overline{3} +_4 \overline{3} +_4 \overline{3}=\overline{9} \equiv \overline{1} \, (\mod4) \, \overline{3}^4=\overline{3} +_4 \overline{3} +_4 \overline{3} +_4 \overline{3} = \overline{12} \equiv \overline{0} \, (\mod4)\) したがって、\(ord(\overline{3}) = 4\)。 3、円周上の複素数の乗法群 単位円上の複素数 z で、乗法に関する群を考えることもできます。 ・\(ord(i) = 4\) (虚数単位 \(i\)):\(i^1 = i \, i^2 = -1 \, i^3 = -i \, i^4 = 1\)(単位元)したがって、\(ord(i)=4\)。 巡回群(Cyclic Group):位数 n の元 a が存在する場合、その元が生成する部分群は位数 n の巡回群となります。 ラグランジュの定理(Lagrange’s Theorem):有限群 G の任意の元の位数は、群 G の位数(群の要素の総数)の約数になります。これは群の構造を解析する上で非常に強力な定理です。 暗号理論:現代の公開鍵暗号(例: 楕円曲線暗号)では、有限群における元の位数の性質が安全性に深く関わっています。 群の位数:群そのものの要素の総数を指す場合もあります。これは \(ord(G)\) または \(|G|\) と書かれます。 関数の位数:関数が特定の点(例えば原点)でゼロになる「速さ」を示すために使われることもあります(例: 零点の位数、極の位数)。これは複素解析で出てくる概念です。 |
\(\gcd(a,b)\) | 最大公約数 | \gcd(a,b) | gcd(a,b) 記法 2つのゼロではない整数 a と b の最大公約数 gcd(a,b) は、 a と b の両方を割り切る最大の正の整数です。 例:\(gcd(12,18)=6\) 例:\(gcd(7,5) = 1\) 最大公約数が 1 である2つの整数は「互いに素(coprime or relatively prime)」であると言います。 ・素因数分解を利用する方法 ・ユークリッドの互除法 (Euclidean Algorithm):これは非常に効率的で、大きな数の最大公約数を求める際によく使われます。 |
\(\gcd(a,b)\) | 最大公約数 | \gcd(a,b) | gcd(a,b) 記法 2つのゼロではない整数 a と b の最大公約数 gcd(a,b) は、 a と b の両方を割り切る最大の正の整数です。 例:\(gcd(12,18)=6\) 例:\(gcd(7,5) = 1\) 最大公約数が 1 である2つの整数は「互いに素(coprime or relatively prime)」であると言います。 ・素因数分解を利用する方法 ・ユークリッドの互除法 (Euclidean Algorithm):これは非常に効率的で、大きな数の最大公約数を求める際によく使われます。 |
\([a,b]\) | 最小公倍数 (Least Common Multiple, LCM) | [a,b] | 例:lcm(12,18)=36 を [12,18]=36 と書くことがあります。 |
\(a^{-1} \pmod{n}\) | モジュラ逆数(Modular Multiplicative Inverse) | a^{-1} \pmod{n} | モジュロ(n)での逆元。\(a \cdot a^{-1} \equiv 1 \pmod{n}\)。 モジュラ逆数は、通常の数における逆数(例: a の逆数は \(1/a\) で、\(a×(1/a)=1\))を、合同算術(モジュロ演算)の枠組みに拡張したものです。 モジュラ逆数 \(a^{−1} \pmod n\) が存在する条件は非常に重要です。それは、a と n が互いに素であること(すなわち、\(gcd(a,n)=1\))です。この条件が満たされない場合、モジュラ逆数は存在しません。 例:拡張ユークリッドの互除法 (Extended Euclidean Algorithm) 例:フェルマーの小定理 (Fermat’s Little Theorem) 例:暗号理論 例:ハッシュ関数 例:巡回冗長検査 (CRC) |
\(e^2 = e\) | 冪等元(Idempotent Element) | e^2 = e | ある集合 S とその集合上で定義された二項演算 ∗ があるとします。このとき、集合 S の元 e が 冪等元 であるとは、その元を自分自身と演算した結果が、元の元自身に等しくなることを指します。 例:\(0 \times 0=0\) なので、0 は冪等元です。 例:\(1 \times 1=1\) なので、1 は冪等元です。 例:AND 演算 (\(\land\)):\(P\land P=P\) なので、すべての要素(真、偽)が冪等です。 例:OR 演算 (\(\lor\)):\(P\lor P=P\) なので、すべての要素(真、偽)が冪等です。 例:単位行列 \(I\) は \(I^2=I\) なので冪等行列です。 例:ゼロ行列 \(O\) は \(O^2=O\) なので冪等行列です。 例:射影行列(Projection Matrix)は、一般的に冪等行列です。あるベクトルを特定の空間に射影する操作を表します。 例:集合の和集合 (\(\cup\)):\(A\cup A=A\) なので、すべての集合が和集合演算に関して冪等です。 例:集合の共通部分 (\(\cap\)):\(A\cap A=A\) なので、すべての集合が共通部分演算に関して冪等です。 例:絶対値関数 \(f(x)=|x|\) は冪等ではありません(\(f (f(−2))=||−2||=|2|=2 \neq −2)\)。 例:特定の値を返す定数関数 \(f(x)=c\) は冪等ではありません(\(f(f(x))=f(c)=c\) なので、これは c が x に等しい場合に限られる)。 例:四捨五入関数や切り捨て関数など、ある操作を複数回行っても結果が変わらないような関数は冪等である場合があります。 |
\(\left| \cdot \right|\) | 絶対値(Absolute Value) | \left| \cdot \right| | ある数(実数、複素数など)の「大きさ」や「原点からの距離」を表す概念です。常に非負の値(0または正の値)をとります。 1、実数の絶対値 2,複素数の絶対値 (モジュラス) 複素数 \(z=a+bi\) (\(a,b\) は実数、\(i\) は虚数単位)の絶対値は、モジュラス(Modulus) とも呼ばれ、複素数平面上での原点からの距離として定義されます。 定義:\(\left| z \right| = \left| a + bi \right| = \sqrt{a^2+b^2}\) 例:\(\left| 3+ 4i \right| = \sqrt{ 3^2 + 4^2} = \sqrt{ 9 + 16} = \sqrt{25} = 5\) 例:\(\left| 5i \right| = \left| 0+5i \right| = \sqrt{ -2^2 + 0^2 } = \sqrt{4} = 2\) 例:\(\left| -2 \right| = \left| -1 + 0i \right| = \sqrt{ (-2)^2 + 0^2 } = \sqrt{4} = 2\) 3.ベクトルの絶対値 (ノルム) ベクトル v の「大きさ」を表す場合、これをノルム(Norm) と呼び、絶対値記号で表すことがあります。特に、ユークリッド空間(通常の空間)におけるベクトルの大きさは、その成分の2乗の和の平方根で定義されます。 例:2次元ベクトル \(\mathbf{v}=(x,y)\) の場合:\(\mathbf{v}=(x,y)\) の場合:\(\left| \mathbf{v} \right| = \sqrt{x^2 + y^2}\) 例:3次元ベクトル \(\mathbf{v}=(x,y,z)\) の場合:\(\left| \mathbf{v} \right| = \sqrt{x^2+y^2+z^2}\) 例:\(\left|(3,4) \right| = \sqrt{ 3^2 + 4^2} = \sqrt{ 9 + 16} = 5\) |
\(\overline{z}\) , \(z^*\) | 共役複素数(Complex Conjugate) | \overline{z} , z^* | 複素数 \(z\) を \(z=a+bi\) とします。ここで \(a\) と \(b\) は実数、\(i\) は虚数単位(\(i^2=−1\))です。 このとき、\(z\) の共役複素数 \(\overline{z}\)(または \( z^* \))は、\( \overline{z}=a-bi \) 1,\(\overline{z}\) (ゼットバー) ・これが 最も一般的で標準的な記法 です。数学の教科書や論文では、ほとんどの場合この記法が使われます。 2,\(z^* \) (ゼットスター / ゼットアスタリスク) ・物理学(特に量子力学や電気工学)の分野で 非常によく使われる記法 です。 ・数学でも一部の分野(例:作用素論など)で用いられることがあります。 例:\(z=3 + 4i \implies \overline{z} = 3 -4i\) 例:\(z=5-2i \implies \overline{z} = 3 -4i\) 例:\(z=7 \, (=7+0i) \implies \overline{z} = 7 -0i = 7\) 例:\(z = -6i \, (=0 – 6i) \implies \overline{z} = 0 + 6i = 6i\) 3,共役複素数の幾何学的な意味 共役複素数 \(\overline{z}\) は、複素数平面上では、元の複素数 z を実軸に関して対称移動した点に対応します。\(z=(a,b)\) の点が、実軸対称で \((a,−b)\) に移る。 |
\(\deg(f)\) | 次数 (Degree) | \deg(f) | 数学において多項式や代数方程式の最も高い「べき乗」の数を指す言葉です。通常は ƒ が多項式である場合に deg(ƒ) と表記されます。 1,単項式の次数:変数の指数の値です。 ・\(x^3\) の次数は 3 ・\(5x^2\) の次数は 2 ・\(7x\) の次数は 1 ・定数項(例: 9)は、\(9x^0\) と考えられるため、次数は 0 です。 2,多項式の次数:各項の次数の中で最も大きい値です。 ・\(f(x)=3x^4−2x^2+5x−7\) 最も大きい次数は 4 なので、\(\deg(f)=4\) となります。 3,複数変数の多項式の次数 ・\(g(x,y)=4x^3y^2−2x^2y^5+7xy\) ・項 \(4x^3y^2\) の次数は \(3+2=5\) ・項 \(−2x^2y^5\) の次数は \(2+5=7\) ・\(7xy\) の次数は \(1+1=2\) ・これらのうち最も大きい次数は 7 なので、\(\deg(g)=7\) となります。 |
\(\sqrt[n]{a}\), \(a^{1/n}\) | 冪根(べきこん、n-th root) | \sqrt[n]{a}, a^{1/n} | 与えられた数 a に対して、「n 乗すると a になる数」を求める演算です。これは、冪乗(累乗)の逆演算にあたります。 1,記号\( \sqrt[n]{a}\) ・√:根号(radical sign) ・n:指数(index)- 根号の左上にある小さな数字で、何乗すると a になる数を探すかを示します。 ・\(n=2\) の場合は、通常は省略され、\(\sqrt{a}\)と書かれます(平方根)。 ・\(n=3\) の場合は、\(\sqrt[3]{a}\)と書かれます(立方根)。 ・a:被開方数(radicand)- 根号の中に書かれる数で、その数の冪根を求めます。 2,記号 \(a^{1/n}\) ・冪根は、分数指数(Fractional Exponent)を使って \(a^{1/n}\) とも表記されます。この表記は、指数法則を適用できるため、計算において非常に便利です。 ・\(a^{1/n}=\sqrt[n]{a}\) 例:\(\sqrt[3]{8}=2 \,(2^3=8)\) 例:\(\sqrt[3]{-8} = -2 \, ((-2)^3 = -8)\) 例:\(\sqrt[3]{0} = 0\) 例:\(^n=a\) 例:\(a^{m/n}=(a^m)^{1/n} = \sqrt[n]{a^m} = (a^{1/n})^m = (\sqrt[n]{a})^m\) 例:\(\sqrt[n]{ab}=\sqrt[n]{a}\sqrt[n]{b}\) (n が偶数の場合は \(a,b \geq 0\)) 例:\(\sqrt[n]{\frac{a}{b}} = \frac{\sqrt[n]{a}}{\sqrt[n]{b}}\) (n が偶数の場合は \(a \geq 0,b>0\)) 例:\(\sqrt[m]{\sqrt[n]{a}} = \sqrt[mn]{a}\) |
\(\operatorname{rad}(n)\) | 整数の根基 (Radical of an Integer) | \operatorname{rad}(n) | 数論において使われる概念で、n の異なる素因数の積として定義されます。別名平方因子をもたない核(square-free kernel)とも呼ばれます。 正の整数 n を素因数分解したとき、\(n=p^{e_1}_1p^{e_2}_2 \dots p^{e_k}_k\) と表されるとします(ここで \(p_1,\dots,p_k\) は異なる素数、\(e_i \geq 1\) は指数)。 このとき、n の根基 \(\operatorname{rad}(n)\) は、これらの異なる素数の積として定義されます。 \(\operatorname{rad}(n) = p_1p_2 \dots p_k\) 例:\(\operatorname{rad}(12)\):\(12=2^2×3\) なので、異なる素因数は 2 と 3 です。 \(\operatorname{rad}(12)=2×3=6\) 例:\(\operatorname{rad}(16)\):\(16=2^4\) なので、異なる素因数は 2 だけです。 \(\operatorname{rad}(16)=2\) 例:\(\operatorname{rad}(7)\):\(7=7^1\) なので、異なる素因数は 7 だけです。 \(\operatorname{rad}(7)=7\) 例:\(\operatorname{rad}(504)\):\(504=2^3×3^2×7^1\) なので、異なる素因数は 2,3,7 です。\(\operatorname{rad}(504)=2×3×7=42\) 重要性:整数の根基は、特に有名なABC予想 (ABC Conjecture)の記述において中心的な役割を果たします。ABC予想は、3つの互いに素な整数 \(a,b,c (a+b=c)\) の間に、a,b,c の素因数に関する深い関係があることを述べるものです。 |
\(\sqrt{I}\) | イデアルの根基 (Radical of an Ideal) | \sqrt{I} | 抽象代数学、特に環論(Ring Theory)や可換環論(Commutative Algebra)で使われる概念です。 環 \(R\) のイデアル \(I\) が与えられたとき、\(I\) の根基\(\sqrt{I}\)は、環 \(R\) の元 \(x\) のうち、ある正の整数 \(n\) に対して \(x^n\) がイデアル \(I\) の元となるようなものすべての集合として定義されます。 \(\sqrt{I}={x \in R | \exists n \in \mathbb{Z}^+ \text{s.t. } x^n \in I }\) この \(\sqrt{I}\) もまたイデアルになります。 1,環が整数環 \(\mathbb{Z}\) の場合 ・イデアル \(I=(12)\) (12の倍数全体)の根基 \(\sqrt{(12)}\) を考えます。 \(12=2^2 \times 3 x^n\) が12の倍数になるような \(x\) を探します。例えば \(x=2\) のとき、\(2^1=2, 2^2=4, 2^3=8, 2^4=16 \dots\) となり、いずれも12の倍数になりません。しかし、\(x=6\) のとき、\(6^1=6 \in / (12)\)。\(6^2=36 \in (12)\)。したがって、\(6 \in \sqrt{(12)}\) です。実は、\(\sqrt{(12)}=(6)\) となります。なぜなら、\(x^n\) が \(2^2 \times 3\) の倍数になるためには、\(x\) は少なくとも \(2 \times 3\) の倍数である必要があるからです。この例からもわかるように、\(\sqrt{(n)}\) は整数 \(n\) の素因数分解における各素数の指数をすべて 1 にした数の倍数全体からなるイデアルになります。つまり、\(\sqrt{(n)} = \text{rad}(n)\) となります。 2,環が多項式環 \(\mathbb{C}[x]\) の場合 ・イデアル \(I=(x^2)\)(\(x^2\) の倍数全体)の根基 \(\sqrt{(x^2)}\) は、\((x)\) となります。なぜなら、\(f(x)\) が \(x^2\) の倍数でなくても、\(f(x)^n\) が \(x^2\) の倍数になるには、\(f(x)\) 自身が \(x\) の倍数である必要があるからです。 重要性:イデアルの根基は、代数多様体(Algebraic Variety)と呼ばれる幾何学的対象と密接に関連しています。ヒルベルトの零点定理(Hilbert’s Nullstellensatz)は、代数多様体の幾何学的性質と、その多様体を定義する多項式のイデアルの代数的性質(特に根基)を結びつける基本的な定理です。 |
\(\binom{n}{k}\) | 二項係数(Binomial Coefficient) | \binom{n}{k} | 数学、特に組み合わせ論(Combinatorics)において非常に重要な概念です。これは、与えられた n 個の異なるものの中から、k 個のものを選ぶ組み合わせの総数を表します。順序は考慮しません。 読み方としては、「n シー k」(CombinationのC)または「n 選び k」と読みます。 1,定義式:正の整数 \(n\) と非負の整数 \(k (0 \leq k \leq n)\) に対して、二項係数 \(\binom{n}{k}\) は次のように定義されます。\(\binom{n}{k} = \frac{n!}{k!(n-k)!}\) 例:\(\binom{5}{2}\) の計算:5個のものから2個を選ぶ組み合わせの数 \(\binom{5}{2} = \frac{5!}{2!(5-2)!} = \frac{5!}{2!3!} = \frac{5 \times 4 \times 3 \times 2 \times 1}{(2 \times 1)(3 \times 2 \times 1)} = \frac{120}{2 \times 6} = \frac{120}{12} = 10\) (例: A,B,C,D,E から2個を選ぶ場合: (A,B), (A,C), (A,D), (A,E), (B,C), (B,D), (B,E), (C,D), (C,E), (D,E) の10通り) 例:\(\binom{n}{0}\) の計算:n 個から0個を選ぶ組み合わせの数 \(\binom{n}{0} = \frac{n!}{0!(n-0)!} = \frac{n!}{1 \times n!} = 1\) (何も選ばないという1通りの方法) 例:\(\binom{n}{n}\) の計算:n 個から n 個すべてを選ぶ組み合わせの数 \(\binom{n}{n}= \frac{n!}{n!(n-n)!} = \frac{n!}{n!0!} = \frac{n!}{n! \times 1} = 1\) (すべて選ぶという1通りの方法) 2,二項係数の重要な性質:二項係数には多くの興味深く有用な性質があります。 ・対称性:\(\binom{n}{k} = \binom{n}{n-k}\) 例:\(\binom{5}{2} = 10\) と \(\binom{5}{3} = \frac{5!}{3!2!} = 10\) ・パスカルの法則 (Pascal’s Identity):これはパスカルの三角形を構成する基礎となる性質です。 \(\binom{n}{k} = \binom{n-1}{k-1} + \binom{n-1}{k}\) ・二項定理 (Binomial Theorem):名前の由来ともなっている重要な定理です。 \((x+y)^n= \sum_{k=0}^n \binom{n}{k}x^{n-k} y^k\) この定理は、\(n\) 乗の展開における各項の係数が二項係数であることを示しています。 例: \((x+y)^2 = \binom{2}{0}x^2y^0 + \binom{2}{1}x^1y^1 + \binom{2}{2}x^0y^2 = 1x^2 + 2xy +1y^2 = x^2 + 2xy + y^2\) ・総和の性質 \(\sum_{k=0}^n \binom{n}{k}=2^n\) これは、 \(n\) 個の要素を持つ集合のすべての部分集合の総数が \(2^n\) であることと一致します。 3,応用分野 二項係数は、数学の様々な分野や実生活において広く応用されます。 ・確率論:特定の事象が発生する組み合わせの数を計算する際に用いられます(例: コイン投げで何回表が出る確率)。 ・統計学:二項分布などの確率分布に現れます。 ・コンピュータサイエンス:アルゴリズムの解析、データ構造、情報理論などで組み合わせの数を計算する際に使われます。 ・パスカルの三角形:各行の数字が二項係数として並び、多くの美しい数学的パターンを示します。 |
\(\dim V\) | 次元 (Dimension of a Vector Space) | \dim V | 1,ベクトル空間と基底 ・ベクトル空間 (V):ベクトルを加算したり、スカラー倍(数を掛けたり)できる空間のことです。身近な例では、2次元平面(xy 平面)や3次元空間がベクトル空間です。 ・基底:ベクトル空間の基底とは、その空間内の 任意のベクトルを一意に線形結合で表すことができる、最小限のベクトルの集合 のことです。 ・「線形結合で表せる」とは、基底ベクトルをスカラー倍して足し合わせることで、他のすべてのベクトルを作れるという意味です。 ・「一意に」とは、その表し方がただ一つに決まるという意味です。 ・「最小限」とは、基底のどのベクトルを取り除いても、残りのベクトルでは全ての空間を表現できなくなるという意味です。 2,定義 ベクトル空間 \(V\) の次元 \(\dim V\) は、そのベクトル空間の 任意の基底に含まれるベクトルの数 です。重要な性質として、どの基底を選んでも、その基底に含まれるベクトルの数は常に同じであることが証明されています。 例:実数全体 \(\mathbb{R}\) これは1次元ベクトル空間です。基底として {1} を取ることができます(任意の実数 \(x\) は \(x\cdot1\) と表せる)。 例:2次元ユークリッド空間 \(\mathbb{R}^2\) これは \(xy\) 平面のことです。任意のベクトル \((x,y)\) は、基底 \({(1,0),(0,1)}\) を使って \(x(1,0) + y(0,1)\) と一意に表せます。 \(\dim \mathbb{R}^2=2\) 例:3次元ユークリッド空間 \(\mathbb{R}^3\) これは私たちが住む3次元空間のことです。基底として \({(1,0,0),(0,1,0),(0,0,1)}\) を取ることができます。\(\dim \mathbb{R}^3=3\) 例:n 次元ユークリッド空間 \(\mathbb{R}^n\) 一般的に、n 次元ユークリッド空間の次元は n です。\(\dim \mathbb{R}^n=n\) 例:多項式空間 \(P_n\) 次数が n 以下の実数係数多項式全体の集合 \(P_n={ a_nx^n + \dots + a_1x + a_0∣a_i \in \mathbb{R}}\) もベクトル空間です。基底は \({1,x,x^2, \dots,x^n }\) となります。 \(\dim P_n=n+1\) 3,次元 n とは 文脈によって、単に「n 次元」というときの n は、特定の数学的対象の次元を示す変数として使われます。 ・例えば、「n 次元空間」や「n 次元の超立方体」といった表現で使われる場合、n はその空間や図形が持つ独立した方向の数を示します。 ・多くの場合、この n は、上記で説明したベクトル空間の次元 と一致します。 4,次元概念の重要性 次元の概念は、数学、物理学、コンピュータサイエンスなど、多くの分野で基礎的な役割を果たします。 ・幾何学:図形や空間の基本的な特性を定義します。 ・物理学:空間(3次元)と時間(1次元)を合わせた4次元の時空など、物理現象を記述する枠組みとなります。 ・データサイエンス・機械学習:データの「特徴量」の数を次元と見なすことができ、次元が高いデータ(高次元データ)の解析は、その複雑さから特別な手法(次元削減など)を必要とします。 ・コンピュータグラフィックス:3Dグラフィックスは、3次元空間の概念に基づいています。 |
\(\begin{vmatrix} \dots \end{vmatrix} , det(A)\) | 行列式 | \begin{vmatrix} \dots \end{vmatrix} , det(A) | 正方行列(行の数と列の数が同じ行列)に対して定義される特別な値です。非正方行列には行列式は定義されません。 記号:行列式を表す記号には主に2種類あります。 1、det(A):行列 A の行列式を意味する一般的な関数表記です。 2,\(\begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix}\) 行列の要素を囲む括弧を縦棒(絶対値記号と同じ)に変えた表記です。 |
\(\text{tr}(A), \operatorname{tr}(A)\) | 跡(Trace) | \text{tr}(A), \operatorname{tr}(A) | 跡(Trace)は、線形代数において正方行列に定義されるスカラー値(単一の数値)です。行列の主対角成分(左上から右下への対角線上にある要素)の和として計算されます。 定義 \(n\) 次正方行列 \(A\) が次のように与えられたとします。 \(A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \dots & a_{nn} \end{pmatrix}\) このとき、行列 A の跡 tr(A) は、主対角成分の和として定義されます。 \(\operatorname{tr}(A)=a_{11}+a_{22}+\dots+a_{nn}=i=\sum_{i=1}^na_{ii}\) 例:2次正方行列 \(A=\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 4 & 3 \end{pmatrix}\) \(\operatorname{tr}(A)=2+3=5\) 例:3次正方行列 \(B=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \\ 7 & 8 & 9 \end{pmatrix}\) \(\operatorname{tr}(B)=1+5+9=15\) |
\(\lambda\) | 固有値 (Eigenvalue) | \lambda | 線形代数において、正方行列 \(A\) とベクトル \(v (v\neq0)\) が以下の関係を満たすとき、\(\lambda\) を行列 A の固有値と呼びます。 \(Av=\lambda v\) ここで、\(v\) は固有ベクトルと呼ばれます。固有値は、線形変換によって固有ベクトルがどの程度スカラー倍されるかを示す値です。 |
\(A^T, A^\top\) | 転置(Transpose) | A^T, A^\top | 行列の行と列を入れ替える操作のことです。つまり、元の行列の第 \(i\) 行が転置行列の第 \(i\) 列になり、元の行列の第 \(j\) 列が転置行列の第 \(j\) 行になります。 例:\(A = \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} \implies A^T = \begin{pmatrix} 1 & 3 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}\) 例:\(B = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \end{pmatrix} \implies B^T = \begin{pmatrix} 1 & 4 \\ 2 & 5 \\ 3 & 6 \end{pmatrix}\) 例:\(\mathbf{v} = \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} \implies \mathbf{v}^T = \begin{pmatrix} x & y & z \end{pmatrix}\) |
\(\operatorname{rank}(A) , $\dim \operatorname{im}(A)\) | 行列の階数(Rank of a Matrix) | \operatorname{rank}(A) , $\dim \operatorname{im}(A) | その行列が持つ「独立した情報の量」や「線形変換によって到達できる空間の次元」を示す数値です。 1,線形写像の像 (Image) の次元としての階数 (\(\dim \operatorname{im}(A)\))) 2、階段行列の非ゼロ行数としての階数 3,線形独立な行ベクトル(または列ベクトル)の最大数としての階数 |
\(\ker(A), \operatorname{Null}(A)\) | 核(Kernel)零空間(Null Space) | \ker(A), \operatorname{Null}(A) | ある線形写像(またはそれに対応する行列)によって「ゼロベクトルに写像されるすべてのベクトル」からなる集合を指します。 これは、その線形写像がどの程度情報を「失う」かを示す空間とも言えます。 定義 \(m×n\) 行列 \(A\) が与えられたとします。これは、\(\mathbb{R}^n\) (または \(\mathbb{C}^n\)) から \(\mathbb{R}^m\) (または \(\mathbb{C}^m\)) への線形写像 \(f_A(x)=Ax\) を表します このとき、行列 \(A\) の核 \(ker(A)\) は、ベクトル空間 \(C^n\) のうち、行列 \(A\) を掛けるとゼロベクトル 0 になるようなすべてのベクトル \(x\) の集合として定義されます。 \(ker(A)={ {\mathbf{x}\in \mathbb{R}^n ∣ A\mathbf{x}=0} }\) この \(ker(A)\) は、\(\mathbb{R}^n\) の部分空間(線形部分空間)になります。 別名「零空間」について 「零空間」という名前は、集合内のすべてのベクトルを A で写像すると零ベクトルになる、という性質に由来します。また、英語では “Null Space” とも呼ばれます。 例:\(A=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 4 & 6 \\ 0 & 1 & 2 \end{pmatrix}\) この行列の核 \(ker(A)\) を求めるには、\(Ax=0\) となる \(x=\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{pmatrix}\) これは連立一次方程式 \(\begin{cases} x1+2x_2+3x_3=0 \\ 2x_1+4x_2+6x_3=0 \\ 0x_1+1x_2+2x_3=0 \end{cases}\) を解くことに相当します。 行基本変形によって行列を階段行列に変換します 。 \(\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 0 & 1 & 2 \\ 0 & 0 & 0\end{pmatrix}\) ここから、 ・\(x_2+2x_3=0 \implies x_2=−2x_3\) ・\(x_1+2x_2+3x_3=0 \implies x_1+2(−2x_3)+3x_3=0 \implies x_1−4x_3+3x_3=0 \implies x_1−x_3 = 0 \implies x_1=x_3\) したがって、x は次のように書けます。 \(x=\begin{pmatrix} x_3 \\ -2x_3 \\ x_3 \end{pmatrix} = x_3 \begin{pmatrix} 1 \\ -2 \\ 1\end{pmatrix}\) 任意の定数 \(x_3\)(例えば \(t\) と置く)を用いて、 \(\ker(A)=\begin{Bmatrix} t \begin{pmatrix} 1 \\ -2 \\ 1 \end{pmatrix} \mid t \in \mathbb{R} \end{Bmatrix}\) これは、ベクトル\(\begin{pmatrix} 1 \\ -2 \\ 1 \end{pmatrix}\)によって生成される1次元の部分空間です。 核の次元(零性 Nullity) 核 ker(A) の次元は、零性(Nullity)と呼ばれ、\(\dim \ker(A)\) や \(\operatorname{nullity}(A)\) と表記されます。 上記の例では、核は1つの線形独立なベクトルによって生成されるため、\(\dim \ker(A)=1\) となります。 |
\(\operatorname{im}(A) , \operatorname{Range}(A)[\latex] | 像(Image)、値域(Range) | \operatorname{im}(A) , \operatorname{Range}(A) | 線形代数において、ある線形写像(またはそれに対応する行列)によって「到達可能なすべてのベクトル」からなる集合を指します。これは、その線形写像がどのくらいの「広がり」を持つかを示す空間とも言えます。 定義 [latex]m×n\) 行列 \(A\) が与えられたとします。これは、\(\mathbb{R}^n\) (または \(\mathbb{C}^n\)) から \(\mathbb{R}^m\) (または \(\mathbb{C}^m\)) への線形写像 \(f_A(\mathbf{x})=A\mathbf{x}\) を表します。 \(\operatorname{im}(A)={A\mathbf{x} ∣ \mathbf{x} \in \mathbb{R}^n}\) この \(\operatorname{im}(A)\) は、\(\mathbb{R}^m\) の部分空間(線形部分空間) になります。 列空間との関係 行列 \(A\) をその列ベクトル \(\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2, \dots ,\mathbf{a}_n\) を並べたものとして考えると、 \(A=\begin{pmatrix} \mathbf{a}_1 & \mathbf{a}_2 & \dots & \mathbf{a}_n\end{pmatrix}\) 任意のベクトル \(\mathbf{x}=\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix}\) に対する \(A\mathbf{x}\) は、次のように書けます。 \(A\mathbf{x}=x_1\mathbf{a}_1+x_2\mathbf{a}_2+\cdots + x_n\mathbf{a}_n\) これは、行列 \(A\) の列ベクトルの線形結合です。 したがって、\(\operatorname{im}(A)\) は、行列 \(A\) の列ベクトルによって張られる(生成される)部分空間と等しくなります。この部分空間は列空間(Column Space)とも呼ばれ、\(\operatorname{Col}(A)\) と表記されることもあります。 つまり、 \(\operatorname{im}(A)=\operatorname{Range}(A)=\operatorname{Col}(A)=\operatorname{span}(\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2, \cdots , \mathbf{a}_n)\) 例 \(A=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 4 & 6 \\ 0 & 1 & 2 \end{pmatrix}\) この行列 \(A\) の像 \(\operatorname{im}(A)\) を求めます。これは、行列 \(A\) の列ベクトルによって張られる空間です。 列ベクトルは \(\mathbf{a_1}=\begin{pmatrix} 1\ \ 2 \\ 0 \end{pmatrix}\), \(\mathbf{a_2}=\begin{pmatrix} 2 \\ 4 \\ 1 \end{pmatrix}\), \(\mathbf{a_3}=\begin{pmatrix} 3 \\ 6 \\ 2 \end{pmatrix}\) です。 これらのベクトルのうち、線形独立なものを見つけます。 行列の階数により、\(−\mathbf{a_1}+2\mathbf{a_2}=\mathbf{a_3}\) が成り立ちます(つまり \(\mathbf{a_3}\) は \(\mathbf{a_1}\) と \(\mathbf{a_2}\) の線形結合で表せる)。 \(\mathbf{a_1}\) と \(\mathbf{a_2}\) は線形独立です(どちらも他方の定数倍ではないため)。 したがって、\(\operatorname{im}(A)\) は \(\mathbf{a_1}$\) と \(\mathbf{a_2}\) によって張られる部分空間になります。 \(\operatorname{im}(A) = \operatorname{span}\begin{pmatrix} \begin{pmatrix}\ 1 \\ 2 \\ 0 \end{pmatrix} \cdot \begin{pmatrix}\ 2 \\ 4 \\ 1 \end{pmatrix} \end{pmatrix}\) この像空間の次元は 2 です。これは、行列の階数 \(\operatorname{rank}(A)\) と等しくなります。 |
\(\operatorname{Hom}(V, W) , \operatorname{Hom}_R(M, N)\) | 準同型の集合 | \operatorname{Hom}(V, W) , \operatorname{Hom}_R(M, N) | \(\operatorname{Hom}(V, W)\) は、数学、特に線形代数や抽象代数学において非常に重要な概念です。これは、2つのベクトル空間(または加群、群などの代数構造)\(V\) と \(W\) の間のすべての準同型写像(homomorphism)の集合を表します。 1,線形代数における \(\operatorname{Hom}(V, W)\) 線形代数では、通常、\(V\) と \(W\) は同じ体(例えば実数体 \(\mathbb{R}\) や複素数体 \(\mathbb{C}\))上のベクトル空間を指します。この文脈での「準同型写像」は、具体的には線形写像(linear transformation)のことです。 ・定義 \(V\) から \(W\) への線形写像 \(T:V \to W\) は、以下の2つの条件を満たす写像です。 1、加法性:任意の \(\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2 \in \mathbf{V}\) に対して、\(T(\mathbf{v}_1+\mathbf{v}_2) = T(\mathbf{v}_1) + T(\mathbf{v}_2)\) 2、斉次性(スカラー倍との両立性):任意の \(\mathbf{v} \in \mathbf{V}\) と任意のスカラー c に対して、\(T(c\mathbf{v})=cT(\mathbf{v})\) これらの条件は、「ベクトル空間の構造(和とスカラー倍)を保つ写像」であることを意味します。 ・\(\operatorname{Hom}(V, W)\) の意味 \(\operatorname{Hom}(V, W)\) は、\(V\) から \(W\) へのすべての線形写像 T を集めた集合です。 \(\operatorname{Hom}(V, W) = { T ∣ T : V \to W \text{is a linear transformation}\) ・\(\operatorname{Hom}(V, W)\) 自身もベクトル空間である さらに重要なことに、この集合 \(\operatorname{Hom}(V, W)\) は、それ自身がベクトル空間の構造を持ちます。 ・和:2つの線形写像 \(T_1,T_2 \in \operatorname{Hom}(V, W)\) の和 \((T_1+T_2)(\mathbf{v})=T_1(\mathbf{v})+T_2(\mathbf{v})\) も線形写像になります。 ・スカラー倍:線形写像 \(T \in \operatorname{Hom}(V, W)\) とスカラー \(c\) の積 \((cT)(\mathbf{v})=c(T(\mathbf{v}))\) も線形写像になります。 このように定義された和とスカラー倍によって、\(\operatorname{Hom}(V, W)\) はベクトル空間になります。 ・次元 もし \(V\) が有限次元(\(\dim V=n\))で、\(W\) も有限次元(\(\dim W=m\))である場合、\(\operatorname{Hom}(V,W)\) の次元は \(mn\) となります。 これは、各線形写像を \(m×n\) 行列で表現できるためです。実際、\(\operatorname{Hom}(V,W)\) は、\(m\times n\) 行列全体の空間と同型(isomorphic)です。 2,抽象代数学における \(\operatorname{Hom}(A,B)\) より広範な抽象代数学の文脈では、\(\operatorname{Hom}(A,B)\) は2つの代数構造 \(A\) と \(B\) の間の準同型写像(Homomorphism)全体の集合を意味します。ここでいう「準同型写像」は、それぞれの代数構造が持つ演算を保つ写像のことです。 ・群準同型:2つの群 \(G,H\) の間の写像 \(f:G \to H\) で、\(f(g_1g_2) = f(g_1)f(g_2)\) を満たすもの。この場合、\(\operatorname{Hom}(G,H)\) は群準同型写像全体の集合です。 ・環準同型:2つの環 \(R,S\) の間の写像 \(f:R \to S\) で、加法と乗法を保つもの。この場合、\(\operatorname{Hom}(R,S)\) は環準同型写像全体の集合です。 ・加群準同型:2つの加群 \(M,N\) の間の写像で、加法とスカラー倍を保つもの。これは線形代数における線形写像の一般化であり、\(\operatorname{Hom}_R(M,N)\) のように、どの環 R 上の加群かを明示することもあります。 まとめ \(\operatorname{Hom}(V,W)\) は、 ・線形代数の文脈:ベクトル空間 \(V\) から \(W\) へのすべての線形写像の集合。この集合自身もベクトル空間となる。 ・抽象代数学の文脈:2つの代数構造 \(V,W\) の間のすべての準同型写像の集合。 と理解できます。一般的に、「構造を保つ写像」全体の集合を指す記号として用いられます。 |
\(\operatorname{Aut}(G)\) | 自己同型群 (Automorphism Group) | \operatorname{Aut}(G) | 自己同型群 (Automorphism Group) は、特定の代数構造(群、環、体、ベクトル空間など)における、その構造自身への同型写像(自己同型写像)の全体がなす群です。通常は群 \(G\) の自己同型群を \(\operatorname{Aut}(G)\) と表記します。 同型写像 (Isomorphism) と自己同型写像 (Automorphism) ・準同型写像 (Homomorphism):2つの代数構造(例えば群 \(G,H\))間の写像 \(f:G \to H\) で、その構造を保つもの(例: 群なら \(f(g_1g_2) = f(g_1)f(g_2)\))。 ・同型写像 (Isomorphism):準同型写像であることに加えて、全単射であるもの(つまり、逆写像も存在するような1対1対応)。同型写像が存在する場合、2つの構造は本質的に同じであると見なされます。 ・自己同型写像 (Automorphism):代数構造 \(G\) から自身 \(G\) への同型写像(つまり、\(f:G \to G\) で、同型写像であるもの)。これは、その構造が持つ「対称性」を捉えるものです。 \(\operatorname{Aut}(G)\) の定義 群 \(G\) の自己同型群 \(\operatorname{Aut}(G)\) は、\(G\) から \(G\) へのすべての自己同型写像の集合です。 この集合に、写像の合成を演算として定義すると、\(\operatorname{Aut}(G)\) 自身も群の構造を持ちます。 ・単位元:恒等写像 \(id_G:G \to G (id_G(g)=g)\) ・逆元:自己同型写像 \(f\) の逆写像 \(f^{−1}\) も自己同型写像になります。 ・結合法則:写像の合成は結合法則を満たします。 例 ・\(\operatorname{Aut}(\mathbb{Z})\):整数全体が加法に関してなす群 \(Z\) の自己同型群。 \(\mathbb{Z}\) の自己同型写像 \(f:\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}\) は、加法を保ち、\(f(x+y) = f(x)+f(y)\)。 また、\(f(1)\) の値によって一意に決まることが知られています。\(f(1)\) は 1 または −1 しかありえません。 ・\(f(x)=x\) ・\(f(x)=−x\) したがって、\(\operatorname{Aut}(\mathbb{Z})={f(x)=x, f(x)=−x}\) であり、これは2つの要素からなる群で、位数2の巡回群 \(\mathbb{Z}_2\) と同型です。 ・\(\operatorname{Aut}(\mathbb{Z}_n)\):\(n\) を法とする剰余類群 \(\mathbb{Z}_n\) の自己同型群。 これは、\(\mathbb{Z}_n\) と互いに素な $n$ 未満の整数の乗法群 \((\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^×\) と同型です。 |
\(\operatorname{GL}(V)\) | 一般線形群 (General Linear Group) | \operatorname{GL}(V) | 一般線形群 (General Linear Group) は、線形代数における非常に基本的な群で、あるベクトル空間から自身へのすべての可逆な線形変換の全体がなす群です。 定義 ベクトル空間 \(V\) 上の一般線形群 \(\operatorname{GL}(V)\) は、\(V\) から \(V\) へのすべての可逆な線形変換 \(T:V \to V\) の集合です。 この集合に、線形変換の合成を演算として定義すると、\(\operatorname{GL}(V)\) 自身も群の構造を持ちます。 ・可逆な線形変換:逆変換が存在する線形変換(つまり、全単射な線形変換)。行列の言葉で言えば、その線形変換を表す行列が正則行列(行列式が0でない)であることです。 \(\operatorname{GL}(n,F)\) または \(\operatorname{GL}_n(F)\) との関連 特に、有限次元のベクトル空間の場合、基底を選ぶことによって、線形変換は正方行列で表現できます。 したがって、\(\operatorname{GL}(V)\) は、ある体 \(F\) 上の \(n\) 次正方行列で、正則であるもの(逆行列が存在するもの)の全体がなす群と考えることができます。これを\(\operatorname{GL}(n,F)\) または \(\operatorname{GL}_n(F)\) と表記します。 ・\(n\):行列の次数(次元)。 ・\(F\):行列の成分が属する体(例: 実数体 \(\mathbb{R}\)、複素数体 \(\mathbb{C}\))。 例: ・\(\operatorname{GL}(2,\mathbb{R})\):成分が実数であるすべての \(2×2\) 正則行列の集合。 例:\(\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix}\) は行列式が \(4−6=−2 \neq 0\) なので、\(\operatorname{GL}(2,\mathbb{R})\) の元です。 例:\(\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}\) は行列式が \(4−4=0\) なので、\(\operatorname{GL}(2,\mathbb{R})\) の元ではありません。 \(\operatorname{GL}(V)\) が群であることの確認 ・単位元:恒等変換(または単位行列 \(I\))。これは可逆です。 ・結合法則:線形変換の合成は結合法則を満たします。 ・逆元:可逆な線形変換には逆変換が存在し、その逆変換も線形変換かつ可逆です。 ・閉鎖性:2つの可逆な線形変換の合成も可逆な線形変換になります(正則行列同士の積も正則行列になるため)。 |
\(\operatorname{Inn}(G)\) | 内部自己同型群 (Inner Automorphism Group) | \operatorname{Inn}(G) | 内部自己同型群 (Inner Automorphism Group) は、群 \(G\) の自己同型群 \(\operatorname{Aut}(G)\) の中で、特定の形式で定義される自己同型写像(内部自己同型写像)の全体がなす部分群です。 内部自己同型写像 (Inner Automorphism) 群 \(G\) の任意の元 \(g \in G\) を取ります。この元 \(g\) を用いて、群 \(G\) から \(G\) 自身への写像 \(\phi_g:G \to G\) を次のように定義します。 \(\phi_g(x) = gxg^{−1} (\text{for all} x \in G)\) この写像 \(\phi_g\) は、以下に示すように、常に群 \(G\) の自己同型写像になります。 1,準同型性:任意の \(x,y \in G\) に対して \(\phi_g(xy)=g(xy)g^{−1} = gxg^{−1}gyg^{−1} = (gxg^{−1})(gyg^{−1}) = \phi_g(x)\phi_g(y)\) したがって、\(\phi_g\) は準同型写像です。 2,全単射性 ・単射:\(\phi_g(x) = \phi_g(y)\) と仮定すると、\(gxg^{−1} = gyg^{−1}\)。両辺の左から \(g^{−1}\) を掛け、右から \(g\) を掛けると、\(x=y\) となり、単射であることがわかります。 ・ 全射:任意の \(y \in G\) に対して、\(x=g^{−1}yg\) とおくと、\(\phi_g(x) = g(g^{−1}yg)g^{−1}=y\) となるので、全射であることがわかります。 したがって、\(\phi_g\) は全単射です。 以上のことから、\(\phi_g\) は自己同型写像であることが分かります。このような形の自己同型写像を、内部自己同型写像と呼びます。 \(\operatorname{Inn}(G)\) の定義 群 \(G\) の内部自己同型群 \(\operatorname{Inn}(G)\) は、すべての内部自己同型写像 \(\phi_g (g \in G)\) の全体がなす集合です。 \(\operatorname{Inn}(G)={\phi_g∣g \in G}\) この集合は、自己同型写像の合成を演算として、\(\operatorname{Aut}(G)\) の部分群をなします。さらに、\(\operatorname{Inn}(G)\) は \(\operatorname{Aut}(G)\) の正規部分群で あることが知られています。 例 1、アーベル群(可換群)の場合: 群 \(G\) がアーベル群(任意の \(g,x \in G\) に対して \(gx=xg\) が成り立つ)である場合、 \(\phi_g(x) = gxg^{−1}=(gx)g^{−}1 = (xg)g^{−1} = x(gg^{−1}) = xe = x\) (\(e\) は単位元) となります。つまり、すべての内部自己同型写像は恒等写像にしかなりません。 したがって、アーベル群の中心 \(Z(G)\) が群 \(G\) 自身と一致し、\(\operatorname{Inn}(G)\) は単位元のみからなる自明な群 \({ id_G }\) になります。 2,非アーベル群の場合: 例えば、3次対称群 \(S_3\)(非アーベル群)を考えます。 \(S_3\) の元 \(g\) を使って、異なる内部自己同型写像を生成できます。 例えば、\(g=(12)\) とすると、 \(\phi_{(12)}((13)) = (12)(13)(12)^{−1} = (12)(13)(12) = (23)\) ((13) を (23) に写像します。) |
\(\operatorname{End}(V) , \operatorname{End}(G)\) | 自己準同型 (Endomorphism) | \operatorname{End}(V) , \operatorname{End}(G) | 自己準同型 (Endomorphism) は、ある代数構造(群、環、ベクトル空間、加群など)から自身への準同型写像のことです。 \(\operatorname{End}(X)\) は、そのような自己準同型写像の全体がなす集合を表します。 1,ベクトル空間の自己準同型 \(\operatorname{End}(V)\) 線形代数の文脈では、ベクトル空間 \(V\) の自己準同型は、線形変換と呼ばれます。 ・定義: ベクトル空間 \(V\) から \(V\) 自身への線形写像 \(T:V \to V\) のことです。 すなわち、任意の \(\mathbf{u},\mathbf{v} \in V\) およびスカラー \(c\) に対して、 1,\(T(\mathbf{u}+\mathbf{v})=T(\mathbf{u})+T(\mathbf{v})\) 2,\(T(c\mathbf{u})=cT(\mathbf{u})\) を満たす写像 \(T\) のことを指します。 ・\(\operatorname{End}(V)\) の意味: \(\operatorname{End}(V)\) は、ベクトル空間 \(V\) から \(V\) へのすべての線形写像(自己準同型)の集合です。 \(\operatorname{End}(V) = {T∣T:V \to V \text{is a linear transformation}}\) ・\(\operatorname{End}(V)\) の代数構造: この集合 \(\operatorname{End}(V)\) は、単なる集合にとどまらず、環(Ring)の構造を持ちます。 ・加法:\((T_1+T_2)(\mathbf{v})=T_1(\mathbf{v})+T_2(\mathbf{v})\) ・乗法:\((T_1T_2)(\mathbf{v})=T_1(T_2(\mathbf{v})) \) これらの演算に関して、\(\operatorname{End}(V)\) は結合的な単位元を持つ環になります。単位元は恒等写像 \(id_V\) です。 さらに、体 \(F\) 上のベクトル空間 \(V\) であれば、スカラー倍も定義できるため、\(\operatorname{End}(V)\) は\(F\)-代数(Algebra over F)の構造も持ちます。 ・次元との関係: もし \(V\) が有限次元(\(\dim V = n\))である場合、\(\operatorname{End}(V)\) は、体 \(F\) 上のすべての \(n \times n\) 行列のなす環(\(M_n(F)\) と表記される)と同型です。 この場合の \(\operatorname{End}(V)\) の次元は \(n^2\) です。 ・\(\operatorname{GL}(V)\) との関係: \(\operatorname{GL}(V)\)(一般線形群)は、\(\operatorname{End}(V)\) の中で可逆な要素(写像)の全体がなす群です 2,群の自己準同型 \(\operatorname{End}(G)\) 群論の文脈では、群 \(G\) の自己準同型は、群準同型である必要があります。 ・定義: 群 \(G\) から \(G\) 自身への群準同型写像 \(f:G \to G\) のことです。 すなわち、任意の \(x,y \in G\) に対して、\(f(xy) = f(x)f(y)\) を満たす写像 \(f\) のことを指します。 ・End(G) の意味: \(\operatorname{End}(G)\) は、群 \(G\) から \(G\) へのすべての群準同型写像(自己準同型)の集合です。 \(\operatorname{End}(G)= {f∣f:G \to G \text{is a group homomorphism}}\) ・\(\operatorname{End}(G)\) の代数構造: ベクトル空間の場合と異なり、一般の群 \(G\) の \(\operatorname{End}(G)\) は、必ずしも環の構造を持つとは限りません。 ・加法:群の準同型写像の「加法」は、一般には定義できません。 ・乗法:写像の合成はできます。\((f \circ g)(x) = f(g(x))\) は、群の準同型になります。この合成演算に関して、\(\operatorname{End}(G)\) はモノイド(Monoid)の構造を持ちます(結合法則と単位元(恒等写像)が存在する)。 ・特別な場合: もし \(G\) がアーベル群である場合(つまり、\(G\) が加法群と見なせる場合)、その \(\operatorname{End}(G)\) は環の構造を持つことができます。この場合、加法は \((f+g)(x)=f(x)+g(x)\) として定義され、乗法は写像の合成です。 ・\(\operatorname{Aut}(G)\) との関係: \(\operatorname{Aut}(G)\) (自己同型群)は、\(\operatorname{End}(G)\) の中で可逆な要素(写像)の全体がなす群です。 まとめ ・\(\operatorname{End}(V)\): ・ベクトル空間 \(V\) から \(V\) へのすべての線形変換の集合。 ・この集合は、環(そして代数)の構造を持つ。 ・有限次元の場合、対応する正方行列の集合と同型。 ・\(\operatorname{End}(G) \): ・群 \(G\) から \(G\) へのすべての群準同型写像の集合。 ・一般にはモノイドの構造を持つ。 ・\(G\) がアーベル群の場合は環の構造を持つ。 このように、\(\operatorname{End}(X)\) は、構造を保つ写像の集合であり、その構造が何であるかによって、その集合自身が持つ代数構造も変化します。 |
\(\langle \cdot \rangle\) | 生成された集合 (Generated Set) | \langle \cdot \rangle | 生成 \(\langle \cdot \rangle\) 生成するイデアル \(( \cdot )\) 多項式環、生成する環 \(K[\cdot]\) 有理関数環、生成する体 \(K(\cdot)\) 非可換多項式環、生成する環 \(K\langle \cdot \rangle\) 生成された集合や生成された部分空間を表す。特定の要素の集合から、ある演算や規則を用いて生成されうるすべての要素の集合を指します。 ・線形包 (Linear Span):ベクトル空間 \(V\) の部分集合 \(S={v_1,v_2,…,v_k}\) に対して、\(\langle S \rangle\) または \(\operatorname{span}(S)\) は、\(S\) の要素のすべての線形結合によって生成される \(V\) の部分空間を表します。 \(\langle v_1,v_2,\cdots,v_k\rangle = { c_1v_1 + c_2v_2 + \cdots + c_kv_k ∣ c_i \in \mathbb{R} (\text{または} \mathbb{C}) }\) ・群の生成 (Group Generation):群論において、群 \(G\) の部分集合 \(S\) によって生成される部分群は \(\langle S \rangle\) と表記されます。これは、\(S\) の要素とその逆元の有限積によって構成できる \(G\) の最小の部分群です。 ・群の表示 (Group Presentation):群論において、\(\langle S∣R\rangle\) のように、群が生成元 \(S\) と関係式 \(R\) によって定義されることを示すために使われることがあります。 |
\((⋅, \ldots)\) | 有限生成イデアル (Finitely Generated Ideal) | (⋅, \ldots) | イデアルとは、環 \(R\) の部分集合 \(I\) であり、以下の条件を満たすものです。 1、加法に関する部分群であること ・\(I\) は空でない。 ・任意の \(a,b \in I\) に対して、\(a−b \in I\)。 2,環の元による乗法で閉じていること ・任意の \(a\in I\) と任意の \(r \in R\) に対して、\(ra \in I\) かつ \(ar \in I\)。 (※環が可換環の場合は、\(ra \in I\) だけで十分です。非可換環の場合は両方必要です。ここでは主に可換環を想定して説明します。) イデアルは「環の加法と乗法について閉じた特別な部分集合」であり、環の構造を保ったまま「割り算」を考えるための重要な概念です。 生成するイデアルの定義 イデアルを生成する元(または元の集合)は、そのイデアルの「出発点」となる要素です。 1,単項イデアル (Principal Ideal) 環 \(R\) のただ一つの元 \(a \in R\) によって生成されるイデアルを単項イデアルと呼びます。これは \((a)\) と書かれ、次のように定義されます。 \((a) = { ra \mid r \in R }\) これは、元 \(a\) のすべての「\(R\) の元による倍数」を集めたものです。これは \(a\) を含む最小のイデアルとなります。 例 ・整数環 \(\mathbb Z\) の場合 ・\((2)={\ldots,−4,−2,0,2,4,…}\) (2の倍数全体の集合)。これは偶数全体の集合であり、\(\mathbb Z\) のイデアルです。 ・\((n)={kn \mid k \in \mathbb Z}\) (\(n\) の倍数全体の集合)。 ・多項式環 \(\mathbb R[x]\) の場合 ・\((x)={f(x)x \mid f(x) \in \mathbb R[x]}\) (定数項がゼロの多項式全体の集合)。 ・\((x^2+1)={f(x)(x^2+1) \mid f(x) \in \mathbb R[x]}\) (\(x^2+1\) で割り切れる多項式全体の集合)。 2,複数の元によって生成されるイデアル 環 \(\mathbb R\) のいくつかの元 \(a_1,a_2,\ldots,a_k\) によって生成されるイデアルは、\((a_1,a_2,\ldots,a_k)\) と書かれ、次のように定義されます。 \((a_1,a_2,\ldots,a_k)={r_1a_1+r_2a_2+\dots+r_ka_k \mid r_1,r_2,\dots,r_k \in \mathbb R}\) これは、\(a_1, \ldots ,a_k\) のすべての線形結合(ただし係数は環 R の元)を集めたものです。これも \(a_1,\ldots,a_k\) を含む最小のイデアルです。 例 ・整数環 \(\mathbb Z\) の場合 ・\((2,3)={2r_1+3r_2 \mid r_1,r_2 \in \mathbb Z}\)。 この集合は、\(2×(−1)+3×1=1\) を含むため、すべての整数の線形結合として 1 を生成できます。したがって、\((2,3)=\mathbb Z\) となります。 これは、\(\gcd(2,3)=1\) であることと関連しています。一般に、\((a_1,\ldots,a_k) = (\gcd(a_1,\ldots,a_k))\) となります。 ・\((4,6)={4r_1+6r_2 \mid r_1,r_2 \in \mathbb Z }\)。 この集合は、2の倍数全体、つまり \((2)\) と一致します。なぜなら、4と6はどちらも2の倍数であり、4と6のすべての線形結合も2の倍数になるからです。そして、\(2=4×(−1)+6 \times 1\) と書けるため、2自身も集合に含まれます。 |
\(K[\cdot]\) | 多項式環(Polynomial Ring) | K[\cdot] | 多項式環(Polynomial Ring)は、代数学、特に環論において非常に重要で基本的な概念です。これは、特定の変数(または変数たち)と、ある体(または環)の係数から作られるすべての多項式を集めて、そこに適切な加法と乗法を定義した環のことです。 記号 \(K[\cdot]\) は、特に体 \(K\) 上で生成される多項式環を指します。 1,単一の変数を持つ多項式環 \(K[x]\) 最も一般的なのは、1つの変数 \(x\) を持つ多項式環です。 ・定義 体 \(K\) 上の変数 \(x\) に関する多項式環 \(K[x]\) は、次のような形の多項式全体の集合です。 \(f(x)=a_nx^n+a_{n−1}x^n−1+\ldots+a_1x+a_0\) ここで、\(n\) は非負整数、\(a_0,a_1,\ldots,a_n\) はすべて体 \(K\) の元(係数)であり、\(a_n \neq 0\) の場合、この多項式の次数は \(n\) です。\(n=0\) の場合、\(a_0\) は定数多項式です。 ・演算 この集合に、通常の多項式の加法と乗法を定義します。 ・加法:各次数の係数を足し合わせる。 例:\((x^2+1)+(2x−3)=x^2+2x−2\) ・乗法:多項式の乗法法則に従い、各項を掛け合わせて整理する。 例:\((x+1)(x−2)=x^2−2x+x−2=x^2−x−2\) ・環の構造 これらの演算によって、\(K[x]\) は可換環になります。 ・零元:ゼロ多項式 0(すべての係数が 0) ・単位元:定数多項式 1(体 \(K\) の乗法単位元) ・加法の逆元(\(−f(x)\))も存在します。 ・結合法則、分配法則も成り立ちます。 2,複数の変数を持つ多項式環 \(K[x_1,x_2,\ldots,x_m]\) 同様に、複数の変数 \(x_1,x_2,\ldots,x_m\) を持つ多項式環も定義できます。 ・定義 体 \(K\) 上の変数 \(x_1,\ldots,x_m\) に関する多項式環 \(K[x_1,\ldots,x_m]\) は、これら変数の任意の単項式(例: \(x_1^2x_2^3\))と体 \(K\) の元を係数とするすべての多項式(例: \(3x_1^2x_2−5x_3+7\))の集合です。 ・演算 ここでも、通常の多項式の加法と乗法が定義され、\(K[x_1,\ldots,x_m]\) も可換環になります。 3,「生成する環」としての意味 「生成する環」という表現は、多項式環が、その基となる体 \(K\) と、変数(不定元とも呼ばれます)たちを「追加」して、それらから四則演算(加法、減法、乗法)と有限回の繰り返しによって得られるすべての要素からなる最小の環であるという性質を強調しています。 つまり、\(K[x]\) は、\(K\) と \(x\) を含む最も小さな環です。 「生成する」という言葉は、多項式環の元が、係数と変数(およびそれらのべき乗)の積の有限和として「生成される」という構成的な性質を表しています。 |
\(K(\cdot)\) | 有理関数体(Field of Rational Functions) | K(\cdot) | 有理関数体(Field of Rational Functions)は、体(Field)と環(Ring)の概念を組み合わせた重要な代数構造です。「有理関数環」という表現も使われることがありますが、通常は「有理関数体」と呼ばれることがほとんどです。なぜなら、その構造が「体」の性質を持つためです。 記号 K(⋅) は、特に体 K 上で生成される有理関数体を指します。 1,単一の変数を持つ有理関数体 \(K(x)\) 最も一般的なのは、1つの変数 \(x\) を持つ有理関数体です。 ・定義: 体 \(K\) 上の変数 \(x\) に関する有理関数体 \(K(x)\) は、次のような形の有理関数(分数式)全体の集合です。 \(f(x)=\frac{P(x)}{Q(x)}\) ここで、\(P(x)\) と \(Q(x)\) はどちらも多項式環 \(K[x]\) の元(つまり、\(K\) の係数を持つ多項式)であり、\(Q(x)\) はゼロ多項式ではないとします。 ・演算: この集合に、通常の有理式(分数)の加法と乗法を定義します。 ・加法:\(\frac{P_1(x)}{Q_1(x)}+\frac{P_2(x)}{Q_2(x)}=\frac{P_1(x)Q_2(x)+P_2(x)Q_1(x)}{Q_1(x)Q_2(x)}\) ・乗法:\(\frac{P_1(x)}{Q_1(x)} \cdot \frac{P_2(x)}{Q_2(x)}=\frac{P_1(x)P_2(x)}{Q_1(x)Q_2(x)}\) ・逆元(除法):任意のゼロではない有理関数 \(\frac{P(x)}{Q(x)}\) に対して、逆元 \(\frac{Q(x)}{P(x)}\) が存在します。(\(P(x)\) がゼロ多項式でない限り、逆元が存在します。) ・体の構造: これらの演算によって、\(K(x)\) は体になります。 ・加法に関するアーベル群:零元(\(0/1\))と逆元(\(−P(x)/Q(x)\))を持つ。 ・乗法に関するアーベル群:単位元(\(1/1\))と、非ゼロ元に対する逆元を持つ。これが「体」であることの最も重要な条件です。 ・結合法則、分配法則も成り立ちます。 2,複数の変数を持つ有理関数体 \(K(x_1,x_2,\ldots,x_m)\) 同様に、複数の変数 \(x_1,x_2,\dots,x_m\) を持つ有理関数体も定義できます。 ・定義: 体 \(K\) 上の変数 \(x_1,\ldots,x_m\) に関する有理関数体 \(K(x_1,\ldots,x_m)\) は、これらの変数を係数に持つ多項式 \(P(x_1,\ldots,x_m)\) と \(Q(x_1,\ldots,x_m)\) を使った分数式 \(\frac{P(x_1,\ldots,x_m)}{Q(x_1,\ldots,x_m)}\) 全体の集合です(ただし \(Q\neq0\))。 ・演算: ここでも、通常の分数式の加法と乗法が定義され、\(K(x_1,\ldots,x_m)\) も体になります。 3,「生成する体」としての意味 「生成する体」という表現は、有理関数体が、その基となる体 \(K\) と、変数たちを「追加」して、それらから四則演算(加法、減法、乗法、除法)と有限回の繰り返しによって得られるすべての要素からなる最小の体であるという性質を強調しています。 多項式環 \(K[x]\) は環ですが、通常は体ではありません(例: \(\mathbb Z[x]\) では \(1/x\) は多項式ではない)。しかし、有理関数体 \(K(x)\) は、多項式環 \(K[x]\) の分数体(Field of Fractions)として構成されます。これは、整数環 \(\mathbb Z\) から有理数体 \(\mathbb Q\) を構成するのと同じ考え方です。 ・整数環 \(\mathbb Z\) → 有理数体 \(\mathbb Q\):\(\mathbb Q={a/b \mid a,b \in \mathbb Z,b \neq 0}\) ・多項式環 \(K[x]\) → 有理関数体 \(K(x): K(x)={P(x)/Q(x) \mid P(x),Q(x) \in K[x],Q(x) \neq 0}\) このプロセスによって、元の環(この場合は多項式環)の元を分母に持つことで、除法が常に可能になり、「体」の構造が得られます。 |
\(K\langle \cdot \rangle\) | 非可換多項式環 (Non-commutative Polynomial Ring) | K\langle \cdot \rangle | 非可換多項式環 (Non-commutative Polynomial Ring) は、通常の多項式環の概念を拡張したもので、その名の通り、変数の積が可換ではない(順番を入れ替えると結果が変わる)という特徴を持つ環です。 記号 \(K\langle \cdot \rangle\) は、特に体 \(K\) 上で生成される非可換多項式環を指します。角括弧 [] ではなく、山括弧 <> を使うことで、変数の積が非可換であることを示します。 1,単一の変数を持つ非可換多項式環 \(K\langle x \rangle\) 奇妙に聞こえるかもしれませんが、単一の変数 \(x\) を持つ非可換多項式環も定義できます。この場合、実際には通常の可換多項式環 \(K[x]\) と同じになります。なぜなら、変数 \(x\) がただ一つしかないので、\(x\cdot x=x^2\) のように、積の順序を入れ替えるという操作自体が意味をなさないからです。 したがって、通常、非可換多項式環を考える際には、複数の変数がある場合がほとんどです。 2,複数の変数を持つ非可換多項式環 \(K\langle x_1,x_2, \ldots,x_m\rangle\) これが非可換多項式環の真骨頂です。 ・定義 体 \(K\) 上の変数 \(x_1,x_2,\ldots,x_m\) に関する非可換多項式環 \(K\langle x_1,x_2,\ldots,x_m\rangle\) は、これらの変数と体 \(K\) の係数から作られるすべての非可換な積の線形結合(つまり多項式)の集合です。 ここでいう「非可換な積」とは、例えば \(x_1x_2\) と \(x_2x_1\) は異なる元として扱われる、ということです。 この環の元は、次のような形の有限和で表されます。 \(f=\sum_{i=1}^N a_iw_i\) ここで、\(a_i \in K\) は係数、\(w_i\) は変数 \(x_1,\ldots,x_m\) から作られる単語(word) または モノイド です。単語とは、変数を並べた有限列のことです。 例:\(x_1x_2x_1\), \(x_2x_3\), \(x\frac{2}{1}=x_1x_1\) など。 ・演算 この集合に、通常の多項式と同じように加法と乗法を定義しますが、乗法においては変数の積の順序を厳密に保ちます。 ・加法:各単語の係数を足し合わせる。 ・乗法:単語の結合(concatenation)と分配法則に従う。 例: \((x_1+x_2)(x_1x_2)=x_1(x_1x_2)+x_2(x_1x_2)=x\frac{2}{1}x_2+x_2x_1x_2\) ここで、\(x\frac{2}{1}x_2\) と \(x_2x_1x_2\) は異なる単語なので、これ以上まとめることはできません。また、\(x_1x_2 \neq x_2x_1\) です。 ・環の構造 これらの演算によって、\(K\langle x_1,\ldots,x_m \rangle\) は非可換環になります。 ・零元(すべての係数が 0 の多項式) ・単位元(体 \(K\) の乗法単位元 1 のみからなる定数多項式) ・加法の逆元も存在します。 ・結合法則、分配法則は成り立ちます。 ・しかし、乗法の可換性 (\(ab=ba\)) は成り立ちません。 3,「生成する環」としての意味 「生成する環」という表現は、多項式環と同様に、基となる体 \(K\) と、変数たち(この場合は非可換な関係を持つ)を「追加」して、それらから四則演算(加法、減法、乗法)と有限回の繰り返しによって得られるすべての要素からなる最小の非可換環であるという構成的な性質を強調しています。 |
統計学
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(P(\cdot)\) | 確率(Probability) | P(\cdot) | \(P(\cdot)\) は、ある事象が起こる可能性の度合いを ( 0 ) から ( 1 ) の間の数値で表す関数です。 ( 0 ): 絶対に起こらない ( 1 ): 確実に起こる 基本用語 試行(Trial): 結果が不確実な行為(例: サイコロを振る、コインを投げる)。 事象(Event): 試行の特定の結果(例: サイコロで「偶数が出る」)。 標本空間(Sample Space) \(\Omega\) : 試行のすべての可能な結果の集合。 例: サイコロ1回 → \(\Omega = {1, 2, 3, 4, 5, 6}\) 例: コイン1回 → \(\Omega = {\text{表}, \text{裏}}\) 確率の定義確率 ( P(A) ) は、事象 ( A )(標本空間 \(\Omega\) の部分集合)が起こる確率を表す。 古典的確率: 各結果が同様に確からしい場合、 \(P(A) = \frac{\text{事象 } A \text{ の要素数}}{|\Omega|} = \frac{|A|}{|\Omega|}\) 例1: サイコロで偶数が出る確率 \(\Omega = {1, 2, 3, 4, 5, 6}, A = {2, 4, 6} \Rightarrow P(A) = \frac{3}{6} = \frac{1}{2}\) 例2: コインで表が出る確率 \(\Omega = {\text{表}, \text{裏}}, A = {\text{表}} \Rightarrow P(A) = \frac{1}{2}\) 公理的確率論(コルモゴロフの公理)確率 ( P ) は以下の公理を満たす関数: 非負性: \(0 \leq P(A) \leq 1\) 正規性: \(P(\Omega) = 1\) 加法性: 互いに排反な事象 \(A_1, A_2, \ldots\) に対し、 \(P(A_1 \cup A_2 \cup \cdots) = P(A_1) + P(A_2) + \cdots\) |
\(E[X] , \mathbb{E}[X]\) | 期待値(Expected Value) | E[X] , \mathbb{E}[X] | 確率変数 (Random Variable) とは 期待値を理解する前に、まず確率変数(Random Variable)を簡単に理解しておく必要があります。 ・確率変数 \(X\): 試行の結果によって値が変化する数値(またはカテゴリ)のことです。通常、大文字で \(X,Y,Z\) などと表記されます。 ・例:サイコロを振ったときの出る目(\(X\) は \({1,2,3,4,5,6}\) のいずれかの値を取る) ・例:コインを3回投げたときの表の回数(\(X\) は \({0,1,2,3}\) のいずれかの値を取る) 確率変数には、離散型確率変数と連続型確率変数があります。期待値の計算方法は、確率変数の型によって異なります。 期待値の計算方法 1,離散型確率変数の場合 離散型確率変数 \(X\) がとりうる値が \(x_1,x_2,\ldots,x_n\) であり、それぞれの値をとる確率が \(P(X=x_i)=p_i\) であるとします。このとき、\(X\) の期待値は、各値にその確率を掛け合わせたものの総和として定義されます。 \(E[X]=\sum_{i=1}^n x_iP(X=x_i) =\sum_{i=1}^nx_ip_i\) 例:サイコロを1回振ったときの出る目の期待値 ・\(X\) がとりうる値:1,2,3,4,5,6 ・それぞれの値をとる確率:\(P(X=x_i)=\frac{1}{6}\) (同様に確からしい場合) \(E[X]=1\cdot\frac{1}{6} + 2\cdot \frac{1}{6} + 3 \cdot \frac{1}{6} + 4 \frac{1}{6} + 5 \cdot \frac{1}{6} + 6 \cdot \frac{1}{6}\) \(E[X]=\frac{1+2+3+4+5+6}{6} = \frac{21}{6} = 3.5\) サイコロの出る目に3.5という値は実際にはありませんが、これは「平均的に3.5が出るだろう」という意味合いを持ちます。もしサイコロを何度も振った場合、その平均値は3.5に近づくことが期待されます。 2,連続型確率変数の場合 連続型確率変数 \(X\) の確率密度関数(PDF: Probability Density Function)が \(f(x)\) であるとします。このとき、\(X\) の期待値は、値 \(x\) に確率密度関数 \(f(x)\) を掛け合わせたものを、とりうる全ての範囲で積分したものとして定義されます。 \(E[X] \int_{-\infty}^\infty xf(x)dx\) 例:一様分布の期待値 区間 \([a,b]\) 上の一様分布を持つ確率変数 \(X\) の確率密度関数は、\(f(x)=\frac{1}{b−a} (a \leq x \leq b)\) です。 \(E[X] = \int_a^bx \cdot \frac{1}{b-a}dx = \frac{1}{b-a} \left[ \frac{1}{2}x^2 \right]_a^b\) \(E[X] = \frac{1}{b-a} \cdot \frac{1}{2}(b^2 – a^2) = \frac{1}{b-a} \cdot \frac{1}{2}( b – a)(b+a) = \frac{a+b}{2}\) これは、連続一様分布の期待値が、その区間のちょうど中央値になることを示しています。 期待値の性質 期待値はいくつかの重要な性質を持ちます。 1,線形性:期待値は線形性を持つ最も重要な性質の一つです。 ・\(E[c]=c\) (定数の期待値はその定数自身) ・\(E[cX]=cE[X]\) (定数倍の期待値は期待値の定数倍) ・\(E[X+Y]=E[X]+E[Y]\) (和の期待値は期待値の和) ・\(E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y]\) (より一般的な線形結合) 2,\(E[g(X)]\):確率変数 \(X\) の関数 \(g(X)\) の期待値も同様に定義できます。 ・離散型:\(E[g(X)]=\sum_i g(x_i)P(X=x_i)\) ・連続型:\(E[g(X)]=\int_{-\infty}^\infty g(x)f(x)dx\) |
\(\operatorname{Var}(X), \sigma^2 , \sigma_X^2\) | 分散(Variance) | \operatorname{Var}(X), \sigma^2 , \sigma_X^2 | 分散(Variance)は、確率変数やデータセットの「ばらつき」や「散らばり」の度合いを示す統計量です。データの値が平均値からどれくらい離れているかを数値で表すもので、期待値がデータの中心を表すのに対し、分散はデータの広がりを表します。 分散の定義 分散は、確率変数 \(X\) とその期待値 \(E[X]\)(平均値 \(\mu\) とも書かれる)との差の二乗の期待値として定義されます。 \(\operatorname{Var}(X)=E[(X−E[X])^2]\) ここで、\(E[X]\) は \(\mu\) と表記されることも多いため、 \(\operatorname{Var}(X)=E[(X−\mu)^2]\) とも書けます。 なぜ二乗するのかというと、単に \((X−\mu)\) の期待値を取ると、正の差と負の差が打ち消し合ってゼロになってしまうため、ばらつきを正しく評価できないからです。二乗することで、差の絶対的な大きさを考慮することができます。 分散の計算方法 期待値と同様に、確率変数の型によって計算方法が異なります。 1,離散型確率変数の場合 離散型確率変数 \(X\) がとりうる値が \(x_1,x_2,\ldots,x_n\) であり、それぞれの値をとる確率が \(P(X=x_i)=p_i\) であるとします。平均を \(\mu=E[X]\) とします。 \(\operatorname{Var}(X)=\sum_{i=1}^n(x_i-\mu)^2P(X=x_1) = \sum_{i=1}^n(x_i-\mu)^2p_i\) 例:サイコロを1回振ったときの出る目の分散 サイコロの目の期待値は μ=3.5 です。 \(\operatorname{Var}(X) = (1 – 3.5)^2 \cdot \frac{1}{6} + (2- 3.5)^2 \cdot \frac{1}{6} + ( 3 – 3.5)^2 \cdot \frac{1}{6} + ( 4 – 3.5)^2 \cdot \frac{1}{6} + ( 5 – 3.5)^2 \cdot \frac{1}{6} + ( 6 – 3.5)^2 \cdot \frac{1}{6}\) \(\operatorname{Var}(X) = \frac{1}{6} \left[ 6.25+2.25+0.25+0.25+2.25+6.25 \right]\) \(\operatorname{Var}(X)=\frac{1}{6}\left[ 17.5 \right] = \frac{35}{12} \approx 2.9167\) 2,連続型確率変数の場合 連続型確率変数 $X$ の確率密度関数が \(f(x)\) であるとします。平均を \(\mu=E[X]\) とします。 \(\operatorname{Var}(X) = \int_{-\infty}^\infty(x – \mu)^2f(x)dx\) 例:区間 \([a,b]\) 上の一様分布の分散 一様分布の期待値は \(\mu=\frac{a+b}{2}\) でした。 \(\operatorname{Var}(X) = \int_a^b(x-\frac{a+b}{2})^2 \frac{1}{b-a} dx\) この積分を計算すると、最終的に以下の結果が得られます。 \(\operatorname{Var}(X) = \frac{(b-a)^2}{12}\) 分散の別表現(計算式) 分散を計算する際に便利な別の公式があります。 \(\operatorname{Var}(X) = E[X^2] – (E[X])^2\) これは、「\(X^2\) の期待値から、\(X\) の期待値の二乗を引く」という形で、計算が楽になることが多いです。 例:サイコロの出る目の分散(別表現で再計算) \(E[X]=3.5\) でした。次に \(E[X^2]\) を求めます。 \(E[X^2] ~ 1^2 \cdot \frac{1}{6} + 2^2 \cdot \frac{1}{6} + 3^2 \cdot \frac{1}{6} + 4^2 \cdot \frac{1}{6} + 5^2 \cdot \frac{1}{6} + 6^2 \cdot \frac{1}{6}\) \(E[X^2] = \frac{1+4+9+16+25+36}{6} = \frac{91}{6}\) したがって、 \(\operatorname{Var}(X) = E[X^2] – (E[X])^2 = \frac{91}{6} – (3.5)^2 = \frac{91}{6} – (\frac{7}{2})^2\) \(\operatorname{Var}(X) = \frac{91}{6} – \frac{49}{4} = \frac{182}{12} – \frac{147}{12} = \frac{35}{12}\) となり、同じ結果が得られます。 標準偏差 (Standard Deviation) 分散の平方根は標準偏差(Standard Deviation)と呼ばれ、\(\sigma\) と表記されます。標準偏差は分散と異なり、元のデータと同じ単位を持つため、ばらつきの大きさをより直感的に理解するのに役立ちます。 \(\sigma = \sqrt{\operatorname{Var}(X)}\) |
\(\sigma , \sigma_X\) | 標準偏差(Standard Deviation) | \sigma , \sigma_X | 標準偏差(Standard Deviation)は、データのばらつきや散らばり具合を示す最も一般的な統計量の一つです。これは分散の正の平方根として定義され、データの単位と一致するため、ばらつきの大きさをより直感的に理解することができます。 標準偏差の定義 標準偏差は、分散 \(\operatorname{Var}(X)\) の正の平方根として定義されます。 \(\sigma = \sqrt{ \operatorname{Var}(X)}\) あるいは、分散の定義を代入すると、 \(\sigma = \sqrt{E[(X-E[X])^2]}\) 平均を \(\mu=E[X]\) と書けば、 \(\sigma=\sqrt{E[(X – \mu)^2]}\) なぜ標準偏差を使うのか? 分散もばらつきを示す指標ですが、なぜわざわざ平方根を取った標準偏差を使うのでしょうか?その主な理由は以下の通りです。 1,単位の一致: ・もし元のデータが「メートル (m)」の単位を持つ場合、その平均値も「m」になります。 ・しかし、分散は「差の二乗」の期待値なので、「メートル二乗 (\(m^2\))」という単位になります。これは直感的にばらつきを理解しにくい単位です。 ・標準偏差は、分散の平方根を取ることで、元のデータと同じ「メートル (m)」という単位に戻ります。これにより、「平均からおよそどれくらい離れているか」を直感的に理解しやすくなります。 2,解釈のしやすさ: 標準偏差は、データが平均値からどの程度散らばっているかを具体的な数値で表現できます。例えば、「平均は170cmで、標準偏差は5cm」と言われた場合、「ほとんどの人は165cmから175cmの範囲に収まっているだろう」というような感覚的な理解がしやすくなります。 標準偏差の計算例 例:サイコロを1回振ったときの出る目の標準偏差 分散の計算で、サイコロの出る目の分散は \(Var(X)=1235 \approx 2.9167\) でした。 したがって、標準偏差は: \(\sigma = \sqrt{\frac{35}{12}} \approx \sqrt{2.9167} \approx 1.7078\) この値は、サイコロの出る目が平均値3.5から平均して約1.7程度ばらついていることを示します。 |
\(\operatorname{Cov}(X, Y)\) | 共分散(Covariance) | \operatorname{Cov}(X, Y) | 共分散(Covariance)は、2つの確率変数 \(X\) と \(Y\) が互いにどのように関係して変動するかを示す統計量です。具体的には、一方の変数が平均より大きいときに、もう一方の変数も平均より大きくなる傾向があるのか、それとも小さくなる傾向があるのか、あるいは全く関係なく変動するのか、という「共変動の度合い」を数値で表します。 共分散の定義 共分散は、確率変数 \(X\) と \(Y\) がそれぞれの期待値(平均)からどれだけ離れているかを示す「差の積」の期待値として定義されます。 \(\operatorname{Cov}(X,Y) = E[(X−E[X])(Y−E[Y])]\) ここで、\(E[X]\) は \(\mu_X\) と、\(E[Y]\) は \(\mu_Y\) と表記されることも多いため、 \(\operatorname{Cov}(X,Y)=E[(X−\mu_X)(Y−\mu_Y)]\) とも書けます。 共分散の解釈 共分散の値は、主に以下の3つのパターンに解釈されます。 1,正の共分散 (\(\operatorname{Cov}(X,Y) > 0\)): \(X\) が平均より大きい値をとるとき、\(Y\) も平均より大きい値をとる傾向がある。 \(X\) が平均より小さい値をとるとき、\(Y\) も平均より小さい値をとる傾向がある。 つまり、\(X\) と \(Y\) は同じ方向に動く傾向がある(正の相関)。 2,負の共分散 (\(\operatorname{Cov}(X,Y)<0\)): \(X\) が平均より大きい値をとるとき、\(Y\) は平均より小さい値をとる傾向がある。 \(X\) が平均より小さい値をとるとき、\(Y\) は平均より大きい値をとる傾向がある。 つまり、\(X\) と \(Y\) は逆の方向に動く傾向がある(負の相関)。 3,共分散がゼロ (\(\operatorname{Cov}(X,Y)=0\)): \(X\) と \(Y\) の間に線形的な関係がない可能性が高い。 ただし、共分散がゼロだからといって、変数間に全く関係がない(独立である)とは限りません。非線形な関係がある場合でも共分散がゼロになることがあります。しかし、もし \(X\) と \(Y\) が互いに独立であれば、共分散は必ずゼロになります。 共分散の計算方法 期待値と同様に、確率変数の型によって計算方法が異なります。 1,離散型確率変数の場合 離散型確率変数 \(X\) と \(Y\) がある同時分布に従うとします。\((x_i,y_j)\) のペアをとる同時確率を \(P(X=x_i,Y=y_j)\) とします。平均を \(\mu_X=E[X], \mu_Y=E[Y]\) とします。 \(\operatorname{Cov}(X,Y)=\sum_{i} \sum_{j}(x_i – \mu_X)(y_j – \mu_Y)P(X=x_i, Y=y_j)\) 2,連続型確率変数の場合 連続型確率変数 \(X\) と \(Y\) の同時確率密度関数が \(f(x,y)\) であるとします。平均を \(\mu_X=E[X], \mu_Y=E[Y]\) とします。 \(\operatorname{Cov}(X,Y) = \int_{-\infty}^\infty \int_{-\infty}^\infty(x – \mu_X)(y- \mu_Y) f(x,y)dxdy\) 共分散の別表現(計算式) 分散と同様に、共分散にも計算に便利な公式があります。 \(\operatorname{Cov}(X,Y) = E[XY] – E[X]E[Y]\) これは、「\(XY\) の積の期待値から、\(X\) の期待値と \(Y\) の期待値の積を引く」という形で、計算が楽になることが多いです。 共分散の性質 ・\(\operatorname{Cov}(X,X)=\operatorname{Var}(X)\)(自分自身との共分散は分散に等しい) ・\(\operatorname{Cov}(X,Y)=\operatorname{Cov}(Y,X)\) (対称性) ・\(\operatorname{Cov}(aX+b,cY+d)=ac\operatorname{Cov}(X,Y)\) (a,b,c,d は定数) ・\(\operatorname{Cov}(X_1+X_2,Y)=\operatorname{Cov}(X_1,Y)+\operatorname{Cov}(X_2,Y)\) (線形性) ・\(X\) と \(Y\) が独立ならば \(\operatorname{Cov}(X,Y)=0\)。(ただし逆は必ずしも真ではない) 相関係数 (Correlation Coefficient) との関係 共分散は、2つの変数の関係の方向と強さを示しますが、その値は変数の単位に依存します。例えば、身長を「cm」で測るか「m」で測るかで共分散の値は変わってしまいます。 この問題に対処するため、共分散をそれぞれの変数の標準偏差で割って標準化したものが相関係数(Correlation Coefficient)です。 \(\rho_{XY}=\frac{\operatorname{Cov}(X,Y)}{\rho_X \rho_Y}\) 相関係数 \(\rho_{XY}\) は必ず −1 から 1 の間の値を取り、単位に依存しないため、変数間の線形関係の強さと方向をより明確に比較することができます ・\(\rho_{XY}=1\):完全に正の線形関係 ・\(\rho_{XY} = -1\):完全に負の線形関係 ・\(\rho_{XY} = 0\):線形関係なし |
\(\rho , \rho_{X,Y}\) | 相関係数(Correlation Coefficient) | \rho , \rho_{X,Y} | 相関係数(Correlation Coefficient)は、2つの確率変数 \(X\) と \(Y\) の間に存在する線形関係の強さと方向を示す統計量です。共分散が変数自身の単位に影響されるのに対し、相関係数は無次元(単位を持たない)であり、常に −1 から 1 の間の値をとるため、異なるデータセット間の関係性を比較するのに非常に便利です。 相関係数の定義 相関係数 \(\rho_{X,Y}\) は、共分散 \(\operatorname{Cov}(X,Y)\) を、それぞれの確率変数 \(X\) と \(Y\) の標準偏差 \(\sigma_X\) と \(\sigma_Y\) の積で割ることで定義されます。 \(\rho_{X,Y} = \frac{\operatorname{Cov}(X,Y)}{\sigma_X \sigma_Y}\) ここで、 ・\(\operatorname{Cov}(X,Y)=E[(X−E[X])(Y−E[Y])]\) は \(X\) と \(Y\) の共分散。 ・\(\sigma_X=\sqrt{\operatorname{Var}(X)}\) は \(X\) の標準偏差。 ・\(\sigma=\sqrt{\operatorname{Var}(Y)}\) は \(Y\) の標準偏差。 相関係数の解釈 相関係数 \(\rho_{X,Y}\) の値は、以下のように解釈されます。 1,\(\rho_{X,Y}=1\): \(X\) が増加すると \(Y\) も完全に直線的に増加し、減少すると \(Y\) も完全に直線的に減少する関係です。散布図では点が右上がりの直線上に並びます。 2,\(0 < \rho_{X,Y} < 1\): \(X\) が増加すると \(Y\) も増加する傾向があり、減少すると \(Y\) も減少する傾向があります。値が1に近づくほど、その傾向(直線関係の強さ)は強くなります。 3,\(\rho_{X,Y}=0\): \(X\) と \(Y\) の間に線形関係がないことを意味します。散布図では点がばらばらに分布します。重要:相関係数が0だからといって、変数間に全く関係がない(独立である)とは限りません。例えば、\(Y=X^2\) のような非線形な関係がある場合、相関係数が0になることがあります。しかし、\(X\) と \(Y\) が独立であれば、相関係数は必ず0になります。 4,\(-1 < \rho_{X,Y} < 0\): \(X\) が増加すると \(Y\) は減少する傾向があり、減少すると \(Y\) は増加する傾向があります。値が-1に近づくほど、その傾向(直線関係の強さ)は強くなります。 5,\(\rho_{X,Y} = -1\): \(X\) が増加すると \(Y\) は完全に直線的に減少し、減少すると \(Y\) は完全に直線的に増加する関係です。散布図では点が右下がりの直線上に並びます。 相関係数の主な特徴 ・範囲:常に \(−1 \leq \rho_{X,Y} \leq 1\) の範囲の値をとります。 ・無次元:単位を持たないので、異なる尺度で測定された変数間の関係性を直接比較できます。 ・線形関係の指標:あくまで線形関係の強さを示す指標です。非線形な関係(例:二次関数の関係)がある場合、相関係数は低くなることがあります。 ・因果関係ではない:相関関係があるからといって、必ずしも一方の変数がもう一方の原因となっている(因果関係がある)わけではありません。これは「相関関係は因果関係を含意しない」という有名な原則です。 |
\(\bar{X} , \bar{x}\) | 標本平均(Sample Mean) | \bar{X} , \bar{x} | 標本平均(Sample Mean)は、統計学において、ある集団(母集団)から抽出されたデータの一部(標本)の平均値を指します。母集団全体の真の平均値(母平均)を推定するために用いられる、最も基本的な統計量の一つです。 標本平均の定義 ある母集団から抽出された \(n\) 個の標本データ(観測値)を \(x_1,x_2,\ldots,x_n\) とします。このとき、標本平均 \(\bar{x}\) はこれらのデータの合計をデータの個数 \(n\) で割ることで計算されます。 \(\bar{x} = \frac{x_1+x_2+\ldots+x_n}{n} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i\) なぜ標本平均が重要なのか? 標本平均が統計学において非常に重要である主な理由は以下の通りです。 1,母平均の推定:ほとんどの場合、母集団全体を調査することは困難または不可能です。そのため、標本を抽出し、その平均(標本平均)を計算することで、母集団全体の平均(母平均 \(\mu\))を推定します。標本平均は、母平均の最も基本的な点推定値です。 2,不偏性:標本平均は、母平均の不偏推定量(Unbiased Estimator)であるという重要な性質を持ちます。これは、「もし同じ母集団から何度も標本を抽出し、それぞれの標本平均を計算したとしたら、それらの標本平均の平均は母平均に等しくなる」という意味です。\(E[\bar{X}]=\mu\) 3,中心極限定理:標本平均の分布は、標本サイズ \(n\) が大きくなるにつれて、母集団の分布の形に関わらず、正規分布に近づくという非常に強力な定理です。この定理は、標本平均を用いた統計的推論(仮説検定や区間推定)の基礎となります。 計算例 ある高校の男子生徒の身長(母集団)の平均を知りたいとします。しかし、全員の身長を測るのは大変です。そこで、無作為に10人の男子生徒を選び、その身長を測定しました。 標本データ(身長、cm):172, 175, 168, 180, 170, 173, 177, 165, 178, 172 この標本の平均 \(\bar{x}\) を計算します。 \(\bar{x} = \frac{172+175+168+180+170+173+177+165+178+172}{10}\) \(\bar{x} = \frac{1730}{10} = 173cm\) この \(\bar{x}=173 cm\) が、この標本から得られた標本平均であり、高校全体の男子生徒の平均身長(母平均)の推定値となります。 標本平均のばらつき 標本平均は、抽出する標本によって値が異なるため、それ自体が確率変数であると考えることができます。この標本平均のばらつきの度合いは、標準誤差(Standard Error)と呼ばれ、\(\sigma_{\bar{X}} = \frac{\sigma}{\sqrt{n}}\) で表されます(\(\sigma\) は母標準偏差)。標準誤差が小さいほど、標本平均は母平均の周りに集中していることを示し、推定の精度が高いと言えます。 |
\(s^2 , s_X^2\) | 標本分散(Sample Variance) | s^2 , s_X^2 | 標本分散(Sample Variance)は、統計学において、ある集団(母集団)から抽出されたデータの一部(標本)のばらつきの度合いを示す統計量です。母集団全体の真の分散(母分散)を推定するために用いられます。 標本分散の定義と計算方法 \(n\) 個の標本データ \(x_1,x2,\ldots,x_n\) と、その標本平均 \(\bar{x}\) が与えられたとします。標本分散 \(s^2\) は次のように定義されます。 \(s^2 = \frac{1}{n-1} \sum{i=1}^n (x_i-\bar{x})^2\) 母分散の定義 \(E[(X−\mu)^2]\) と比較すると、以下の2つの重要な違いがあります。 1,平均が異なる:母分散では真の母平均 \(\mu\) を使いますが、標本分散では観測された標本平均 \(\bar{x}\) を使います。 2,分母が異なる:母分散ではデータの総数 \(n\) で割りますが、標本分散では \(n−1\) で割ります。 なぜ分母が \(n−1\) なのか?(不偏性) この \(n−1\) という分母は、標本分散の最も重要な特徴の一つです。これをベッセルの補正(Bessel’s Correction)と呼びます。 標本平均 \(\bar{x}\) は、母平均 \(\mu\) を推定するために使われるのですが、\(\bar{x}\) は必ずしも \(\mu\) と一致しません。標本データは、平均 \(\bar{x}\) に向かって引き寄せられる性質があります。つまり、各データ点 \((x_i−\bar{x})^2\) の和は、真の母平均 \(\mu\) からの距離 \((x_i−\mu)^2\) の和よりも小さくなる傾向があります。 もし分母を \(n\) にしてしまうと、計算される標本分散は真の母分散 \(\sigma^2\) よりも平均的に小さくなってしまい、母分散を過小評価することになります(これは偏り(bias)があると言います)。 分母を \(n−1\) にすることで、この過小評価の偏りを補正し、計算される標本分散 \(s^2\) が母分散 \(\sigma^2\) の不偏推定量(Unbiased Estimator)となります。つまり、「もし同じ母集団から何度も標本を抽出し、それぞれの標本分散を計算したとしたら、それらの標本分散の平均は母分散に等しくなる」という性質を持ちます。 計算例 ある高校の男子生徒の身長(母集団)のばらつき(母分散)を知りたいとします。無作為に10人の男子生徒を選び、その身長を測定しました。 標本データ(身長、cm): 172, 175, 168, 180, 170, 173, 177, 165, 178, 172 標本平均 \(\bar{x}=173 cm\) 標本分散 \(s^2\) を計算します。 \(s^2 = \frac{1}{10-1} \sum_{i=1}^{10}(x_i – 173)^2\) \(s^2 = \frac{1}{9}[(172−173)^2+(175−173)^2+(168−173)^2+(180−173)^2+(170−173)^2+(173−173)^2+(177−173)^2+(165−173)^2+(178−173)^2+(172−173)^2]\) \(s^2 ~ \frac{1}{9}[(−1)^2+2^2+(−5)^2+7^2+(−3)^2+0^2+4^2+(−8)^2+5^2+(−1)^2]\) \(s^2=\frac{1}{9}[1+4+25+49+9+0+16+64+25+1]\) \(s^2=\frac{1}{9}[194]\approx 21.56\) この \(s2\approx21.56\) が、この標本から得られた標本分散であり、高校全体の男子生徒の身長のばらつき(母分散)の推定値となります。 標本標準偏差 (\(s\), \(s_X\)) 標本分散の正の平方根は標本標準偏差(Sample Standard Deviation)と呼ばれ、\(s\) または \(s_X\) と表記されます。 \(s = \sqrt{s^2} \sqrt{ \frac{1}{n-1} \sum_{i=1}^n (x_i-\bar{x})^2}\) 上記の例の場合、標本標準偏差は \(s=\sqrt{194/9} \approx \sqrt{21.56} \approx 4.64 cm\) となります。 |
\(s , s_X\) | 標本標準偏差(Sample Standard Deviation) | s , s_X | 標本標準偏差(Sample Standard Deviation)は、標本データのばらつきの度合いを示す指標で、標本分散の正の平方根として定義されます。母集団の真のばらつき(母標準偏差 \(\sigma\))を推定するために使われ、データと同じ単位を持つため、直感的に理解しやすいのが特徴です。 標本標準偏差の定義と計算方法 \(n\) 個の標本データ \(x_1,x_2,\ldots,x_n\) と、その標本平均 \(\bar{x}\) が与えられたとします。標本標準偏差 \(s\) は、標本分散 \(s^2\) の正の平方根として定義されます。 \(s = \sqrt{s^2} = \sqrt{\frac{1}{n-1}\sum_{i=1}^m (x_i – \bar{x})^2}\) この式には、以下の重要なポイントがあります。 1,分母が \(n−1\):標本分散の計算では、分母にデータの個数 n ではなく \(n−1\) を用います。これは「ベッセルの補正(Bessel’s Correction)」と呼ばれ、標本から母集団の標準偏差を不偏(unbiased)に推定するためです。もし \(n\) で割ってしまうと、計算される標準偏差は真の母標準偏差よりも平均的に小さくなってしまいます。\(n−1\) で割ることで、この推定の偏りが補正されます。 2、平方根:分散が二乗された単位(例:\(\text{cm}^2\))を持つため、その平方根を取ることで、標準偏差は元のデータと同じ単位(例:cm)に戻ります。これにより、ばらつきの大きさを直感的に把握しやすくなります。 計算手順 標本標準偏差を計算する手順は以下の通りです。 1,標本平均 \(\bar{x}\) を計算する: \(\bar{x} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_1\) 2、各データ点から標本平均を引く(偏差): \(x_i – \bar{x}\) 3,各偏差を二乗する: \((x_i-\bar{x})^2\) 4、二乗された偏差の合計を求める: \(\sum_{i=1}^n (x_i – \bar{x})^2\) 5、合計を \(n−1\) で割る(これが標本分散 \(s^2\)): \(s^2=\frac{1}{n-1}\sum_{i=1}^n(x_i – \bar{x})^2\) 6、標本分散の正の平方根をとる(これが標本標準偏差 \(s\)): \(s=\sqrt{s^2}\) 計算例 ある5人の生徒のテストの点数データがあるとします。 標本データ:70, 75, 80, 85, 90 (n=5) 1,標本平均 \(\bar{x}\) の計算: \(\bar{x} = \frac{70+75+80+85+90}{5} = \frac{400}{5} = 80\) 2,各点と平均の差の二乗: ・\((70−80)^2=(−10)^2=100\) ・\((75−80)^2=(−5)^2=25\) ・\((80−80)^2=0^2=0\) ・\((85−80)^2=5^2=25\) ・\((90−80)^2=10^2=100\) 3,二乗された偏差の合計: \(100+25+0+25+100=250\) 4,標本分散 \(s^2\) の計算: \(s^2=\frac{250}{5-1} = \frac{250}{4} = 250\) 5,標本標準偏差 \(s\) の計算: \(s=\sqrt{62.5} \approx 7.906\) この \(s \approx 7.906\) が、この標本データにおける点数のばらつきの度合いを示します。平均80点からおよそ7.9点程度ばらついている、と解釈できます。 |
\(\mu , \mu_X\) | 母平均(Population Mean) | \mu , \mu_X | 母平均(Population Mean)は、統計学において、調査対象となる集団全体(母集団)の真の平均値を指します。これは、私たちが本当に知りたい「隠された」平均値であり、多くの場合、直接観測することはできません。 標本から計算される「標本平均」(\(\bar{x}\)) とは異なり、母平均は母集団のパラメータ(母数)であり、通常は定数として扱われます。 母平均の定義 母平均の定義は、確率変数が離散型か連続型かによって異なります。 1,離散型確率変数の場合 確率変数 \(X\) がとりうる値が \(x_1,x_2,…,x_N\) であり、それぞれの値をとる確率が \(P(X=x_i)=p_i\) である(または、母集団の全ての要素が分かっている)とします。このとき、\(X\) の母平均は、各値にその確率を掛け合わせたものの総和として定義されます。 \(\mu = E[X] = \sum_{i=1}^N x_i P(X = x_i)\) もし母集団が有限個の要素 \(x_1,x_2,…,x_N\) からなる場合(例:学校の全生徒のテストの点数)、母平均はこれら全ての要素の合計を要素の総数 \(N\) で割ったものとして定義されます。 \(\mu=\frac{1}{N} \sum_{i=1}^N x_i\) 例:特定の高校の全生徒(母集団)の平均身長 もし、ある高校の全生徒が1000人いて、その全員の身長データを集計できたと仮定します。この1000人の身長の合計を1000で割った値が、その高校の生徒の母平均身長 \(\mu\) です。 2,連続型確率変数の場合 連続型確率変数 \(X\) の確率密度関数(PDF: Probability Density Function)が \(f(x)\) であるとします。このとき、\(X\) の母平均は、値 \(x\) に確率密度関数 \(f(x)\) を掛け合わせたものを、とりうる全ての範囲で積分したものとして定義されます。 \(\mu=E[X]=\int_{-\infty}^{\infty} xf(x)dx\) 例:ある地域における成人男性の身長の母平均 成人男性の身長は連続的な値をとると考えられます。もし、その地域における全成人男性の身長の確率分布が分かれば、その確率密度関数を用いて身長の母平均 \(\mu\) を計算できます。 なぜ母平均を知ることが重要なのか? ・真の特性値:母平均は、母集団の最も基本的な中心傾向を表す「真の値」です。私たちが統計分析を行う究極の目標は、この真の値を理解することにあります。 ・推測統計の目標:ほとんどの場合、母集団全体を調査することは不可能であるため、母平均は未知のままです。そこで、私たちは母集団から標本を抽出し、標本平均 \(\bar{x}\)を計算することで、この未知の母平均 \(\mu\) を推定しようとします。 ・仮説検定の基準:ある仮説(例: 「新薬は平均的に効果がある」)を検証する際には、母平均に関する仮説を立て、それがデータと矛盾しないかを統計的に評価します。 期待値との関係 母平均 \(\mu\) は、確率変数 \(X\) の期待値 \(E[X]\) と全く同じ意味を持ちます。実際、母平均は「確率変数の期待値」として定義されます。 \(\mu=E[X]\) したがって、期待値の線形性などの性質は、そのまま母平均にも当てはまります。 |
\(\sigma^2 , \sigma_X^2\) | 母分散 (population variance) | \sigma^2 , \sigma_X^2 | 母分散(Population Variance)は、統計学において、調査対象となる集団全体(母集団)の真のばらつきの度合いを示す指標です。これは、母集団が持つ固有の性質(パラメータ)の一つであり、データの値が母平均からどれくらい散らばっているかを表します。 母平均 \(\mu\) と同様に、母分散 \(\sigma^2\) は通常、未知の定数であり、私たちが知りたい母集団の真のばらつきです。 母分散の定義 母分散は、確率変数 \(X\) とその母平均 \(\mu\)(期待値 \(E[X]\))との差の二乗の期待値として定義されます。 \(\sigma^2 = \operatorname{Var}(X) = E[(X-\mu)^2]\) ここで、 ・\(X\) は確率変数 ・\(\mu=E[X]\) は母平均 この定義は、各データ点と母平均との距離を二乗し、その平均(期待値)を取ることで、データのばらつきを定量化するものです。二乗する理由は、正の偏差と負の偏差が打ち消し合うのを防ぎ、全ての偏差を「正のばらつき」として評価するためです。 母分散の計算方法 期待値と同様に、確率変数の型によって計算方法が異なります。 1,離散型確率変数の場合 確率変数 \(X\) がとりうる値が \(x_1,x_2,…,x_N\) であり、それぞれの値をとる確率が \(P(X=x_i)=p_i\) であるとします。このとき、\(X\) の母分散は、各値の「(値-母平均)の二乗」にその確率を掛け合わせたものの総和として定義されます。 \(\sigma^2 = \sum_{i=1}^N (x_i – \mu)^2 P(X = x_i)\) もし母集団が有限個の要素 \(x_1,x_2,/dots,x_N\) からなる場合(全てのデータが手元にある場合)、母平均 \(\mu\) を計算し、各要素から \(\mu\) を引いて二乗し、その総和を要素の総数 \(N\) で割ることで母分散を計算します。 \(\sigma^2 = \frac{1}{N} \sum_{i=1}^N (x_i – \mu)^2\) 例:あるクラスの生徒全員(母集団)のテストの点数 あるクラスの生徒が20人いて、その全員のテストの点数(母集団)が分かっているとします。 例えば、平均 \(\mu\)=70 点で、各生徒の点数が \(x_i\) だとします。 このクラスの点数の母分散は、各生徒の点数と平均との差を二乗し、それらを合計して、生徒数20で割ることで計算されます。 2,連続型確率変数の場合 連続型確率変数 \(X\) の確率密度関数が \(f(x)\) であるとします。母平均を \(\mu=E[X]\) とします。このとき、\(X\) の母分散は、値 \(x\) の「(値-母平均)の二乗」に確率密度関数 \(f(x)\) を掛け合わせたものを、とりうる全ての範囲で積分したものとして定義されます。 \(\sigma^2 = \int_{-\infty}^{\infty}(x-\mu)^2 f(x)dx\) 母分散の別表現(計算式) 分散と同様に、母分散も以下の便利な公式で計算できます。 \(\sigma=E[X^2]-(E[X])^2\) これは、「\(X^2\) の期待値から、\(X\) の期待値の二乗を引く」という形です。実用的な計算でよく使われます。 母標準偏差 (\(\sigma\)) 母分散の正の平方根は母標準偏差(Population Standard Deviation)と呼ばれ、\(\sigma\) と表記されます。 \(\sigma=\sqrt{\sigma^2}\) 母標準偏差もデータと同じ単位を持つため、母集団のばらつきの大きさを直感的に把握するのに役立ちます。 |
\(f(x) , p(x)\) | 確率密度関数(Probability Density Function; PDF) | f(x) , p(x) | 確率密度関数(Probability Density Function; PDF)は、連続型確率変数(Continuous Random Variable)の確率分布を記述するための関数です。離散型確率変数における確率質量関数(Probability Mass Function; PMF)が特定の点がとる確率を直接示すのに対し、確率密度関数は、ある範囲(区間)がとる確率の「密度」を表します。 確率密度関数の性質 確率密度関数 \(f(x)\) は、以下の重要な性質を満たす必要があります。 1,非負性:任意の \(x\) の値に対して、\(f(x) \geq 0\) (確率密度は常にゼロ以上である) 2,全区間での積分が1:確率変数 \(X\) がとりうる全ての範囲で \(f(x)\) を積分すると、その値は 1 になります。 \(\int_{-\infty}^\infty f(x)dx = 1\) (全ての可能性の合計が100%である、という確率の基本公理に対応します) 確率密度関数の解釈と利用 確率密度関数を理解する上で最も重要な点は、以下の通りです。 1,\(f(x)\) の値そのものは確率ではない: 離散型確率変数の確率質量関数 \(P(X=x)\)のように、\(f(x)\) の値が直接「\(X=x\) となる確率」を表すわけではありません。連続型確率変数が特定の1点の値を取る確率は、数学的にはゼロになります (\(P(X=x)=0\))。なぜなら、連続的な無限の点の中で、たった1点の確率を定義することはできないからです。 2,確率は「面積」で表される: 確率密度関数において、確率がある値をとるのは特定の「区間」です。確率変数 \(X\) がある区間 \([a,b]\) の値をとる確率 \(P(a\leq X \leq b)\) は、その区間における確率密度関数 \(f(x)\) の グラフとx軸で囲まれた面積として定義されます。 \(P(a \leq X \leq b) = \int_{a}^b f(x)dx\) このため、確率密度関数は「確率を積分すると求まる関数」とも言えます。 3,\(f(x) の高さの意味\): \(f(x)\) の値は、「その \(x\) の値の周辺で、どれくらい確率が『密集しているか』」を示します。\(f(x)\) の値が高いほど、その周辺の区間で確率変数が出現しやすい、つまり「確率密度が高い」ことを意味します。 具体例:一様分布の確率密度関数 区間 \([a,b]\) 上の一様分布を持つ確率変数 \(X\) の確率密度関数は、以下のようになります。 \(f(x) = \begin{cases} \frac{1}{b-a} & (a \leq x \leq b) \ 0 & \text{それ以外} \end{cases}\) この関数は以下の性質を満たします。 ・非負性:\(\frac{1}{b-a}\) は常に正なので、\(f(x)\geq0\) を満たします。 ・全区間での積分が1: \(\int_{-\infty}^\infty f(x)dx = \int_{a}^b \frac{1}{b-a} dx = \left[ \frac{1}{b-a}x \right]_a^b = \frac{1}{b-a}(b-a) = 1\) この性質も満たします。 確率密度関数と累積分布関数 (CDF) の関係 確率密度関数 \(f(x)\) は、累積分布関数(Cumulative Distribution Function; CDF)\(F(x)\) と密接な関係にあります。 ・累積分布関数 \(F(x)\):確率変数 \(X\) が \(x\) 以下の値をとる確率 \(P(X \leq x)\) を表す関数です。 \(F(x)=P(X \leq x) = \int_{-\infty}^x f(t)dt\) ・逆の関係:累積分布関数 \(F(x)\) を微分すると、確率密度関数 \(f(x)\) が得られます(微分可能である場合)。 \(f(x)=\frac{d}{dx}F(x)\) |
\(P(X = x) , p(x)\) | 確率質量関数(Probability Mass Function; PMF) | P(X = x) , p(x) | 確率質量関数(Probability Mass Function; PMF)は、離散型確率変数(Discrete Random Variable)の確率分布を記述するための関数です。これは、特定の離散的な値がとる確率を直接示すもので、各値がどのくらいの「確率の重み(質量)」を持っているかを表します。 確率質量関数の性質 確率質量関数 \(P(X=x)\) は、以下の重要な性質を満たす必要があります。 1,非負性:確率変数がとりうるそれぞれの値 \(x\) に対して、\(P(X=x) \geq 0\) (確率は常にゼロ以上である) 2,総和が1:確率変数がとりうるすべての値の確率を合計すると、1 になります。 \(\sum_{x}P(X=x) = 1\) (全ての可能性の合計が100%である、という確率の基本公理に対応します) 確率質量関数の解釈と利用 確率質量関数は、離散型確率変数の確率分布を直接的に表現します。 1,\(P(X=x)\) の値は直接確率である: 確率密度関数と異なり、\(P(X=x)\) の値は、確率変数 \(X\) がちょうどその値 \(x\) をとる確率そのものです。 2,グラフは棒グラフ形式: 確率質量関数を視覚的に表現する場合、通常は棒グラフ(ヒストグラム)になります。各棒の高さが、その値をとる確率を示します。 具体例:サイコロを1回振ったときの出る目の確率質量関数 サイコロを1回振ったときの出る目を確率変数 \(X\) とします。\(X\) がとりうる値は \({1,2,3,4,5,6}\) です。公正なサイコロの場合、それぞれの目が出る確率は 61 です。 このときの確率質量関数 \(P(X=x)\) は次のように表せます。 \(P(X=x) = \begin{cases} \frac{1}{6} & (x \in {1,2,3,4,5,6}) \ 0 & \text{(それ以外)} \end{cases}\) この関数は以下の性質を満たします。 ・非負性:各確率は \(\frac{1}{6}\) であり、0以上です。 ・総和が1: \(P(X=1) + P(X = 2) + P( X = 3) + P(X = 4) + P(X = 5) + P(X=6) = \frac{1}{6}+\frac{1}{6}+\frac{1}{6}+\frac{1}{6}+\frac{1}{6}+\frac{1}{6}= 6 \cdot \frac{1}{6} = 1\) 総和も1になります。 別の例: コインを3回投げたときの表の回数の確率質量関数 コインを3回投げたときの表の回数を確率変数 \(Y\) とします。\(Y\) がとりうる値は \({0,1,2,3}\) です。 それぞれの確率を計算すると(例: 表をH、裏をTとして、HHH, HHT, HTH, THH, HTT, THT, TTH, TTT の8通りの結果がある中で): ・\(P(Y=0) \text{ (T T T): } \frac{1}{8}\) ・\(P(Y=1) \text{ (H T T, T H T, T T H): } \frac{3}{8}\) ・\(P(Y=2) \text{ (H H T, H T H, T H H): } \frac{3}{8}\) ・\(P(Y=3)\text{ (H H H): }\frac{1}{8}\) このときの確率質量関数 \(P(Y=y)\) は次のように表せます。 \(P(Y=y)=\begin{cases} \frac{1}{8} & (y=0 ,3) \\ \frac{3}{8} & (y=1,2) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}\) 確率質量関数と累積分布関数 (CDF) の関係 確率質量関数 \(P(X=x)\) は、累積分布関数(Cumulative Distribution Function; CDF)\(F(x)\) と密接な関係にあります。 ・累積分布関数 \(F(x)\):確率変数 \(X\) が \(x\) 以下の値をとる確率 \(P(X \leq x)\) を表す関数です。 \(F(x) = P(X \leq x) = \sum_{t \leq x} P(X=t)\) つまり、\(x\) 以下のすべての値の確率を合計したものです。 |
\(F(x) , P(X \leq x)\) | 累積分布関数(Cumulative Distribution Function; CDF) | F(x) , P(X \leq x) | 累積分布関数(Cumulative Distribution Function; CDF)は、確率変数がある特定の値 \(x\) 以下になる確率を示す関数です。確率変数が離散型か連続型かにかかわらず、すべての種類の確率変数に対して定義でき、その確率分布を完全に記述します。 累積分布関数の定義 確率変数 \(X\) の累積分布関数 \(F(x)\) は、任意の点 \(x\) について次のように定義されます。 \(F(x)=P(X \leq x)\) この定義は、離散型確率変数と連続型確率変数の両方に適用されます。 1,離散型確率変数の場合 離散型確率変数 \(X\) の確率質量関数 (PMF) が \(P(X=k)\) であるとき、累積分布関数 \(F(x)\) は、\(x\) 以下のすべての \(k\) の確率を合計したものとして定義されます。 \(F(x) = \sum_{x \leq x} P(X = k)\) ・例:サイコロを1回振ったときの出る目 \(X\) の累積分布関数 \(P(X=1)=\frac{1}{6},P(X=2)=\frac{1}{6}, \ldots, P(X=6)=\frac{1}{6}\) ・\(F(0.5)=P(X \leq 0.5)=0\) ・\(F(1)=P(X \leq 1)=P(X=1)=\frac{1}{6}\) ・\(F(1.5)=P(X \leq 1.5)=P(X=1)=\frac{1}{6}\) (1と2の間は1の確率と同じ) ・\(F(2)=P(X \leq 2)=P(X=1)+P(X=2)=\frac{1}{6}+\frac{1}{6}=\frac{2}{6}=\frac{1}{3}\) ・\(F(6)=P(X \leq 6)=P(X=1)+ \cdots +P(X=6)=1\) ・\(F(7)=P(X \leq 7)=1\) 離散型の場合、グラフは階段状になります。 2,連続型確率変数の場合 連続型確率変数 \(X\) の確率密度関数 (PDF) が \(f(t)\) であるとき、累積分布関数 \(F(x)\) は、\(f(t)\) を \(-\infty\) から \(x\) まで積分したものとして定義されます。 \(F(x) = \int_{-\infty}^x f(t)dt\) ・例: 区間 \([0,1]\) 上の一様分布の累積分布関数 確率密度関数は \(f(x)=1 (0 \leq x \leq 1)\)、それ以外は 0 です。 ・\(F(x)=\int_{-\infty}^x f(t)dt\) ・\(x<0\) のとき:\(F(x)=\int_{-\infty}^x 0dt=0\) ・\(0 \leq x \leq 1\) のとき:\(F(x)=\int_{0}^x 1dt=\left[t\right]{0}^x=x\) ・\(x>1\) のとき: \(F(x)=\int{0}^1 1dt=1\) まとめると、\(F(x) = \begin{cases} x & (x < 0) \\ x & (0 \leq x \leq 1) \\ 1 & ( x > 1) \end{cases}\) 連続型の場合、グラフは滑らかな曲線(または折れ線)になります。 累積分布関数の主な性質 累積分布関数は、確率変数やその分布の性質を理解するための以下の重要な性質を持ちます。 1,単調非減少:\(x_1 < x_2\) ならば \(F(x_1) \leq F(x_2)\)。 (\(x\) の値が大きくなれば、それ以下の値をとる確率は減ることはない) 2,両端での値: ・\(\lim_{x \to {−\infty} } F(x)=0\) ・\(\lim_{x \to \infty} F(x)=1\) (最小値以下になる確率は0、最大値以上になる確率は1) 3,右連続性:任意の \(x\) に対して、\(F(x)=\lim_{h \to 0^+} F(x+h)\)。 (グラフには左側から近づくジャンプ(不連続点)があるかもしれないが、右側から近づく場合は連続である) 4,区間の確率:確率変数 \(X\) が区間 \((a,b)\) の値をとる確率 \(P(a < X \leq b)\) は、累積分布関数を使って次のように計算できます。 \(P( a < X \leq b)=F(b)−F(a)\) この性質は非常に便利で、特定の範囲の確率を容易に計算できます。 |
\(\hat{\theta}\) | 推定量(Estimator) | \hat{\theta} | 推定量(Estimator)とは、統計学において、母集団の未知の特性値(パラメータ)を、手元の標本データから推定するために用いられる統計量のことです。 つまり、推定量 \(\hat{\theta}\) は、標本データを用いて計算される関数であり、その計算結果が母集団の真のパラメータ \(\hat{\theta}\) をどれだけうまく近似できるか、という目的で用いられます。 推定量と推定値の違い しばしば混同されがちですが、「推定量」と「推定値」は異なります。 ・推定量 (\(\hat{\theta}\)): ・計算方法や式自体を指します。 ・確率変数である標本データ(\(X_1,X_2,…,X_n\))の関数なので、それ自体が確率変数です。 ・例:標本平均 \(\bar{X} =\frac{1}{n} \sum_{i=1}^n\) \(X_i\) は、母平均 \(\mu\) の推定量です。 ・推定値: ・実際に観測された標本データを使って計算された具体的な数値を指します。 ・例:実際に測定された身長のデータが \(x_1,x_2,\ldots,x_n\) であったとき、それらから計算された \(\bar{x}=173cm\) は、母平均 \(\mu\) の推定値です。 良い推定量の条件 理想的な推定量は、母集団の真のパラメータをできるだけ正確に、そして信頼性高く推定できるものであるべきです。良い推定量の主な性質としては、以下のものが挙げられます。 1,不偏性(Unbiasedness) ・推定量 \(\hat{\theta}\) の期待値が、真のパラメータ \(\theta\) に等しい場合、その推定量は不偏であると言われます。 ・不偏推定量は、何度も標本抽出を繰り返して推定値を計算した場合、その推定値の平均が真のパラメータに近づくことを意味します。 ・例:標本平均$ \(\bar{X}\) は母平均 \(\mu\) の不偏推定量です。標本分散 \(s_2\)(分母が \(n−1\) の方)は母分散 \(\sigma^2\) の不偏推定量です。 2,有効性(Efficiency) ・不偏な推定量の中で、分散が最も小さい推定量を「有効な推定量」と言います。 ・分散が小さいということは、推定量のばらつきが小さい、つまり、真のパラメータの周りに推定値がより集中して分布することを示し、より精密な推定ができることを意味します。 3,一致性(Consistency) ・標本サイズ \(n\) を無限大に大きくしていくとき、推定量 \(\hat{\theta}\) が真のパラメータ \(\theta\) に確率的に収束する場合、その推定量は一致性を持つと言われます。 ・これは、サンプルサイズを大きくすればするほど、より正確な推定ができるという、直感に合った性質です。 ・例:標本平均 \(\hat{X}\) は母平均 \(\mu\) の一致推定量です。 |
\([\hat{\theta}_L, \hat{\theta}_U]\) | 信頼区間(Confidence Interval; CI) | [\hat{\theta}_L, \hat{\theta}_U] | 信頼区間(Confidence Interval; CI)は、統計学において、母集団の未知のパラメータ(母平均 \(\mu\) や母分散 \(\sigma^2\) など)が、ある確率(信頼水準)で含まれると推定される「区間」を指します。 ・\(\theta\):推定したい母集団の真のパラメータ(例:母平均 \(\mu\))。 ・\(\hat{\theta}{L}\):信頼区間の下限値(Lower bound)。 ・\(\hat{\theta}{U}\):信頼区間の上限値(Upper bound)。 なぜ信頼区間が必要なのか? 私たちが母集団のパラメータを知りたいとき、通常は母集団全体を調査することはできません。そこで、母集団から標本(サンプル)を抽出し、そこから点推定値(例えば、母平均を推定する標本平均 \(\bar{x}\))を計算します。 しかし、この点推定値は、標本の選び方によって偶然に異なる値をとります。つまり、点推定値は真のパラメータと完全に一致するとは限りません。 信頼区間は、この点推定値の「不確かさ」や「幅」を示すためのものです。点推定値が「1つの値」で表されるのに対し、信頼区間は「幅を持った区間」で表されるため、より情報の多い推定方法と言えます。これを区間推定と呼びます。 信頼水準 (Confidence Level) 信頼区間を語る上で不可欠なのが信頼水準(Confidence Level)です。これは通常、パーセンテージ(例: 90%, 95%, 99%)で表され、通常 \(1−\alpha\) と表記されます。(ここで \(\alpha\) は有意水準と呼ばれるものです。) 信頼水準の意味は、次のようになります。 「もし同じ母集団から何度も繰り返し標本を抽出し、そのたびに信頼区間を計算した場合、その信頼区間のうち、信頼水準の割合(例えば95%)の区間が、真の母集団パラメータを含んでいる」 注意点: ・「95%信頼区間は、真のパラメータがその区間内にある確率が95%である」ではありません。真のパラメータは固定された未知の定数であり、動くのは信頼区間の方です。 ・一度計算された信頼区間は、真のパラメータを含むか含まないかのどちらかであり、確率的な変動はしません。 信頼区間の計算方法の例 (母平均の95%信頼区間) 最も一般的なケースである母平均 \(\mu\) の信頼区間の計算方法を見てみましょう。 1,母分散 \(\sigma^2\) が既知の場合 (Z分布を使用) 標本サイズ \(n\) が十分大きい場合、または母集団が正規分布に従い母分散が既知の場合、母平均 \(\mu\) の \(100(1−α)\)% 信頼区間は次のように計算されます。 \(\lbrack \bar{x} – z_{\alpha / 2} \frac{\sigma}{\sqrt{n}}, \bar{x} + z_{ \alpha / 2} \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \rbrack\) ここで、 ・\(\bar{x}\):標本平均(点推定値) ・\(\sigma\):母標準偏差(既知) ・\(n\):標本サイズ ・\(z_{ \alpha /2}\):標準正規分布の上側 \(\alpha/2\) 点(信頼水準によって決まる値。例:95%信頼区間の場合、\(\alpha=0.05\) なので \(z_{0.025} \approx 1.96\)) 2,母分散 \(\sigma 2\) が未知の場合 ($t$分布を使用) 多くの実際の問題では母分散は未知です。この場合、母標準偏差 \(\sigma\) の代わりに標本標準偏差 \(s\) を用いますが、その代わりに\(t\)分布を使用します。 \(\lbrack \bar{x} – t_{\alpha / 2}, n-1 \frac{s}{\sqrt{n}}, \bar{x} + t_{\alpha / 2}, n-1 \frac{s}{\sqrt{n}} \rbrack\) ここで、 ・\(\bar{x}\):標本平均 ・\(s\):標本標準偏差(不偏分散の正の平方根) ・\(n\):標本サイズ ・\(t_{\alpha/2},n−1\):自由度 \(n−1\) のt分布の上側 \(\alpha/2\) 点(信頼水準と自由度によって決まる値) 信頼区間の解釈 ・信頼区間の幅:信頼区間の幅が狭いほど、点推定値がより正確であり、推定の精度が高いと言えます。 ・要因: ・信頼水準:信頼水準を高くする(例: 95%から99%にする)と、信頼区間は広くなります。より確実に真のパラメータを捉えようとすれば、区間を広げる必要があります。 ・標本サイズ \(n\):標本サイズを大きくすると、信頼区間は狭くなります。より多くのデータがあれば、より正確な推定が可能になります。 ・データのばらつき(標準偏差 \(\sigma\) または \(s\)):データ自体のばらつきが大きいほど、信頼区間は広くなります。 |
\(T , Z , t , \chi^2 , F\) | 検定統計量(Test Statistic) | T , Z , t , \chi^2 , F | 統計的仮説検定において、検定統計量(Test Statistic)は、帰無仮説(\(H_0\))が正しいと仮定したときに、観測されたデータがどれだけ珍しいかを評価するために計算される数値です。この検定統計量の値と、その検定統計量が従うとされている確率分布(\(Z\) 分布、\(t\) 分布、\(\chi^2\) 分布、\(F\) 分布など)を使って、\(p\) 値を計算し、最終的に帰無仮説を棄却するかどうかを判断します。 検定統計量の役割 検定統計量は、標本データから計算される単一の値であり、帰無仮説の下でその値がどの程度の確率で現れるかを評価するための基準となります。 ・帰無仮説との適合度:検定統計量は、観測されたデータが帰無仮説とどれだけ一致しないか(乖離しているか)を示す指標です。通常、検定統計量の絶対値が大きいほど、帰無仮説からの乖離が大きいと考えられます。 ・P値の計算:計算された検定統計量の値と、その検定統計量が従うと仮定される(帰無仮説の下での)確率分布を用いて、\(p\) 値が計算されます。\(p\) 値は、「帰無仮説が正しいと仮定したときに、観測されたデータ、あるいはそれよりも極端なデータが得られる確率」です。 ・意思決定:\(p\) 値が事前に設定した有意水準(\(\alpha\))よりも小さければ、帰無仮説を棄却し、対立仮説を採択します。 各検定統計量の説明 1,\(Z\) 検定統計量 (\(Z\)) ・特徴:標準正規分布に従う検定統計量です。 ・用途:主に母平均の差の検定(または母平均が特定の値であるかどうかの検定)で用いられます。 ・使用条件 ・母集団の分散 \(\sigma2\) が既知である場合。 ・標本サイズ \(n\) が十分に大きい(一般的に \(n \geq 30\))場合、中心極限定理により、母集団の分布が正規分布でなくても標本平均の分布は近似的に正規分布に従うため、母分散が未知でも標本分散で代用して Z 検定を適用することがあります。ただし、厳密にはt検定の方が適切です。 ・計算式の一例 (1標本Z検定):母平均 \(\mu\) がある特定の値 \(\mu_0\) と等しいか検定する場合。 \(Z=\frac{\bar{x} – \mu_0}{ \sigma / \sqrt{n}}\) ・\(\bar{x}\):標本平均 ・\(\mu_0\):帰無仮説で仮定された母平均の値 ・\(\sigma\):母標準偏差(既知) ・\(n\):標本サイズ ・直感的な意味:標本平均 \(\bar{x}\) が、帰無仮説で想定される母平均 \(\mu_0\) から、標準偏差の何倍だけ離れているかを示します。 2,\(t\) 検定統計量 (\(t\)) ・特徴:\(t\)分布に従う検定統計量です。自由度によって形が変化します。自由度が大きくなるにつれて標準正規分布に近づきます。 ・用途:主に母平均の差の検定(Z検定と同様)ですが、より一般的な状況で使われます。 ・使用条件: ・母集団の分散 \(\sigma^2\) が未知である場合。 ・少数の標本(\(n<30\) 程度)でも適用できます。 ・母集団が正規分布に従うことが前提です。ただし、標本サイズが大きければ、正規分布からの逸脱に頑健です。 ・計算式の一例 (1標本t検定):母平均 \(\mu\) がある特定の値 \(\mu_0\) と等しいか検定する場合。 \(t=\frac{\bar{x} – \mu_0}{ s / \sqrt{n}}\) ・\(\bar{x}\):標本平均 ・\(\mu_0\): 帰無仮説で仮定された母平均の値 ・\(s\):標本標準偏差(不偏分散の正の平方根) ・\(n\):標本サイズ ・自由度:\(n−1\) ・直感的な意味:Z検定と同様に、標本平均が帰無仮説で想定される母平均からどの程度離れているかを示しますが、母標準偏差が不明なために生じる不確かさを考慮しています。 3,カイ二乗検定統計量 (\(\chi^2\)) ・特徴:カイ二乗分布に従う検定統計量です。自由度によって形が変化し、非対称な分布です。 ・用途: ・適合度検定:観測された度数分布が、理論的な(期待される)分布と一致するかどうかを検定します。 ・独立性の検定:2つのカテゴリカル変数間に統計的な関連性があるかどうか(独立であるか否か)を検定します(クロス集計表でよく使われます)。 ・母分散の検定:母分散が特定の値であるかどうかの検定にも使われます。 ・計算式の一例 (独立性の検定): \(X^2=\sum \frac{(O−E)^2}{E}\) ・O:観測度数(Observed frequency) ・E:期待度数(Expected frequency、帰無仮説の下で期待される度数) ・自由度: (行数-1) × (列数-1) ・直感的な意味:観測されたデータと、帰無仮説のもとで期待されるデータとの「ズレ」の大きさを表します。ズレが大きいほど \(\chi^2\) 値は大きくなります。 4,\(F\) 検定統計量 (\(F\)) ・特徴:F分布に従う検定統計量です。2つの異なる自由度(分子の自由度と分母の自由度)によって形が変化し、非対称な分布です。 ・用途 ・分散比の検定:2つの母集団の分散が等しいかどうかを検定します(等分散性の検定)。 ・分散分析 (ANOVA):3つ以上のグループの平均値間に統計的な差があるかどうかを検定します。 ・回帰分析:モデル全体の適合度や、特定の変数群がモデルに有意な貢献をしているかなどを検定します。 ・計算式の一例 (2標本の等分散性の検定) \(F=\frac{s_1^2}{s_2^2}\) ・\(s_1^2\):1つ目の標本の不偏分散 ・\(s_2^2\):2つ目の標本の不偏分散 ・自由度:(\(n_1−1,n_2−1\)) (分子の自由度 \(n_1−1\)、分母の自由度 \(n_2−1\)) ・直感的な意味:複数の分散の「比率」を表します。F値が大きいほど、分子のばらつきが分母のばらつきに比べて大きいことを示唆します。分散分析では、「群間のばらつき」と「群内のばらつき」の比を取り、グループ間に平均値の差があるか否かを判断します。 |
\(p, p\operatorname{-value}\) | p値(p-value) | p, p\operatorname{-value} | 値(p-value)は、統計的仮説検定において、「帰無仮説(\(H_0\))が正しいと仮定したときに、観測されたデータ、あるいはそれよりも極端なデータが得られる確率」を示す値です。これは、帰無仮説を棄却するかどうかを判断するための重要な指標となります。 仮説検定の基本的な考え方と\(p\)値の役割 統計的仮説検定は、ある主張(仮説)がデータによって支持されるかどうかを判断するプロセスです。 1,仮説の設定 ・帰無仮説 (\(H_0\)): 検定によって否定したい仮説。通常、「効果がない」「差がない」「関係がない」といった、現状維持や否定的な主張を表します ・例:「この新薬には効果がない」 ・対立仮説 (\(H_1\) または \(H_A\)):帰無仮説が棄却された場合に採択される仮説。通常、「効果がある」「差がある」「関係がある」といった、研究者が示したい主張を表します。 ・例:「この新薬には効果がある」 2,データの収集と検定統計量の計算: 実際にデータを収集し、そのデータから検定統計量(例えば、\(Z\)値やt値など)を計算します。検定統計量は、データが帰無仮説からどれだけ「ずれているか」を示す数値です。 3,\(p\)値の計算: 計算された検定統計量の値と、その検定統計量が従うとされる確率分布(帰無仮説が正しいと仮定した場合の分布)を用いて、\(p\)値を計算します。 \(p\)値の直感的な意味: もし帰無仮説が本当に正しいとしたら、今回のような(あるいはこれよりもっと極端な)データが得られることは、どれくらい珍しいことなのか?その珍しさを確率で表したのが\(p\)値です。 ・\(p\)値が小さい:帰無仮説が正しいとしたら、今回のようなデータは非常に珍しい。 ・\(p\)値が大きい:帰無仮説が正しいとしたら、今回のようなデータはそれほど珍しくない。 4,結論の導出(有意水準との比較): 事前に有意水準(\(\alpha\))を設定します。これは、帰無仮説を棄却する判断を下す際の「閾値」となる確率です。一般的に、\(\alpha=0.05\)(5%)や \(\alpha=0.01\)(1%)がよく用いられます。 ・\(p\)値 \(\leq \alpha\) の場合: 観測されたデータは、帰無仮説の下では「統計的に有意に珍しい」と判断されます。したがって、帰無仮説を棄却し、対立仮説を採択します。 (例: 「新薬には統計的に有意な効果がある」) ・\(p\)値 \(>\alpha\) の場合: 観測されたデータは、帰無仮説の下で起こりうる範囲だと判断されます。したがって、帰無仮説を棄却できません。これは、「帰無仮説が正しいと証明された」という意味ではなく、「帰無仮説を否定する十分な証拠が得られなかった」という意味です。 (例: 「新薬に効果があるとは言えない」) \(p\)値の例 例えば、ある新薬が患者の血圧を下げる効果があるかどうかを調べるために、治験を行いました。 ・帰無仮説 (\(H_0\)):新薬には血圧を下げる効果がない(プラセボと同じ効果)。 ・対立仮説 (\(H_1\)):新薬には血圧を下げる効果がある。 ・有意水準:\(\alpha=0.05\) データを収集し、統計解析を行った結果、\(p\)値が \(0.03\) と計算されたとします。 ・この\(p\)値 \(0.03\) は、「もし新薬に本当に効果がない(帰無仮説が正しい)としたら、今回の治験で得られた血圧の低下(あるいはそれ以上の低下)が偶然起こる確率は3%である」ことを意味します。 ・設定した有意水準 \(\alpha=0.05\)(5%)と比較すると、\(0.03 \leq 0.05\) です。 ・したがって、帰無仮説を棄却し、「新薬には統計的に有意な血圧を下げる効果がある」と結論づけます。 もし\(p\)値が \(0.10\) だった場合、\(0.10 > 0.05\) なので、帰無仮説は棄却されず、「新薬に効果があるとは言えない」という結論になります。 \(p\)値の注意点 ・因果関係ではない:\(p\)値が小さいからといって、それが直接的に因果関係を示すわけではありません。 ・効果の大きさではない:\(p\)値は統計的有意性を示すものであり、効果の大きさ(実用的有意性)を示すものではありません。非常に大きなサンプルサイズを用いると、わずかな効果でも\(p\)値が小さくなることがあります。効果の大きさは、効果量や信頼区間で評価すべきです。 ・文脈の重要性:\(p\)値は単独で判断するものではなく、研究デザイン、データの質、先行研究などの文脈と合わせて解釈する必要があります。 \(p\)値は、科学研究、医学、社会科学など、さまざまな分野で仮説を検証し、データに基づいた意思決定を行うための基礎的なツールとして広く利用されています。 |
\(\operatorname{df} , \nu\) | 自由度(Degrees of Freedom; df) | \operatorname{df} , \nu | 自由度(Degrees of Freedom; df)は、統計学において、ある統計量の計算において自由に値をとりうる独立な情報の数を表す概念です。データに含まれる情報の総数から、その統計量を計算するために課せられる「制約」の数を引いたものとして理解できます。 1,標本分散の自由度 標本分散 \(s_2\) の計算式は次の通りです。 \(s^2=\frac{1}{n-1} \sum_{i=1}^n(x_i – \bar{x})^2\) ここで分母が \(n−1\) となっているのは、まさにこの自由度の概念によるものです。\(n\) 個のデータ \(x_i\) を使って計算されるのですが、その際に標本平均 \(\bar{x}\) という統計量も同時に計算・使用されます。この \(\bar{x}\) は、データ自体から計算された「制約」と考えることができます。 もし \(n\) 個のデータがあり、その平均 \(\bar{x}\) がすでにわかっているとすると、最初の \(n−1\) 個のデータは自由に選べますが、最後の1個のデータは、平均が \(\bar{x}\) になるように自動的に決まってしまいます。したがって、独立な情報の数は \(n−1\) となるのです。 この \(n−1\) を残差自由度と呼ぶこともあります。 2,\(t\)分布の自由度 \(t\) 検定統計量は、標本平均と標本標準偏差に基づいて計算されます。 \(t=\frac{\bar{x} – \mu_0}{s/\sqrt{n}}\) この \(t\) 値が従う \(t\) 分布の自由度は、標本分散を計算する際に用いた \(n−1\) となります。これは、母標準偏差が未知であり、標本標準偏差 \(s\) で推定するために生じる制約を反映しています。 3,カイ二乗分布の自由度 カイ二乗分布は、カテゴリカルデータの適合度検定や独立性の検定でよく用いられます。 ・適合度検定: あるカテゴリのデータが理論的な期待度数にどれだけ適合するかを測ります。 自由度 = (カテゴリの数) – 1 「合計が1になる」という制約が1つ課されるためです。 ・独立性の検定 (クロス集計表): 行と列のカテゴリの数によって決まります。 自由度 = (行の数 – 1) × (列の数 – 1) これは、行と列それぞれの合計値という制約があるためです。 4,F分布の自由度 \(F\) 分布は、2つの分散の比率を扱う分散分析 (ANOVA) や、多重回帰分析で用いられます。 \(F\) 分布は、分子の自由度と分母の自由度という2つの自由度を持ちます。 ・分散分析の場合: ・分子の自由度:グループ間のばらつき(モデルによって説明されるばらつき)に対応し、(グループ数 – 1) で計算されます。 ・分母の自由度:グループ内のばらつき(残差、誤差によるばらつき)に対応し、(全標本数 – グループ数) で計算されます。 |
\(N(\mu, \sigma^2)\) | 正規分布(Normal Distribution) | N(\mu, \sigma^2) | 正規分布(Normal Distribution)は、統計学において最も重要で広く用いられる連続型確率分布の一つです。そのグラフが釣鐘状の形をしていることから、「ベルカーブ(Bell Curve)」とも呼ばれます。多くの自然現象や社会現象におけるデータが正規分布に従う(あるいは近似できる)ことが知られており、統計的推論の基礎となっています。 正規分布の確率密度関数 正規分布の確率密度関数 \(f(x)\) は、以下の式で与えられます。 \(f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} \exp( – \frac{(x-\mu)^2}{2 \sigma^2})\) ・\(\pi\):円周率(約3.14159) ・\(e\):自然対数の底(ネイピア数、約2.71828) ・\(\mu\):母平均 ・\(\sigma^2\):母分散 この関数は、\(x\) が \(\mu\) から離れるほど \(f(x)\) の値が小さくなり、左右対称な釣鐘型を形成します。 正規分布の主な特徴 1,左右対称な釣鐘型:平均値 \(/mu\) を中心に、左右対称な形をしています。 2,平均、中央値、最頻値の一致:分布の中心である \(\mu\) が、平均(期待値)、中央値(メディアン)、最頻値(モード)の全てと一致します。 3,パラメータによる形状の変化: ・\(\mu\) が変わると、分布の位置が左右に移動します。 ・\(\sigma2\)(または標準偏差 \(\sigma=\sqrt{\sigma^2}\))が変わると、分布の広がりが変わります。\(\sigma^2\) が大きいほど分布は平たくなり、\(\sigma^2\) が小さいほど分布は尖った形になります。 4,\(x\)軸に漸近:曲線は \(x\) 軸と交わることはなく、無限に近づいていきます。 5,「68-95-99.7ルール」:正規分布に従うデータでは、以下の割合でデータが平均値の周りに分布します。 ・約 68.3% のデータが、平均値 \(\mu\) から\(\pm1\sigma\) の範囲内に収まる。 ・約 95.4% のデータが、平均値 \(\mu\) から\(\pm 2 \sigma\) の範囲内に収まる。 ・約 99.7% のデータが、平均値 \(\mu\) から \(\pm 3 \sigma\) の範囲内に収まる。 この性質は、異常値の検出や信頼区間の理解に非常に役立ちます。 標準正規分布 (\(Z\) 分布) 正規分布の中でも特に重要なのが、標準正規分布(Standard Normal Distribution)です。これは、平均が \(0 (\mu=0)\) で、分散が\(1 (\sigma 2=1)\) の正規分布です。 ・記号:\(N(0,1)\) または \(Z\) 分布 ・\(Z\) スコア:任意の正規分布に従う確率変数 \(X\) は、以下の変換式(標準化)によって標準正規分布に従う確率変数 \(Z\) に変換できます。 \(Z=\frac{X-\mu}{\sigma}\) この \(Z\) スコア(または \(Z\) 値)は、「元のデータが平均から標準偏差の何倍だけ離れているか」を示します。これにより、異なるスケールのデータでも相対的な位置を比較できるようになります。 |
\(\phi(x)\) | 標準正規分布(Standard Normal Distribution) | \phi(x) | 標準正規分布(Standard Normal Distribution)は、正規分布の中でも特別なケースで、平均 \(\mu=0\)、分散 \(\sigma^2=1\)(したがって標準偏差 \(\sigma=1\))の正規分布を指します。その確率密度関数は通常、小文字のギリシャ文字 ファイ \(\phi(x)\) で表されます。 標準正規分布は、他の任意の正規分布に従う確率変数を標準化(Standardization)することで得られるため、統計学において非常に重要な役割を果たします。 標準正規分布の確率密度関数の定義 正規分布の一般的な確率密度関数 \(f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} \exp( -\frac{(x-\mu)^2}{2 \sigma^2})\) において、\(\mu=0\) と \(\sigma=1\)(または \(\sigma^2=1\))を代入すると、標準正規分布の確率密度関数 \(\phi(x)\) が得られます。 \(\phi(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}} \exp( – \frac{x^2}{2})\) 標準正規分布の主な特徴 標準正規分布は、一般的な正規分布のすべての特徴(左右対称な釣鐘型、平均・中央値・最頻値の一致など)を持ちますが、特に以下の点が重要です。 1,中心が0、ばらつきが1: ・グラフのピークは \(x=0\) にあります。 ・曲線が \(x=0\) から離れるにつれて急速に低くなり、ばらつきの基準が1であるため、データが平均からどれくらい離れているかを標準偏差単位で直感的に把握できます。 2,標準化の基準: 任意の正規分布 \(N(\mu,\sigma^2)\) に従う確率変数 \(X\) は、以下の Z変換(標準化)によって標準正規分布に従う確率変数 \(Z\) に変換できます。 \(Z=\frac{X-\mu}{\sigma}\) この変換によって、元の分布の単位に関係なく、データ点が平均から標準偏差の何倍だけ離れているか(Zスコア)を数値化できます。 3,確率計算の基盤: 任意の正規分布における特定の範囲の確率を計算したい場合、まずその範囲をZスコアに変換し、その後、標準正規分布の累積分布関数(または標準正規分布表)を用いて確率を求めます。 ・\(P(a \leq X \leq b)\) を求めたい場合、まず \(a\) と \(b\) をそれぞれ \(Z_a=\frac{a-\mu}{\sigma}\) と \(Z_b= \frac{b-\mu}{\sigma}\) に変換します。 ・その後、\(P(Z_a \leq Z \leq Z_b)=\phi(Z_b)−\phi(Z_a)\) を計算します。 ・ここで \(\phi(z)\) は標準正規分布の累積分布関数(Standard Normal CDF)です。 4,「68-95-99.7ルール」の明確化: ・\(\phi(x)\) のグラフにおいて、\(x=0\) から \(\pm1\) の範囲(つまり \(\pm1\sigma\) 範囲)に約68.3%の確率が集中しています。 ・\(x=0\) から \(\pm1.96\) の範囲に約95%の確率が集中しています。これは、95%信頼区間などで頻繁に利用される値です。 ・\(x=0\) から \(\pm2\) の範囲に約95.4%の確率が集中しています。 ・\(x=0\) から \(\pm3\) の範囲に約99.7%の確率が集中しています。 標準正規分布の累積分布関数 (\(\phi(x)\)) 標準正規分布の累積分布関数は通常、大文字のギリシャ文字ファイ \(\phi(x)\) で表されます。 \(\phi(x) = P(Z \leq x) = \int_{-\infty}^\infty \phi(t)dt\) この関数は、\(Z\) 値が \(x\) 以下になる確率を示します。標準正規分布表は、この \(\phi(x)\) の値をまとめたものです。 |
\(\Phi(x)\) | 標準正規分布の累積分布関数(Cumulative Distribution Function; CDF) | \Phi(x) | 標準正規分布の累積分布関数(Cumulative Distribution Function; CDF)は、標準正規分布に従う確率変数 \(Z\) が、ある特定の値 \(x\) 以下になる確率を示す関数です。これは通常、大文字のギリシャ文字ファイ \(\Phi(x)\) で表されます。 標準正規分布は、平均 \(\mu=0\)、分散 \(\sigma^2=1\) の正規分布であり、その確率密度関数は \(\Phi(t)\) で表されます。 定義 標準正規分布の累積分布関数 \(\Phi(x)\) は、標準正規分布の確率密度関数 \(\phi(t)\) を \(−\infty\) から \(x\) まで積分することによって定義されます。 \(\Phi(x) = P(Z \leq x) = \int_{-\infty}^x \phi(t)dt\) ここで、\(\phi(t) \frac{1}{\sqrt{2\pi}} \exp(-\frac{t^2}{2})\) です。 \(\Phi(x)\) の主な性質 \(\Phi(x)\) は、一般的な累積分布関数(CDF)の性質をすべて満たします。 1,単調非減少:\(x\) の値が増加するにつれて、\(\Phi(x)\) の値は減少しません。つまり、\(x_1 < x_2\) ならば \(\Phi(x_1) \leq \Phi(x_2)\) です。 2,定義域と値域: ・定義域は \(-\infty < x < \infty\) です。 ・値域は \(0 \leq \Phi(x) \leq 1\) です。 3,極限値: ・\(\lim_{x\to−\infty}\Phi(x)=0\) ・\(\lim_{x\to\infty}\Phi(x)=1\) 4,連続性:\(\Phi(x)\) は連続関数であり、グラフは滑らかなS字カーブを描きます。 5,対称性:標準正規分布は $x=0$ を中心に左右対称であるため、\(\Phi(x)\) には以下の重要な対称性があります。 \(P(Z \leq −x)=\Phi(−x)=1−\Phi(x)=P(Z>x)\) この性質は、標準正規分布表を扱う際に非常に便利です。例えば、\(\Phi(−1.96)\) の値を知りたい場合、直接表を見る代わりに \(1−\Phi(1.96)\) を計算できます。 |
\(\beta , \hat{\beta}\) | 回帰係数 β | \beta , \hat{\beta} | 回帰分析は、ある変数(目的変数、または従属変数 \(Y\))が、他の1つまたは複数の変数(説明変数、または独立変数 \(X\))によってどのように影響を受けるか、その関係性を数式でモデル化する統計的手法です。 最もシンプルな単回帰分析のモデルは、次のように表されます。 \(Y_i=\beta_0+\beta_1X_i+\epsilon_i\) ここで、 ・\(Y_i\):\(i\) 番目の観測データの目的変数の値 ・\(X_i\):\(i\) 番目の観測データの目的変数に対応する説明変数の値 ・\(\beta_0\):切片(Intercept)。説明変数 \(X\) が0のときの目的変数 \(Y\) の平均値。 ・\(\beta_1\):回帰係数(Regression Coefficient)。説明変数 \(X\) が1単位増加したときに、目的変数 \(Y\) が平均的にどれだけ変化するかを示す。 ・\(\epsilon_i\): 誤差項(Error Term)または残差。モデルで説明できない部分、つまり個々のデータのばらつきや測定誤差などを表します。平均が0の正規分布に従うと仮定されることが多いです。 回帰係数 \(\beta\) とは 回帰係数 \(\beta\)(特に \(\beta_1\) や \(\beta_0\) のように下付き数字が付く場合)は、上記のような回帰モデルにおける母集団の真のパラメータを指します。 ・\(\beta_0\) は母集団の真の切片、\(\beta_1\) は母集団の真の回帰係数です。 ・これらは、母集団全体における \(X\) と \(Y\) の間に存在する、未知の、しかし固定された真の関係性を表す数値です。 ・例えば、身長と体重の関係を分析する際、「身長が1cm増えるごとに、体重は平均的にどれくらい増えるか」という母集団全体の真の傾向を表すのが \(\beta_1\) です。 私たちは通常、この真の \(\beta\) の値を知ることはできません。なぜなら、母集団全体を調査することは不可能だからです。 推定された回帰係数 \(\hat{\beta}\) (ベータハット) とは 推定された回帰係数 \(\hat{\beta}\)(ベータハット)は、手元にある標本データから、最小二乗法などの方法を用いて計算される回帰係数の推定値です。 ・例えば、単回帰分析の場合、\(\hat{\beta_0}\) と \(\hat{\beta_1}\) は以下の推定量(計算式)から導き出されます。$$ \hat{\beta_1} = \frac{\sum_{i=1}^n(X_i-\bar{X})(Y_i-\bar{Y})}{\sum_{i=1}^n(X_i-\bar{X})^2} \[10pt] \hat{\beta_0} = \bar{Y} – \hat{\beta_1}\bar{X} $$ そして、実際に観測されたデータ(小文字の \(x_i,y_i\))を代入して計算された具体的な数値が、推定値としての \(\hat{\beta_0}\) と \(\hat{\beta_1}\) となります。 ・この \(\hat{\beta}\) は、真の \(\beta\) の値を最もよく近似するように、与えられたデータから計算されます。具体的には、目的変数の予測値と実際の観測値との残差(誤差)の二乗和が最小になるように選ばれます(最小二乗法)。 ・回帰分析の結果として示される回帰係数(例えば統計ソフトウェアの出力)は、この \(\hat{\beta}\) です。 推定された回帰式は、次のようになります。 \(\hat{Y_i} = \hat{\beta_0} + \hat{\beta_1}X_i\) ここで \(\hat{Y_i}\) は、モデルによって予測される目的変数の値です。 回帰係数 \(\hat{\beta}\) の意味と解釈 ・\(\hat{\beta_1}\) (傾き): ・量的説明変数の場合:説明変数 \(X\) が1単位増加すると、目的変数 \(Y\) が平均的に \(\hat{\beta_1}\) だけ変化することを示します。 ・例: 身長 (cm) と体重 (kg) の回帰で \(\hat{\beta_1}=0.5\) なら、「身長が1cm増えるごとに、体重は平均的に0.5kg増える」と解釈できます。 ・ダミー変数の場合(カテゴリカル変数):例えば、性別(男性=0, 女性=1)のようなダミー変数では、そのカテゴリが1に変化したときに、目的変数が平均的に \(\hat{\beta_1}\) だけ変化することを示します。 ・\(\hat{\beta_0}\): ・説明変数 \(X\) が0のときの目的変数 \(Y\) の平均的な値を示します。 ・ただし、説明変数 \(X\) が0という値に意味がない場合(例: 身長が0cmの人など)、切片の数値そのものには直接的な解釈ができないこともあります。 標準化回帰係数 (\(\beta\)) との区別 ここで少し注意が必要な点があります。特に重回帰分析の文脈で、「標準化回帰係数(Standardized Regression Coefficient)」を \(\beta\) と表記することがあります。これは、通常(非標準化)の回帰係数 \(B\)(あるいは \(\hat{\beta}\))とは別のものです。 ・非標準化回帰係数(\(B\) または \(\hat{\beta}\)):上で説明した通り、元の変数の単位に依存します。例えば、身長がcm単位なら体重の変化はkg/cmで表されます。異なる単位の変数間で影響の大きさを比較することはできません。 ・標準化回帰係数(\(\beta\)):目的変数と説明変数をそれぞれ標準化(平均0、標準偏差1にする)した後に回帰分析を行った場合の回帰係数です。これにより、異なる単位の変数間でも、その変数が目的変数に与える影響の相対的な大きさを比較できるようになります。 文脈によっては、非標準化回帰係数を \(b\) と表記し、標準化回帰係数を \(\beta\) と表記して区別することもあります。しかし、一般的な統計学のテキストでは、母集団の真の回帰係数を \(\beta\)、その推定値を \(\hat{\beta}\) と表記するのが標準的です。 |
\(\epsilon , e\) | 誤差項(Error Term) | \epsilon , e | 誤差項(Error Term)は、統計モデリング、特に回帰分析において、モデルが説明できない部分のばらつきや不確実性を表すものです。モデルがデータ間の関係性を完全に捉えることは現実的に不可能なため、この誤差項が必要になります。 誤差項の役割と意味 (\(\epsilon\)) 単回帰モデルは以下のように表されます。 \(Y_i=\beta_0+\beta_1X_i+\epsilon_i\) ここで \(\epsilon_i\) が誤差項です。これは、特定の観測値 \(i\) における目的変数 \(Y_i\) の値が、説明変数 \(X_i\) と回帰係数 \(\beta_0,\beta_1\) で説明される部分からどれだけずれているかを示します。 誤差項は、次のような様々な要因によって生じると考えられます。 1、モデルに含まれていない要因:目的変数に影響を与える重要な変数が、モデルに組み込まれていない場合に発生します。例えば、人の体重を身長だけで説明しようとすると、遺伝や生活習慣など、他の多くの要因が誤差項に含まれてしまいます。 2、測定誤差:目的変数や説明変数の測定に不正確さが含まれる場合に発生します。 3、確率的な変動:データには、説明できないような純粋なランダムな変動が含まれることがあります。 4、モデルの仮定が不適切:線形モデルを仮定しているのに、実際には非線形な関係がある場合などです。 誤差項に仮定される性質 回帰分析などの多くの統計モデルでは、推論の妥当性を保つために、誤差項 \(\epsilon\) についていくつかの重要な仮定(仮定される性質)が置かれます。最も一般的な仮定は以下の通りです(これらの仮定は、線形回帰モデルにおいて最小二乗推定量が望ましい性質を持つための「ガウス=マルコフの定理」の前提条件でもあります)。 1,期待値がゼロ:\(E[\epsilon_i]=0\) これは、誤差が平均的にプラスにもマイナスにも偏らず、系統的な誤差がないことを意味します。もし平均がゼロでなければ、モデルは系統的に過大評価または過小評価することになります。 2,等分散性(Homoscedasticity):\(\operatorname{Var}(\epsilon_i)=\sigma^2\) 誤差の分散が、説明変数の値に関わらず常に一定であることを意味します。つまり、データのばらつきの大きさが説明変数の値によって変化しない、ということです。もし分散が一定でない場合(不均一分散 Heteroscedasticity)、推定量の効率性(精度)が低下します。 3,無相関(No Autocorrelation):\(\operatorname{Cov}(\epsilon_i,\epsilon_j)=0 (\text{for } i \neq j)\) 異なる観測値における誤差項の間に相関がないことを意味します。つまり、あるデータの誤差が、別のデータの誤差に影響を与えないということです。時系列データなどで特に重要です。 4,正規性(Normality):\(\epsilon_i \sim N(0,\sigma^2)\) 誤差項が平均0、分散 \(\sigma^2\) の正規分布に従うという仮定です。この仮定は、回帰係数の仮説検定や信頼区間の構成を行う際に特に重要になります。標本サイズが大きい場合は、中心極限定理により、この仮定は厳密でなくても結果の頑健性が保たれることが多いです。 残差 (e) とは 残差(Residual)は、実際に私たちが計算できる誤差項の推定値です。モデルをデータに当てはめた後、各観測値について、実際の目的変数の値とモデルによる予測値との差として計算されます。 \(e_i=Y_i−\hat{Y_i}=Y_i−(\hat{\beta_0}+\hat{\beta_1}X_i)\) ・\(Y_i\):実際の観測値 ・\(\hat{Y_i}\):モデルによる予測値 ・\(e_i\):\(i\) 番目の観測値の残差 |
一般的な物理量
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(t\) | 時間 | t | 時間の経過。 単位:秒 (s) 例:\(t = 2 \, \text{s}\) 例:運動方程式、波の周期。 すべての物理現象の基礎。 例:\(t = 2 , \text{s}\) 例:運動方程式における時間、\(x = \frac{1}{2}at^2\) |
\(m\) | 質量 | m | 物体の質量。 単位:キログラム (kg) 例:運動量 \(p=mv\) 、運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}mv^2\)、重力 \(F = mg\)。 |
\(l , d , x , y , z\) | 長さ/距離の物理記号 | l , d , x , y , z | 空間の距離や位置。 単位:メートル (m) 例:位置ベクトル、波長。 \(l\):特定の物体の固有の長さや、一般的な線状の長さ。 \(d\):2点間の距離や、円・球の直径。 \(x,y,z\):座標軸上の位置や変位、あるいは特定の方向への長さ。特に運動を記述する際によく使われます。 |
\(v , \vec{v}\) | 速度 (Velocity) | v , \vec{v} | 単位時間あたりの距離変化。\(v = \frac{dx}{dt}\)。 例:運動学、流体力学。 単位:メートル毎秒 (m/s) 例:\(v = 20 \, \text{m/s}\)。 |
\(a , \vec{a}\) | 加速度 | a , \vec{a} | 速度の時間変化。 例:\(a = \frac{dv}{dt}\)。 単位:メートル毎秒毎秒 (m/s²) 例:重力加速度。 例:\(a = 9.8 \, \text{m/s}^2\)。 |
\(F , \vec{F}\) | 力 | F , \vec{F} | 質量と加速度の積。 単位:ニュートン (\(N = \text{kg} \cdot \text{m/s}^2\)) 例:\(\vec{F} = m \vec{a}\)。 例:ニュートンの法則。 \(F = 10 \, \text{N}\) |
\(E\) | 総エネルギー(Total Energy) | E | 特定の種類のエネルギーに限定されず、システムが持つすべてのエネルギーの合計を示す場合によく使われます。 単位:ジュール (\(\text{J} = N \cdot m\)) 例:運動エネルギーと位置エネルギーの合計 \(E=K+U\)、 量子力学におけるエネルギー準位 \(E_n\)。 相対性理論における静止エネルギー \(E=mc^2\)。 |
\(U\) | 位置エネルギー(Potential Energy) | U | 物体がその位置(または状態)によって持つエネルギーを指します。 単位:ジュール (\(\text{J} = N \cdot m\)) 例:重力による位置エネルギー \(U_g=mgh\) 例:ばね定数 $k$ のばねが \(x\) だけ伸び縮みしたときの弾性位置エネルギー \(U_s=\frac{1}{2}kx^2\) 例:電荷 \(q\) が電位 \(V\) の点にあるときの位置エネルギー \(Ue=qV\) |
\(K\) | 運動エネルギー(Kinetic Energy) | K | 物体がその運動によって持つエネルギー。 単位:ジュール (\(\text{J} = N \cdot m\)) 例:質量 \(m\) の物体が速さ \(v\) で運動しているときの運動エネルギー。 \(K=\frac{1}{2}mv^2\) 例:慣性モーメント \(I\) の物体が角速度 \(\omega\) で回転しているときの運動エネルギー。 \(K_\text{rot}=\frac{1}{2}I\omega^2\) |
\(W\) | 仕事(Work) | W | 力と距離の積。 単位:ジュール (J) 例:\(W = \vec{F} \cdot \vec{d}\)。 例:力学、熱力学。 例:\(W = 50 \, \text{J}\) |
\(P\) | 仕事率(Power) | P | 単位時間あたりにどれだけの仕事がされるか(または、どれだけのエネルギーが変換されるか)を示すスカラー量です。要するに、仕事をする速さを表します。 単位:ワット (W) \(1 \,\text{W}=1\,\text{J/s}\) 例:\(P = \frac{W}{t}\)。 例:\(P=\lim_{ \Delta t \to 0} = \frac{\Delta W}{\Delta t} = \frac{dW}{dt}\) 例:\(P = \frac{dW}{dt} = \frac{d(\vec{F} \cdot \vec{s})}{dt} = \vec{F} \cdot \frac{d\vec{s}}{dt} = \vec{F} \cdot \vec{v}\) |
\(p , \vec{p}\) | 運動量 (Momentum) | p , \vec{p} | 物体の質量と速度の積で定義される物理量です。 \(\vec{p}=m\vec{v}\) 単位:キログラムメートル毎秒(\(\text{kg} \cdot \text{m/s}\) または \(\text{kg} \cdot \text{m⋅s}^{−1}\)) 例:\(\vec{F} = \frac{d\vec{p}}{dt} = \frac{d(m\vec{v})}{dt} = m\frac{d\vec{v}}{dt} = m\vec{a}\) |
\(L , \vec{L}\) | 角運動量 (Angular Momentum) | L , \vec{L} | 回転運動の「勢い」を表す物理量です。直線運動における運動量(質量と速度の積)に対応する回転版の概念と考えることができます。 単位:ジュール秒 (\(\text{J⋅s}\)) または キログラムメートル二乗毎秒 (\(\text{kg⋅m}^2/s\) または \(\text{kg⋅m}^2 \cdot \text{s}^{−1}\)) \(\vec{L}=\vec{r} \times \vec{p}\) トルクとの関係:直線運動における力と運動量の関係(\(\vec{F}=d\vec{p}/dt\))と同様に、トルク \(\vec{\tau}\) は角運動量の時間変化率に等しいです。\(\vec{τ}=\frac{d\vec{L}}{dt}\)したがって、トルクがゼロであれば、角運動量は変化しません(保存されます)。 |
\(\tau , \vec{\tau}\) | トルク (Torque) | \tau , \vec{\tau} | 物体を回転させる能力を示す物理量です。直線運動における力(物体を加速させる能力)に対応する、回転運動における「力のモーメント」や「回転力」と考えることができます。 単位:ニュートンメートル (\(\text{N⋅m}\)) トルクの定義:\(\vec{\tau} = \vec{r} \times \vec{F}\) トルクの大きさ:\(\left| \vec{\tau} \right| = \left|\vec{r}\right|\left|\vec{F}\right| \sin \theta = rF \sin \theta\) \(\vec{L}\):角運動量(Angular Momentum)との関係:\(\vec{\tau}=\frac{d\vec{L}}{dt}\) |
力学に関する記号
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(g\) | 重力加速度(Acceleration of Gravity) | g | 重力によって物体が自由落下するときに生じる加速度を指します。地球上では、すべての物体は(空気抵抗が無視できる場合)、同じ重力加速度で落下します。 単位:メートル毎秒毎秒(\(\text{m/s}^2\) または \(\text{m⋅s}^{−2}\)) 例:\(g \approx 9.8 \, \text{m/s}^2\) 例:\(g=G\frac{M}{r^2}\) 例:\(W=mg\)(物体の重さを計算する際に用いられます) |
\(f , F_f\) | 摩擦力(Friction Force) | f , F_f | 物体間の摩擦による力。 単位:ニュートン(N) \(f_k=\mu_kN\) \(\mu_k\):動摩擦係数(Coefficient of Kinetic Friction)。接触面の粗さや材質によって決まる無次元の定数です。 |
\(\mu , \mu_s , \mu_k\) | 摩擦係数 (Coefficient of Friction) | \mu , \mu_s , \mu_k | 摩擦力の強さを表す無次元量。 単位:無次元量 \(\mu_s\): 静止摩擦係数(Coefficient of Static Friction) \(\mu_k\): 動摩擦係数(Coefficient of Kinetic Friction) 例:\(\mu_k = 0.3\) |
\(k\) | ばね定数(Spring Constant) | k | ばねの硬さ(または柔らかさ)を表す物理量です。ばねを伸ばしたり縮めたりするのに必要な力の大きさを定量的に示し、ばねの弾性的な性質を特徴づけます。 単位:ニュートン毎メートル (\(\text{N/m}\) または \(\text{N⋅m}^{−1}\)) 例:単振動、弾性エネルギー。 例:\(k = 100 \, \text{N/m}\)。 |
\(\omega , \vec{\omega}\) | 角速度(Angular Velocity) | \omega , \vec{\omega} | 物体がどれだけ速く回転しているか、そしてどの軸の周りを回転しているかを示す物理量です。 単位:ラジアン毎秒 (\(\text{rad/s}\) または \(\text{rad⋅s}^{−1}\)) ラジアンは無次元量なので、実質的には \(\text{s}^{−1}\) と同じ次元です。 例:\(\omega_\text{avg}=\frac{\Delta \theta}{\Delta t}\) 瞬時角速度:\(\omega = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta \theta}{\Delta t}=\frac{d \theta}{dt}\) 線速度との関係:\(v=r\omega\) 角加速度との関係:\(\vec{α}=\frac{d\vec{\omega}}{dt}\) 運動エネルギーとの関係:\(K_\text{rot}=\frac{1}{2}I\omega^2\) 角運動量との関係:\(\vec{L}=I\vec{\omega}\) |
\(I\) | 慣性モーメント(Moment of Inertia) | I | 物体の回転のしにくさ(回転慣性)を表す物理量です 単位:キログラムメートル二乗 (\(\text{kg⋅m}^2\)) 点粒子の慣性モーメント:\(I=mr^2\) \(m\):点粒子の質量 \(r\):点粒子から回転軸までの垂直距離(回転半径) 剛体の場合:\(I=\int r^2dm\) \(dm\): 物体の微小部分の質量 \(r\):微小部分 \(dm\) から回転軸までの垂直距離 複数の点粒子系の場合:\(I=\sum_{i}m_i r_i^2\) 回転の運動方程式:\(\vec{\tau}=I\vec{\alpha}\) \(\tau\):回転運動(トルク) \(\alpha\):角加速度 回転運動エネルギ:\(K_\text{rot}=\frac{1}{2}I\omega^2\) $I$:慣性モーメント \(\omega\):角速度 角運動量:\(\vec{L}=I\vec{\omega}\) \(L\):角運動量 \(I\):慣性モーメント \(\omega\):角速度 |
\(K , T\) | 運動エネルギー (Kinetic Energy) | K , T | 物体がその運動(速さ) によって持つエネルギーです。物体が動いている状態そのものが持つエネルギーであり、物体が静止すると運動エネルギーはゼロになります。 単位:ジュール(J) 運動エネルギーの定義:\(K=\frac{1}{2}mv^2\) \(m\):物体の質量(\(\text{kg}\)) \(v\)::物体の速さ(\(\text{m/s}\)) 仕事-運動エネルギー定理:\(W=\Delta K = K_\text{final} − K_\text{initial}\) 回転運動エネルギー (\(K_\text{rot}\)):\(K_\text{rot}=\frac{1}{2}I\omega^2\) \(I\):慣性モーメント \(\omega\):角速度 系全体のエネルギー(運動エネルギー、位置エネルギー、熱エネルギーなどすべての形態のエネルギーの総和)は、外部からエネルギーが流入または流出しない限り常に保存されます(エネルギー保存の法則)。 |
\(U , V\) | 位置エネルギー (Potential Energy) | U , V | 物体がその位置(または状態) によって持つエネルギーです。物体が力を受ける場(例えば重力場や電場、またはばねの力場)の中にあるとき、その位置が変わることで仕事をする能力を持つエネルギーのことです。 単位:ジュール(J) 重力による位置エネルギー (\(U_g\)): \(U_g=mgh\) \(m\):物体の質量(\(\text{kg}\)) \(g\):重力加速度(\(\text{m/s}^2\)) \(h\):基準面からの高さ(\(\text{m}\)) ばねの弾性位置エネルギー (\(U_s\)): \(U_s=\frac{1}{2}kx^2\) \(k\):ばね定数(\(\text{N/m}\)) \(x\):ばねの自然長からの変位(伸びまたは縮み、\(\text{m}\)) 電気的な位置エネルギー (\(U_e\)): \(U_e=qV\) \(q\):点電荷 \(V\):電位 \(U_e=k_e \frac{q_1 q_2}{r}\) \(k_e\):クーロン定数 \(q_1\),\(q_2\):2つの点電荷 \(r\):距離 力学的エネルギー保存の法則: \(E=K+U=\text{一定}\) |
\(\vec{F} = m \vec{a}\) | ニュートンの第2法則 (Newton’s Second Law) | \vec{F} = m \vec{a} | 物体に作用する力とその結果として生じる運動の関係を記述する、古典力学の最も基本的な法則の一つです。この法則は、物体の運動がなぜ、そしてどのように変化するのかを理解するための基盤となります。 単位: \(\vec{F}\): ニュートン (\(\text{N}\)) \(m\):キログラム (\(\text{kg}\)) \(\vec{a}\):メートル毎秒毎秒 (\(\text{m/s}^2\)) 自由落下:\(F=mg\) \(g\):重力加速度 |
波・光学に関する記号
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\lambda\) | 波長(Wavelength) | \lambda | 波の基本的な性質を表す物理量の一つで、波の周期的なパターンが空間的に繰り返される長さを指します。 単位:メートル(\(\text{m}\)) 波の基本式:\(v=f\lambda\) または \(c=f\lambda(\text{電磁波の場合})\) \(\lambda=vT\) \(v\) または \(c\):波の速さ(伝播速度)。媒体によって異なります。 \(f\) :振動数(周波数)。単位時間あたりの波の繰り返しの回数。単位はヘルツ(\(\text{Hz}\))。 \(\lambda\):波長。 例:\(\lambda = 500 \, \text{nm}\)。 |
\(f , \nu\) | 周波数 (Frequency) | f , \nu | 波や振動、または周期的な現象が、単位時間あたりに繰り返される回数を表す物理量です。 単位:ヘルツ(\(\text{Hz}\)) 周期との関係:\(f=\frac{1}{T} \, \text{または} \, \nu=\frac{1}{T}\) \(f\):周波数 (または \(\nu\)) \(T\):周期(ある現象が1回繰り返されるのにかかる時間)逆数として定義されます。 波の基本式:\(v=f\lambda\) \(c=f\lambda\text{(電磁波の場合)}\) \(\lambda\):波長 \(v\):波の速さ (または \(c\):光速) ヘルツ(\(\text{Hertz}\), \(\text{Hz}\)):\(1 \text{Hz}=1 \text{s}^{−1} \, \text{または} \, 1 \text{cycle/second}\) |
\(\omega\) | 角振動数 (Angular Frequency) | \omega | 振動や回転運動の速さを表す物理量です。特に、単振動や円運動、波の現象などを記述する際に非常に便利に使われます。 単位:ラジアン毎秒 (\(\text{rad/s}\) または \(\text{rad} \cdot\text{s}^{−1}\)) 周波数 \(f\) との関係:\(\omega=2\pi f\)(1秒あたりの「ラジアン」での回転量) \(f\):周波数(ヘルツ、\(\text{Hz}\)) \(\omega\):角振動数 周期 \(T\) との関係:\(\omega=\frac{2\pi}{T}\) \(T\):周期(秒、\(\text{s}\)) 単振動:\(x(t)=A \sin(\omega t+\phi)\) \(x(t)\):単振動の変位 |
\(k\) | 波数(Wavenumber) | k | 単位長さあたりに波のサイクルがいくつ含まれるか、または空間的な周期がどれだけ速いかを示す量です。波長 \(\lambda\) の逆数に比例する概念です。 単位:ラジアン毎メートル (\(\text{rad/m}\) または \(\text{rad} \cdot \text{m}^{−1}\)) 波の基本式:\(k = \frac{2\pi}{\lambda}\) \(k\):波数 \(\lambda\): 波長(メートル、\(\text{m}\)) 波の数学的表現:\(y(x,t)=A \sin(kx− \omega t+\phi)\) \(y(x,t)\):位置 \(x\) と時間 \(t\) における波の変位 \(A\):振幅 \(k\):波数(空間的な位相の変化率) \(\omega\):角振動数(時間的な位相の変化率) \(\phi\):初期位相 波の速さ・角振動数との関係:\(v=\frac{\omega}{k} \, \text{または} \, c=\frac{\omega}{k}\,\text{(電磁波の場合)}\) \(v\):波の速さ(または \(c\):光速) \(\omega\):角振動数 \(k\):波数 粒子の波動性を示すド・ブロイ波:\(p=\hbar k\) (ここで \(k\) は粒子のド・ブロイ波の波数) \(p\):粒子の運動量 \(k\):波数 \(\hbar\):ディラック定数(プランク定数 \(h\) を \(2\pi\) で割ったもの) |
\(v , c\) | 波の速度 (Wave Speed / Phase Velocity) | v , c | 波の速度(Wave Speed) または 位相速度(Phase Velocity) は、波がある媒体の中を伝播していく速さを表す物理量です。 \(v\):一般的な波の速度を表す際に使われます。 \(c\):特に真空中の光の速さを表す際に使われる特別な記号です。 単位:メートル毎秒 (\(\text{m/s}\) または \(\text{m} \cdot \text{s}^{-1}\)) 波長と周波数による定義:\(v=f\lambda\) \(v\) :波の速度 \(f\):周波数(\(\text{Hz}\)、1秒あたりの波の繰り返し回数) \(\lambda\):波長(\(\text{m}\)、1波の長さ) 角振動数と波数による定義:\(v=\frac{\omega}{k}\) 角振動数 \(\omega=2\pi f\) 波数 \(k=2 \pi / \lambda\) 媒質中の光の速さ:\(v_\text{medium}=\frac{c}{n}\) \(n\):媒質の屈折率(\(n \geq 1\)) |
\(n\) | 屈折率 (Refractive Index) | n | 光(電磁波)が媒体を通過する際に、その速度がどれだけ遅くなるか、そしてどれだけ進行方向が曲がるかを示す無次元の物理量です。 単位:無次元(単位なし) 屈折率の定義:\(n=\frac{c}{v}\) \(c\):真空中の光速(約 \(3.0×10^8 \text{m/s}\)) \(v\):媒体中の光の速さ 光の曲がり(屈折):\(n_1 \sin{\theta_1}=n_2 \sin{\theta_2}\) \(n_1\):媒質1の屈折率 \(n_2\):媒質2の屈折率 \(\theta_1\):媒質1における光の入射角(法線に対する角度) \(\theta_2\):媒質2における光の屈折角(法線に対する角度) 光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質へ入る場合(例: 空気から水へ)、光は法線に近づくように曲がります。 光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ入る場合(例: 水から空気へ)、光は法線から遠ざかるように曲がります。この場合、ある角度以上では全反射が起こります。 |
\(A\) | 振幅(Amplitude) | A | 振幅(Amplitude) は、波や振動が示す最大の変位、あるいは中心からの最大のずれを表す物理量です。波の「大きさ」や「強さ」を示す指標の一つです。 単位:波の種類や物理量によって異なります。例えば、水波の変位であればメートル(\(\text{m}\))、音波の圧力波であればパスカル(\(\text{Pa}\))、電磁波の電場であればボルト毎メートル(\(\text{V/m}\))など。 波の表現:\(y(x,t)=A \sin(kx−\omega t+\phi)\) \(y(x,t)\):位置 \(x\) と時間 \(t\) における波の変位(縦軸の値) \(A\):振幅。sin 関数の最大値が 1 であるため、\(y(x,t)\) の最大値は \(A\) となります。 \(k\):波数 \(\omega\):角振動数 \(\phi\):初期位相 振動の表現:\(x(t)=A \cos( \omega t+\phi )\text{ または }A \sin( \omega t+\phi)\) \(x(t)\):変位 \(A\) は、振動する物体が平衡点からどれだけ最大にずれるかを示します。 |
\(I\) | 強度 (Intensity) | I | 波が伝播する際に、単位時間あたりに単位面積を通過するエネルギーの量を表す物理量です。 単位:ワット毎平方メートル (\(\text{W/m}^2\) または \(\text{W} \cdot \text{m}^{−2}\)) 強度の定義と性質:\(I=\frac{P}{A_\text{area}}=\frac{E}{A_\text{area} \cdot \Delta t}\) \(P\):波の伝播方向と垂直な面を通過するパワー(仕事率)。単位はワット(\(\text{W}\))。 \(A_\text{area}\):波が通過する面積。単位は平方メートル(\(\text{m}^2\))。 \(E\):単位時間 \(\Delta t\) あたりに \(A_\text{area}\) を通過するエネルギー。 強度は振幅の二乗に比例します。:\(I \propto A^2\) \(A\) は波の振幅(電場や圧力などの最大変位)です。 光(電磁波)の場合:\(I\propto E_\text{max}^2 \, \text{(ただし} E_\text{max} \text{は電場の振幅)}\) 光が明るいほど、電場の揺れの幅が大きいことを意味します。 音波の場合:\(I \propto ( \Delta P_\text{max})^2 \, \text{(ただし } \Delta P_\text{max} \text{は圧力振幅)}\) 音が大きいほど、空気の圧力変化の幅が大きいことを意味します。 距離による減衰:\(I \propto \frac{1}{r^2}\) \(r\):光源からの距離 |
\(f\) | 焦点距離 (Focal Length) | f | レンズや凹面鏡・凸面鏡などの光学系において、光をどれだけ強く曲げるか、あるいは像をどこに結ぶかを示す基本的な光学パラメータです。 単位:メートル(\(\text{m}\)) 光の曲げ方(収束・発散の強さ): 焦点距離が短い (\(\left| f \right|\) が小さい):光を強く曲げます(収束させる場合は強く収束、発散させる場合は強く発散)。 焦点距離が長い (\(\left| f \right|\) が大きい):光を弱く曲げます(収束させる場合は弱く収束、発散させる場合は弱く発散)。 画角(視野の広さ): 焦点距離が短い:広範囲を写すことができ、画角が広くなります(広角レンズ)。 焦点距離が長い:狭い範囲を拡大して写すことができ、画角が狭くなります(望遠レンズ)。 結像位置と倍率: レンズの公式(または鏡の公式)やレンズメーカーの公式などを用いて、物体と像の位置、そして倍率を計算する際に、焦点距離が不可欠なパラメータとなります。 例:\(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\) (\(a\):物体距離、\(b\):像距離) |
熱力学に関する記号
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(T\) | 温度 (Temperature) | T | 物質の熱的な状態を示す物理量です。具体的には、その物質を構成する原子や分子といったミクロな粒子のランダムな運動エネルギーの平均値の指標となります。 単位:ケルビン(K) 絶対零度(\(−273.15^\circ\text{C}\))を \(0\text{ K}\) と定義します。 絶対零度(\(0\text{ K}\) または \(−273.15^\circ\text{C}\))は、理論的に到達可能な最低温度です。 この温度では、物質を構成する粒子のランダムな熱運動が最小限(量子力学的なゼロ点振動は残る)になります。 \(T[\text{K}]=t[^\circ\text{C}]+273.15\) 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の温度は約 \(2.7 \text{ K}\) |
\(Q\) | 熱量 (Heat) | Q | 温度差によって、高温の物体から低温の物体へ移動するエネルギーのことです。 単位:ジュール(J) 仕事との区別:\(\Delta U=Q+W\text{(または }\Delta U=Q−W \text{文献による定義の違いに注意)}\) \(Q\)(熱):ミクロな粒子のランダムな運動のやり取り(衝突など)によってエネルギーが移動します。 \(W\)(仕事):マクロな力(圧力、張力など)によって、物体が移動したり変形したりすることでエネルギーが移動します。 熱と仕事は、熱力学の第一法則(エネルギー保存の法則)で結びつけられます。 \(\Delta U\):内部エネルギーの変化 温度変化に伴う熱量:\(Q=mc\Delta T\) \(m\):物質の質量(\(\text{kg}\)) \(c\):比熱(Specific Heat Capacity)。単位質量あたりの物質の温度を \(1\text{K}\) (または \(1^\circ\text{C}\)) 上昇させるのに必要な熱量。単位は \(\text{J}/(\text{kg}\cdot \text{K})\)。 \(\Delta T\):温度変化(\(\text{K}\) または \(^\circ\text{C}\))。 相変化に伴う熱量(潜熱):\(Q=mL\) \(m\):相変化する物質の質量(\(\text{kg}\)) \(L\):潜熱(比潜熱)。単位質量あたりの物質が相変化するのに必要な熱量。単位は $\text{J/kg}$。 |
\(U\) | 内部エネルギー (Internal Energy) | U | 系(物質の集まり)がその内部に持っている、全てのミクロなエネルギーの総和です。これは、系を構成する原子や分子の運動エネルギーと位置エネルギーの合計を指します。 単位:ジュール(\(\text{J}\)) 熱力学の第一法則:\(\Delta U=Q+W\) または \(\Delta U=Q−W\) \(\Delta U\):系の内部エネルギーの変化量 \(Q\):系に与えられた熱量(系が熱を吸収すると正、放出すると負) \(W\):系にされた仕事(系が外部から仕事をされると正、系が外部に仕事をすると負) (もし\(W\)を系が外部にする仕事と定義するなら、\(\Delta U=Q−W\) となります。定義は教科書によって異なるため注意が必要です。) |
\(S\) | エントロピー (Entropy) | S | 系の乱雑さ、無秩序さの度合い、あるいは情報量の不確かさの度合いを表す物理量です。また、エネルギーが「仕事として利用できない度合い」を示す概念としても理解されます。 単位:ジュール毎ケルビン (\(\text{J/K}\) または \(\text{J}\cdot\text{K}^{−1}\)) 乱雑さ・無秩序さの尺度:\(S=k_B \ln \Omega\) \(k_B\):ボルツマン定数 \(\Omega\):系が取りうるミクロな状態の数(熱力学的確率) 熱力学の第二法則(エントロピー増大の法則):\(\Delta S_\text{total}\geq0\) \(\Delta S_\text{total}\):孤立系全体の総エントロピーの変化 エントロピーの変化の計算:\(\Delta S=\frac{Q_\text{rev}}{T}\) \(\Delta S\) :エントロピー変化 \(Q_\text{rev}\):可逆的にやり取りされた熱量 \(T\):絶対温度(\(\text{K}\)) |
\(P\) | 圧力 (Pressure) | P | 単位面積あたりに垂直に作用する力のことです。流体(気体や液体)が容器の壁や物体に及ぼす力、あるいは固体同士が接触する面に及ぼす力として定義されます。 単位:パスカル(Pascal, \(\text{Pa}\)) 圧力の定義:\(P=\frac{F}{A}\) \(F\):垂直に作用する力(ニュートン、\(\text{N}\)) \(A\):力が作用する面積(平方メートル、\(\text{m}^2\)) パスカル (\(\text{Pa}\)):\(1\,\text{Pa}=1\text{N/m}^2\) ヘクトパスカル (\(\text{hPa}\)):\(1\,\text{hPa}=100\,\text{Pa}\) (気象予報でよく使われます) キロパスカル (\(\text{kPa}\)):\(1\,\text{kPa}=1000\,\text{Pa}\) バール (\(\text{bar}\)):\(1\,\text{bar}=10^5\,\text{Pa}=100\,\text{kPa}\) 標準気圧 (\(\text{atm}\)):\(1\,\text{atm}=101325\,\text{Pa} \approx 1.013 \times 10^5\,\text{Pa}\) (海面での平均的な大気圧) 水銀柱ミリメートル (\(\text{mmHg}\)):主に医療分野で使われます(例: 血圧)。\(1\,\text{atm} \approx 760\,\text{mmHg}\) psi (pounds per square inch):主にアメリカで使われます(例: タイヤの空気圧)。 |
\(V\) | 体積 (Volume) | V | 物体や物質が空間中で占める三次元的な広がりの量を表す物理量です。 単位:立方メートル (\(\text{m}^3\)) 単位体積あたりの質量:\(\rho=\frac{m}{V} \implies V=\frac{m}{\rho}\) \(m\):質量 \(\rho\):密度 理想気体の状態方程式で関係づけられます。:\(PV=nRT\) \(P\):圧力 \(T\):温度 \(n\):物質量 \(R\):気体定数 |
\(n\) | 物質量 (Amount of Substance) | n | 物質を構成する素粒子(原子、分子、イオン、電子など)の数を特定の基準で定量化した物理量です。単に「物質の量」と言ってしまうと質量と混同されがちですが、物質量は「粒子の数」に着目した量である点が重要です。 単位:モル(mole, mol) 質量との関係:\(n=\frac{m}{M}\) \(m\):物質の質量 \(n\):物質量 \(M\):モル質量 粒子の数との関係:\(N=n\times N_A\) \(n\):物質量 \(N\):物質に含まれる粒子の総数(無次元) \(N_A\):アボガドロ定数 |
\(R\) | 気体定数 (Gas Constant) | R | 理想気体の状態方程式において、気体の圧力、体積、温度、物質量の間にある普遍的な関係を表す定数です。 単位:ジュール毎モル毎ケルビン (\(\text{J}/(\text{mol} \cdot \text{K})\) または \(\text{J} \cdot \text{mol}^{−1} \cdot \text{K}^{−1})\) 理想気体の状態方程式:\(PV=nRT\) \(R\) :気体定数 \(P\):気体の圧力(パスカル、\(\text{Pa}\)) \(V\):気体の体積(立方メートル、\(\text{m}^3\)) \(n\):気体の物質量(モル、\(\text{mol}\)) \(T\):気体の絶対温度(ケルビン、\(\text{K}\)) 気体定数 \(R\):\(R\approx 8.314\,\text{J}/(\text{mol}\cdot\text{K})\) ボルツマン定数:\(R=N_Ak_B\) \(N_A\):アボガドロ定数(約 \(6.022 \times 10^23 \text{mol}^{−1}\)) \(k_B\):ボルツマン定数(約 \(1.381 \times 10^{−23} \text{J/K}\)) |
\(H\) | エンタルピー (Enthalpy) | H | 熱力学における状態量の一つで、特に定圧過程(圧力が一定の条件下での変化)において、系が外部とやり取りする熱量と密接に関連する概念です。これは、系の内部エネルギー (\(U\)) に、系が外部に対して行う(あるいは外部からされる)「PV仕事」 の分を加えたものとして定義されます。 単位:ジュール(\(\text{J}\)) エンタルピーの定義:\(H=U+PV\) \(H\):エンタルピー \(U\):系の内部エネルギー(\(\text{J}\)) \(P\):系の圧力(\(\text{Pa}\)) \(V\):系の体積(\(\text{m}^3\)) \(PV\) の項は、系が膨張したり収縮したりする際に外部とやり取りする仕事(膨張仕事または圧縮仕事)に対応するエネルギーです。 |
\(\mu\) | 化学ポテンシャル (Chemical Potential) | \mu | \(\mu\) は、熱力学および統計力学において、系の粒子数変化に対するエネルギーの変化を表す重要な物理量です。直感的には、ある粒子を系に1つ加えたときに、その系の総エネルギーがどれだけ変化するかを示す量であり、粒子をやり取りする際の「駆動力」 と考えることができます。特に、粒子が拡散する方向や、相転移、化学反応の平衡状態などを決定する上で不可欠な概念です。 単位:ジュール (\(\text{J}\)) 化学ポテンシャルの定義:\(dU=TdS−PdV+\mu dN\) \(U\):内部エネルギー \(T\):温度 \(S\):エントロピー \(P\):圧力 \(V\):体積 \(N\):粒子数 エントロピーと体積を一定に保ったまま粒子数を微小変化させたときの内部エネルギーの変化率: $$ \mu=\left(\frac{\partial U}{\partial N}\right){S,V} $$ また、ギブス自由エネルギー \(G=U−TS+PV\) を用いると、より直接的に定義できます。 $$ \mu=\left(\frac{\partial G}{\partial N}\right){T,P} $$ |
\(\Delta U = Q – W\) | 熱力学第1法則 (First Law of Thermodynamics) | \Delta U = Q – W | 熱力学第1法則は、エネルギー保存の法則を熱力学的な系に適用したものです。これは、宇宙全体のエネルギーは常に一定であり、ある形態から別の形態へと変換されるだけで、生成されたり消滅したりすることはないという、物理学の最も基本的な原理の一つです。 公式:\(\Delta U=Q−W\) 記号: \(\Delta U\):系の内部エネルギーの変化量(スカラー量) \(Q\):系の外部から系に与えられた熱量(スカラー量) \(W\):系が外部にした仕事(スカラー量) 国際単位系 (SI): \(\Delta U\):ジュール (\(\text{J}\)) \(Q\):ジュール (\(\text{J}\)) \(W\):ジュール (\(\text{J}\)) スカラー量かベクトル量か:すべてスカラー量です。 |
\(dS = \frac{dQ_{\text{rev}}}{T}\) | エントロピー変化 (Entropy Change) | dS = \frac{dQ_{\text{rev}}}{T} | エントロピー \(S\) は、熱力学において系の乱雑さや無秩序さの度合いを示す物理量です。また、ある状態におけるエネルギーの拡散の度合いや、仕事として利用できないエネルギーの量を示すものとしても理解されます。エントロピー変化 \(dS\) の式は、このエントロピーがどのように変化するかを定義する、熱力学第二法則の核心をなす重要な関係式です。 公式:\(dS=\frac{dQ_\text{rev}}{T}\) 記号: \(dS\):系のエントロピーの微小変化量(スカラー量) \(dQ_\text{rev}\):系が可逆過程で受け取る(または放出する)微小な熱量(スカラー量) \(T\):系の絶対温度(スカラー量) 国際単位系 (SI): \(dS\):ジュール毎ケルビン (\(\text{J/K}\)) \(dQ_\text{rev}\):ジュール (\(\text{J}\)) \(T\):ケルビン (\(\text{K}\)) クラウジウスの原理:自然現象は、系と外界を合わせた全エントロピーが増大する方向にのみ自発的に進行する。または、熱は自発的に低温の物体から高温の物体へ移動しない。 $$ dS\geq \frac{dQ}{T} $$ 等号 (\(dS=\frac{dQ}{T}\)) は可逆過程の場合に成立します。 不等号 (\(dS>\frac{dQ}{T}\)) は不可逆過程の場合に成立します。 |
\(\sigma\) | ステファン-ボルツマン定数 | \sigma | 記号:\(\sigma\) ステファン-ボルツマン定数は、黒体がその表面から放射する熱エネルギーの総量と、その絶対温度の4乗との間の比例定数です。 より具体的には、ステファン-ボルツマンの法則という以下の式に登場します。 $$ P=\sigma AT^4 $$ \(P\):黒体が単位時間あたりに放射する全エネルギー(放射電力) [latex]\text{W}[/latex] \(\sigma\):ステファン-ボルツマン定数 [latex]\text{W}/(\text{m}^2 \cdot \text{K}^4)[/latex] \(A\):黒体の表面積 [latex]\text{m}^2[/latex] \(T\):黒体の絶対温度 [latex]\text{K}[/latex] この法則は、温度が少し上がるだけで、放射されるエネルギーが劇的に増える(4乗に比例する) ことを示しています。例えば、温度が2倍になると、放射エネルギーは \(2^4=16\) 倍になります。 値: \(\sigma\approx 5.670 \times 10^{−8}\,\text{W}/(\text{m}^2 \cdot \text{K}^4)\) この値は非常に小さく、これは日常的な温度では物体からの熱放射が目に見えないほど微弱であることを示しています。しかし、太陽のような高温の天体では、この法則に従って膨大なエネルギーが放射されています。 単位: ワット毎平方メートル毎ケルビン4乗 (\(\text{W}/(\text{m}^2 \cdot \text{K}^4)\)) これは、「単位面積 (\(\text{m}^2\)) あたり、温度 \(1\text{K}\) につきどれだけのワット (\(\text{W}\)) のエネルギーが放射されるか」を示しています。 プランクの法則との関係: $$ \sigma=\frac{2\pi^5k_B^4}{15h^3c^2} $$ \(h\):プランク定数 \(c\):光速 \(k_B\):ボルツマン定数 |
\(R\) | 気体定数 (Gas Constant) | R | 気体定数 \(R\) は、理想気体の挙動を記述する際に中心的な役割を果たす普遍的な物理定数です。これは、気体の圧力、体積、温度、物質量(モル数)の間の関係を示す理想気体の状態方程式に登場します。 記号:\(R\) 物理的意味: 気体定数 \(R\) は、物質1モルあたりの気体が、1ケルビン温度変化したときにどれだけのエネルギー変化(仕事)を伴うか、という熱力学的な意味合いを持ちます。 これは、以下の理想気体の状態方程式に現れます。 $$ PV=nRT $$ \(P\):気体の圧力 [latex]\text{Pa}[/latex] \(V\):気体の体積 [latex]\text{m}^3[/latex] \(n\):気体の物質量(モル数) [latex]\text{mol}[/latex] \(R\):気体定数 [latex]\text{J}/(\text{mol}\cdot\text{K})[/latex] \(T\):気体の絶対温度 [latex]\text{K}[/latex] この方程式は、気体が理想的な挙動を示すと仮定した場合に、これらの物理量がお互いにどのように関連しているかを正確に記述します。\(R\) は、この関係を成り立たせるための比例定数です。 値: 2019年のSI単位の再定義により、ボルツマン定数 \(k\) やアボガドロ定数 \(N_A\) とともに、その値がより正確に定義されることとなりました。 \(R = 8.314462618 \, \text{J}/(\text{mol}\cdot\text{K})\) 国際単位系 (SI) 単位: ジュール毎モル毎ケルビン (\(\text{J}/(\text{mol}\cdot\text{K})\)) この単位は、「物質量 (\(\text{mol}\))」と「温度 (\(\text{K}\))」あたりの「エネルギー (\(\text{J}\))」を示しており、気体定数がエネルギーと関連する定数であることを示唆しています。 他の物理定数との関係:$$ R=kN_A $$ \(k\):ボルツマン定数 [latex]\text{J/K}[/latex]。これは、粒子1個あたりの温度とエネルギーを結びつける定数です。 \(N_A\):アボガドロ定数 [latex]\text{mol}^{-1}[/latex]。物質1モルあたりの粒子の数(約 \(6.022 \times 10^{23} \text{個/mol}\))です。 この関係は、気体定数 \(R\) が、巨視的なスケール(モル) での気体の挙動と、微視的なスケール(個々の分子) での分子の運動エネルギーと温度の関係を結びつける架け橋となっていることを示しています。 |
\(N_A\) | アボガドロ定数 (Avogadro Constant) | N_A | アボガドロ定数 \(N_A\) は、物質の量である「モル (\(\text{mole}\))」と、その物質を構成する実際の粒子の数(原子、分子、イオンなど)を結びつける、非常に重要な物理定数です。ミクロな世界(原子・分子レベル)とマクロな世界(グラムやリットルで測れる物質の量)の橋渡しをする役割を担っています。 記号:\(N_A\) または \(L\) 物理的意味: アボガドロ定数は、1モルの物質中に含まれる構成粒子の数を表します。 1モル:かつては、炭素12(\({}^{12}C\))原子が正確に12グラムに含まれる原子の数と定義されていました。しかし、2019年のSI単位の再定義により、アボガドロ定数 \(N_A\) が厳密に定義された値となり、これに基づいてモルが定義される形に変わりました。 したがって、1モルの物質は、\(N_A\) 個の粒子を含む、と定義されます。 例えば: 1モルの水(\(H_{2}O\))には、\(N_A\) 個の水分子が含まれます。 1モルの鉄(\(Fe\))には、\(N_A\) 個の鉄原子が含まれます。 これにより、実験室で測定できるグラム単位の質量を、目に見えない原子や分子の数と結びつけることが可能になります。 値: 2019年5月20日に発効したSI単位の再定義により、その値は厳密に定義されました。 \(N_A=6.02214076 \times 10-{23}\text{mol}^{−1}\) 国際単位系 (SI) 単位:毎モル (\(\text{mol}^{-1}\)) これは、「1モルあたり何個の粒子があるか」を示します。 |
電気・磁気
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(q, Q\) | 電荷 (Electric Charge) | q, Q | 電磁気的な相互作用を引き起こす源となる量です。電荷を持つ物質は、他の電荷を持つ物質に対して力を及ぼしたり、力を受けたりします。 単位:クーロン(Coulomb, \(\text{C}\)) 電気素量(Elementary Charge)\(e\) と呼ばれる最小単位の整数倍でしか存在できません。 \(e \approx 1.602×10^{−19}\,C\) 電子1個は \(−e\) の電荷を持ち、陽子1個は \(+e\) の電荷を持ちます。 クォークは \(\pm \frac{1}{3}e\) や \(\pm \frac{2}{3}e\) の分数電荷を持ちますが、単独で観測されることはなく、必ず整数電荷を持つ粒子(陽子、中性子など)の形で存在します。 1クーロンは、1アンペア(\(\text{A}\))の電流が1秒間流れたときに移動する電荷の量と定義されます。\(1\text{C}=1\text{A}\cdot\text{s}\) |
\(I\) | 電流 (Electric Current) | I | 電荷の流れのことです。具体的には、単位時間あたりに導体の断面を通過する電荷の量として定義されます。 単位:アンペア(Ampere, \(\text{A}\)) 電流の定義:\(I=\frac{dQ}{dt}\) \(Q\):電荷 \(t\):時間 平均電流:\(I=\frac{\Delta Q}{\Delta t}\) \(Q\):移動した電荷の量(クーロン、\(\text{C}\)) \(t\):時間(秒、\(\text{s}\)) オームの法則:\(V=IR \Rightarrow I=\frac{V}{R}\) \(I\):電流 \(V\):電圧 \(R\):抵抗 電力 (\(P\)):\(P=IV\) \(I\):電流 \(V\):電圧 。 |
\(V , \phi\) | 電圧 (Voltage / Electric Potential Difference) | V , \phi | 電気回路や電場において、2点間の電位の差を表す物理量です。 単位:ボルト(Volt, \(V\)) 電圧の定義:\(V=\frac{W}{q}\) \(W\):電荷 \(q\) を移動させるために必要な仕事、または得られるエネルギー(ジュール、\(\text{J}\)) \(q\):移動する電荷の量(クーロン、\(\text{C}\)) 電位(Electric Potential):\(V_{AB}=\phi_A−\phi_B\) \(\phi_A\):点Aの電位 \(\phi_B\):点Bの電位 オームの法則:\(V=IR\) \(V\):電圧 \(I\):電流 \(R\):抵抗 電力 (\(P\)):\(P=IV\) \(P\):電力 \(V\):電圧 \(I\):電流 電場は電位の勾配(空間的な変化率):\(E=−\nabla \phi\text{(一般の場合)}\) |
\(R\) | 抵抗 (Resistance) | R | 電気回路において、電流の流れにくさを表す物理量です。 単位:オーム(Ohm, \(\Omega\)) 抵抗の定義:\(R=\frac{V}{I}\) \(V\):電圧 \(I\):電流 オームの法則:\(V=IR\) または \(I=\frac{V}{R}\) \(V\):抵抗にかかる電圧(ボルト、\(\text{V}\)) \(I\):抵抗を流れる電流(アンペア、\(\text{A}\)) \(R\):抵抗(オーム、\(\Omega\)) 抵抗率(Resistivity):\(R=\rho\frac{L}{A}\) \(\rho\):抵抗率 \(L\):長さ \(R\propto L\) \(A\):断面積 |
\(\vec{E}\) | 電場 (Electric Field) | \vec{E} | 電荷の周囲に形成される空間の性質を表すベクトル場です。電場は、その空間内の任意の点に置かれた電荷に、どのような力(クーロン力)を及ぼすかを示します。 単位:ニュートン毎クーロン (\(\text{N/C}\) または \(\text{N}\cdot\text{C}^{−1}\)) または ボルト毎メートル (\(\text{V/m}\) または \(\text{V}\cdot\text{m}^{−1}\)) 電場の定義:\(\vec{E}=\frac{\vec{F}}{q_0}\) \(\vec{E}\):電場 \(\vec{F}\): 試験電荷 \(q_0\) に働く力(ニュートン、\(\text{N}\)) \(q_0\):試験電荷(クーロン、\(\text{C}\))。電場自体に影響を与えないように、十分に小さいと仮定されます。 点電荷による電場:\(\vec{E}=k\frac{Q}{r^2}\hat{r}\text{(クーロンの法則より)}\) \(Q\):点電荷 \(r\):点電荷からの距離 \(k\):クーロン定数(または電気定数 \(\epsilon_0\) を使って \(k=1/(4\pi\epsilon_0)\))、\(\hat{r}\) は電荷から離れる方向の単位ベクトルです。 電位との関係:\(\vec{E}=−\nabla \phi\) \(\phi\):電位 |
\(\vec{B}\) | 磁場 (Magnetic Field) | \vec{B} | 磁場(Magnetic Field) は、電流や磁石の周囲に形成される空間の性質を表すベクトル場です。磁場は、その空間内で動いている電荷(電流) や他の磁石に力を及ぼす能力を持ちます。電場が電荷によって作られるのと同様に、磁場は電荷の運動によって作られます。 記号:\(\vec{B}\) 国際単位系(SI):テスラ(Tesla, \(T\)) \(1\,\text{T}=1\,\text{N}/(\text{A}\cdot\text{m})\) (1アンペアの電流が流れる1メートルの導線に1ニュートンの力が働く磁場の強さ) スカラー量かベクトル量か:ベクトル量です。空間の各点において、大きさと方向を持ちます。 |
\(\Phi_B , \Phi\) | 磁束 (Magnetic Flux) | \Phi_B , \Phi | ある特定の面を垂直に貫く磁力線(磁場)の総量を示すスカラー量です。磁場の「流れ」の密度である磁場 \(\vec{B}\) を、面積全体にわたって積分したものと考えることができます。 単位:ウェーバ(Weber, \(\text{Wb}\)) 磁場 \(\vec{B}\) が一様で、面積 \(A\) に垂直に貫いている場合:\(\Phi_B=BA\) \(B\):磁場の大きさ(テスラ、\(\text{T}\)) \(A\):磁場を貫く面の面積(平方メートル、\(\text{m}^2\)) 磁場が不均一、または面に対して傾いている場合:\(\Phi_B=\int_S\,\vec{B}\cdot \vec{dA}\) \(\vec{B}\):磁場ベクトル \(\vec{dA}\):面の微小要素ベクトル(向きは面に垂直) \(\int_S\):面 S 全体での積分 面 \(A\) と磁場 \(\vec{B}\) が角度 \(\theta\) :\(\Phi_B=BA \cos{\theta}\) \(\theta=0^\circ\) のとき、\(\cos{\theta}=1\) で磁束は最大 (\(BA\)) となります(磁場が面に垂直な場合)。 \(\theta=90^\circ\) のとき、\(\cos{\theta}=0\) で磁束はゼロとなります(磁場が面に平行な場合)。 ファラデーの電磁誘導の法則:\(\epsilon=−N\frac{d\Phi_B}{dt}\) \(\epsilon\):誘導起電力(電圧、\(\text{V}\)) \(N\):コイルの巻数 \(\frac{d\Phi B}{dt}\):磁束の時間変化率 |
\(L\) | インダクタンス (Inductance) | L | コイルなどの導体が持つ、電流の変化を妨げようとする性質の度合いを示す物理量です。具体的には、電流が変化する際に、そのコイル自身が作り出す磁場の変化によって、自身に誘導起電力(逆起電力)を発生させる能力を表します。 単位:ヘンリー(Henry, \(H\)) 定義式:\(\Phi_B=LI\) \(\Phi_B\):コイルを貫く磁束(ウェーバ、\(\text{Wb}\)) \(L\):自己インダクタンス(ヘンリー、\(\text{H}\)) \(I\):コイルを流れる電流(アンペア、\(\text{A}\)) コイルに流れる電流が時間的に変化するときに生じる自己誘導起電力 :\(\epsilon=−L\frac{dI}{dt}\) \(\epsilon\):自己誘導起電力(ボルト、\(\text{V}\)) \(\frac{dI}{dt}\):電流の時間変化率(アンペア毎秒、\(\text{A/s}\)) |
\(C\) | 静電容量 (Capacitance) | C | 導体間に電荷を蓄える能力の度合いを示す物理量です。具体的には、ある電圧を与えたときに、どれだけの電荷を蓄えることができるかを表します。 単位:ファラド(Farad, \(\text{F}\)) 静電容量の定義:\(C=\frac{Q}{V}\) \(Q\):コンデンサに蓄えられた電荷の量(クーロン、\(\text{C}\)) \(V\):コンデンサ両端間の電位差(電圧、\(\text{V}\)) 平行平板コンデンサ:\(C=\frac{\epsilon A}{d}\) \(\epsilon\):極板間の誘電体の誘電率(ファラド毎メートル、\(\text{F/m}\))。誘電体の種類によって決まります。真空の場合は真空の誘電率 \(\epsilon_0\) を用います。 \(A\):極板の面積(平方メートル、\(m^2\))。面積が大きいほど、電荷を蓄える場所が増えるため、静電容量は大きくなります。 \(d\):極板間の距離(メートル、\(\text{m}\))。距離が短いほど、電荷間の引力が強くなり、より多くの電荷を蓄えられるため、静電容量は大きくなります。 |
\(\epsilon , \epsilon_0 , \epsilon_r\) | 誘電率 (Permittivity) | \epsilon , \epsilon_0 , \epsilon_r | 物質が電場(電界)中でどれだけ電気的に分極しやすいか、あるいは電気エネルギーをどれだけ蓄えやすいかを示す物理量です。 単位:ファラド毎メートル (\(\text{F/m}\)) 誘電率の定義:\(\vec{D}=\epsilon \vec{E}\) \(\epsilon\):誘電率 \(\vec{D}\): 電束密度(クーロン毎平方メートル、\(\text{C/m}^2\))。電場によって物質中に生じる「見かけの電荷密度」のようなもので、外部からの電場に加えて、物質内部の分極効果も含んだ総体的な電気的影響を表します。 \(\vec{E}\):電場(ボルト毎メートル、\(\text{V/m}\)) 物質の誘電率:\(\epsilon_r=\frac{\epsilon}{\epsilon_0}\) \(\epsilon\):誘電率 \(\epsilon_0\):真空の誘電率 コンデンサの静電容量:\(C=\frac{\epsilon A}{d}\) |
\(\mu , \mu_0 , \mu_r\) | 透磁率 (Permeability) | \mu , \mu_0 , \mu_r | 物質が磁場中でどれだけ磁化されやすいか、あるいは磁力線(磁束)をどれだけ通しやすいかを示す物理量です。 単位:ヘンリー毎メートル (\(\text{H/m}\)) 透磁率の定義:\(\vec{B}=\mu\vec{H}\) \(\vec{B}\):磁束密度(テスラ、\(\text{T}\))。磁場の「強さ」と「密度」を表す量。 \(\vec{H}\):磁場(磁界の強さ、アンペア毎メートル、\(\text{A/m}\))。電流などの磁気源の強さによって決まる量。 比透磁率(Relative Permeability):\(\mu_r=\frac{\mu}{\mu_0}\) \(\mu\):透磁率 \(\mu_0\):真空の透磁率 インダクタンスとの関係:\(L=\mu\frac{N^2A}{l}\) コイルの内部に透磁率 \(\mu\) が高い物質(例えば鉄心)を入れると、インダクタンス \(L\) は大幅に増加します。これは、高透磁率の物質が磁束を「通しやすく」することで、同じ電流でもより強い磁束が発生するためです。 |
\(F_{\mu\nu}\) | 場強度テンソル (Field Strength Tensor) | F_{\mu\nu} | 場強度テンソル \(F_{\mu\nu}\) は、4元ベクトルポテンシャル \(A_{\mu}\) を用いて以下のように定義 $$ F_{\mu\nu}=\partial_{\mu}A_{\nu}−\partial_{\nu}A_{\mu} $$ \(A_{\mu}=(\phi/c,\mathbf{A})\) は4元ベクトルポテンシャル \(\phi\):スカラーポテンシャル(電位) \(\mathbf{A}\):ベクトルポテンシャル \(c\):光速 \(\partial_{\mu}=\left(\frac{1}{c} \frac{\partial}{\partial t},\nabla \right)\) は4元勾配演算子 $$ F_{\mu\nu}=\begin{pmatrix}0 & E_x/c & E_y/c & E_z/c \\ -E_x/c & 0 & −B_z & B_y \\ -E_y/c & B_z & 0 & -B_x \\ -E_z/c & -B_y & B_x & 0 \end{pmatrix} $$ または、 $$ F_{\mu\nu}=\begin{pmatrix}0 & −\mathbf{E}/c \ \mathbf{E}/c & −\epsilon_{ijk} B_k \end{pmatrix} $$ ここで、\(\epsilon_{ijk}\) はレヴィ・チヴィタ記号 電場と磁場の統合: \(F_{\mu\nu}\) は電場と磁場を単一の数学的実体として表現します。これにより、ローレンツ変換(異なる慣性系間の変換)によって電場と磁場がどのように変換されるかが明確になります。ある慣性系で電場のみが存在する場合でも、別の慣性系から見ると磁場が発生するように見える、といった現象を自然に説明できます。 反対称性: \(F_{\mu\nu}\) は添字 \(\mu\) と \(\nu\) を入れ替えると符号が反転する反対称テンソルです。すなわち、\(F_{\mu\nu}=−F_{\nu\mu}\) です。この性質は、対角成分がゼロであることからも見て取れます。 マクスウェル方程式との関係: 場強度テンソルを用いると、4つのマクスウェルの方程式のうち2つ(ガウスの法則とアンペール・マクスウェルの法則)を非常に簡潔な形で表現できます。 $$ \partial^{\mu}F_{\mu\nu}=\mu_0J_{\nu} $$ ここで、\(J_{\nu}=(c\rho,\mathbf{j})\) は4元電流密度、\(\mu_0\) は真空の透磁率です。 残りの2つのマクスウェル方程式(磁場のガウスの法則とファラデーの電磁誘導の法則)は、ビアンキ恒等式として知られる以下の関係によって表現されます。 $$ \partial_{\lambda}F_{\mu\nu}+\partial_{\mu}F_{\nu\lambda}+\partial_{\nu}F_{\lambda\mu}=0 $$ 電磁場不変量: \(F_{\mu\nu}\) を用いて、ローレンツ変換に対して不変な量(スカラー量)を構成することができます。代表的なものに、\(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) と \(\epsilon^{\alpha\beta\mu\nu}F_{\alpha\beta}F_{\mu\nu}\) があります。これらの不変量は、電磁場のエネルギー密度やポインティングベクトルなど、物理的に重要な量と関連しています。 |
\(\nabla \cdot \vec{E} = 0 , \nabla \cdot \vec{B} = 0 , \nabla \times \vec{E} = -\frac{\partial \vec{B}}{\partial t} , \nabla \times \vec{B} = \mu_0 \epsilon_0 \frac{\partial \vec{E}}{\partial t}\) | マクスウェル方程式(真空) | \nabla \cdot \vec{E} = 0 , \nabla \cdot \vec{B} = 0 , \nabla \times \vec{E} = -\frac{\partial \vec{B}}{\partial t} , \nabla \times \vec{B} = \mu_0 \epsilon_0 \frac{\partial \vec{E}}{\partial t} | マクスウェル方程式は、電場と磁場がどのように発生し、どのように時間変化するかを記述する、古典電磁気学の基礎をなす一連の連立偏微分方程式です。これらの方程式は、電気と磁気の全ての現象を統一的に説明し、光が電磁波であることを予言しました。 記号: \(\vec{E}\):電場(ベクトル量) \(\vec{B}\):磁場(磁束密度、ベクトル量) \(\nabla\cdot\):発散(Divergence)演算子。ある点からベクトル場がどれだけ湧き出しているか(または吸い込まれているか)を示すスカラー量。 \(\nabla\times\): 回転(Curl)演算子。ある点でベクトル場がどれだけ回転しているかを示すベクトル量。 \(\frac{\partial}{\partial t}\):時間微分演算子。 \(\mu_0\):真空の透磁率(定数)。約 \(4\pi\times10^{−7}\,\text{N/A}^2\)。 \(\epsilon_0\):真空の誘電率(定数)。約 \(8.854\times 10^{−12}\,\text{F/m}\)。 ここで重要な関係として、\(c=\frac{1}{\sqrt{\mu_0\epsilon_0}}\)(\(c\) は光速)が成り立ちます。 ガウスの法則(電場):\(\nabla \cdot \vec{E} = 0\) ガウスの法則(磁場):\(\nabla \cdot \vec{B} = 0\) ファラデーの電磁誘導の法則:\(\nabla \times \vec{E} = -\frac{\partial \vec{B}}{\partial t}\) アンペール・マクスウェルの法則:\(\nabla \times \vec{B} = \mu_0 \epsilon_0 \frac{\partial \vec{E}}{\partial t}\) |
\(\vec{F} = q (\vec{E} + \vec{v} \times \vec{B})\) | ローレンツ力 (Lorentz Force) | \vec{F} = q (\vec{E} + \vec{v} \times \vec{B}) | ローレンツ力は、電磁場中に置かれた荷電粒子が受ける力を記述する基本的な公式です。この法則は、電磁気学と特殊相対性理論を結びつける重要な役割を果たし、モーターや発電機、ブラウン管テレビ(古いですが)、質量分析計といった様々な技術の基礎となっています。 公式:\(\vec{F}=q(\vec{E}+\vec{v}\times \vec{B})\) 記号: \(\vec{F}\):荷電粒子が受ける力(ベクトル量) \(q\):荷電粒子の電荷(スカラー量) \(\vec{E}\):その荷電粒子が存在する場所の電場(ベクトル量) \(\vec{v}\):荷電粒子の速度(ベクトル量) \(\vec{B}\):その荷電粒子が存在する場所の磁場(磁束密度、ベクトル量) \(\times\):ベクトル積(外積) 国際単位系 (SI): \(\vec{F}\):ニュートン (\(\text{N}\)) \(q\):クーロン (\(\text{C}\)) \(\vec{E}\):ボルト毎メートル (\(\text{V/m}\)) またはニュートン毎クーロン (\(\text{N/C}\)) \(\vec{v}\):メートル毎秒 (\(\text{m/s}\)) \(\vec{B}\):テスラ (\(\text{T}\)) スカラー量かベクトル量か:ベクトル方程式です。力 \(\vec{F}\) はベクトル量で、電場 \(\vec{E}\) と磁場 \(\vec{B}\) もベクトル量です。 |
\(\mu_0\) | 真空の透磁率 (Permeability of Free Space) | \mu_0 | 真空中の磁気の伝わりやすさを示す基本的な物理定数です。これは、電流が作り出す磁場(磁界)の強さ \(H\) と、その磁場が空間に誘起する磁束密度 \(B\) との関係を定める比例定数として現れます。 物理的意味: 磁場の応答:物質中に磁場が加わったとき、その物質がどれだけ磁化されやすいかを示すのが「透磁率 \(\mu\)」です。\(\mu_0\) は、その究極の基準となる真空の透磁率を表します。真空は磁化されないため、これは空間そのものの磁気的な性質、あるいは磁場の「自由な」伝播のしやすさを示しているとも言えます。 アンペアの法則:例えば、電流が流れる導線の周りに発生する磁場(磁束密度 \(B\))は、電流の強さ \(I\) に比例し、距離 \(r\) に反比例します。この関係を式で表す際に \(\mu_0\) が用いられます。 値: かつてはアンペアの定義に基づいて厳密に定義された値でしたが、2019年のSI単位の再定義により、現在は他の物理定数から導出される測定値となりました。しかし、その値は非常に精密に知られています。 \(\mu_0=4\pi×\times 10^{−7}\,\text{N/A}^2\) または \(4\pi \times 10^{−7}\,\text{H/m}\) 数値にすると、約 \(1.256637\times 10^{−6}\,\text{N/A}^2\) です。 (\(4\pi \approx 12.56637\)) 国際単位系 (SI) 単位: ニュートン毎平方アンペア (\(\text{N/A}^2\)):電流間に働く力の関係から導かれる単位です。 ヘンリー毎メートル (\(\text{H/m}\)):インダクタンスの単位であるヘンリー (\(\text{H}\)) を含む単位です。 |
\(\epsilon_0\) | 真空の誘電率 (Permittivity of Free Space) | \epsilon_0 | \(\epsilon_0\) は、真空中の電気が伝わりやすさ、あるいは電場がどれだけ生じやすいかを示す基本的な物理定数です。これは、電荷が作り出す電場(電界)の強さ \(E\) と、その電場が空間に誘起する電束密度 \(D\) の関係を定める比例定数として現れます。 記号:\(\epsilon_0\) (イプシロン・ゼロ) 物理的意味: 電場の応答:物質中に電場が加わったとき、その物質がどれだけ電気的に分極されやすいかを示すのが「誘電率 \(\epsilon\)」です。\(\epsilon_0\) は、その究極の基準となる真空の誘電率を表します。真空は分極しないため、これは空間そのものの電気的な性質、あるいは電場の「自由な」伝播のしやすさを示しているとも言えます。 クーロンの法則:例えば、点電荷 \(Q\) から距離 \(r\) 離れた点に生じる電場の強さ \(E\) は、電荷の大きさに比例し、距離の2乗に反比例します。この関係を式で表す際に \(\epsilon_0\) が用いられます。 点電荷の場合:\(E=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{Q}{r^2}\) 値: 2019年のSI単位の再定義により、プランク定数や電気素量などが定義値となり、\(\epsilon_0\) は他の物理定数から導出される測定値となりました。 \(\epsilon_0\approx 8.8541878128 \times 10^{−12}\,\text{F/m}\) (ファラド毎メートル) 国際単位系 (SI) 単位: ファラド毎メートル (\(\text{F/m}\)):電気容量の単位であるファラド (\(F\)) を含む単位です。 光速との関係:$$ c=\frac{1}{\sqrt{\epsilon_0\mu_0}} $$ |
\(e\) | 電気素量 (Elementary Charge) | e | 電気素量 \(e\) は、陽子一個が持つ正の電荷の量、または電子一個が持つ負の電荷の量の絶対値として定義されます。この電荷は、これ以上分割できない基本的な単位と考えられています。 値:$$ e=1.602176634 \times 10^{−19}\,\text{C} $$ 単位:クーロン (\(\text{C}\)) この値は、2019年のSI基本単位の再定義において、定義定数の一つとなり、誤差のない正確な値として定められました。これにより、他の多くの電気関連の単位(例えばアンペアなど)が、この電気素量と他の定義定数(光速など)に基づいて導出されるようになりました。 電気素量 \(e\) は、微細構造定数 \(\alpha\) と呼ばれる無次元の物理定数を構成する要素の一つです。 $$ \alpha=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0\hbar c}\approx\frac{1}{137.036} $$ |
宇宙物理学
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(H_0\) | ハッブル定数(Hubble Constant) | H_0 | 宇宙の現在の膨張率を示す基本的な物理定数です。宇宙が時間の経過とともにどれくらいの速さで膨張しているかを定量的に表す指標となります。 単位:毎秒毎メガパーセク (\(\text{km}\cdot\text{s}^{−1}\cdot \text{Mpc}^{−1}\)) ハッブルの法則:\(v=H_0d\) \(v\):銀河が私たちから遠ざかる後退速度(\(\text{km/s}\)) \(d\):銀河までの距離(メガパーセク、\(\text{Mpc}\)) \(H_0\):ハッブル定数(\(\text{km/s/Mpc}\)) 近傍の宇宙の観測に基づく値(距離はしご法など): 約 \(73 \pm 1\,\text{km/s/Mpc}\) 初期宇宙の観測に基づく値(宇宙マイクロ波背景放射 CMB など): 約 \(67 \pm 0.5\text{km/s/Mpc}\) ハッブル時間(Hubble Time): ハッブル定数の逆数 \(t_H=\frac{1}{H_0}\) |
\(a\) | スケール因子(Scale Factor) | a | 宇宙の相対的な大きさの時間的変化を表す無次元の関数です。 単位:無次元量 固有距離(Proper Distance):\(d(t)=a(t)\cdot d0\) – \(d(t)\):時刻 \(t\) における銀河間の固有距離 – \(d_0\):基準となる時刻 \(t0\)(通常は現在)における銀河間の共動距離(現在の物理的距離) – \(a(t)\):時刻 \(t\) におけるスケール因子 現在の宇宙の時刻 \(t_0\) におけるスケール因子 \(a(t_0)\) は、1に規格化されます。 – \(a(t_0)=1\) この基準化により、過去の宇宙では \(a<1\) であり、未来の宇宙では \(a>1\) となります。 宇宙の始まり(ビッグバン)の瞬間は \(a=0\) とされます。 ハッブルの法則との関係 現在のスケール因子 \(a(t_0)=1\) での \(H(t_0)\) の値 \(H(t)=\frac{\dot{a}(t)}{a(t)}\) – \(\dot{a}(t)\):\(a(t)\) の時間微分(スケール因子の変化率) – \(H_0\):現在のハッブル定数 光の赤方偏移(Redshift):\(1+z=\frac{a(t_0)}{a(t_e)}\) – \(z\):観測される赤方偏移 – \(t_0\):現在時刻 – \(t_e\):光が放出された時刻 温度の変化:\(T \propto \frac{1}{a}\) 密度の変化:宇宙の物質や放射のエネルギー密度もスケール因子によって変化します。 – 物質密度: \(\rho_m \propto a^{−3}\) (体積が \(a^3\) に比例して増えるため) – 放射密度: \(\rho_r \propto a^{−4}\) (体積の増加に加え、波長の伸びによるエネルギー減少の要因も加わるため) |
\(z\) | 赤方偏移 (Redshift) | z | 光源から観測者へ届く光の波長が、何らかの理由で長くなる(より「赤く」なる)現象のことです。これは、ドップラー効果と同様に、光源と観測者の相対的な運動や、光が通過する空間の性質の変化によって引き起こされます。 赤方偏移の定義:\(z=\frac{\lambda_\text{obs} – \lambda_\text{emit} }{ \lambda_\text{emit}}=\frac{\Delta \lambda}{\lambda_\text{emit}}\) 整理すると \(1+z=\frac{\lambda_\text{obs}}{\lambda_\text{emit}}\) \(z\):赤方偏移 \(\lambda_\text{obs}\):観測される波長 \(\lambda _\text{emit}\):光源が静止しているときに放出される波長(静止波長) |
\(\Omega\) | 宇宙密度パラメータ(総) (Total Density Parameter) | \Omega | 宇宙の全エネルギー密度が、宇宙の膨張の運命を決定する「臨界密度」に対してどれくらいの比率を持つかを示す無次元の量です。これは、宇宙の幾何学的形状(曲率) を特徴づける非常に重要なパラメータであり、現在の宇宙論の標準モデルを構成する主要な要素の一つです。 単位:無次元量 宇宙密度パラメータの定義:\(\Omega=\frac{\rho_\text{total}}{\rho_c}\) \(\rho_\text{total}\):現在の宇宙の実際の全エネルギー密度 \(\rho_c\):臨界密度 \(\Omega\):宇宙密度パラメータ \(\Omega\) の値と宇宙の運命・形状 \(\Omega>1\)(閉じた宇宙 / 正の曲率) \(\Omega<1\) (開いた宇宙 / 負の曲率) \(\Omega=1\) (平坦な宇宙 / 平坦な曲率) 宇宙の各成分の密度パラメータ:\(\Omega=\Omega_m+\Omega_\Lambda+\Omega_r+\Omega_k\) または \(1=\Omega_m+\Omega_\Lambda+\Omega_r+\Omega_k\) \(\Omega_m\)(物質密度パラメータ):通常の物質(バリオン)とダークマターの合計の密度パラメータ。 \(\Omega_\Lambda\)(ダークエネルギー密度パラメータ / 宇宙項密度パラメータ):宇宙の加速膨張を引き起こすと考えられているダークエネルギーの密度パラメータ。 \(\Omega_r\)(放射密度パラメータ):光子やニュートリノなどの放射(輻射)の密度パラメータ。現在の宇宙では非常に小さい値。 \(\Omega_k\)(曲率密度パラメータ):宇宙の曲率に対応する密度パラメータ。 |
\(\Omega_m\) | 物質密度パラメータ (Matter Density Parameter) | \Omega_m | 宇宙の全エネルギー密度のうち、現在の「物質」が占める割合を示す無次元のパラメータです。ここでいう「物質」とは、通常のバリオン物質(陽子、中性子、電子などで構成される、私たちが日常的に触れる物質)と、正体不明のダークマター(暗黒物質) を合わせたものです。 単位:無次元量 定義と臨界密度:\(\Omega_m=\frac{\rho_m}{\rho_c}\) \(\Omega_m\):物質密度パラメータ \(\rho_m\):現在の宇宙における物質の平均エネルギー密度。 \(\rho_c\):宇宙が平坦であるために必要な臨界密度(\(\rho_c=\frac{3H_0^2}{8\pi G}\))。 \(\Omega_m\) の内訳:\(\Omega_m=\Omega_b+\Omega_{DM}\) \(\Omega_b\):バリオン密度パラメータ \(\Omega_{DM}\):ダークマター密度パラメータ |
\(\Omega_\Lambda\) | ダークエネルギー密度パラメータ (Dark Energy Density Parameter) | \Omega_\Lambda | 宇宙の全エネルギー密度のうち、現在の「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」が占める割合を示す無次元のパラメータです。 単位:無次元量 定義と臨界密度との関係: \(\Omega_\Lambda=\frac{\rho_\Lambda}{\rho_c}\) \(\Omega\Lambda\):ダークエネルギー密度パラメータ \(\rho_\Lambda\):現在の宇宙におけるダークエネルギーの平均エネルギー密度。 \(\rho_c\):宇宙が平坦であるために必要な臨界密度(\(\rho_c=\frac{3H_0^2}{8\pi G}\))。 |
\(\Omega_r\) | 放射密度パラメータ (Radiation Density Parameter) | \Omega_r | 宇宙の全エネルギー密度のうち、現在の「放射(輻射)」が占める割合を示す無次元のパラメータです。 単位:無次元量 定義と臨界密度:\(\Omega_r=\frac{\rho_r}{\rho_c}\) \(\Omega_r\):放射密度パラメータ \(\rho_r\):現在の宇宙における放射の平均エネルギー密度。 \(\rho_c\):宇宙が平坦であるために必要な臨界密度(\(\rho_c=\frac{3H_0^2}{8\pi G}\))。 放射のエネルギー密度:\(\rho_r(a)\propto a^{−4}\) |
\(\Omega_k\) | 曲率密度パラメータ (Curvature Density Parameter) | \Omega_k | 宇宙の全エネルギー密度のうち、宇宙の空間的な幾何学的形状(曲率) が占める「見かけの」割合を示す無次元のパラメータです。 単位:無次元量 定義と全宇宙密度パラメータ:\(\Omega_k=1−(\Omega_m+\Omega_\Lambda+\Omega_r)\) \(\Omega_m\):物質密度パラメータ \(\Omega_\Lambda\):ダークエネルギー密度パラメータ \(\Omega_r\):放射密度パラメータ \(\Omega_m+\Omega_\Lambda+\Omega_r=1\) の場合:\(\Omega_k=0\) → 平坦な宇宙 \(\Omega_m+\Omega_\Lambda+\Omega_r>1\) の場合:\(\Omega_k<0\) → 閉じた宇宙 \(\Omega_m+\Omega_\Lambda+\Omega_r<1\) の場合:\(\Omega_k>0\) → 開いた宇宙 現在の宇宙における \(\Omega_k\) 観測によると、\(\Omega_k \approx 0.00\) (ほとんどゼロ)とされています。 |
\(M\) | 絶対等級 (Absolute Magnitude) | M | 天体(特に恒星や銀河など)の真の明るさ(光度) を表す尺度です。 単位:無次元量 絶対等級の定義:\(M=m−5\log_{10}\left( \frac{d}{10 \,\text{pc}} \right)\) または \(M=m+5−5\log_{10}d\) \(M\):絶対等級 \(m\):かけの等級(天体が実際に地球から見える明るさ) \(d\):天体までの距離(パーセク、\(\text{pc}\)) \(\log_{10}\):常用対数 距離モジュラス (Distance Modulus):\(m−M=5\log_{10}d−5\) 見かけの等級 \(m\) と絶対等級 \(M\) が分かれば、天体までの距離 \(d\) を求めることができます。 |
\(m\) | 見かけ等級 (Apparent Magnitude) | m | 地球から観測したときに、天体がどれくらいの明るさに見えるかを表す尺度です。 単位:無次元量 例:シリウス(最も明るい恒星)は約 −1.46 等、金星(最大輝度時)は約 −4.9 等、満月は約 −12.7 等、太陽は約 −26.7 等。 絶対等級との関係:\(M=m−5\log_{10}(\frac{d}{10\,\text{pc}})\) \(m\):見かけ等級 \(M\):絶対等級 \(d\):距離 |
\(L\) | 光度 (Luminosity) | L | 天体(特に恒星や銀河など)が単位時間あたりに全方向へ放出する電磁波(光)の総エネルギー量を表す物理量です。 ステファン・ボルツマンの法則:\(L=4\pi R^2\sigma T^4\) \(L\):天体の光度(\(\text{W}\)) \(R\):天体の半径(\(\text{m}\)) \(\sigma\):ステファン・ボルツマン定数(\(5.67\times 10^{−8} \,\text{W}/(\text{m}^2 \times \text{K}^4)\)) \(T\):天体の表面温度(ケルビン、\(\text{K}\)) 絶対等級 (\(M\)) との関係:\(M_1−M_2=−2.5\log_{10}(\frac{L_1}{L_2})\) 太陽の光度 \(L_\odot \approx 3.828\times10^{26}\,\text{W}\) を基準とすることがよくあります。 フラックス(見かけの明るさ)との関係:\(F=\frac{L}{4\pi d^2}\) \(F\):観測されるフラックス(\(\text{W/m}^2\)) \(L\):光度(\(\text{W}\)) \(d\):天体までの距離(\(\text{m}\)) |
\(\alpha\) | スペクトル指数 (Spectral Index) | \alpha | 電磁波のスペクトル(周波数や波長に対する強度の分布)が、特定の周波数範囲でどのように変化するかを示す量です。 単位:無次元量 スペクトル指数:\(F_\nu \propto \nu^\alpha\) または \(\log{F_\nu}=\alpha \log{\nu}+\text{定数}\) \(F_\nu\):周波数 \(\nu\) におけるフラックス密度(単位は \(\text{W}\cdot \text{m}^{-2}\cdot \text{Hz}^{-1}\) など) \(\nu\):周波数(\(\text{Hz}\)) \(\alpha\):スペクトル指数 |
\(I\) | 表面輝度(Surface Brightness) | I | 天体、特に広がりのある天体(銀河、星雲、彗星など)の見かけの明るさを、その見かけの面積で割ったものです。 単位:ワット毎平方メートル毎ステラジアン (\(\text{W}\cdot\text{m}^{−2}\cdot \text{sr}^{−1}\)) 表面輝度の定義:\(I=\frac{F}{\Omega}\) \(I\):表面輝度 \(F\):観測されるフラックス(明るさ) \(\Omega\):見かけの立体角 表面輝度が距離によらず一定である理由:\(I=\frac{F}{\Omega}=\frac{L/(4\pi d^2)}{A_\text{app}/d^{2}}=\frac{L}{4\pi A_\text{true}}=\text{一定}\) \(L\):天体の光度 \(A_\text{true}\):天体の真の表面積 宇宙膨張による表面輝度:\(I_\text{obs}=I_\text{emit}(1+z)^{−4}\) \(I_\text{obs}\):観測される表面輝度 \(I_\text{emit}\):光源が光を放出した時点での本来の表面輝度 \(z\):赤方偏移 |
\(T_{\text{CMB}}\) | 宇宙背景放射温度 (Cosmic Microwave Background Temperature) | T_{\text{CMB}} | 宇宙全体に満ちている電磁波である宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background, CMB) の、現在の温度を示す物理量です。 単位:ケルビン(\(\text{K}\)) 現在のCMB温度:\(T_\text{CMB}≈2.725\text{ K}\) スケール因子 \(a\) との関係:\(T(z)=T_\text{CMB}(1+z)\) または \(T(a)=T_0/a\) \(T(z)\):赤方偏移 \(z\) での宇宙の温度 \(T_\text{CMB}\)(または \(T_0\)):現在のCMB温度(2.725 K) \(z\):赤方偏移 この関係は、過去の宇宙ほどCMBの温度が高かったことを意味します。例えば、宇宙が現在の半分の大きさだったとき(\(a=0.5\))、CMBの温度は現在の2倍(約\(5.45 \,\text{K}\))でした。再結合期(\(z \approx 1100\))の温度が約\(3000 \,\text{K}\)だったのは、この関係と一致します。 |
\(r_s\) | シュバルツシルト半径 (Schwarzschild Radius) | r_s | 特定の質量を持つ天体が、もしその全質量がこの半径内に収縮した場合に、その表面からの光さえも脱出できなくなるような重力的な「境界面」 の半径を指します。 単位:メートル(\(\text{m}\)) シュバルツシルト半径の定義:\(r_s=\frac{2GM}{c^2}\) \(r_s\):シュバルツシルト半径(\(\text{m}\)) \(G\):万有引力定数(\(6.674 \times 10^{−11}\,\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\)) \(M\):天体の質量(\(\text{kg}\)) \(c\):光速(\(2.998 \times 10^8 \text{ m/s}\)) 事象の地平線 (Event Horizon) その境界を一度超えて内側に入ったものは、光速で移動しても二度と外の世界に戻ることができないという、因果的な境界線です。 太陽のシュバルツシルト半径:\(r_s \approx \frac{2\times(6.674\times10^{−11}) \times (2.0 \times 10^{30})}{(2.998\times10^8)^2} \approx 2950\text{ m}≈3\text{ km}\) 太陽の質量 \(M_\odot \approx 2.0\times10^{30}\text{ kg}\) 地球のシュバルツシルト半径:\(r_s \approx 0.009\text{ m}\approx 9\text{ mm}\) 地球の質量 \(M_\text{Earth} \approx 6.0 \times 10^{24}\text{ kg}\) |
\(L_{\text{Edd}}\) | エディントン光度 (Eddington Luminosity) | L_{\text{Edd}} | 質量を持つ天体(特に恒星や、ブラックホールにガスが降着していく降着円盤など)が、その質量に対して放射できる光度の理論的な最大値です。この光度を超えると、天体から放出される光の放射圧(Radiation Pressure)が、その天体自身の重力(引力)を上回り、周囲のガスや物質を外向きに吹き飛ばしてしまうため、それ以上明るく輝き続けることができなくなると考えられています。 単位:ワット(Watt, \(\text{W}\)) エディントン光度の定義:\(L_\text{Edd}=\frac{4 \pi \,GMm_pc}{\sigma_T}\) \(L_\text{Edd}\):エディントン光度(\(\text{W}\)) \(G\):万有引力定数(\(6.674 \times 10^{−11}\,\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\)) \(M\):中心天体の質量(\(\text{kg}\)) \(m_p\):陽子の質量(約 \(1.672 \times 10^{−27}\text{ kg}\)) \(c\):光速(\(2.998\times 10^8\,\text{m/s}\)) \(\sigma_T\):トムソン散乱断面積(電子1個あたりが光子を散乱する有効面積。約 \(6.652 \times 10^{−29}\text{ m}^{2}\)) 太陽質量 \(M_\odot\) を単位とした場合:\(L_\text{Edd} \approx 1.26\times10^{31}(\frac{M}{M_\odot})\text{ W}\) エルグ毎秒 (\(\text{erg/s}\)) の単位では:\(L_\text{Edd}\approx 1.26 \times 10^{38} (\frac{M}{M_\odot})\text{ erg/s}\) |
\(r_d\) | バリオン音響振動スケール (Baryon Acoustic Oscillation Scale) | r_d | 宇宙の歴史において特定の時期に形成された、宇宙空間に刻まれた「ものさし」 のような特徴的な物理的距離です。これは、宇宙の晴れ上がり(再結合期)までの間に、光子とバリオン(通常の物質)が一体となって伝播した音波が到達しうる最大の距離を示します。 単位:メートル(\(\text{m}\))または光年(\(\text{ly}\)) 現在の宇宙論の標準モデル(\(\Lambda\)-CDMモデル)に基づくと、\(r_d\) は約 150 メガパーセク(\(\text{Mpc}\)) または約 5億光年 という値を持つと計算されています。 |
\(q_0\) | デセレレーション・パラメータ (Deceleration Parameter) | q_0 | 宇宙の膨張速度が現在、どのように時間変化しているかを示す無次元のパラメータです。より正確には、宇宙の膨張が減速しているのか、加速しているのかを定量的に表す量で、アインシュタインの一般相対性理論に基づいた宇宙論モデルにおいて重要な役割を果たします。 単位:無次元量 デセレレーション・パラメータ:\(q_0=−\frac{a(t_0)\ddot{a}(t_0)}{\dot{a}(t_0)^2}\) または \(H(t)=\dot{a}(t)/a(t)\) を用いて:\(q_0=−\frac{\ddot{a}(t_0)}{a(t_0)H_0^2}\) \(a(t_0)\):現在の宇宙のスケール因子 \(\dot{a}(t_0)\):現在の宇宙の膨張速度(スケール因子の1階時間微分) \(\ddot{a}(t_0)\):現在の宇宙の膨張の加速度(スケール因子の2階時間微分) \(H_0\):現在のハッブル定数 \(q_0>0\) の場合:\(\ddot{a}(t_0)\) が負(つまり、膨張が減速している)ことを意味します。重力による引力が優勢な宇宙では、膨張は時間とともに遅くなります。 \(q_0<0\) の場合:\(\ddot{a}(t_0)\) が正(つまり、膨張が加速している)ことを意味します。現在の宇宙が示すように、重力に逆らう斥力(ダークエネルギーなど)が優勢な場合に起こります。 \(q_0=0\) の場合:膨張速度が一定であることを意味します(加速も減速もしていない)。 宇宙の主要なエネルギー構成要素(物質、放射、ダークエネルギー)の密度パラメータと密接に関係しています。 \(q_0=\frac{1}{2}\sum_i \Omega_i(1+3w_i)\) \(q_0=\frac{1}{2}\Omega_m(1+3w_m)+\frac{1}{2}\Omega_\Lambda(1+3w_\Lambda)\) \(\Omega_m\):物質密度パラメータ(バリオン物質とダークマターを含む) 物質の状態方程式は \(w_m=0\) (圧力がほぼゼロ) \(\Omega_\Lambda\):ダークエネルギー密度パラメータ 標準的な宇宙項としてのダークエネルギーの状態方程式は \(w_\Lambda=−1[latex] 現在の宇宙のデセレレーション・パラメータ:[latex]q_0\approx\frac{1}{2}(0.3)−0.7=0.15−0.7=−0.55\) 負の値が得られます。これは、宇宙が加速膨張しているという観測事実と見事に一致します。 |
\(n_s\) | パワースペクトル指数 (Power Spectrum Spectral Index) | n_s | 初期宇宙に存在した密度ゆらぎの「パワースペクトル」の形状を記述する重要なパラメータです。 単位:無次元量 密度ゆらぎのパワースペクトル:\(P(k) \propto k^{n_s}\) \(P(k)\):波数 \(k\) における密度ゆらぎのパワースペクトル。 \(k\):波数(スケールの逆数。小さい k は大きいスケール、大きい \(k\) は小さいスケールに対応します)。 \(n_s\):パワースペクトル指数。 最新の観測結果:\(n_s\approx 0.96 \sim 0.97\) |
\(\zeta\) | 天頂距離 (Zenith Angle) | \zeta | 天文学や測地学、気象学などで用いられる角度の一つで、観測点(または観測機器)の真上方向(天頂)から、ある天体(または方向)までの角度を指します。 単位:ラジアン (rad) または度 (degrees) 天頂距離と高度の関係:\(\zeta=90^\circ−a\) または \(\zeta=\frac{\pi}{2}−a\) 天体が地平線にある場合、高度 \(a=0^\circ\) なので、天頂距離 \(\zeta=90^\circ\) となります。 天体が天頂にある場合、高度 \(a=90^\circ\) なので、天頂距離 \(\zeta=0^\circ\) となります。 天体が地平線より下にある場合(見えない場合)、高度は負の値になり、天頂距離は \(90^\circ\) を超えます。 |
\(v_r\) | 視線速度 (Radial Velocity) | v_r | 天体が観測者(または観測機器)に対して、視線方向(観測者から天体を結ぶ直線方向)にどれくらいの速さで近づいているか、または遠ざかっているかを示す速度です。 単位:メートル毎秒 (\(\text{m/s}\)) またはキロメートル毎秒 (\(\text{km/s}\)) 視線速度の測定原理:ドップラー効果:\(\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}=\frac{v_r}{c}\) または \(v_r=c\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) \(\Delta\lambda\):波長のずれ(ドップラーシフト) \(\lambda_0\):静止波長 \(c\):光速 \(v_r\):視線速度 \(v_r>0\)(正の値):天体が観測者から遠ざかっている(後退している) ことを示します。この場合、光の波長は長くなり、スペクトル線は赤方偏移します。 \(v_r<0\)(負の値):天体が観測者へ近づいている(接近している) ことを示します。この場合、光の波長は短くなり、スペクトル線は青方偏移します。 |
\(F = \frac{G M m}{r^2}\) | 万有引力の法則 (Law of Universal Gravitation) | F = \frac{G M m}{r^2} | 質量を持つすべての物体間に働く引力を記述する基本的な法則です。 単位: \(F\):ニュートン (N) \(G\):約 \(6.674\times10^{−11}\text{ N}\cdot\text{m}^2\text{/kg}^2\) \(M,m\):キログラム (\(\text{kg}\)) \(r\):メートル (\(\text{m}\)) 例:地球( \(M = 5.972 \times 10^{24} \text{ kg}\))と物体 ( \(m = 1 \text{ kg}\) )、( \(r = 6.371 \times 10^{6}\text{ m}\))。 \(F \approx 9.8 \text{ N}\) |
\(T^2 = \frac{4 \pi^2}{G M} a^3\) | ケプラーの第3法則 (Kepler’s Third Law) | T^2 = \frac{4 \pi^2}{G M} a^3 | 太陽の周りを公転する惑星の公転周期と軌道半径(半長軸)の関係を記述する法則です。この法則は、ヨハネス・ケプラーがティコ・ブラーエの精密な観測データに基づいて経験的に導き出したものであり、後にニュートンの万有引力の法則によって理論的に説明されました。 公式:\(T^2=\frac{4\pi^2}{GM}a^3\) \(T\):秒 (\(\text{s}\)) \(a\):メートル (\(\text{m}\)) \(G\):約 \(6.674 \times 10^{−11} \text{ N}\cdot \text{m}^{2}/\text{kg}^{2}\) \(M\):キログラム (\(\text{kg}\)) \(\pi\):約 \(3.14159\) 周期の2乗と軌道半径の3乗の比例関係: 惑星の公転周期 \(T\) の2乗が、その軌道半長軸 \(a\) の3乗に比例するという関係を示していることです。つまり、\(T^2 \propto a^3\) と書けます。 地球(\(a = 1.496 \times 10^{11} \, \text{m} , M = 1.989 \times 10^{30} \, \text{kg} ) T \approx 365.25 \, \text{日}\)。 まず、右辺の値を計算します。 \(\frac{4\pi^{2}}{GM}=\frac{4×(3.14159)^2}{(6.674 \times 10^{−11} \text{ N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^{2})\times (1.989×10^{30}\text{ kg})}\) \(=\frac{4\times 9.8696}{(6.674 \times 1.989) \times 10^{19}\text{N}\cdot\text{m}^{2}/\text{kg}}\) \(=\frac{39.4784}{13.2714\times10^{19}}\) \(\approx 2.9747 \times 10^{−19}\text{ s}^{2}/\text{m}^{3}\) 次に \(a^{3}\) を計算します。 \(a^{3}=(1.496 \times 10^{11}\text{ m})^{3}\) \(=(1.496)^{3} \times (10^{11})^3\text{ m}^{3}\) \(=3.348\times10^{33}\text{ m}^{3}\) これで右辺全体を計算できます。 \(T^{2}=(2.9747 \times 10^{−19}\text{ s}^{2}/\text{m}^{3}) \times (3.348 \times 10^{33}\text{ m}^{3})\) \(T^{2}\approx9.954\times10^{14}\text{ s}^2\) 最後に \(T\) を求めます。 \(T=\sqrt{9.954\times10^{14}\text{ s}^{2}}\) \(T\approx 3.155\times10^{7}\text{ s}\) この秒数を日に変換してみましょう。(1日 = 24時間 × 60分 × 60秒 = 86400秒) \(T\approx \frac{3.155×10^{7}\text{ s}}{86400\text{ s/日}}\) \(T\approx365.16\text{ 日}\) |
\(v = H_0 d\) | ハッブルの法則 (Hubble’s Law) | v = H_0 d | ハッブルの法則は、宇宙が膨張していることを示す最も重要な観測的証拠の一つであり、現代宇宙論の基礎をなす法則です。これは、遠くの銀河ほど、私たちから速い速度で遠ざかっているという関係を示しています。 公式:\(v=H_0d\) 記号: \(v\):銀河の後退速度(私たちから遠ざかる速度、スカラー量) \(H_0\):ハッブル定数(スカラー量) \(d\):銀河までの距離(スカラー量) 国際単位系 (SI): \(v\):メートル毎秒 (\(\text{m/s}\)) またはキロメートル毎秒 (\(\text{km/s}\)) \(H_0\):1/秒 (\(\text{s}^{-1}\)) またはキロメートル毎秒毎メガパーセク (\(\text{km/s/Mpc}\)) 現在の観測値は約 \(67 \sim 74\text{ km/s/Mpc}\) です。 \(d\):メートル (\(\text{m}\)) またはメガパーセク (\(\text{Mpc}\)) 1メガパーセク (\(\text{Mpc}\)) は約 \(3.26\times10^{6}\) 光年、または \(3.086 \times 10^{22}\) メートルです。 スカラー量かベクトル量か:\(v\) は後退速度の大きさを示すスカラー量として扱われますが、厳密には銀河が遠ざかる方向を持つベクトル量です。\(H_0\) と \(d\) はスカラー量です。 |
\(\left( \frac{\dot{a}}{a} \right)^2 = \frac{8 \pi G \rho}{3} – \frac{k c^2}{a^2} + \frac{\Lambda c^2}{3}\) | フリードマン方程式 (Friedmann Equations) | \left( \frac{\dot{a}}{a} \right)^2 = \frac{8 \pi G \rho}{3} – \frac{k c^2}{a^2} + \frac{\Lambda c^2}{3} | フリードマン方程式は、一般相対性理論に基づき、均一で等方的な宇宙の膨張(または収縮)を記述する基本的な方程式です。ハッブルの法則が観測事実を記述するのに対し、フリードマン方程式は、宇宙の物質・エネルギー密度、曲率、そして宇宙定数が、宇宙の膨張率にどのように影響するかを理論的に説明します。 これは、宇宙論における非常に重要な方程式であり、宇宙の過去、現在、未来を理解するための核となります。 公式:\(\left( \frac{\dot{a}}{a} \right)^2 = \frac{8 \pi G \rho}{3} – \frac{k c^2}{a^2} + \frac{\Lambda c^2}{3}\) 記号: \(a\):スケール因子(無次元量)。宇宙の膨張を示す尺度で、基準となるある時刻における宇宙の大きさを1とした場合の、現在の宇宙の相対的な大きさを示します。\(a\) が大きくなるほど宇宙は膨張しています。 \(\dot{a}\):スケール因子 \(a\) の時間微分。宇宙の膨張速度を表します。 \(\frac{\dot{a}}{a}\):ハッブル定数 \(H\)。現在の宇宙の膨張率 \(H_0\) は、この瞬間の \(\frac{\dot{a}}{a}\) の値です。 \(G\):万有引力定数。 \(\rho\):宇宙全体の全エネルギー密度(質量エネルギー密度)。物質(通常の物質、ダークマター)や放射(光子、ニュートリノ)だけでなく、ダークエネルギーなども含まれます。 \(k\):空間の曲率定数。宇宙全体の幾何学的形状を示す定数です。 \(k=+1\):閉じた宇宙(正の曲率、球のような形状)。いずれ収縮に転じる可能性がある。 \(k=0\):平坦な宇宙(ゼロ曲率、ユークリッド空間のような形状)。膨張が減速しながらも永遠に続く。 \(k=−1\):開いた宇宙(負の曲率、鞍のような形状)。永遠に膨張し続ける。 \(c\):光速。 \(\Lambda\):宇宙定数。アインシュタインが元々導入した、時空自身のエネルギー密度と関連する項。現在ではダークエネルギーの候補の一つとされています。 国際単位系 (SI): \(a\):無次元(比率) \(\dot{a}\):1/秒 (\(\text{s}^{−1}\)) \(G\):\(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\) \(\rho\):\(\text{kg/m}^3\) \(k\):無次元(単位系によって調整されるが、通常はこの形で現れる) \(c\):\(\text{m/s}\) \(\Lambda\):\(\text{m}^{−2}\) もう一つのフリードマン方程式:\(\frac{\ddot{a}}{a}=−\frac{4\pi G}{3}(\rho+\frac{3P}{c^2})+\frac{\Lambda c^2}{3}\) \(P\):宇宙の全圧力 |
\(z = \frac{\lambda_{\text{obs}} – \lambda_{\text{emit}}}{\lambda_{\text{emit}}} = \frac{1}{a} – 1\) | 赤方偏移 (Redshift) | z = \frac{\lambda_{\text{obs}} – \lambda_{\text{emit}}}{\lambda_{\text{emit}}} = \frac{1}{a} – 1 | 赤方偏移 \(z\) は、遠方の天体から届く光の波長が、地球上で観測される際に、元の波長よりも長くなる現象を定量的に表す値です。波長が長くなるということは、光がスペクトルの赤い方へずれることを意味するため、「赤方偏移」と呼ばれます。この現象は、宇宙の膨張を観測的に裏付ける最も重要な証拠の一つであり、現代宇宙論の主要なツールです。 公式:\(z = \frac{\lambda_{\text{obs}} – \lambda_{\text{emit}}}{\lambda_{\text{emit}}} = \frac{1}{a} – 1\) 記号: \(z\):赤方偏移(無次元量) \(\lambda_\text{obs}\):地球上で観測された光の波長 \(\lambda_\text{emit}\):天体が光を放出した時の元の波長(静止波長) \(a\):スケール因子(無次元量)。光が放出された時の宇宙のスケール因子 \(a_\text{emit}\) と観測された時の宇宙のスケール因子 \(a_\text{obs}\) の比 \(a=a_\text{emit}/a_\text{obs}\) を指します。ただし、通常は現在の宇宙のスケールを \(a_\text{obs}=1\) と基準化し、光が放出された時点のスケール因子を \(a\) と表記します。 この場合、光が放出された時点の宇宙のサイズは現在の \(a\) 倍だった、ということになり、\(0<a\leq1\) です。 国際単位系 (SI):\(\text{z}\) は無次元量なので単位はありません。波長はメートル (\(\text{m}\)) です。 スカラー量かベクトル量か:すべてスカラー量です。 |
\(m – M = 5 \log_{10} \left( \frac{d}{\text{10 pc}} \right)\) | 光度-距離関係 (Luminosity-Distance Relation) | m – M = 5 \log_{10} \left( \frac{d}{\text{10 pc}} \right) | ある天体の見かけの明るさ(私たちから見てどれだけ明るいか)と本来の明るさ(その天体が実際にどれだけの光を放出しているか)の間に、その天体までの距離を介した関係があることを示します。 公式:\(m – M = 5 \log_{10} \left( \frac{d}{\text{10 pc}} \right)\) 記号: \(m\):見かけの等級 (Apparent Magnitude)。地球から観測された天体の明るさを対数スケールで表したものです。数字が小さいほど明るく見え、負の数も取ります(例:太陽は約 -27等、満月は約 -13等、シリウスは約 -1.4等)。 \(M\):絶対等級 (Absolute Magnitude)。その天体を10パーセク (10 pc) の距離に置いたと仮定したときの見かけの等級です。これは、天体本来の明るさ(光度)を比較するための基準となります。 \(d\):天体までの距離。単位はパーセク (pc) です。 1パーセク (pc) は約 3.26 光年、または約 \(3.086\times 10^{16}\) メートルです。 \(\log{10}\):常用対数(底が10の対数)。 5:定数。これは等級の定義(5等級の差が明るさの比100倍に相当する)から導かれます。 スカラー量かベクトル量か:すべてスカラー量です。 |
\(2 \langle T \rangle = -\langle V \rangle\) | ビリアル定理 (Virial Theorem) | 2 \langle T \rangle = -\langle V \rangle | ビリアル定理は、安定した束縛系(重力や電磁力などのポテンシャル力によって互いに結びついている系)において、その系の運動エネルギーの平均値とポテンシャルエネルギーの平均値の間に成り立つ関係を示すものです。これは、古典力学、特に天体物理学や統計力学において非常に強力なツールとなります。 公式:\(2 \langle T \rangle = -\langle V \rangle\) 記号: \(\langle T\rangle\):系の全運動エネルギーの長時間平均。 \(\langle V\rangle\):系の全ポテンシャルエネルギーの長時間平均。 国際単位系 (SI): \(\langle T\rangle\):ジュール (\(\text{J}\)) \(\langle V\rangle\):ジュール (\(\text{J}\)) スカラー量かベクトル量か:すべてスカラー量です。 ビリアル定理は、系の構成粒子の位置ベクトル \(\vec{r}_i\) と運動量 \(\vec{p}_i\) を用いた量 \(G=\sum_i\, \vec{p}_i\cdot \vec{r}_i\) の時間平均がゼロになるという事実から導かれます。 平均がゼロになるという事実から導かれます。 \(\frac{dG}{dt}=\sum_i \begin{pmatrix} \frac{d\vec{p}_i}{dt} \cdot \vec{r}_i+\vec{p}_i \cdot \frac{d\vec{r}_i}{dt} \end{pmatrix}\) ここで、\(\frac{d\vec{p}_i}{dt}=\vec{F}_i\)(力)であり、\(\vec{p}_i=m_i\frac{d\vec{r}_i}{dt}\) なので、 \(\frac{dG}{dt}=\sum_i \begin{pmatrix} \vec{F}_i \cdot \vec{r}_i+m_iv_i^2\end{pmatrix}\) \(\sum_i \,m_i v_i^2=2T\)(全運動エネルギーの2倍)です。 もし力がポテンシャル \(V\) から導かれる場合(\(\vec{F}_i=−\nabla_i V\))、そしてポテンシャルが位置のべき 乗に比例する形(\(V \propto r^n\))であれば、\(\sum_i \,\vec{F}_i\cdot \vec{r}_i=−nV\) となります。 したがって、\(\frac{dG}{dt}=−nV+2T\)。 安定した束縛系では、\(\langle \frac{dG}{dt} \rangle=0\) となるため、 \(0=\langle −nV+2T \rangle \implies 2\langle T\rangle =n \langle V \rangle\) 重力ポテンシャルの場合、\(V\propto r^{−1}\) なので \(n=−1\) となり、\(2 \langle T \rangle=− \langle V \rangle\) が得られます。 |
\(B_\nu(T) = \frac{2 h \nu^3}{c^2} \frac{1}{e^{h \nu / k T} – 1}\) | プランクの黒体放射 (Planck’s Blackbody Radiation Law) | B_\nu(T) = \frac{2 h \nu^3}{c^2} \frac{1}{e^{h \nu / k T} – 1} | プランクの黒体放射の法則は、マックス・プランクが1900年に発表した、黒体と呼ばれる理想的な物体から放射される電磁波のスペクトル(波長ごとの強さの分布)を、その温度の関数として記述する法則です。この法則は、エネルギーが連続的ではなく、「量子」と呼ばれる不連続な塊として放出・吸収されるという画期的な概念(量子仮説)を導入したことで、量子力学の幕開けを告げることになりました。 公式:\(B_\nu(T)=\frac{2h\nu^3}{c^2} \frac{1}{e^{h\nu/kT}−1}\) 記号: \(B_\nu(T)\):周波数 \(\nu\) におけるスペクトル輝度(または放射輝度)。単位周波数あたり、単位立体角あたり、単位面積あたりに放射されるエネルギーの量を示します。 \(h\):プランク定数(約 \(6.626×10^{−34}\text{J⋅s}\))。量子論の基本的なスケールを定める定数です。 \(\nu\):電磁波の周波数。 \(c\):光速。 \(k\):ボルツマン定数(約 \(1.381\times 10^{−23}\,\text{J/K}\))。温度とエネルギーを結びつける定数です。 \(T\):黒体の絶対温度(ケルビン単位)。 \(e\):自然対数の底。 国際単位系 (SI): \(B_\nu(T)\):\(W\cdot m^{−2}\cdot \text{sr}^{−1}\cdot \text{Hz}^{−1}\) \(\nu\):ヘルツ (\(\text{Hz}\)) \(T\):ケルビン (\(\text{K}\)) スカラー量かベクトル量か:すべてスカラー量です。 |
\(b\) | ウィーンの変位定数 (Wien’s Displacement Constant) | b | ウィーンの変位定数は、ウィーンの変位則という以下の法則に登場します。 公式:\(\lambda_\text{max}T=b\) 記号: – \(\lambda_\text{max}\):黒体が放射する電磁波のスペクトルにおいて、最も強度が強い(ピークとなる)波長 [latex]\text{m}[/latex] – \(T\):黒体の絶対温度 [latex]\text{K}[/latex] – \(b\):ウィーンの変位定数 [latex]\text{m} \cdot \text{K}[/latex] 物理的意味: この法則は、温度が高い物体ほど、より短い波長(高い周波数)の光を強く放射するということを示しています。つまり、ピークとなる波長は温度に反比例して「変位」する(ずれる)のです。 例: – 鉄を熱すると、最初は赤く(波長が長い)、さらに熱するとオレンジ、黄色、そして白く(より短い波長)光ります。これは、温度が上がるにつれて、放射のピーク波長が赤から白(可視光の短い波長側)へと移動しているためです。 – 太陽の表面温度は約 5800 K ですが、その放射のピーク波長は可視光の中の黄緑色付近にあります。私たちの目がその波長に最も敏感なのは、太陽光に最も適応しているためと考えられます。 – 人間の体温(約 310 K)では、放射のピーク波長は赤外線領域にあります。だから私たちは通常、光って見えませんが、サーモグラフィーのような赤外線カメラでは、体温の高い部分が明るく映し出されます。 値: \(b\approx 2.898\times 10^{−3}\,\text{m}\cdot\text{K}\) 国際単位系 (SI) 単位: メートル・ケルビン (\(\text{m}\cdot\text{K}\)) これは、「波長 (m)」と「温度 (K)」の積の単位です。 宇宙マイクロ波背景放射 (CMB):現在の宇宙の温度が約2.7 K プランク定数 \(h\)、ボルツマン定数 \(k_B\)、光速 \(c\) との関係: $$ b=\frac{hc}{xk_B} $$ – \(h\):プランク定数 – \(k_B\):ボルツマン定数 – \(c\):光速 – \(x\):プランクの法則の関数を微分してピークを求める際に現れる、超越方程式 \(x=5(1−e^{−x})\) の非ゼロ解(約 4.965)です。 |
相対性理論
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(D_\mu\) | 共変微分 (Covariant Derivative) | D_\mu | \(D_\mu\) は、場の理論(特にゲージ理論や一般相対性理論)において、局所的な(位置に依存する)対称性を持つ理論のラグランジアンや運動方程式を構築する際に導入される特別な微分演算子です。通常の微分 \(\partial_\mu\) は局所的な変換の下でうまく振る舞いませんが、共変微分 \(D_\mu\) は、場の変換と同時に「補正項」(ゲージ場)を導入することで、物理法則が局所変換の下でも形を変えない(不変である、または共変である)ことを保証します。 単位:単位は通常の微分と同じく、長さの逆数 (\(m^{−1}\)) となります。 電荷を持つスカラー場 \(\phi\) の場合(U(1)ゲージ理論、QED): \(D_\mu\phi=(\partial_\mu−iqA_\mu)\phi\) \(D_\mu\):共変微分 \(\partial_\mu\):通常の微分 \(A_\mu\):ゲージ場(電磁ポテンシャル) \(q\):場の電荷(結合定数) ディラック・スピノル場 \(\psi\) の場合(QED):\(D_\mu\psi=(\partial_\mu−iqA_\mu)\psi\) ディラック方程式の微分 \(\partial_\mu\psi\) を \(D_\mu\psi\) に置き換えることで、電磁相互作用を考慮した相対論的な電子の運動方程式(ディラック方程式)が得られます。 非アーベルゲージ理論(SU(N)ゲージ理論)の場合:\(D_\mu=\partial_\mu−igT^aA_\mu^a\) \(g\):結合定数 \(T^a\):ゲージ群の生成子(行列) \(A_\mu^a\):ゲージ場の複数の成分 |
\(g_{\mu\nu}\) | メトリックテンソル (Metric Tensor) | g_{\mu\nu} | 時空間の幾何学的構造を記述する非常に重要な2階のテンソルです。これは、私たちが住む宇宙が平坦なユークリッド空間やミンコフスキー空間ではない、曲がった時空であることを数学的に表現し、時空内の2点間の距離や時間間隔、そしてベクトル間の内積を定義するために不可欠な概念です。 単位:無次元量 ミンコフスキー空間(平坦な4次元時空、特殊相対性理論):\(ds^2=−c^2dt^2+dx^2+dy^2+dz^2\) メトリックテンソル:\(ds^2=g_{\mu\nu}dx^\mu dx^\nu\) \(dx^\mu\):時空の微小変位を表す4元ベクトル(\(dx^0=cdt,dx^1=dx,dx^2=dy,dx^3=dz\) など) \(g_{\mu\nu}\):メトリックテンソルです。これは4×4の行列として表現されます。 $$ g_{\mu\nu} = \begin{pmatrix} g_{00} & g_{01} & g_{02} & g_{03} \ g_{10} & g_{11} & g_{12} & g_{13} \ g_{20} & g_{21} & g_{22} & g_{23} \ g_{30} & g_{31} & g_{32} & g_{33} \end{pmatrix} $$ この行列の各成分 \(g_{\mu\nu}\) が、時空の曲率や重力の影響を具体的に示します。 アインシュタイン方程式:\(R_{\mu\nu}−\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}=\frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\) インデックスの上げ下げ: \(V_\mu=g_{\mu\nu}V^\nu\) (反変ベクトルを共変ベクトルに変換) \(V^\mu=g^{\mu\nu}V_\nu\) (共変ベクトルを反変ベクトルに変換) |
\(R_{\mu\nu}\) | リッチテンソル (Ricci Tensor) | R_{\mu\nu} | 一般相対性理論において、時空間の曲率を表す重要な2階のテンソルです。これは、より複雑なリーマンテンソル(リーマン曲率テンソル)\(R_{\sigma\mu\nu}^\rho\) から導出されるもので、時空の体積がどのように変化するか(膨張または収縮するか)という情報を含んでいます。アインシュタイン方程式において、時空の幾何学(曲率)と物質・エネルギーの分布を結びつける、中心的な役割を担います。 単位:長さの逆数の2乗 (\(\text{m}^{−2}\)) リッチテンソルの定義:\(R_{\mu\nu}=R_{\mu\rho\nu}^\rho\) より基本的なリーマンテンソル \(R_{\sigma\mu\nu}^\rho\) を、特定のインデックスで縮約(和をとる)することによって定義されます。 アインシュタイン方程式の核:\(R_{\mu\nu}−\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}=\frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\) \(g_{\mu\nu}\):メトリックテンソル(時空の幾何学そのもの)。 \(R=g^{\mu\nu}R_{\mu\nu}\):リッチ・スカラー(Ricci Scalar)と呼ばれ、リッチテンソルをさらに縮約したもので、時空の全体的な曲率の度合いを表します。 \(T_{\mu\nu}\):エネルギー運動量テンソル(物質やエネルギーの分布と流れ)。 |
\(\Gamma^\lambda_{\mu\nu}\) | クリストッフェル記号 (Christoffel Symbols) | \Gamma^\lambda_{\mu\nu} | 曲がった空間(多様体)における「接続」 を表す量です。具体的には、曲がった空間内でベクトルを平行移動させたときに、そのベクトルの成分がどのように変化するかを記述します。一般相対性理論においては、重力場の「力」 を表すものであり、質点が曲がった時空を移動する際の測地線(最短経路や慣性経路) を決定するのに不可欠です。 単位:無次元量 (または長さの逆数 [latex]m^{−1}[/latex]、座標の取り方による) クリストッフェル記号の定義:\(\Gamma_{\mu\nu}^\lambda=\frac{1}{2}g^{\lambda\rho}(\partial_\mu g_{\nu\rho}+\partial_\nu g_{\rho\mu}−\partial_\rho g_{\mu\nu})\) \(g_{\mu\nu}\):メトリックテンソル \(g^{\lambda\rho}\):メトリックテンソル $g_{\lambda\rho}$ の逆行列の成分です。 \(\partial_\mu\):時空の微分演算子。 この定義が示すように、クリストッフェル記号はメトリックテンソル \(g_{\mu\nu}\) が時空の各点でどのように変化するか(つまり、時空がどのように曲がっているか) に依存します。メトリックテンソルが定数の場合(平坦な時空)、クリストッフェル記号は全てゼロになります。 測地線方程式の構築:\(\frac{d^2x^\lambda}{d\tau^2}+\Gamma_{\mu\nu}^\lambda \frac{dx^\mu}{d\tau}\frac{dx^\nu}{d\tau}=0\) \(\tau\):固有時間(粒子の時計が刻む時間) 重力場: クリストッフェル記号は、まさに重力場そのものであると見なすこともできます。ニュートン力学における重力ポテンシャルに対応する役割を果たし、粒子の運動に影響を与える「場の強さ」を示します。 |
\(x’ = \gamma (x – v t) , t’ = \gamma \left( t – \frac{v x}{c^2} \right) , \gamma = \frac{1}{\sqrt{1 – v^2/c^2}}\) | ローレンツ変換 (Lorentz Transformation) | x’ = \gamma (x – v t) , t’ = \gamma \left( t – \frac{v x}{c^2} \right) , \gamma = \frac{1}{\sqrt{1 – v^2/c^2}} | ローレンツ変換は、相対性理論における異なる慣性系間の座標変換を記述する方程式です。特に、一方の慣性系が他方に対して一定の速度 \(v\) で相対運動している場合に適用されます。この変換は、ガリレイ変換(古典力学における座標変換)を修正し、光速度不変の原理と相対性原理という特殊相対性理論の二つの基本的な仮定を満たすように構築されています。 公式: \(x’=\gamma \left(x−vt \right)\) \(t’=\gamma \left( t−\frac{vx}{c^2} \right)\) \(\gamma=\frac{1}{\sqrt{1−v^2/c^2}}\) 記号: \((x,t)\):静止している慣性系(S系)における位置と時間。 \((x’,t’)[latex]:速度 [latex]v\) で \(x\) 軸方向に運動している慣性系(S’系)における位置と時間。 \(v\):\(S’\)系がS系に対して相対的に運動する速度。 \(c\):光速(約 \(2.998\times 10^{8}\text{ m/s}[latex])。 [latex]\gamma\):ローレンツ因子またはローレンツブースト因子と呼ばれる量。 国際単位系 (SI): \(x,x’\):メートル (\(\text{m}\)) \(t,t’\):秒 (\(\text{s}\)) \(v,c\):メートル毎秒 (\(\text{m/s}\)) \(\gamma\):無次元量 ローレンツ因子 \(\gamma\): \(\gamma=\frac{1}{\sqrt{1−v^2/c^2}}\) \(v=0\) の場合、\(\gamma=1\) となり、ローレンツ変換はガリレイ変換に一致します \((x’=x, t’=t)\)。これは、低速の世界では特殊相対性理論が古典力学と矛盾しないことを意味します。 \(v\) が \(c\) に近づくにつれて、\(v^{2}/c^{2}\) は1に近づき、分母がゼロに近づくため、\(\gamma\) は無限大に発散します。これは、光速に達するためには無限のエネルギーが必要であり、質量を持つ物体が光速に達することはできないことを示唆しています。 \(v>c\) の場合、\(\gamma\) が虚数となるため、ローレンツ変換は実数空間で定義できなくなり、物理的に意味を持ちません。 |
\(E^2 = (p c)^2 + (m c^2)^2\) | エネルギー-運動量関係 (Energy-Momentum Relation) | E^2 = (p c)^2 + (m c^2)^2 | この式は、特殊相対性理論における粒子の総エネルギー (\(E\))、運動量 (\(p\))、静止質量 (\(m\))、そして光速 (\(c\)) の間の関係を記述する非常に重要な公式です。これは、アインシュタインの有名な質量-エネルギー等価性 \(E=mc^2\) を含む、より一般的な関係性を示しています。 公式:\(E^{2}=(pc)^{2}+(mc^{2})^{2}\) 記号: \(E\):粒子の総エネルギー。運動エネルギーと静止エネルギーの合計です。 \(p\):粒子の運動量。相対論的な運動量は \(p=\gamma mv\) で与えられます(古典的な \(p=mv\) の相対論的拡張)。 \(m\):粒子の静止質量(または不変質量)。粒子が静止しているときに持つ質量です。 \(c\):光速(約 \(2.998\times 10^{8}\text{ m/s}\))。 国際単位系 (SI): \(E\):ジュール (\(J\)) \(p\):キログラム・メートル毎秒 (\(\text{kg}\cdot\text{m/s}\)) \(m\):キログラム (\(\text{kg}\)) \(c\):メートル毎秒 (\(\text{m/s}\)) スカラー量かベクトル量か:\(E,p,m,c\) は全てスカラー量です。運動量 \(p\) はベクトル量ですが、この式ではその大きさ(絶対値)が使われています。 |
\(r_s = \frac{2 G M}{c^2}\) | シュワルツシルト半径 (Schwarzschild Radius) | r_s = \frac{2 G M}{c^2} | シュワルツシルト半径は、ブラックホールの「事象の地平面 (Event Horizon)」の半径を定義する物理量です。これは、特定の質量を持つ天体が、その半径よりも小さく収縮した場合にブラックホールとなる、という臨界半径を示しています。この半径の内側に入ると、光さえもその天体の重力から脱出できなくなり、外部の観測者には内部の事象が一切見えなくなります。 公式:\(r_s=\frac{2GM}{c^{2}}\) 記号: \(r_s\):シュワルツシルト半径(スカラー量) \(G\):万有引力定数(約 \(6.674\times10^{−11}\text{ N}\cdot \text{m}^{2}/\text{kg}^{2}\)) \(M\):天体の質量(スカラー量) \(c\):光速(約 \(2.998\times 10^{8}\text{ m/s}\)) 国際単位系 (SI): \(r_s\):メートル (\(\text{m}\)) \(M\):キログラム (\(\text{kg}\)) スカラー量かベクトル量か:すべてスカラー量です。 |
\(R_{\mu\nu} – \frac{1}{2} g_{\mu\nu} R + \Lambda g_{\mu\nu} = \frac{8 \pi G}{c^4} T_{\mu\nu}\) | アインシュタイン方程式 (Einstein Field Equations) | R_{\mu\nu} – \frac{1}{2} g_{\mu\nu} R + \Lambda g_{\mu\nu} = \frac{8 \pi G}{c^4} T_{\mu\nu} | アインシュタイン方程式は、アルベルト・アインシュタインが1915年に発表した一般相対性理論の根幹をなす方程式です。これは、物質とエネルギーが時空の幾何学的構造(曲がり具合)をどのように決定し、逆に、その曲がった時空が物質とエネルギーの運動にどのように影響を与えるかを記述します。 公式:\(R_{\mu\nu} – \frac{1}{2} g_{\mu\nu} R + \Lambda g_{\mu\nu} = \frac{8 \pi G}{c^4} T_{\mu\nu}\) 記号: この方程式は、テンソル方程式であり、通常は \(\mu,\nu\) が0から3までのインデックス(0は時間、1,2,3は空間次元)を取るため、見た目よりもはるかに多くの独立した方程式(最大10個)を含んでいます。 左辺:時空の幾何学(曲がり具合)を表す部分 \(R_{\mu\nu}\):リッチテンソル。時空の曲率を表す量の一つで、空間の体積変化に関する曲率の情報を含みます。 \(g_{\mu\nu}\):計量テンソル。時空の構造(距離や時間間隔)を定義する基本的な量です。時空の「定規」や「時計」のような役割を果たし、重力のポテンシャルを表します。 \(R\):スカラー曲率(リッチスカラー)。リッチテンソル \(R_{\mu\nu}\) を計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) で縮約(和を取る)したもので、時空の平均的な曲率を示すスカラー量です。 \(\Lambda\):宇宙定数。宇宙論的定数であり、時空自身の固有のエネルギー密度または圧力に対応します。現在ではダークエネルギーの候補とされています。 右辺:物質とエネルギーの分布を表す部分 \(G\):万有引力定数。重力の強さを定める物理定数です。 \(c\):光速。 \(T_{\mu\nu}\):エネルギー・運動量テンソル。時空における物質やエネルギー、運動量、圧力、応力の分布とその流れを示す量です。重力の源となります。 国際単位系 (SI): \(R_{\mu\nu},R\):\(1/\text{m}^2\) \(g_{\mu\nu}\):無次元 \(\Lambda\):\(1/\text{m}^2\) \(G\):\(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\) \(c\):\(\text{m/s}\) \(T_{\mu\nu}\):\(\text{N/m}^2\) または \(\text{J/m}^3\) スカラー量かベクトル量か:\(G,c,\Lambda\) はスカラー量です。\(R_{\mu\nu},g_{\mu\nu},T_{\mu\nu}\) はテンソル量、 \(R\) はスカラー曲率(テンソルを縮約したスカラー量)です。 |
\(\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} + \Gamma^\mu_{\alpha\beta} \frac{d x^\alpha}{d\tau} \frac{d x^\beta}{d\tau} = 0\) | 測地線方程式 (Geodesic Equation) | \frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} + \Gamma^\mu_{\alpha\beta} \frac{d x^\alpha}{d\tau} \frac{d x^\beta}{d\tau} = 0 | 測地線方程式は、一般相対性理論において、重力の影響下で自由運動する(外力を受けない)粒子や光が、時空の曲がりに従ってどのような軌道を描くかを記述する方程式です。これは、ニュートン力学における「慣性の法則」(外力を受けない物体は等速直線運動をする)の一般相対性理論における拡張版と考えることができます。 公式:\(\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} + \Gamma^\mu_{\alpha\beta} \frac{d x^\alpha}{d\tau} \frac{d x^\beta}{d\tau} = 0\) 記号: \(x^{\mu}\):時空の座標(\(\mu\) は0から3のインデックスで、0は時間、1,2,3は空間次元を表す)。\(x-{\mu}(\tau)\) は、粒子や光の時空上の軌跡(世界線)を表します。 \(\tau\):固有時間(スカラー量)。粒子の世界線に沿って測定される時間です。粒子が静止している座標系で計った時間と考えることができます。光子の場合は固有時間がゼロであるため、別のパラメータ(例えば、光の波長など)を用いる必要があります。 \(\frac{dx^{\alpha}}{d^{\tau}}\):4元速度。時空上の粒子の速度を表します。 \(\frac{d^2x^\mu}{d\tau^2}\):4元加速度。時空上の粒子の加速度を表します。 \(\Gamma_{\alpha\beta}^\mu\):クリストッフェル記号。これは時空の曲率を定量的に表す量であり、計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) の微分から計算されます。簡単に言えば、時空がどれだけ歪んでいるか、そしてその歪みが座標系にどう影響するかを示します。 これがゼロの場合(つまり時空が平坦な場合)、方程式は \(\frac{d^2x^\mu}{d\tau^2}=0\) となり、これは4次元時空における等速直線運動(慣性の法則)を表します。 国際単位系 (SI): \(x^\mu\):メートル (\(\text{m}\)) (時間次元は \(ct\) の形でメートルに変換) \(\tau\):秒 (\(\text{s}\)) \(\Gamma_{\alpha\beta}^\mu\):1/m (または無次元、単位系の取り方による) スカラー量かベクトル量か:\(x^\mu\) は4元ベクトル(時空の座標)。\(\Gamma_{\alpha\beta}^\mu\) :クリストッフェル記号。これはテンソルではないが、座標変換の際にテンソルと似た変換性を持つ量。 |
\(\Delta t’ = \gamma \Delta t\) | 時間膨張 (Time Dilation) | \Delta t’ = \gamma \Delta t | 時間膨張は、相対運動する二つの慣性系の間で、時間の進み方が異なるという特殊相対性理論の現象です。具体的には、相対的に速い速度で運動している慣性系の中の時計は、静止している慣性系から見ると、遅れて進むように観測されます。 公式:\(\Delta t’=\gamma \Delta t\) 記号: \(\Delta t’\):静止している観測者(S系)から見た、運動している時計の時間間隔。つまり、運動している時計が刻んだ時間 \(\Delta t\) を、静止系から見ると \(\Delta t’\) だけの時間が経過したと観測される。 \(\Delta t\):運動している時計(S’系)で実際に刻まれた時間間隔(固有時間、Proper Time)。これは、その時計と「同じ場所」にいる観測者が測る時間。 \(\gamma\):ローレンツ因子。\(\gamma=\frac{1}{\sqrt{1-v^2/c^2}}\) で定義されます。 \(v\):S’系(運動している系)がS系(静止している系)に対して相対的に運動する速度。 \(c\):光速。 国際単位系 (SI): \(\Delta t,\Delta t’\):秒 (\(\text{s}\)) \(v,c\):メートル毎秒 (\(\text{m/s}\)) \(\gamma\):無次元量 スカラー量かベクトル量か:すべてスカラー量です。 \(\gamma\) の役割: \(v=0\) の場合(相対速度がゼロ)、\(\gamma=1\) となり、\(\Delta t’=\Delta t\)。つまり、相対運動がなければ時間の進み方は同じです。 \(v\) が大きくなり \(c\) に近づくにつれて、\(v^2/c^2\) は1に近づき、\(\gamma\) は1よりも大きくなり、無限大に発散します。 \(\gamma\geq 1\) であるため、\(\Delta t’\geq \Delta t\) となります。これは、運動している系で刻まれる時間 \(\Delta t\) は、静止している系から見ると、より長い時間 \(\Delta t’\) をかけて進む、つまり運動している時計の方が遅れて見えることを意味します。 「固有時間」の重要性: \(\Delta t\) は「固有時間」と呼ばれます。これは、事象が起こる場所と同じ場所で計測される時間を指します。例えば、動いている宇宙船内の乗組員が宇宙船の時計で測る時間や、素粒子自身の寿命などです。固有時間は、どの観測者から見ても不変な時間間隔です。 |
\(\Lambda\) | 宇宙定数 (Cosmological Constant) | \Lambda | 記号:\(\Lambda\) 物理的意味: 宇宙定数 \(\Lambda\) は、時空そのものが持つ固有のエネルギー密度、あるいは真空のエネルギーと解釈されます。これは、物質やエネルギーが存在しなくても、宇宙空間そのものが持つ「内圧」または「張力」 のようなものとして機能します。 斥力(反重力)としての作用: もし \(\Lambda\) が正の値であれば、それは空間そのものを膨張させようとする斥力(反重力) として作用します。この力は、宇宙の膨張とともにその密度が薄まることなく、一定のエネルギー密度を保ち続けるという特徴があります。 引力としての作用: もし \(\Lambda\) が負の値であれば、それは空間を収縮させようとする引力として作用します。 値: 現在の観測からは、宇宙定数は非常に小さいながらも正の値を持つことが示唆されています。その値は、宇宙全体のエネルギー密度の約70%を占める「ダークエネルギー」の最も単純なモデルとして受け入れられています。\(\Lambda\approx10^{−52}\text{ m}^{−2}\)(長さの逆数の2乗) エネルギー密度に換算すると、約 \(10^{−9}\text{J}/\text{m}^3\) 程度という、極めて小さな値です。 国際単位系 (SI) 単位: 毎平方メートル (\(\text{m}^{−2}\)) これは、「長さの逆数の2乗」の単位であり、曲率や時空の歪みと関連する量であることを示唆しています。エネルギー密度として扱う場合は、[latex]\text{J/m}^3[/latex] の単位となります。 |
\(R^\rho_{\sigma \mu \nu}\) | リーマン曲率テンソル (Riemann Curvature Tensor) | R^\rho_{\sigma \mu \nu} | 一般相対性理論において、時空の曲がり具合(曲率)を数学的に記述するための最も基本的な量です。ガウス曲率が2次元の曲面の曲がり具合を表すのに対し、リーマン曲率テンソルはより高次元の空間(多様体)、特にアインシュタインの理論における4次元の時空がどのように曲がっているかを、あらゆる点で、あらゆる方向について詳細に表現します。 数学的な定義:$$ R^\rho_{\sigma \mu \nu} = \partial_\mu \Gamma^\rho_{\nu \sigma} – \partial_\nu \Gamma^\rho_{\mu \sigma} + \Gamma^\rho_{\mu \lambda} \Gamma^\lambda_{\nu \sigma} – \Gamma^\rho_{\nu \lambda} \Gamma^\lambda_{\mu \sigma} $$ \(\rho\):どの成分のベクトルが変化するか(出力の方向)。 \(\sigma\):どのベクトルを平行移動させるか(入力のベクトル)。 \(\mu,\nu\):どの平面(方向)に沿って平行移動させるか(平行移動の経路の微小な面積要素の2つの方向)。 リッチテンソル (Ricci Tensor) \(R_{\mu\nu}\):$$ R_{\mu\nu}=R_{\mu\rho\nu}^\rho $$ スカラー曲率 (Scalar Curvature) \(R\):$$ R=R_{\mu}^\mu=g^{\mu\nu}R_{\mu\nu} $$ |
\(\nabla_V T^\mu = V^\nu \partial_\nu T^\mu + \Gamma^\mu_{\nu \lambda} V^\nu T^\lambda\) | 平行移動 (Parallel Transport) または 共変微分 (Covariant Derivative) | \nabla_V T^\mu = V^\nu \partial_\nu T^\mu + \Gamma^\mu_{\nu \lambda} V^\nu T^\lambda | 曲がった空間(多様体)においてベクトルやテンソルを「平行に移動させる」という操作を数学的に記述したものです。古典的なユークリッド空間(平らな空間)であれば、ベクトルを平行に移動させてもその向きや長さは変わりませんが、曲がった空間ではそうはいきません。空間の曲がりに応じて、ベクトルの成分も変化するように見えます。 式の各要素:$$ \nabla_V T^\mu = V^\nu \partial_\nu T^\mu + \Gamma^\mu_{\nu \lambda} V^\nu T^\lambda $$ |
\(ds^2 = -c^2 dt^2 + a(t)^2 \left( \frac{dr^2}{1 – k r^2} + r^2 d\theta^2 + r^2 \sin^2 \theta d\phi^2 \right)\) | FLRW計量 (Friedmann–Lemaître–Robertson–Walker Metric) | ds^2 = -c^2 dt^2 + a(t)^2 \left( \frac{dr^2}{1 – k r^2} + r^2 d\theta^2 + r^2 \sin^2 \theta d\phi^2 \right) | FLRW計量(フリートマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカー計量)は、現代宇宙論の標準モデルの基礎となる時空の計量(距離の測り方) です。これは、アインシュタインの一般相対性理論の方程式の解の一つであり、大規模なスケールで見た宇宙の最も良い近似とされています。 FLRW計量は、以下の宇宙論原理 (Cosmological Principle) という基本的な仮定に基づいています。 等質性 (Homogeneity):宇宙は十分に大きなスケールで見ると、どの場所も同じように見える。つまり、物質やエネルギーの分布は平均的に均一である。 等方性 (Isotropy):宇宙はどの方向を見ても同じように見える。つまり、特定の好ましい方向が存在しない。 FLRW計量の式:$$ ds^2 = -c^2 dt^2 + a(t)^2 \left( \frac{dr^2}{1 – k r^2} + r^2 d\theta^2 + r^2 \sin^2 \theta d\phi^2 \right) $$ この式は、時空上の2つの無限に近接した点間の「距離の2乗」(\(ds^{2}\)) を表しています。各項の意味を見ていきましょう。 時間成分:\(−c^{2}dt^{2}\) \(c\):光速です。 \(dt\):微小な時間の変化です。 この項は、時間方向の距離(厳密には固有時間)を表します。マイナス符号は、時空が「ミンコフスキー的」であること(時間と空間が異なる性質を持つこと)を示します。 スケール因子:\(a(t)^2\) \(a(t)\):スケール因子と呼ばれ、時間 \(t\) の関数です。これがFLRW計量の最も重要な特徴であり、宇宙全体の膨張(または収縮) を表します。 \(a(t)\) が大きくなるほど、空間座標間の物理的な距離が引き伸ばされることを意味します。現在の宇宙では \(a(t)\) は時間とともに増大しており、これが宇宙の膨張を示しています。 通常、現在の宇宙の時刻 \(t_0\) では \(a(t_0)=1\) と正規化されます。過去の宇宙では \(a(t)<1\)、未来の宇宙では \(a(t)>1\) となります。 宇宙論的赤方偏移は、このスケール因子の変化によって説明されます(遠くの銀河からの光が赤方偏移して見えるのは、光が伝播する間に宇宙空間が引き伸ばされた結果です)。 空間成分(カッコ内の部分): これは、宇宙の空間的な曲率を記述する部分です。球面座標 (\(r,\theta,\phi\)) を用いています。 \(dr^2\) 項: \(r\):動径方向の共動座標です。宇宙が膨張しても、銀河などの天体は(重力で束縛されていない限り)この共動座標に対しては静止していると見なされます。 \(k\):曲率パラメータ(または曲率定数) です。これは宇宙全体の空間的な幾何学的形状を決定します。 \(k=+1\):閉じた宇宙 (Closed Universe)。空間は正の曲率を持ち、有限な体積を持ちます(例: 3次元の球の表面のようなもの)。最終的には収縮に転じる可能性があります。 \(k=0\):平坦な宇宙 (Flat Universe)。空間はユークリッド的(平坦)であり、無限に広がります。現在の宇宙の観測データ(特に宇宙マイクロ波背景放射)はこの \(k=0\) に非常に近いことを示唆しています。 \(k=−1\):開いた宇宙 (Open Universe)。空間は負の曲率を持ち、無限に広がります(例: 双曲面のようなもの)。常に膨張し続けると考えられます。 \(1−kr^{2}\):この項によって、空間の曲率が考慮されます。 \(r^{2}d\theta^{2}+r^{2} \sin^{2} \theta d\phi^{2}\) 項: \(\theta,\phi\):角度方向の座標です。この部分は、球面に沿った距離の測り方を示しており、通常の球面座標と同じ形式です。 |
\(R = g^{\mu\nu} R_{\mu\nu}\) | リッチスカラー (Ricci Scalar) | R = g^{\mu\nu} R_{\mu\nu} | リッチスカラー \(R\) は、一般相対性理論において、時空の全体的な曲がり具合(平均的な曲率)を表す単一のスカラー値です。これは、リーマン曲率テンソルから派生する量であり、特にアインシュタインの重力場方程式の重要な構成要素となります。 定義:$$ R=g^{\mu\nu}R_{\mu\nu} $$ \(R_{\mu\nu}\) はリッチテンソルです。これはリーマン曲率テンソル \(R_{\sigma \mu\nu}^\rho\) から導かれ、時空の体積がどのように変化するか、つまり平均的な収縮または発散の傾向を示します。 \(g^{\mu\nu}\) は計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) の逆テンソルです。計量テンソルは時空内の距離や角度を測定するための基本的なツールです。逆テンソルは、上下の添え字を操作するために用いられます。 アインシュタインテンソルとの関係 :$$ G_{\mu\nu}=R_{\mu\nu}−\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu} $$ |
\(\frac{d}{d\tau} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{x}^\mu} \right) – \frac{\partial L}{\partial x^\mu} = 0\) | オイラー-ラグランジュ方程式 (Euler-Lagrange Equation) | \frac{d}{d\tau} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{x}^\mu} \right) – \frac{\partial L}{\partial x^\mu} = 0 | オイラー-ラグランジュ方程式は、最小作用の原理 (Principle of Least Action) に基づいて、ある物理系(または幾何学的パス)の運動方程式や振る舞いを導出するための中心的な方程式です。この原理は、「系は常に、ある『作用』と呼ばれる量を最小(または停留)にするような経路を通る」と述べています。 オイラー-ラグランジュ方程式は、ラグランジアン (Lagrangian) L と呼ばれる関数から導かれます。ラグランジアンは、系の状態を表す座標 \(x^\mu\) と、その座標の時間微分 \(\dot{x}^\mu\)(速度に相当)の関数です。 $$ \frac{d}{d\tau} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{x}^\mu} \right) – \frac{\partial L}{\partial x^\mu} = 0 $$ ここで、 \(L(x^\mu,\dot{x}^\mu)\): ラグランジアン関数です。通常、系の運動エネルギーからポテンシャルエネルギーを引いたものとして定義されます \((L=T−V)\)。 幾何学的な文脈では、このラグランジアンは、曲線が空間(多様体)を通過する際の「長さ」や「固有時間」を定義するのに使われる関数となります。 \(x^{\mu}\):系の一般化座標です。これは、私たちが記述したい対象の位置や状態を表す変数で、例えば3次元空間での \((x,y,z)\) 座標や、相対性理論における時空の座標 \((t,x,y,z)\) などが該当します。\(\mu\) は添え字で、複数の座標があることを示します(例:\(\mu=0,1,2,3\))。 \(\dot{x}^\mu\):一般化座標の時間微分です。これは一般化速度に相当します(例:\(\dot{x}=dx/d\tau, \dot{t}=dt/d\tau\) など)。 \(\tau\): これはパラメータです。物理学では時間 \(t\) を用いることが多いですが、幾何学的な文脈では、曲線に沿った任意のパラメータ(例えば、曲線の弧長や固有時間)を用いることができます。 \(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}^\mu}\): ラグランジアン \(L\) を、特定の一般化速度 \(\dot{x}^\mu\) で偏微分したものです。これは、一般化運動量に相当する量です。 \(\frac{\partial L}{\partial x^\mu}\): ラグランジアン \(L\) を、特定の一般化座標 \(x^{\mu}\) で偏微分したものです。これは、一般化力に相当する量です。 \(\frac{d}{d\tau} \begin{pmatrix}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}^\mu} \end{pmatrix}\): 一般化運動量を、パラメータ \(\tau\) で全微分したものです。これは、運動量の時間変化率(力)に相当します。 |
量子力学
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\psi , \Psi\) | 波動関数 (Wave Function) | \psi , \Psi | 量子力学において、粒子(電子、陽子、光子などの量子)の状態を記述する数学的な関数です。古典物理学における粒子の位置や運動量といった明確な量が、量子力学では確率的にしか定まらないため、その粒子の存在確率や運動の振る舞いに関する全ての情報が波動関数に凝縮されています。 単位:単位は文脈によって異なりますが、波動関数の絶対値の2乗 \(|\Psi|^2\) が確率密度となるため、N 次元空間 の波動関数(例:3次元空間)の場合、その単位は \(m^{−N/2}\) となります(確率密度の単位が \(m^{−N}\) のため)。 確率密度:\(\rho(\vec{r},t)=\left|\Psi(\vec{r},t)\right|^2\) (\(|\Psi|^2\) が確率密度を表す)。そして、微小体積 \(dV\) 内に粒子が存在する確率は \(\rho(\vec{r},t)dV=\left|\Psi(\vec{r},t)\right|^2dV\) となる。 \(t\):ある時刻 \(\vec{r}\):粒子が位置 \(dV\):微小体積 \(P(\vec{r},t)\):存在する確率 規格化条件:粒子が宇宙のどこかには必ず存在するという物理的要請から、全空間にわたって確率密度を積分すると 1 になる必要があります。 \(\int\left|\Psi(\vec{r},t)\right|^2dV=1\) 時間に依存しないシュレーディンガー方程式(定常状態):\(\hat{H}\psi=E\psi\) \(\hat{H}\):ハミルトニアン演算子(系の全エネルギーに対応する演算子) \(E\):系のエネルギー固有値です。 時間に依存するシュレーディンガー方程式(一般的な状態):\(i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\Psi(\vec{r},t)=\hat{H}\Psi(\vec{r},t)\) \(i\):虚数単位 \(\hbar\):ディラック定数(プランク定数 \(h\) を \(2\pi\) で割ったもの) |
\(|\psi\rangle , \langle \psi|\) | 状態ベクトル (State Vector) | |\psi\rangle , \langle \psi| | 量子力学において、ある量子系(粒子、原子、分子など)の可能な限り完全な物理的状態を記述する抽象的な数学的エンティティです。 ケット・ベクトル (Ket Vector):\(|\Psi \rangle\)または \(|\psi \rangle\) ここで \(\Psi\) や \(\psi\) は、特定の状態を識別するためのラベルです。通常、\(\Psi\) は時間依存の一般的な状態を、\(\psi\) は時間独立の固有状態を表すのに用いられます。 ブラ・ベクトル (Bra Vector):\(\langle\Psi|\) または\(\langle \psi |\) ケット・ベクトルの共役転置(複素共役をとって行列の転置を行う)に相当し、主に内積を形成するために使われます。 重ね合わせの原理:\(|\Psi\rangle=c_A|A\rangle+c_B|B\rangle\) ここで \(c_A\) と \(c_B\) は複素数であり、それぞれの状態が混ざり合う度合い(確率振幅)を表します。 確率的解釈(ボルンの規則):\(P(A)=|\langle A|\Psi\rangle|^2\) この内積 \(\langle A | \Psi \rangle\) は、状態 \(| \Psi\rangle\) が状態 \(|A\rangle\) になる「確率振幅」と呼ばれます。 規格化 (Normalization):\(\langle \Psi | \Psi \rangle=1\) 情報集約性:\(\langle Q\rangle=\langle \Psi| \hat{Q}|\Psi\rangle\) 波動関数との関係:\(\Psi(\vec{r},t)=\langle\vec{r}|\Psi(t)\rangle\) ここで \(|\vec{r}\rangle\) は、粒子が位置 \(\vec{r}\) に「いる」という状態を表す基底ベクトルです。 |
\(\hat{H} , H\) | ハミルトニアン (Hamiltonian) | \hat{H} , H | 量子力学において、系の全エネルギーを表す重要な演算子(オペレーター)です。古典力学では、系の全エネルギーを記述するスカラー関数としてハミルトニアンが用いられますが、量子力学では、その概念が演算子へと拡張され、系の時間発展を司る役割を担います。 ハミルトニアンの定義:\(H=T+V\) \(H\):ハミルトニアン \(T\):系の運動エネルギー \(V\):ポテンシャルエネルギー 運動エネルギー演算子:\(\hat{T}=\frac{\hat{p}^2}{2m}=−\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2\) \(p\):古典的な運動量 \(\hat{p}=−i\hbar\nabla\):量子力学では演算子 \(\hat{T}\):運動エネルギー演算子 \(m\):粒子の質量 \(\hbar\):ディラック定数 \(\nabla^2\):ラプラシアン演算子 ポテンシャルエネルギー演算子:\(\hat{V}=V(\hat{r},t)\) \(\hat{H}\):量子力学におけるハミルトニアン演算子 時間に依存するシュレーディンガー方程式:\(i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\Psi (\vec{r},t)=\hat{H}\Psi(\vec{r},t)\) 時間に依存しないシュレーディンガー方程式:\(\hat{H}\psi=E\psi\) \(\hat{H}\):ハミルトニアン \(\psi\):波動関数 \(E\):系のエネルギー固有値 水素原子のハミルトニアン:\(\hat{H}=−\frac{\hbar^2}{2m_e}\nabla^2 − \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0|\vec{r}|}\) \(V(\vec{r})\):陽子のクーロン引力によるポテンシャルエネルギー \(E_n\):水素原子の電子が取りうるエネルギー準位 |
\(\hat{x} , \hat{r}\) | 位置演算子 (Position Operator) | \hat{x} , \hat{r} | 量子力学において、粒子の位置という物理量を表す演算子です。古典力学では位置は単なる数値ですが、量子力学では粒子の位置が確率的にしか定まらないため、それを「測定する」という行為に対応する演算子として定義されます。 単位:メートル(\(\text{m}\)) 位置表示における定義:\(\hat{x}\Psi(x)=x\Psi(x)\)。これは、位置演算子が波動関数に作用したとき、波動関数の引数である位置そのものを返すことを意味します。 \(\hat{x}\):位置演算子 \(\Psi(x)\):波動関数 3次元の場合も同様:\(\vec{r}\Psi(\vec{r})=\vec{r}\Psi(\vec{r})\) \(\hat{r}\):位置演算子 \(\Psi(\vec{r})\) :波動関数 位置の期待値:\(\langle\hat{r}\rangle=\int\Psi^∗(\vec{r},t)\hat{r}\Psi(\vec{r},t)dV=\int\Psi^∗(\vec{r},t)\vec{r}\Psi(\vec{r},t)dV\) \(\Psi^*\):波動関数の複素共役 他の演算子との組み合わせ:\(\hat{H}=\frac{\hat{p}^2}{2m}+V(\hat{r},t)\) \(\vec{H}\):ハミルトニアン演算子 \(V(\vec{r},t)\):ポテンシャルエネルギー項 |
\(\hat{L} , \hat{L}_z\) | 角運動量演算子 (Angular Momentum Operator) | \hat{L} , \hat{L}_z | 量子力学において、粒子の角運動量という物理量を表す演算子です。古典力学における角運動量は、粒子の回転運動の度合いを示す量ですが、量子力学ではこの概念も量子化され、演算子として表現されます。 単位:ジュール秒 (\(\text{J⋅s}\)) 角運動量の量子化:\(\hat{L}^2=\hat{L}_x^2+\hat{L}_y^2+\hat{L}_z^2\) 非可換性:\([L_x,L_y]=i\hbar\hat{L}_z\) 回転対称性:\([\hat{H},\hat{L}]=0\) スピン角運動量 (Spin Angular Momentum):スピン角運動量の大きさの2乗の固有値は \(\hbar^2s(s+1)\)、特定の軸成分(例えばZ軸)の固有値は \(\hbar m_s\) となります(\(s=1/2\) の電子の場合、\(m_s=\pm1/2\))。 全角運動量 (Total Angular Momentum):\(\hat{J}=\hat{L}+\hat{S}\) |
\(\hat{S} , \hat{S}_z\) | スピン演算子(Spin Operator) | \hat{S} , \hat{S}_z | 量子力学において、粒子の持つスピン角運動量という物理量を表す演算子です。スピンは、古典的な意味での「自転」とは異なり、粒子の内的な(固有の)角運動量であり、純粋に量子力学的な性質です。 単位:演算子が表す物理量(スピン角運動量)の単位と同じく、ジュール秒 (\(\text{J}\cdot\text{s}\)) の次元を持ちます。 スピンの大きさの2乗:\(\hat{S}^2=\hat{S}_x^2+\hat{S}_y^2+\hat{S}_z^2\) の固有値は常に \(\hbar^2s(s+1)\) の形をとります。 特定の軸成分 (\(m_s\)):いずれかの軸(慣習的にZ軸)のスピン \(\hat{S}_z\) の固有値は常に \(\hbar m_s\) の形をとります。ここで \(m_s\) はスピン磁気量子数と呼ばれ、\(−s,−s+1,\ldots,s−1,s\) の値をとります。 スピン1/2の粒子の場合、\(m_s=+1/2\)(通常 \(|\uparrow \rangle\) と表記)と \(m_s=−1/2\)(通常 \(|\downarrow\rangle\) と表記)の2つの状態しかありません。 パウリ行列:例えば、\(\hat{S}_x=\frac{\hbar}{2}\sigma_x, \hat{S}_y=\frac{\hbar}{2}\sigma_y, \hat{S}_z=\frac{\hbar}{2}\sigma_z\) ここで \(\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z\) はパウリ行列です。スピンの状態ベクトルは2成分の列ベクトル(スピノル)で表されます。 |
\(\sigma_x , \sigma_y , \sigma_z , \vec{\sigma}\) | パウリ行列 (Pauli Matrices) | \sigma_x , \sigma_y , \sigma_z , \vec{\sigma} | スピン1/2の粒子(電子、陽子、クォークなど)のスピン角運動量を記述する際に用いられる3つの複素エルミート行列です。これらは、量子ビットの概念を理解する上でも非常に重要です。 単位:無次元量 パウリ行列の定義:$$ \sigma_x=\begin{pmatrix}0 &1 \\ 1 & 0\end{pmatrix} $$ $$ \sigma_y=\begin{pmatrix} 0 & -i \\ i & 0 \end{pmatrix} $$ $$ \sigma_z = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} $$ パウリベクトル演算子 \(\vec{\sigma}\):\(\vec{\sigma}=(\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z)\) スピン1/2粒子のスピン角運動量演算子 \(\hat{S}\) の各成分:$$ \hat{S}_x=\frac{\hbar}{2}\sigma_x \\ \hat{S}_y=\frac{\hbar}{2}\sigma_y \\ \hat{S}_z = \frac{\hbar}{2}\sigma_z $$ ベクトル形式でまとめて:$$ \hat{S}=\frac{\hbar}{2}\sigma $$ 自己共役性 (Involution):$$ \sigma_x^2=\sigma_y^2=\sigma_z^2=I=\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} $$ また、これらの行列の固有値は \(\pm1\) です。 スピン1/2粒子の記述:スピン1/2の粒子(例えば電子)の状態は、2成分の複素列ベクトル(スピノル)で表され、パウリ行列はそのスピノルに作用してスピンの状態を変化させたり、スピンの測定結果を計算したりするために使われます。 \(|\uparrow\rangle=\begin{pmatrix}1 \\ 0\end{pmatrix}\) (スピン上向き状態) \(|\downarrow\rangle=\begin{pmatrix}0 \\1\end{pmatrix}\)(スピン下向き状態) フェルミオンの性質:パウリ行列の性質は、スピン1/2粒子がフェルミオンであること(パウリの排他律に従うこと)や、その \(4\pi\) 回転対称性( \(2\pi\) 回転で符号が反転する性質)と深く関連しています。 |
\([A, B]\) | 交換子 (Commutator) | [A, B] | 2つの演算子 A と B が互いに可換であるか否かを示す量です。すなわち、これらの演算子が作用する順番を入れ替えたときに、結果が同じになるか、それとも異なるか、を定量的に表すものです。交換子の概念は、量子力学における不確定性原理や、物理量の同時測定可能性を理解する上で極めて重要です。 単位:演算子 A,B の単位によって決まります。例えば、位置演算子 \(\hat{x}\) (\(\text{m}\)) と運動量演算子 \(\hat{p}\) (\(\text{J}\cdot\text{s/m}\)) の交換子 \([\hat{x},\hat{p}]\) は (\(\text{J}\cdot\text{s}\)) の単位を持ち、これはディラック定数 \(\hbar\) の単位と同じです。 交換子の定義:\([A,B]=AB−BA\) 可換 (Commuting): もし \([A,B]=0\) である場合、演算子 A と B は可換であると言います。これは \(AB=BA\) を意味し、これらの演算子を作用させる順番を入れ替えても結果が変わらないことを示します。 非可換 (Non-commuting): もし \([A,B]\neq 0\) である場合、演算子 A と B は非可換であると言います。これは \(AB\neq BA\) を意味し、これらの演算子を作用させる順番を入れ替えると結果が変わることを示します。 ハイゼンベルクの不確定性原理の数学的根拠:\([\hat{x},\hat{p}_x]=i\hbar\) \(\hat{x}\):位置演算子 \(\hat{p}_x\):運動量演算子 位置と運動量演算子が非可換であり、その交換子がゼロではない定数 \(i\hbar\) になることを示しています。これが、位置と運動量を同時に精密に決定できない不確定性原理 \(\Delta x \Delta p_x\geq\hbar/2\) の直接的な数学的表現となります。 |
\(a , E_n , m\) | 固有値 (Eigenvalue) | a , E_n , m | ある物理量(オブザーバブル)に対応する演算子が、特定の状態(固有状態)に作用したときに得られる 「測定によって観測される可能性のある、その物理量の特定の値」 のことを指します。量子力学では、物理量の測定結果は連続的ではなく、離散的な値(量子化された値)をとることが多く、これらの離散的な値が固有値に相当します。 単位: \(E_n\):ジュール(\(\text{J}\)) \(m\):量子数として無次元量(ただし、角運動量の固有値は \(\hbar m_l\) や \(\hbar m_s\) の形でジュール秒 [latex]\text{J}\cdot\text{s}[/latex] の単位を持つ)。 \(a\):対応する物理量の単位(例:位置なら\(m\)、運動量なら\(\text{kg}\cdot\text{m/s}\)) 固有値方程式:\(\hat{A}|\psi_a\rangle=a|\psi_a\rangle\) または、波動関数表示では:\(\hat{A}\psi_a=a\psi_a\) \(\hat{A}\):物理量 \(A\) に対応する演算子です。 \(|\psi_a\rangle\):演算子 \(\hat{A}\) の「固有状態(Eigenstate)」です。この状態にある量子系を測定すると、物理量 \(A\) の値が必ず \(a\) であると観測されます。 \(a\):演算子 \(\hat{A}\) の「固有値」です。これは、物理量 \(A\) の測定によって得られる可能性のある値の一つです。 エネルギー固有値 (\(E_n\)):水素原子の電子の場合:\(\hat{H}\psi_n\rangle=E_n |\psi_n\rangle\) \(\hat{H}\):ハミルトニアン演算子 \(E_n\):ボーアモデルのエネルギー準位に対応する離散的な値 \(|\psi_n\rangle\):そのエネルギー準位に対応する固有状態(原子軌道)。 角運動量Z成分の固有値 (\(m_l\)):\(\hat{L}_z|\psi\rangle=\hbar m_l|\psi\rangle\) \(\hbar m_l\):角運動量演算子 \(\hat{L}_z\) に対する固有値 \(m_l\) は磁気量子数で、\(−l,\dots,l\) の整数値をとります。 スピンZ成分の固有値 (\(m_s\)):\(\hat{S}_z|\psi\rangle=\hbar m_s|\psi\rangle\) \(\hbar m_s\):スピン演算子 \(\hat{S}_z\) に対する固有値 \(|\uparrow\rangle\) の状態は \(m_s=+1/2\) の固有状態、 \(|\downarrow\rangle\) の状態は \(m_s=−1/2\) の固有状態です。 |
\(c_n , \langle n | \psi \rangle\) | 確率振幅 (Probability Amplitude) | c_n , \langle n | \psi \rangle | 量子系が特定の状態にある 「可能性の大きさ」 を表す複素数です。この複素数の絶対値の2乗が、実際にその状態が観測される確率を与えます。 \(c_n\):ある基底状態 \(|n\rangle\) に対する、一般的な量子状態 \(|\psi\rangle\) の重ね合わせの係数を表す際に用いられます。 \(\langle n|\psi \rangle\):ブラ-ケット記法で、状態 \(|\psi\rangle\) と基底状態 \(|n\rangle\) の間の内積として表されます。これは \(c_n\) と同義であり、特定の基底状態への投影(射影)と見なすことができます。 単位:無次元量 確率振幅の定義:\(|\psi\rangle=\sum_n c_n|n\rangle\) \(|\psi\rangle\):任意の量子状態を表す状態ベクトル。 \(|n\rangle\):ある観測可能な物理量に対応する、離散的な固有状態(基底ベクトル)。例えば、エネルギー固有状態や、スピンの特定の成分の固有状態など。 \(c_n\):基底状態 \(|n\rangle\) に対応する確率振幅です。 確率振幅 \(c_n\):\(c_n=\langle n|\psi\rangle\) これは、状態 \(|\psi\rangle\) を基底状態 \(|n\rangle\) に「射影」した結果であり、内積として計算されます。 確率:\(P(n)=|c_n|^2 =|\langle n|\psi\rangle|^2\) \(|\psi\rangle\):量子系が状態 \(P(n)\):確率 |
\(\delta(x)\) | ディラックのデルタ関数(Dirac Delta Function) | \delta(x) | 非常に特殊な数学的関数(より厳密には「超関数」または「一般化された関数」)です。これは、ある一点のみで無限大の値を取り、それ以外の場所ではゼロとなるような極限的な挙動を示す関数で、量子力学において粒子の位置が完全に確定した状態や、特定の物理量の測定確率などを記述する際に非常に有用です。 単位:単位は引数の逆数になります。 例えば \(\delta(x)\) の \(x\) が長さの単位(\(\text{m}\))であれば、\(\delta(x)\) の単位は \(\text{m}^{−1}\) となります。これは、積分すると無次元(確率など)になるためです。 ディラックのデルタ関数:$$ \delta(x)=\begin{cases}\infty & \text{if} x=0 \ 0 & \text{if} x\neq0 \end{cases} $$ 積分:$$ \int_{-\infty}^{\infty} \delta(x)dx=1 $$ 連続スペクトルにおける 固有状態の波動関数 (例: 運動量固有状態の位置表示):\(\langle x|p\rangle=\frac{1}{\sqrt{2\pi\hbar}}e^{ipx/\hbar}\) \(e^{ikx}\):波動関数 |
\(\int \mathcal{D}[x(t)]\) | 経路積分 (Path Integral) | \int \mathcal{D}[x(t)] | 古典力学における粒子の運動が一意の「経路」で記述されるのに対し、量子力学では、粒子の初期状態から最終状態への到達は、考えうる全ての可能な経路を通って起こると考えるアプローチです。そして、それぞれの経路が確率振幅をもって寄与し、それら全ての経路の確率振幅を「足し合わせる」(積分する)ことで、最終的な量子的な振る舞いを計算します。 単位:経路積分の結果である遷移確率振幅は無次元量です。 位相因子:\(e^{iS[x(t)]/\hbar}\) \(t_i\):ある時刻 \(x_i\):位置 \(t_f\):時刻 \(x_f\):位置 作用(Action):\(S[x(t)]=\int_{t_i}^{t_f}L(x(t),\dot{x}(t),t)dt\) \(S[x(t)]\):その経路 \(x(t)\) に対する作用(Action) です。 \(\hbar\):ディラック定数です。これが分母にあるため、作用が非常に大きい場合(マクロな系の場合)、位相が急激に振動し、隣接する経路からの寄与が打ち消し合って、最終的に古典的な経路のみが支配的になるという古典極限が説明されます。 遷移確率振幅:\(\langle x_f,t_f|x_i,t_i\rangle=\int_{x(t_i)=x_i}^{x(t_f)=x_f}D[x(t)]e^{iS[x(t)]/\hbar}\) |
\(\uparrow\rangle , \downarrow\rangle\) | スピン状態 (Spin States) | \uparrow\rangle , \downarrow\rangle | スピン1/2の粒子(例えば電子、陽子、中性子など)の、特定の軸(通常はZ軸)に関するスピンの向きが確定している状態を表すケット・ベクトル(状態ベクトル)です。 \(|\uparrow\rangle\):粒子のスピンが、特定の軸(慣習的にZ軸)の正の方向(上向き) を向いている状態を表します。 \(|\downarrow\rangle\):粒子のスピンが、特定の軸(慣習的にZ軸)の負の方向(下向き) を向いている状態を表します。 スピン1/2系の基底:\(|\psi\rangle=\alpha|\uparrow\rangle+\beta | \downarrow\rangle\) ここで \(\alpha\) と \(\beta\) は複素数の確率振幅であり、\(|\alpha|^2+|\beta|^2=1\) を満たします。 |
\(T\) | トンネル確率 (Tunneling Probability / Transmission Coefficient) | T | 古典的には超えられないはずのエネルギー障壁(ポテンシャル障壁)を、粒子が「すり抜けて」向こう側に透過する確率を示す量です。この現象を量子トンネル効果(Quantum Tunneling Effect) と呼び、量子力学に特有の非常に重要な現象の一つです。 単位:無次元量 トンネル確率:\(T\propto e^{−2\kappa L}\) \(\kappa\):障壁の内部での波動関数の減衰率を表し、粒子の質量や障壁の高さとエネルギーの差に依存します。 |
\(\alpha\) | 微細構造定数 (Fine-Structure Constant) | \alpha | 電磁相互作用の強さを表す基本的な物理定数です。これは、電子と光子(電磁相互作用を媒介する素粒子)の結合の強さを特徴づける無次元量であり、自然界の最も基本的な定数の一つとして知られています。 単位:無次元量 微細構造定数の定義:\(\alpha=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0\hbar c}\) \(\alpha\approx \frac{1}{137.035999}\approx 0.00729735\) \(\alpha\):微細構造定数 \(e\):素電荷(電子1個が持つ電荷の絶対値) \(\epsilon_0\):真空の誘電率 \(\hbar\):ディラック定数(換算プランク定数) \(c\):真空中の光速 |
\(\rho , \hat{\rho}\) | 密度行列 (Density Matrix) | \rho , \hat{\rho} | 量子力学において、量子系の状態を記述するための一般的なツールです。 混合状態 (Mixed State):複数の量子状態が確率的に混ざり合っている状態。例えば、温度を持つ系や、環境と相互作用している開いた量子系など。 純粋状態 (Pure State):単一のケット・ベクトル \(|\psi\rangle\) で完全に記述できる状態(これは密度行列の特別な場合として表現できます)。 単位:無次元量 純粋状態:\(\rho=|\psi\rangle\langle\psi|\) これは「外積」と呼ばれる形で、ケット・ベクトルとブラ・ベクトルを組み合わせた演算子になります。 スピンアップの状態 \(|\uparrow\rangle=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}\) の密度行列: \(\rho_\uparrow=|\uparrow\rangle\langle\uparrow|=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 0 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}\) 重ね合わせの状態 \(|\psi\rangle=\frac{1}{\sqrt{2}} \begin{pmatrix} |\uparrow\rangle + | \downarrow \rangle \end{pmatrix}\) の密度行列: \(\rho_\psi=|\psi\rangle\langle\psi|=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}|\uparrow\rangle+|\downarrow\rangle \end{pmatrix}\begin{pmatrix}\langle\uparrow|+\langle\downarrow|\end{pmatrix} =\frac{1}{2} \begin{pmatrix} |\uparrow\rangle\langle\uparrow| + |\uparrow\rangle \langle \downarrow| + |\downarrow\rangle \langle \uparrow| + | \downarrow \rangle \langle \downarrow|\end{pmatrix} = \frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & 1 \end{pmatrix}\) 混合状態:\(\rho=\sum_k P_k|\psi_k\rangle\langle\psi_k|\) 系が、複数の純粋状態 \(|\psi_k\rangle\) がそれぞれ確率 \(P_k\) で混ざり合っている場合(混合状態)、その密度行列 \(\rho\) ここで、\(\sum_kP_k=1 (P_k\geq0)\) です。 50%の確率でスピンアップの状態にあり、50%の確率でスピンダウンの状態にある(ただし、どちらの状態にあるかは不明)混合状態の密度行列: \(\rho_\text{mixed}=0.5|\uparrow\rangle\langle\uparrow|+0.5|\downarrow\rangle\langle\downarrow|=0.5\begin{pmatrix}1&0\\0&0 \end{pmatrix}+0.5\begin{pmatrix}0&0\\0&1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0.5&0\\0&0.5\end{pmatrix}\) エルミート性:\(\rho^\dagger=\rho\)(自身の共役転置と等しい)。これは、オブザーバブル(物理量)に対応する演算子と同じ性質です。 トレースが1:\(Tr(\rho)=1\)(対角成分の和が1)。これは、全確率が1であることを保証します。 正定値性:任意のベクトル \(|\phi\rangle\) に対して \(\langle \phi | \rho | \phi\rangle \geq 0\)。これは確率が非負であることを意味します。 純粋状態と混合状態の区別: 純粋状態の場合:\(Tr(\rho^2)=1\) 混合状態の場合:\(Tr(\rho^2)<1\) これは、系がどれだけ「混ざり合っているか」を定量的に示す指標となります。 |
\(l_c\) | コヒーレンス長 (Coherence Length) | l_c | 波(特に光波や粒子の波動関数)の位相が、空間的にどれだけ連続的で一貫しているかを示す距離の尺度です。 単位:メートル(\(\text{m}\)) コヒーレンス時間 (\(\tau_c\)):\(\tau_c\approx \frac{1}{\Delta\nu}\) 波の位相が時間的に一貫している平均的な時間。波のスペクトル幅(周波数帯域幅 \(\Delta \nu\))が狭いほど、コヒーレンス時間は長くなります。 コヒーレンス長 (\(l_c\)):\(l_c=c\cdot\tau_c\approx \frac{c}{\Delta\nu}\) 「コヒーレンス時間内に波が進む距離」と解釈できます。 スペクトル幅: スペクトル幅が狭い(単色性が高い)波:コヒーレンス長は長くなります。これは、その波が単一の周波数に近く、位相のずれが起こりにくいことを意味します。例えば、レーザー光は非常にコヒーレンス長が長いです。 スペクトル幅が広い(単色性が低い)波:コヒーレンス長は短くなります。これは、その波が多くの異なる周波数成分を含んでおり、時間とともに位相がばらばらになりやすいことを意味します。例えば、通常の白色光はコヒーレンス長が非常に短いです。 |
\(\hat{A}(t)\) | ハイゼンベルク描像 (Heisenberg Picture) | \hat{A}(t) | 状態ベクトルは時間的に変化せず(定数と見なされる)、代わりに物理量を表す演算子が時間的に変化すると考えます。この時間変化する演算子を \(\hat{A}(t)\) と表します。 単位:演算子が表す物理量の単位(例:位置なら\(\text{m}\)、運動量なら\(\text{kg}\cdot\text{m/s}\)、エネルギーなら\(\text{J}\))。 ハイゼンベルク描像における演算子 \(\hat{A}(t)\) の時間発展: \( \frac{d\hat{A}(t)}{dt}=\frac{i}{\hbar}[\hat{H},\hat{A}(t)]+\begin{pmatrix}\frac{\partial \hat{A}}{\partial t}\end{pmatrix}_\text{explicit}\) \(\hat{H}\):系のハミルトニアン演算子(ハイゼンベルク描像においては時間的に変化しない)。 \( [\hat{H},\hat{A}(t)] \):ハミルトニアンと演算子 \(A^(t)\) の交換子です。この項が演算子の量子的な時間発展の源となります。 \(\begin{pmatrix}\frac{\partial \hat{A}}{\partial t}\end{pmatrix}_\text{explicit}\):演算子 \(\hat{A}\) が時間 \(t\) に陽に(明示的に)依存する場合に現れる項です。例えば、外からかけられる磁場が時間的に変化する場合など。多くの場合はこの項はゼロです。 ハイゼンベルク描像の演算子:\(\hat{A}(t)=\hat{U}^\dagger(t,t_0)\hat{A}_S \hat{U}(t,t_0)\) ハイゼンベルク描像の状態ベクトル:\(|\psi_H\rangle=|\psi_S(t_0)\rangle\) 物理量の期待値(測定される平均値)は同じになります:\(\langle \psi_S(t)|\hat{A}_S|\psi_S(t)\rangle=\langle\psi_H|\hat{A}(t)|\psi_H\rangle\) |
\(i \hbar \frac{\partial \psi}{\partial t} = \hat{H} \psi\) | シュレーディンガー方程式(時間依存) | i \hbar \frac{\partial \psi}{\partial t} = \hat{H} \psi | シュレーディンガー方程式は、量子力学的な粒子の波動関数 \(\psi\) が時間とともにどのように変化するかを記述する、量子力学の基本的な方程式です。これは、古典力学におけるニュートンの運動方程式に相当し、ミクロな世界の粒子の振る舞いを予言するために使われます。 公式:\(i \hbar \frac{\partial \psi}{\partial t} = \hat{H} \psi\) 記号: \(i\):虚数単位 (\(\sqrt{−1}\)) \(\hbar\):ディラック定数(換算プランク定数)。\(h/(2\pi)\) であり、約 \(1.054×10^{−34}\text{ J}\cdot\text{s}\)。量子現象の基本的なスケールを定める定数です。 \(\frac{\partial}{\partial t}\):時間に関する偏微分演算子。 \(\psi\):波動関数(または状態関数)。量子力学的な粒子の状態を記述する複素数値関数です。通常、位置と時間の関数 \(\psi(\vec{r},t)\) として表されます。その絶対値の2乗 \(|\psi(\vec{r},t)|^2\) は、その時刻 \(t\) における粒子が位置 \(\vec{r}\) に存在する確率密度を示します。 \(\hat{H}\):ハミルトニアン演算子(ハミルトニアン)。系の全エネルギー(運動エネルギーとポテンシャルエネルギー)に対応する演算子です。系の量子力学的な性質(外部からの力など)がこの中に含まれます。 例として、自由空間中の1次元の粒子の場合、\(\hat{H}=−\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V(x)\) と書けます。 \(−\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}\):運動エネルギーに対応する演算子。 \(V(x)\):ポテンシャルエネルギーに対応する演算子(または関数)。 国際単位系 (SI): \(\psi\):波動関数(3次元空間の場合、\(1/\text{m}^{3/2}\) の単位を持つ)。 \(\hbar\):ジュール・秒 (\(\text{J}\cdot\text{s}\)) \(t\):秒 (\(\text{s}\)) \(\hat{H}\):ジュール (\(\text{J}\)) の次元を持つ演算子。 スカラー量かベクトル量か:\(\psi\) は通常スカラー関数として扱われますが、スピンを持つ粒子などの場合はベクトル成分を持つこともあります。\(\hat{H}\) はスカラー量(エネルギー)に対応する演算子です。 時間非依存シュレーディンガー方程式との関係: 時間依存型 (\(i\hbar\frac{\partial\psi}{\partial t}=\hat{H}\psi\)):波動関数が時間とともに変化する様子を記述します。 時間非依存型 (\(\hat{H}\psi=E\psi\)):時間に依存しない定常状態(エネルギー固有状態)を記述します。時間依存型を、ハミルトニアンが時間に依存しない場合に変数分離することで導かれます。 |
\(R_\infty\) | リュードベリ定数 (Rydberg Constant) | R_\infty | リュードベリ定数 \(R_\infty\) は、水素原子のような単純な原子が放つ(あるいは吸収する)光の波長(または振動数)を正確に記述するための基本的な物理定数です。これは、原子の電子が異なるエネルギー準位間を遷移する際に放出される光のスペクトル線の位置を予測するために不可欠であり、量子論の発展において極めて重要な役割を果たしました。 記号:\(R_\infty\) (アール・インフィニティ) 物理的意味: リュードベリ定数は、以下のリュードベリの公式に登場します。 $$ \frac{1}{\lambda}=R_H\begin{pmatrix}\frac{1}{n_1^2} – \frac{1}{n_2^2}\end{pmatrix} $$ または、より一般的に無限質量原子核の場合を指す \(R_\infty\) を用いて、 $$ E=h\nu=\frac{hc}{\lambda}=R_\infty hc(\frac{1}{n_1^2}−\frac{1}{n_2^2}) $$ – \(\lambda\):放射される光の波長 [latex]\text{m}[/latex] – \(R_H\):水素原子に対するリュードベリ定数 (または、原子核の質量を考慮しない無限質量原子核に対するリュードベリ定数 \(R_\infty\)) [latex]\text{m}^{-1}[/latex] \(n_1,n_2\):主量子数 (整数、\(n_1<n_2\))。原子核の周りの電子のエネルギー準位を表す量子数です。電子がエネルギー準位 \(n_2\) から \(n_1\) へ遷移するときに光が放出されます。 \(E\):光子のエネルギー [latex]\text{J}[/latex] \(h\):プランク定数 [latex]\text{J}\cdot\text{s}[/latex] \(c\):光速 [latex]\text{m/s}[/latex] \(\nu[latex]:光の周波数 [[latex]\text{Hz}\)] この定数は、原子核の電荷が \(+e\)(\(e\) は電気素量)の原子(例えば水素原子)のスペクトル線を予測する際に、電子のエネルギー準位が量子化されていることを明確に示します。 値: \(R_\infty\approx 1.0973731568160 \times 10^{7}\text{ m}^{−1}\) 国際単位系 (SI) 単位: 毎メートル (\(\text{m}^{-1}\)) これは、「波長の逆数」の単位であり、しばしば「波数」とも呼ばれます。 ボーアの原子模型との関係:$$ R_\infty=\frac{m_e e^4}{8\epsilon_0^2h^3c} $$ \(m_e\):電子の質量 \(e\):電気素量 \(\epsilon_0\):真空の誘電率 \(h\):プランク定数 \(c\):光速 |
\(\mu_B\) | ボーア磁子 (Bohr Magneton) | \mu_B | ボーア磁子 \(\mu_B\) は、電子の磁気モーメントの基本単位となる物理定数です。原子や物質が磁性を示すメカニズムを理解する上で非常に重要な概念です。1913年にルーマニアの物理学者ステファン・プロコピウによって最初に発見され、その2年後にデンマークのニールス・ボーアによって独立して再発見されたため、「ボーア=プロコピウ磁子」と呼ばれることもあります。 定義:$$ \mu_B=\frac{e\hbar}{2m_e} $$ 電気素量:\(e\) 換算プランク定数:\(\hbar\) (プランク定数 \(h\) を \(2\pi\) で割ったもの) 電子の静止質量:\(m_e\) 値:$$ \mu_B≈9.2740100783\times 10^{−24}\text{J}/\text{T} $$ |
\(h\) | 光量子仮説定数 (Planck Constant) | h | 光量子仮説定数 \(h\) は、プランク定数 (Planck Constant) とも呼ばれ、量子力学の根幹をなす最も重要な物理定数の一つです。この定数は、エネルギーが連続的ではなく、「量子」と呼ばれるとびとびの最小単位で存在することを示しました。 プランク定数:$$ E=nh\nu $$ \(\nu[latex]:振動数 [latex]E\):電磁波のエネルギー \(n\):正の整数(\(1,2,3,\dots\)) \(h\):プランク定数 換算プランク定数:$$ \hbar=\frac{h}{2\pi} \approx 1.054571817 \times 10^{−34}\,\text{J}\cdot\text{s} $$ \(\hbar\):換算プランク定数 (エイチバー) が非常によく使われます。 波と粒子の二重性:$$ p=\frac{h}{\lambda} $$ \(p\) :粒子の運動量 \(\lambda\):物質波の波長 不確定性原理: ハイゼンベルクの不確定性原理は、粒子の位置と運動量、あるいはエネルギーと時間の両方を同時に正確に決定することはできない、という量子力学の基本的な原理ですが、その不確定性の下限値はプランク定数 \(h\)(または \(\hbar\))によって与えられます。$$ \Delta x \Delta p \geq \frac{\hbar}{2} $$ $$ \Delta E \Delta t \geq \frac{\hbar}{2} $$ |
\(\Delta x \Delta p \geq \frac{\hbar}{2}\) | 不確定性原理 (Uncertainty Principle) | \Delta x \Delta p \geq \frac{\hbar}{2} | 不確定性原理は、量子力学における最も基本的で、かつ直感に反する原理の一つです。ドイツの物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクが1927年に提唱しました。この原理は、ある種の物理量(例えば、粒子の位置と運動量)のペアは、同時に正確に測定することができないということを示しています。片方をより正確に測定しようとすると、もう片方の測定精度は必然的に低下します。 具体的な関係式:$$ \Delta x \Delta p \geq \frac{\hbar}{2} $$ \(\Delta x\):位置の測定における不確かさ(標準偏差)。 \(\Delta p\):運動量の測定における不確かさ(標準偏差)。 \(\hbar\):換算プランク定数で、\(h/(2\pi)\) に等しく、非常に小さな値(約 \(1.054×10^{−34}\text{ J}\cdot\text{s}\))です。 この式が意味することは、 もし \(\Delta x\)(位置の不確かさ)が非常に小さい(つまり位置を非常に正確に測定する)とすると、\(\Delta p\)(運動量の不確かさ)は非常に大きくならなければなりません。 逆に、もし \(\Delta p\)(運動量の不確かさ)が非常に小さい(つまり運動量を非常に正確に測定する)とすると、\(\Delta x\)(位置の不確かさ)は非常に大きくなります。 同様に、エネルギー \(E\) と時間 \(t\) の間にも不確定性関係が存在します。 $$ \Delta E \Delta t\geq \frac{\hbar}{2} $$ \(\Delta E\):エネルギーの測定における不確かさ。 \(\Delta t\):そのエネルギー状態が存在する時間の不確かさ。 この関係は、例えば不安定な素粒子の寿命が短いほど(\(\Delta t\) が小さいほど)、その粒子の質量(エネルギー)には大きな不確かさがある(\(\Delta E\) が大きい)ことを示唆します。 |
\(|E(a_1,b_1)−E(a_1,b_2)+E(a_2,b_1)+E(a_2,b_2)|\leq2\) | ベルの不等式 | |E(a_1,b_1)−E(a_1,b_2)+E(a_2,b_1)+E(a_2,b_2)|\leq2 | ベルの不等式は、物理学者ジョン・スチュワート・ベルが1964年に導き出した、ある種の測定結果の統計的な相関に関する数学的な不等式です。この不等式は、局所実在論 (Local Realism) と呼ばれる、私たちが日常的に考える世界の常識的な性質が、量子力学の予測とどのように異なるかを明確に示しました。 $$ |E(a_1,b_1)−E(a_1,b_2)+E(a_2,b_1)+E(a_2,b_2)|\leq2 $$ ここで \(E(x,y)\) は、Aで設定 \(x\) を選び、Bで設定 \(y\) を選んだ場合の、測定結果の相関の期待値です。 \(E(x,y)\) は\(-1 \,\text{から} +1\) の間の値を取ります(\(+1\) は完全な相関、\(-1\) は完全な反相関、0は無相関)。 実験結果: 繰り返し行われた実験(アラン・アスペ、ジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーらの研究など)の結果は、常にベルの不等式が破られることを示しました。つまり、観測された相関は、局所実在論が許容する限界(上記式では2)を明確に超えていたのです。 |
場の量子論(QFT)
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(\mathcal{L}\) | ラグランジアン密度 (Lagrangian Density) | \mathcal{L} | 時空間の各点における場のエネルギーとポテンシャルの「密度」 を表します。 単位:ジュール毎立方メートル (\(\text{J/m}^3\)) ラグランジアン密度の定義:\(\mathcal{L}=\mathcal{L}(\phi,\partial_\mu\phi)\) ラグランジアン密度 \(\mathcal{L}\) は、通常、場の変数(例:\(\phi(\vec{x},t)\))とその微分(空間微分 \(\nabla\phi\) や時間微分 \(\dot{\phi}\))の関数として表されます。 最も単純なスカラー場 \(\phi\) のラグランジアン密度(クライン-ゴルドン場の場合):\(\mathcal{L}=\frac{1}{2}(\partial_{\mu}\phi)(\partial^{\mu}\phi)−\frac{1}{2}m^2\phi^2\) \(\frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)(\partial^\mu\phi)\):運動項。場の時空間微分を含む。 \(-\frac{1}{2}m^2\phi^2\):質量項(ポテンシャル項の一種)。\(m\) は粒子の質量。 ラグランジアンとの関係:\(L=\int \mathcal{L}(\vec{x},t)d^3x\) ラグランジアン密度 \(\mathcal{L}\) を全空間で積分すると、その時刻における系の全ラグランジアン \(L\) が得られます。 オイラー・ラグランジュ方程式(Euler-Lagrange Equation):$$ \partial_{\mu} \begin{pmatrix} \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)} \end{pmatrix} – \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi}=0 $$ |
\(A_\mu\) | ゲージ場 (Gauge Field) | A_\mu | 素粒子物理学におけるゲージ理論(Gauge Theory) において、基本的な相互作用(力)を媒介するために導入される場です。 単位:単位は相互作用の種類によって異なりますが、電磁場の場合、電磁ポテンシャルに対応するため、ボルト秒毎メートル (\(\text{V}\cdot\text{s/m}\) または \(\text{Wb/m}\)) となります。 グローバルゲージ変換の例:\(\psi \to e^{i\alpha}\psi\) (\(\alpha\) は定数 — これは、波動関数全体に一様な位相変化を与える変換です。) 局所ゲージ変換の要請:\(\psi(\vec{x},t)\to e^{i\alpha(\vec{x},t)}\psi(\vec{x},t)\) 共変微分とゲージ場:\(\partial_\mu\to \mathcal{D}\mu=\partial\mu-ie A_\mu\) (または \(+ie A_\mu\)、符号は定義による) \(e\):素電荷(結合定数) ゲージ場の運動項:\(F_{\mu\nu}=\partial_\mu A_\nu – \partial_\nu A_\mu\) |
\(\gamma^\mu\) | ガンマ行列 (Gamma Matrices) | \gamma^\mu | ガンマ行列(Gamma Matrices)、またはディラック行列(Dirac Matrices) \(\gamma^\mu\) は、相対論的量子力学におけるディラック方程式の根幹をなす一連の行列です。これらは、スピン1/2のフェルミオン(電子、陽子、クォーク、ニュートリノなど)の相対論的な振る舞いと、そのスピンの特性を同時に記述するために導入されます。 単位:無次元量 ガンマ行列の定義:\({\gamma^\mu,\gamma^\nu}=\gamma^\mu \gamma^\nu+\gamma^\nu \gamma^\mu=2g^{\mu\nu}1\) \(g^{\mu\nu}\):ミンコフスキー計量テンソル(相対性理論における時空の「距離」を定義する行列)です。最も一般的な形は、対角成分が (1,−1,−1,−1) または (−1,1,1,1) の対角行列です。この符号の選び方によって、ガンマ行列の具体的な形も変わります。 1:単位行列です。通常は4×4の単位行列。 ディラック表現: $$ \gamma^0 = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -1 \end{pmatrix} $$ $$ \gamma^i = \begin{pmatrix} 0 & \sigma^i \ -\sigma^i & 0 \end{pmatrix} \quad ( i = 1,2,3) $$ ここで $1$ は \(2\times2\) の単位行列、\(\sigma^i\) はパウリ行列です。 $$ \sigma^1=\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix},\quad \sigma^2=\begin{pmatrix} 0 & -i \\ i & 0 \end{pmatrix},\quad \sigma^3 = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} $$ |
\(a , a^\dagger\) | 生成・消滅演算子 (Creation and Annihilation Operators) | a , a^\dagger | \(a\) と \(a^\dagger\) は、量子場の理論や多体量子力学において、量子状態に粒子を「生成」したり、「消滅」させたりするための基本的な演算子です。 単位:無次元量 消滅演算子 \(a\): \(a|n\rangle=\sqrt{n}|n−1\rangle\) 粒子が \(n\) 個存在する状態 \(|n\rangle\) に作用すると、\(n−1\) 個の粒子が存在する状態に変化させ、\(\sqrt{n}\) という係数が付きます。 生成演算子 \(a^\dagger\): \(a^\dagger|n\rangle=\sqrt{n+1}|n+1\rangle\) 粒子が n 個存在する ボソンの場合(ボース粒子、整数スピン): \([a,a^\dagger]=aa^\dagger−a^\dagger a=1\) \([a,a]=0\) \([a^\dagger,a^\dagger]=0\) ボソンはパウリの排他律に従わないため、同じ量子状態に何個でも粒子が存在できます。 フェルミオンの場合(フェルミ粒子、半整数スピン): \({a,a^\dagger}=aa^\dagger+a^\dagger a=1\) \({a,a}=0\) \({a^\dagger,a^\dagger}=0\) フェルミオンはパウリの排他律に従うため、同じ量子状態に存在できる粒子は0個か1個のみです。\({a,a}=0\) や \({a^\dagger,a^\dagger}=0\) の関係は、同じ状態に2つの粒子を生成したり消滅させたりできないことを意味します。 |
\(W(C)\) | ウィルソンループ (Wilson Loop) | W(C) | 場の量子論、特にゲージ理論において、ゲージ場の性質、粒子の相互作用、そして理論の閉じ込め(confinement)といった重要な特徴を記述するために用いられる数学的なツールです。これは、閉じた経路(ループ)に沿ってゲージ場を「積分」することで定義される量であり、古典電磁気学における磁束の概念を非可換ゲージ理論に拡張したものと考えることができます。 単位:無次元量 ウィルソンループの物理的意味:\(W(C)=\operatorname{Tr} \left( \mathcal{P} \exp \left( i \oint_C A_\mu dx^\mu \right) \right)\) \(\oint_C\):閉じた経路 \(C\) に沿った周回積分を表します。 \(A_\mu\):ゲージ場を表します。電磁気学(U(1)ゲージ理論)では電磁ポテンシャル、量子色力学(QCD、SU(3)ゲージ理論)ではグルーオン場に対応します。非アーベルゲージ理論では、これは行列値の場となります。 \(dx^\mu\):時空間の微小変位ベクトルです。 \(i\):虚数単位です。 \(\mathcal{P}\):経路順序積(Path-ordering operator) を表します。非可換ゲージ理論(ゲージ場が行列であり、積の順序が重要になる場合)において、ループに沿って積分する際に、積の順序を経路に沿って正しく並べるための演算子です。 \(\exp(\cdot)\):指数関数です。 \(\operatorname{Tr}(\cdot)\):トレース演算子(行列の対角成分の和)です。ゲージ場が行列値であるため、最終的にスカラー量を得るためにトレースを取ります。 |
\(v\) | ヒッグス真空期待値 (Higgs Vacuum Expectation Value) | v | ヒッグス真空期待値 \(v\) は、素粒子物理学の標準模型において、素粒子が質量を獲得するメカニズム(ヒッグス機構) の根幹をなす非常に重要な物理量です。これは、ヒッグス場が宇宙全体にわたって「常に存在し、ゼロではない値を持つ」ことによって生じます。 記号:\(v\) 物理的意味: 宇宙のすべての場所には、ヒッグス場と呼ばれる量子場が存在しています。このヒッグス場は、特殊な性質を持っており、そのエネルギーが最も低い「真空状態」においても、ゼロではない一定の値を持っています。このゼロではない一定の値を「真空期待値 (Vacuum Expectation Value: VEV)」と呼び、ヒッグス場の場合、それをヒッグス真空期待値 \(v\) と表します。 このヒッグス場の真空期待値がゼロではないことが、以下の重要な結果をもたらします。 素粒子の質量獲得(ヒッグス機構): 標準模型における多くの素粒子(電子、クォーク、Wボソン、Zボソンなど)は、このヒッグス場と相互作用することによって質量を獲得します。 – ヒッグス場との相互作用が強い粒子ほど、より大きな質量を持ちます。 – 光子やグルーオンのように、ヒッグス場と相互作用しない粒子は質量を持ちません。 – これは、粒子がヒッグス場の中を移動する際に、まるで粘性の高い液体の中を移動する物体が抵抗を受けるかのように、動きにくくなる(=質量を持つ)とイメージできます。 電弱対称性の破れ: 素粒子物理学の標準模型では、電磁力と弱い力を統一する「電弱相互作用」という理論があります。この理論は、本来は WボソンやZボソンが質量を持たないという対称性(電弱対称性)を持っています。しかし、ヒッグス場がゼロではない真空期待値を持つことによって、この対称性が「自発的に破れ」ます。この対称性の破れの結果として、WボソンとZボソンは質量を獲得し、電磁力と弱い力が異なる性質を持つようになります。 値: ヒッグス真空期待値 \(v\) の値は、WボソンやZボソンの質量、およびフェルミ粒子の質量から間接的に決定されます。その値は、おおよそ以下の通りです。 \(v \approx 246\,\text{GeV}\) これはエネルギーの単位ですが、質量とエネルギーは等価であるため、質量スケールとして捉えることができます。 単位: エネルギーの単位であるギガ電子ボルト (\(\text{GeV}\)) で表されることが多いです。 |
\(M_W\) | 弱ボソン質量 (Weak Boson Mass) | M_W | 弱ボソン質量 \(M_W\) は、素粒子物理学の標準模型において、弱い力を媒介するWボソン(\(W^{\pm}\))が持つ質量を表します。WボソンとZボソンはまとめて「弱ボソン」または「ゲージボソン」と呼ばれ、弱い相互作用を担う粒子です。 記号:\(M_W\) 物理的意味: Wボソンは、電荷を持つ素粒子(クォークやレプトン)の種類を変換する(フレーバーを変える)弱い相互作用を媒介します。例えば、原子核のベータ崩壊(中性子が陽子に変化する過程)は、ダウンクォークがアップクォークに変化し、このときにWボソンが放出されることで起こります。 Wボソンが質量を持つことは、弱い相互作用が作用範囲の非常に短い力であることの直接的な原因です。量子力学において、力を媒介する粒子(ゲージボソン)が質量を持つ場合、その力は長距離にわたって伝わらず、短い距離でしか作用しません。 比較: 電磁力:質量ゼロの光子(フォトン)が媒介するため、作用範囲は無限大です。 強い力:質量ゼロのグルーオンが媒介するため、原理的には無限大ですが、クォークの閉じ込めによって有効範囲が限定されます。 値: Wボソンの質量は、高エネルギー加速器での精密な測定によって決定されています。現在の最新の実験値は以下の通りです。 \(M_W\approx 80.377 \pm 0.012\,\text{GeV}/\text{c}^2\) (慣習的にエネルギー単位の \(\text{GeV}\)で表されることが多いですが、厳密には \(c^2\) で割った質量単位です。多くの物理学の文脈では \(c=1\)とすることが多いため、単に \(\text{GeV}\)と表記されます。) この値は、陽子(約 \(0.938\,\text{GeV}/\text{c}^2\))の約85倍という、非常に大きな質量です。 国際単位系 (SI) 単位: ギガ電子ボルト毎 \(c\) 二乗 (\(\text{GeV}/\text{c}2\)) または、質量単位としてキログラム (\(\text{kg}\))。 |
\(M_P\) | プランク質量 (Planck Mass) | M_P | プランク質量は、ドイツの物理学者マックス・プランクが提唱した、宇宙の最も基本的な定数である3つの物理定数から導き出される質量の単位です。 定義: プランク質量 \(M_P\) は、以下の3つの基本的な物理定数を用いて定義されます。 光速:\(c/[latex] 万有引力定数:[latex]G\) ディラック定数(換算プランク定数):\(\hbar\) (量子力学の根幹をなすプランク定数を \(2\pi\) で割ったもの) これらの定数を組み合わせることで、プランク質量は以下のように表されます。 $$ M_P = \sqrt{\frac{ℏc}{G}} $$ 値: この式にそれぞれの定数の値を代入すると、プランク質量の値は以下のようになります。 $$ M_P\approx 2.176 \times 10^{−8}\,\text{kg} $$ これは、約 22マイクログラム に相当します。人間の日常的な感覚からすると非常に小さい質量ですが、素粒子の質量(例えば陽子は約 \(1.67 \times 10^{−27}\,\text{kg}\))と比較するととてつもなく大きな質量です。陽子一つ分の質量に比べると、約 \(10^{19}\) 倍も重い粒子に相当します。 国際単位系 (SI) 単位: キログラム (\(\text{kg}\)) |
\(l_P\) | プランク長 (Planck Length) | l_P | プランク長は、ドイツの物理学者マックス・プランクによって導入された、以下の3つの基本的な物理定数から導き出される長さの単位です。 光速:\(c\) 万有引力定数:\(G\) ディラック定数(換算プランク定数):\(\hbar\) (量子力学の根幹をなすプランク定数を \(2\pi\) で割ったもの) これらの定数を組み合わせることで、プランク長は以下のように定義されます。$$ l_P=\sqrt{\frac{\hbar G}{c^3}} $$ 値:$$ l_P≈1.616\times 10^{−35}\,\text{m} $$ |
\(\theta_W\) | 弱混合角 (Weak Mixing Angle) | \theta_W | 弱混合角 \(\theta_W\)(またはワインバーグ角)は、素粒子物理学の標準模型において、電磁力と弱い力を統一する電弱相互作用の理論に登場する重要なパラメータです。この角は、もともと統一されていた電弱力が、ヒッグス機構によって電磁力と弱い力に分離する際に、どのように混じり合うかを示します。 記号:\(\theta_W\) (シータ・ダブリュー) 物理的意味: 標準模型では、電磁力と弱い力は、より基本的な「電弱力」として統一されています。この電弱力は、4つのゲージボソン(\(W^1,W^2,W^3,B^0\))によって媒介されます。しかし、私たちが観測する宇宙では、電磁力は光子(フォトン)によって媒介され、弱い力はWボソン(\(W^{\pm}\))とZボソン(\(Z^0\))によって媒介されます。 弱混合角 \(\theta_W\) は、この統一された電弱ゲージボソンのうち、\(W^3\) ボソンと \(B^0\) ボソンが、観測される光子とZボソンにどのように「混合」されるかを記述する角度です。 具体的には、以下のような関係で表されます。 光子 (Photon):\(A^{\mu}=B^{\mu} \cos \theta_W + W^{3\mu} \sin \theta_W\) Zボソン (\(Z^0\)):\(Z^{\mu}=−B^{\mu} \sin \theta_W + W^{3\mu}\cos \theta_W\) ここで、\(A^{\mu}\) は光子、\(Z^{\mu}\) はZボソン、\(B^{\mu}\) と \(W^{3\mu}\) はヒッグス機構によって対称性が破られる前の「混合されていない」電弱ゲージボソンを表します。 この混合の結果、光子は質量を持たず、Zボソンは大きな質量を持ちます。 コサインとサインの関係: 弱混合角は、Wボソン質量 \(M_W\) とZボソン質量 \(M_Z\) の間にも関係を確立します。 $$ M_W=M_Z \cos \theta_W $$ この関係式は、電弱理論の核心の一つであり、ヒッグス機構によって質量を獲得したWボソンとZボソンの質量比を説明します。 値: 弱混合角は、高エネルギー加速器での実験(特にZボソンの崩壊や電子・陽電子衝突実験など)によって精密に測定されています。 $$ \sin^{2} \theta_W \approx 0.2312 $$ この値から \(\theta_W\) を計算すると、およそ \(28.7^\circ\) となります。 ZボソンとWボソンの質量の関係:\(M_W=M_Z \cos \theta_W\) |
量子情報科学
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(U , H\) | 量子ゲート (Quantum Gate) | U , H | 量子コンピューティングにおいて、量子ビット(qubit)の状態を操作するための基本的な演算子です。 単位:無次元量 一般的な量子ゲート \(U\): $$ U=\begin{pmatrix} u_{00} & u_{01} \ u_{10} & u_{11} \end{pmatrix} $$ そして、作用後の状態は \(U|\psi\rangle\) となります。 アダマールゲート (Hadamard Gate) \(H\): $$ H=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix} $$ \(H|0\rangle=\frac{1}{\sqrt{2}}(|0\rangle +|1\rangle)\) \(H|1\rangle=\frac{1}{\sqrt{2}}(|0\rangle −|1\rangle)\) これは、量子ビットを重ね合わせ状態にするための基本的なゲートであり、量子コンピューティングにおける「量子並列性」を実現するための第一歩となります。これにより、複数の計算経路を同時に探索することが可能になります。 パウリXゲート (\(X\)):古典のNOTゲートに相当。\(\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}\) パウリYゲート (\(Y\)):\(\begin{pmatrix} 0 & -i \\ i & 0 \end{pmatrix}\) パウリZゲート (\(Z\)):位相を反転させる。\(\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1\end{pmatrix}\) 位相シフトゲート (\(R_\phi\)):量子ビットの位相を変化させる。 CNOTゲート (Controlled-NOT):2量子ビットゲートの基本で、量子もつれを生成するために使われる。制御量子ビットの状態に応じて標的量子ビットを反転させる。 |
\(S\) | エンタングルメントエントロピー (Entanglement Entropy) | S | 量子もつれ(Entanglement)の度合いを定量的に測る尺度です。量子系を二つの部分(AとB)に分割したとき、その二つの部分がどれだけ強く量子もつれ合っているか、あるいは部分系が持つ情報の「純粋さ」がどれだけ失われているかを、シャノンエントロピーやフォン・ノイマンエントロピーのアナロジーで表現します。 単位:無次元量 全系の純粋状態:\(\rho_{AB}=|\Psi_{AB}\rangle \langle \Psi_{AB}|\) 部分系の密度行列(縮約密度行列):\(\rho_A=\operatorname{Tr}B(\rho_{AB})\) フォン・ノイマンエントロピーの計算:\(S_A=−\operatorname{Tr}(\rho_A \log_2 \rho_A)\) もつれの度合い: \(S=0\):これは、部分系AとBが全くもつれていないことを意味します。この場合、全系の状態は、部分系Aの状態と部分系Bの状態の単純な積の形で書けます(例:\(|00\rangle\))。部分系Aの密度行列は純粋状態に対応します。 \(S>0\):これは、部分系AとBが量子もつれを持っていることを意味します。もつれの度合いが強いほど、\(S\) の値は大きくなります。例えば、最大もつれ状態(例:ベル状態 \(\frac{1}{\sqrt{2}}(|00\rangle +|11\rangle)\))では、\(S=1\) となります。この場合、部分系Aの密度行列は混合状態に対応します。 |
\(S_{\text{vN}}\) | フォン・ノイマンエントロピー (von Neumann Entropy) | S_{\text{vN}} | 量子力学における量子状態の「混合の度合い」 または 「不純粋さの度合い」 を定量的に測る尺度です。 単位:無次元量 フォン・ノイマンエントロピーの定義:\(S_\text{vN}(\rho)=−\operatorname{Tr}(\rho\, log_2\, \rho)\) \(\rho\):量子状態の密度行列です。密度行列は、純粋状態(特定の量子状態に確定している状態)と混合状態(複数の量子状態が確率的に混ざっている状態)の両方を記述できる、一般的な量子状態の表現方法です。 \(\operatorname{Tr}(\cdot)\):トレース演算子(行列の対角成分の和を取る操作)です。 \(\log_2\):2を底とする対数です。情報量をビット単位で表すためによく用いられますが、自然対数 \(\ln\) を使う場合もあり、その場合は単位がナットになります。 密度行列の固有値を用いた計算: \(S_{vN}(\rho)=−\sum_i p_i \,log_2 \,p_i\) 純粋度と混合度: \(S_{vN}(\rho)=0\):状態が純粋状態であることを意味します。このとき、密度行列 \(\rho\) は、ある特定の量子状態 \(|\psi\rangle\) について \(\rho=|\psi\rangle\langle\psi|\) と書け、固有値の一つだけが1で他は全て0になります。つまり、系は完全に確定した量子状態にあります。 \(S_{vN}(\rho)>0\):状態が混合状態であることを意味します。固有値が複数ゼロ以外の値を取る場合です。これは、系が異なる量子状態の古典的な確率的混合として記述されることを示します。値が大きいほど、状態の「不確実性」や「混合の度合い」が高いことを示します。 |
\(\hat{N}\) | パーティクルナンバー演算子 (Particle Number Operator) | \hat{N} | 量子場の理論や多体量子力学において、特定の種類の粒子が系の中にいくつ存在するか(粒子の数)を測定するためのエルミート演算子です。この演算子は、系の量子状態が持つ粒子の数に関する情報を抽出するために不可欠です。 単位:無次元量 パーティクルナンバー演算子の定義:\(\hat{N}=\hat{a}^\dagger\hat{a}\) \(\hat{N}\):パーティクルナンバー演算子 \(\hat{a}\):消滅演算子:ある量子状態から粒子を1つ取り除く(消滅させる)演算子です。 \(\hat{a}^\dagger\):生成演算子:ある量子状態に粒子を1つ加える(生成する)演算子です。 ボソンの場合: \([\hat{a},\hat{a}^\dagger]=\hat{a}\hat{a}^\dagger−\hat{a}^\dagger\hat{a}=1\) (正準交換関係) \(\hat{N}|n\rangle=n|n\rangle\) ここで \(|n\rangle\) は粒子が \(n\) 個ある状態(フォック状態)です。 フェルミオンの場合: \({\hat{a},\hat{a}^\dagger}=\hat{a}\hat{a}^\dagger+\hat{a}^\dagger\hat{a}=1\) (正準反交換関係) フェルミオンはパウリの排他律に従うため、ある量子状態に存在できる粒子は0個か1個のみです。したがって、\(\hat{N}|0\rangle=0|0\rangle\)、\(\hat{N} |1\rangle = 1 |1\rangle\) となります。 |
素粒子物理
記号・式 | 意味 | 書式 | 備考 |
\(G^a_{\mu\nu}\) | ヤン・ミルズ場 (Yang-Mills Field) | G^a_{\mu\nu} | 非アーベルゲージ理論におけるゲージ場の強度テンソルです。これは、電磁気学における電磁場強度テンソル Fμν の一般化であり、強い相互作用(量子色力学, QCD) や弱い相互作用(電弱統一理論) を記述するために不可欠な概念です。 単位:電磁場強度テンソルと同様に、ボルト秒毎平方メートル (\(\text{V}\cdot\text{s/m}^2\)) またはテスラ (\(\mathbf{T}\)) と同等の次元を持ちます。自然単位系を用いる場の量子論の文脈では、しばしば無次元として扱われます。 \(\mu,\nu\):時空のインデックスで、0(時間成分)と1, 2, 3(空間成分)の4つの成分を取ります。 \(a\):内部対称空間のインデックスです。ゲージ群の次元に対応します。 強い相互作用(SU(3)ゲージ群)の場合、\(a=1,\dots,8\) と8つの成分を持ちます。これは、8種類のグルーオンに対応します。 弱い相互作用(SU(2)ゲージ群)の場合、\(a=1,\dots,3\) と3つの成分を持ちます。これは、\(W^+,W^−,Z^0\) ボソンに対応します。 ヤン・ミルズ場の定義:\(G^a_{\mu\nu}=\partial_\mu A^a_{\nu}−\partial_\nu A^a_\mu + gf^{abc} A^b_{\mu} A^c_{\nu}\) \(A^a_{\mu}\):ゲージ場(ゲージボソン場)です。QCDではグルーオン場(通常 \(A_{\mu}^a\) と表記)、電弱理論ではWボソン場(\(W_{\mu}^a\))とBボソン場(\(B_\mu\))に対応します。 \(\partial_\mu\):時空の微分演算子。 \(g\):結合定数です。ゲージ場の相互作用の強さを決定します。QCDでは強い相互作用の結合定数 \(\alpha_s\) に対応します。 \(f^{abc}\):構造定数(Structure Constants) と呼ばれる定数です。これは、ゲージ群(例:SU(3)やSU(2))の非可換性(非アーベル性)を表し、ゲージボソン同士の相互作用の性質を決定します。 |
\(f^{abc}\) | 構造定数 (Structure Constants) | f^{abc} | リー代数(Lie algebra) において、その代数を構成する生成子(generators) 間の交換関係(commutators) を定義する定数です。素粒子物理学の文脈では、主にゲージ理論、特に非アーベルゲージ理論(ヤン・ミルズ理論)において、ゲージボソン間の相互作用の性質を決定する上で不可欠な役割を果たします。 単位:無次元量 リー代数と生成子:\([T^a,T^b]=T^a T^b−T^b T^a=if^{abc}T^c\) \(T^a,T^b,T^c\):リー代数の生成子です。これらは行列として表現されることが多いです(例:パウリ行列、ゲルマン行列)。 \(i\):虚数単位です。 \(f^{abc}\):これが構造定数です。 |
\(\Phi\) | ヒッグス場 (Higgs Field) | \Phi | 素粒子物理学の標準模型において、素粒子に質量を与えるメカニズム(ヒッグス機構) を説明するために導入されたスカラー場です。宇宙全体に遍く存在すると考えられており、この場との相互作用を通じて、素粒子(クォーク、レプトン、Wボソン、Zボソン)は質量を獲得します。 単位:質量またはエネルギーの次元を持ちます。(自然単位系では通常、ギガ電子ボルト [$\text{GeV}$] などのエネルギー単位で表されます。) ヒッグス場のラグランジアンにおける表現:\(V(\Phi)=−\mu^2|\Phi|^2+\lambda(|\Phi|^2)^2\) ここで、\(\mu^2>0\) と \(\lambda>0\) です。このポテンシャルは、原点 \(|\Phi|=0\) ではなく、ある有限の値 \(|\Phi|=v/\sqrt{2}\) のところで最小値を取ります。この \(v\) がヒッグス場の真空期待値です。 |
\(\theta_{ij}\) | ニュートリノ振動の混合角 (Neutrino Mixing Angles) | \theta_{ij} | ニュートリノ振動という現象を記述するために導入される角度パラメータです。 単位:ラジアン (\(\text{rad}\)) または度 (\(^\circ\)) フレーバー固有状態 (\(\nu_e,\nu_\mu,\nu_\tau\)):電子、ミューオン、タウオンというレプトン(軽粒子)が生成される際に「パートナー」として生まれるニュートリノの状態です。これらは、素粒子の標準模型における弱い相互作用の固有状態です。 PMNS行列(ポンテコルボ・マキ・ナカガワ・サカタ行列)\(U_{\alpha i}\): $$ \begin{pmatrix} \nu_e \\ \nu_\mu \\ \nu_\tau \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} U_{e1} & U_{e2} & U_{e3} \\ U_{\mu1} & U_{\mu2} & U_{\mu3} \\ U_{\tau1} & U_{\tau2} & U_{\tau3} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \nu_1 \\ \nu_2 \\ \nu_3 \end{pmatrix} $$ \(\theta_{12}\):太陽ニュートリノ振動(太陽から飛来する電子ニュートリノがミュー・タウニュートリノに変化)の主要な原因となる混合角。 \(\theta_{23}\):大気ニュートリノ振動(地球大気中で宇宙線と相互作用して生成されるニュートリノの振動)の主要な原因となる混合角。 \(\theta_{13}\):原子炉ニュートリノ振動や長基線加速器ニュートリノ実験で観測される混合角で、比較的最近になってその値が大きくないことが確認され、CP対称性の破れの研究に道を開きました。 |